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聖女様と仲直り

「え」


 自分の問いかけに対する答えではなく、突然辛辣な言葉がかけられたからか、レイチェルは呆けたような声を漏らしたが、それを無視して俺は話を続ける。


「俺が今まで話してこなかったってことは、秘密にしておきたかったってことです。それくらいは理解できるでしょう? だというのに、その秘密を知ろうとして周りに聞き込んだり、こうして本人に直接問いただしたり……人の心に強引に踏み込もうとするのを傲慢と言わずになんというんです? 王族なら何をやってもいいとでも思ってるんですか?」

「それは……申し訳なく思っています」

「なら、最初から聞かないでくださいよ。俺は、本当なら能力だって使うつもりはなかったんですから。あの時は状況が状況だったから仕方なく使っただけで、できることなら一生使わずに〝普通〟に生きていたいんです。だから、これ以上深入りしてこないでください」


 これは事実で、言われてみれば誰だって理解できるようなことだ。『祝福者』はすごい! かっこいい存在だ! なんて先入観があるからみんな気づかないだけで、誰が好き好んで自分の心の底からの〝願い〟を言いふらしたいと思うんだ? 誰が自分の心の形を見てもらいたいと、その心をみた感想が欲しいと思うんだ?


 誰かを恨んで殺したいという〝願い〟から生まれた炎を見て、あなたは誰を恨んでいるのですか、なんて聞くか? その願いはどんな状況で得たのですか、なんて聞くか?


 そんなわけないことはちょっと考えればわかることだろうに。


 そのことをようやく理解できたのか、レイチェルは何も言わないまま視線を外して俯き、黙り込んでしまった。

 やっぱり、俺達は相性が悪いんだよ。だから、あんまり俺にかまわないでくれ。俺だってこんなことを言いたいわけじゃないし、お前の願いを否定しているわけじゃないんだから。むしろ、応援しているとさえ言えるくらいだ。


「それじゃあ失礼します。新学期からはまたクラスメイトの一員として〝仲良く〟していただければと思います」


 これ以上こじれる前に退散しようとそう口にしたのだが……


「あ——待って!」


 踵を返して歩き出そうとしたところで、服を掴まれて呼び止められた。


「まだ何か?」

「……失礼なのは承知しています。ですが、それでも聞かせてください。なぜ、人を助けたいと願ったはずのあなたが、人助けはくだらないなどと口にしたのですか」


 聞くなって言ったのにこいつは……はあ。

 俺の話を聞いていろいろと理解したうえで聞いてくるなんて、図太いというかなんというか……


 でもこれ、話さないと開放してもらえなさそうな雰囲気だな。いつまでも付きまとわれても面倒だし……話すか。


 俺の〝願い〟を得た理由も、その結果も、俺が考えていることも……全部を話せばきっとこいつも満足してくれる。そして、もう俺に関わらないでいてくれるはずだ。


「––––誰も助けられなかったからだよ」


 そうだ。俺は誰も助けられなかった。


 数年前のあの日。魔人によるテロで俺たち家族は巻き込まれることとなった。

 瓦礫の下に埋まっていた妹を助けたくて手を伸ばして、でも間に合わなくて。


 俺は助けたいと願って祝福を得たんじゃない。助けたかったと後悔して祝福を押し付けられたんだ。

 もっと手を伸ばしておけばよかった。もっと手が伸びればもしかしたら助けられたかもしれない。そんな後悔だ。


「結局俺は、願いを叶えることはできなかった。必死になって願って、足掻いて。そうして残ったのは、誰かを助けろなんて強迫観念だけだ」


 俺が祝福を得たのは、全部終わった後だった。

『家族』を助けるための能力を、『家族』が死んだ後に手に入れた。……なんともふざけた話だ。それなのに〝願い〟だけは残った。しかも、対象が死んだからなのか『家族』を助けるためじゃなくて、『誰か』なんていう見ず知らずのその他大勢を助けなくちゃいけないものに変質してだ。


「他人を助けたいという願いの結末がこれだ。そんな植え付けられた思いで人助けをするなんて、くだらないだろ?」


 そういいながら笑いかけると、俺の話をどう感じたのか『聖女』は悲し気に眉を顰めて黙ってしまった。


「とはいえ、これは俺の考えだ。あんたがどう思おうと勝手だし、何をしようと好きにすればいい。あのときだって、いちゃもんを付けるつもりがあったわけじゃなく、ただ感想が口から零れただけだ。聞かせるつもりがあったわけじゃないとはいえ、そこは謝っておくよ」


 あの時不用意な発言をしなければ、こんなめんどくさい状況にはならなかった。

 それなりに距離が開いていたとはいえ、聞こえてしまったのは事実なんだし、あれは俺が悪い。次からはもう少し外では気を付けよう。


「それで、もう行ってもいいでしょうか。レイチェル王女殿下?」


 俺が話し終えても何を言うでもなく黙ったままのレイチェル。話すことは話したし、このまま一緒にいても面白いことはないだろうからさっさと離れたい。


 もう話しかけるなよ、という意味を込めて、先ほどまでのような普段の言葉づかいではなく丁寧な、あかの他人に接するような言葉で壁を作りながら問いかけた。


「最後に一つだけ。……以前は私から断っておきながら申し訳ありませんが、今一度友人として……いえ。せめて言葉遣いなど、普通のクラスメイトの一員として接していただくことはできないでしょうか?」


 だが、何を思ったのかレイチェルはそんなことを言いだした。ほんと、この女は何を考えているんだ?


「どうしてそのようなことを突然?」

「私は、あなたのことを勘違いしていました。ですので、もう一度やり直す機会をいただけないかと思ったのです」

「勘違いをしたのだという勘違いをしているだけかもしれませんよ」


 そもそも、何を勘違いしていたって言うんだ。俺は自分とは合わないひどい奴だ、ってか? ならそれは勘違いなんかじゃなくて本当のことだ。

 むしろ、今感じているであろう『俺が優しい』とかそういう思いこそ勘違いだろうさ。


「いいえ。以前はあなたの事情も知らず、盗み聞いた言葉だけで判断し、怒りをむけてしまいました。その結果があの浅慮でした。もし今後付き合ってみて勘違いではないのであれば、それはそれで構いません。その時は、再び考え直せば良いのですから」


 これもなかなかに傲慢な言葉だよな。だって、自分が思っているような人ではなかったら切り捨てます、って言ってるようなもんじゃないか。だいぶひどいこと言ってるぞ。


「……それって、もしかしたらもう一度切り捨てるかもしれない、ってことですよね」

「それはっ……いえ、そうですね。失礼なことを言いました。申し訳ありません」


 ……まあ、ここで断っても面倒だし、言葉遣い一つ、態度一つで問題が片付くんだったらその方がいいか。


「まあ、そんなに話をする機会もないだろうけど、話す時には気をつけるよ」

「っ! ありがとうございます!」


 そう言ってお礼を口にしながら満面の笑みを浮かべたレイチェルだが、彼女とはあまり接しないようにしようと改めて思ったのだった。


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