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治癒の裏技

「なら、どうすれば私のクランに入ってくれるの?」

「いや、だから入らないって——」

「無理難題でもいいの。だから、何かないかしら?」


 ……はあ。これは本気で諦めるつもりはないみたいだな。でも、条件ね……

 無理なんだいって言っても、そもそも誰かにかなえてほしいことなんてないんだよな。大抵のことは国や先輩に頼めばどうにかなるし。

 まあ、その分国に縛られることになってるんだけど……いや? ……一つ思いついたことはあるけど、流石にこれは無理だろ。だって、相手は国だぞ?


 ただ、それ以外にまともに頼みたいことなんて思いつかなかったし、無理難題でもいいといっていたから言うだけ言うか。それで叶ったら重畳で、叶わなかったとしても九条を追い払う理由になる。


「じゃあ、国が俺達兄妹に余計な干渉をしないようにしてくれ」

「余計な干渉?」

「俺達が一般人出身だからなのか知らないけど、何かするたびに手えだしてくるんだよ。今学園に通ってるのだってそのせいだ。『上』が干渉してきたから俺達はあの学園に通うことになった。本当だったらあんな命を懸けるような場所じゃなくて普通の学校に通いたかったんだよ」


 祈は『祝福者』になった時にいろいろあって『祝福者』として生きることになったけど、それだって『上』から半ば無理やり命令されたようなもんだ。そして、何だかいろいろと契約を結ばされた。


 契約って言っても、俺はその当時小学生だったし、親の同意なしには契約は結べない。

 そこでまともな親がいれば、こっちに対する不利益とかできたんだろう。でも、俺達は親に捨てられた。まともな契約なんて、結べるはずがなかった。


 親たちは最初こそ〝俺〟のために国に反対してたけど、最終的には〝俺達〟を捨てて契約し、どっかへ消えていった。


 その内容は決して大したものではない。精々がスキルの生成に協力する様にとか、国からの要請は協力しなくてはならないとか、国の許可なしに引っ越しや国外への移動ができないとか、その程度。後はこまごまとしたことだから、生きていく分には問題ないし、無茶な契約内容ってことでもない。

 でも、行動を……人生を縛られて国の駒としての生き方を強要されることがあるのも事実だ。


「俺達と国が結んだ契約。それを俺達の不都合なしで解除することができるんだったら、俺はお前の部下にでもなってやるよ」


 多分それはとても難しいだろう。なにせ国としては『祝福者』という武器……いや、駒を手放すことになるのだから。いっそのこと不可能だと言い切ってしまってもいいかもしれない。


「……その言葉、忘れないでちょうだい。必ずどうにかして見せるわ」

「期待しないで待ってるよ」


 でも、こいつならもしかしたら本当にやってくれるかもしれない。だってこいつには、それだけの地位があるんだから。


 ——◆◇◆◇——


「はあ……どうなることやら」


 九条が離れていったあと、その背中を見て一つため息を吐き出す。

 願いが叶うなら万々歳だけど、余計なことが起こらなければいいんだけどな。


 もし何か問題が起こったとしても俺達は関係ないとしらばっくれることもできるが……そううまくはいかないだろうな。

 最悪の場合、俺達もかかわっていたことにされてもっと厳しい縛りが与えられることになるかもしれないが、その場合は外国かどこかの山奥にでも逃げようかな? 契約って言っても何かしらの能力で誓ったってわけでもないんだし、逃げようと思えば逃げられるんだ。


 とはいえ、それは〝普通〟ではないし、最終手段だな。


「な〜にため息なんて吐いてんの?」

「っ! 星熊か」


 なんて考えていると、背中を叩かれた衝撃と共に明るい声がかけられた。


「うん。そーだよー。てか名前呼びはどこいったわけ?」

「ここは俺たちだけじゃないだろ」

「あー、そだねー。久しぶりにまともに話すからちょっと抜けてたかも」


 俺の指摘に明るく笑って見せる瞳子だが、そういえばこうしてまともに顔を合わせるのも久しぶりだな。

 ここにいるってことはもう退院したんだろうけど、怪我は完治したんだろうか? 確か骨の何本かを骨折してたはずだし、まだ完治はしていないんじゃないかと思うんだが。


「そういえば、もう怪我はいいのか?」

「んー、まあまあ? 怪我自体はもう治ったけど、一応まだ安静にってさ。普通に暮らす分には問題ないんだけどね」

「治ったって……早くないか? 骨が折れてたんだろ?」

「早いかもだけど、いーじゃん。早く治る分にはさ。それとも、怪我してた方が良かった?」

「そんなことないって。ただ、無茶してるようなら小言の一つくらい言おうかと思ってな」

「小言って……せいっちはあたしの母親なの?」


 なんて冗談を言いながら笑いあうが、その様子は本当に何の問題もないように見える。

 本当に治ってるならそれでいいんだけどな。不思議には思うけど、スキルの力だろうか? 星熊の家のスキルは単なる身体強化ではなく、『鬼』になることなんだから、そこに他とは違う能力……治癒力強化なんて能力があってもおかしくはない。


「まー、冗談はさておきだけど、実を言うとレイチェル様に治してもらったんだよね」

「レイチェルにって……それありなのか?」


 確かに、レイチェルは治癒系の能力を持っているのだから、瞳子の怪我だってすぐに治すことができるだろう。


 だが、一度入院してしまった怪我は、スキルや祝福によって治してはならないという決まりがある。

 これは治癒の系統の能力保有者が貴重で、全員が全員頼んでいれば治癒能力者の自由がなくなってしまうから。

 ただ怪我人のために能力を使い続けることを強要するなんて、それは人権の尊重に反するものだ。ということで、法律として制定されており、それを破れば当然ながら罰則がある。


 まあ、きれいな言葉で飾っているが、実際のところは病院関係の利権に問題が出てくるからだが。


「本当は無しだよ。一回病院に運び込まれたら治癒系のスキルで治しちゃダメなんだし。でも、抜け道だってあるの」

「抜け道って……よく知ってるな、そんなこと」

「抜け道っていっても、あたし達みたいな家だとよく知られてる方法だしね」

「ちなみに、それってどんな方法なのか聞いてもいいのか?」


 瞳子は隠してないけど、こうして周りに人がいる状況で誰かに話していいようなことではないんじゃないだろうか?


「うん。まあいっちゃうと大したことないんだけどね? 病院に運び込まれた怪我は治しちゃいけないけど、その後にできた怪我は当て嵌んないんだよね。そんで、新しい怪我だけを選んで治すのは非効率的だし、難しいの。だから、退院した後に自分で怪我をすれば、それは治癒の対象になるし、その時についでに前の怪我が治っちゃっても仕方ないってわけ」

「……なんていうか、本当にズルいな」


 確かに、治癒の能力は対象を選んで効果が発動するが、その対象は個人であって個別の傷ではない。


 だから、目の前で怪我をした人がいたから助けた。その人が偶然他に怪我をしていたからその怪我も次いでに治ってしまった。なんて状況は普通に起こり得る。病院側だって、そんなことを言われたら仕方ないとなるだろう。


「でもそうでもしないとあたしらみたいな戦う家は戦力不足になっちゃうからねー。どっかの魔物や魔人と戦って最高戦力が病院に運ばれましたー、なんてことになっちゃったら、自然治癒するまで待ってないといけないわけだし」


 ああ、それもそうか。強大な魔物を相手していれば、どうしたって怪我をすることがある。その時に一度病院に運ばれたから、なんて理由で怪我を治すことができず最高戦力がいなくなったら、それまでは互角に戦うことができていたとしても押されてしまうことになる。それはマズいだろうな。


「なるほどな。まあそもそも治癒系のスキルを持ってる奴が知り合いにいないとできない方法だし、普通のやつには無理だな」

「それはそう。でもうちのクラスにはちょうどレイチェルがいたし、お願いしたらオッケーしてくれたからラッキーだよね〜」


 確かに、そういう意味では同じクラスって良い環境だよな。なんだったら、同じ学校ってだけでもありがたいか。なにせ、やろうと思えばレイチェルの前で怪我をして、治してもらえるんだから。レイチェルだったら、目の前で怪我をした人がいれば、それが見ず知らずの他人であろうと治癒をかけるかもしれないし。


「でも、自分で怪我をしないといけないって、それはそれで嫌っていうか、危ないんじゃないか?」


 治癒が必要なほどの怪我を負うなんて、手首を切るとか? 治るっていっても危ないんじゃないか? それに、治るにしても痛みはあるだろ。


「いやいや、全然そんなことないって。せいっち、もしかして怪我って包丁でお腹を刺すとか考えてたりする?」

「そこまではいかないけど、まあそんな感じだな」

「普通だったら治癒のスキルを使ってもらうにはそれくらい必要かもだけど、別に知り合いに頼むくらいだったらどんな怪我でもいいんだってば。例えば、ささくれとか深爪とか、そんなのでもいいの。だからあたしも全然痛みとかなかったし」

「確かに、ささくれも毟ったら血が出るか。でも、そんな楽でいいとなると、本当にずるい感じがするな」

「ねー。やっといてなんだけど、あたしもそう思う」


 でも、そんなズルのおかげで瞳子はこうして怪我を治して元気にいることができるんだ。だったら、それは良いことだろう。

 それに、多少のズルがあったんだとしても、傷ついている誰かの怪我を治すってのは良いことだ。少なくとも、祝福を使わないで見てるだけの俺がどうこう言うことではないと思う。


「でも、元気になったんだったらよかったよ」

「ずっと寝てばっかってわけにもいかないしねー。まあ完全に治ったのは今日なんだけど。ってかついさっき?」


 そういいながら瞳子は視線を動かしたが、その後を追っていくとレイチェルがクラスメイト以外の招待客と話をしていた。どうやらこの会場で出会って治してもらったようだ。

 ただ、その当のレイチェルはあまり楽しそうには見えないけど、もしかして今話している相手は知り合いでもなんでもないのか? せっかくの機会だからってことで話しかけられでもたしたか?


「それで、せいっちは夏休みの間なんかしてた?」

「適当にだらだら過ごして、それから少しの間だけだけど神在月って家で修行してたな」

「へ? あの家にいったわけ? あ、『祝福者』だから?」


 瞳子はそう言って驚きに目を丸くしたけど、普通なら一般家庭の出身がいけるような場所じゃないからだろう。


「それもあるかな。元々『祝福者』ってことで知り合いなんだよ。でも、今回は桐谷に誘われたからっていうのが大きいかな。本当ならもうあの家にはいかないって思ってたし」

「あー、あそこの訓練ってきっついもんね~」


 俺の言葉に同意を示すように瞳子はうんうんと頷いているけど、その言い方だと瞳子もあそこで修行したことがあるのか?


「星熊も参加したことあるのか?」

「そりゃあね。参加したくてしたわけじゃないけど、あれって武家の関係者ならほとんど強制みたいなところあるからさ。ま、今年は怪我があったしいかなかったけど」

「行かなくてよかったよ。どうせきついことしかしないし、今年なんかは最後に俺達が他の参加者達と戦うことになったし」


 九条や藤堂が相手だと普段から接しているから別に特に何も思わないけど、瞳子だったら戦いづらかっただろうな。それなりに仲が良いとは思うけど特別親しいって程でもないし、仮に怪我が治ってたとしても、治った直後の人と戦うのはどうしたって気が引ける。だから戦うことにならなくてよかった。


「それマ? なんでそんなことになってんの?」

「『祝福者』ってのがどんなもんなのか実際に体験したほうが分かりやすいだろうってことで戦うことになった。しかも、事前に連絡も何もなしにその訓練の前になって急にだったから驚いたなんてもんじゃないっての」

「うーん。修行自体はあんまし好きじゃないけど、それはちょっと参加してみたかったかも?「なんでだよ。参加なんてしなくていいって」


 次はもう神在月の修行なんて参加しないから、戦う機会があるとしたら学校での授業だろう。……なんか、思ってるよりも早くその機会が来そうでやだな。


「じゃあ、また今度ね。––––あっ! 後でデートも忘れないでよ!」

「分かってるよ。忘れなかったらな」

「だから忘れないでって言ってんじゃん!」


 それから更に少し話をし、最後にそうして冗談を交わしながら瞳子は去っていった。


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