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夏休み終わりのパーティー

 

 ——◆◇◆◇——


「––––一週間ぶりだな」


 神在月での修行が終わってから一週間後。俺は再び九条と顔を合わせていた。


「そうね。ごめんなさいね、いきなり呼ぶことになって」

「まあ驚いたっちゃあ驚いたけど……珍しいな」

「貴方を呼ぶことがそんなにおかしな事かしら? 貴方は『祝福者』として知れ渡っているのだから、呼んでもおかしくはないでしょう? それに、これはクラスの親睦会だもの」


 そう。今九条が言ったように、この場は俺達二人だけではなく、クラスのメンバ―達が集まっていた。まあ他にもなにやら見知らぬ参加者がいるみたいだけど、それはおいておこう。


 しかも、場所だって教室やどこかの飲食店や公園のような庶民的な場所ではなく、ホテルのワンフロアだかホテルそのものだかを貸し切っての集まり。

 そして、極めつけがみんなの服装だ。普段の制服でもなく、一般人が切るようなラフな格好でもなく、ドレスにスーツ。

 いわゆるパーティーというやつだ。初めて参加したよ。

 でも……


「親睦会の割にはクラスメイト全員呼んだってわけじゃないみたいだな」


 クラスの親睦会といったわりには、クラスメイト全員がいるわけではない。いるのは、主にクラスカースト上位のメンツだけだ。まあ上位のメンツならなんでその中に俺と祈も交じってるんだって話になるけど、一応俺達は『祝福者』ってことで上位の立場だからな。そこらの社長令息なんかよりもよっぽど上だ。


「全員呼んでもよかったけれど、そうすると呼ばれた方は嫌な思いをすることになるかもしれないわ。だから今回はやめておいたのよ」


 こんなパーティーに呼ばれたからって、嫌な思い……するか?


「呼んだらって……呼ばれない方が嫌な感じしないか?」

「普通ならそうでしょうね。けれど、私達の場合は……こう言うのもなんだけれど、来ることができるのかしら? 多分だけれど、ドレスコードを満たせるような服も持ってない子だっているんじゃないの?」

「……そうかもな。でも、だったら貸しても良かったんじゃないか? それくらいは簡単だろ?」


 実際、俺達だってあの修行の最終日、バーベキューの時に声をかけられたけど、そのときだって服がないならこちらで用意しようか、なんて聞かれた。


「そうね。でも、貸すというのはある種の施しよ。それをすればクラスメイトという対等な関係が上下の関係になってしまうわ。それに、私達とは立場が違う。そうまでして呼んだところで、果たして私達の中に混じって普通の一般家庭の子供が参加したところで、楽しめると思う? クラスの親睦会といっても、他にお客様がいる中で」


 そう言われるとな……


 周りを見れば、先ほど見た通りクラスメイト達がいるが、それ以外にも見たことのない大人たちが数人混じっている。あれはおそらく九条達の関係者なんだろうが、そうなるとそれなりに社会的な地位を持っている権力者たちってことになる。


 俺達特別クラスの中には俺たちと同じように一般人の出の生徒もいるし、そんな奴らが権力者たちと一緒にパーティーに参加して楽しいかと言ったら、多分楽しくないだろう。


「……難しいだろうな」

「そうよね。そして、劣等感や理不尽な仕打ちを受けて亀裂ができるかもしれないと思ったのよ。だからクラスの半分程度で区切ったのよ。そうすれば、家柄で仲間外れにされたわけではないのだと思ってくれるでしょうから」


 それでも多少の隔意はできるかもしれないけど、あからさまに仲間外れを作られるよりはマシか。


「まあ、いろいろと考えてこの場を用意したってのは分かったけど、呼ぶのが遅かったな。別に呼んでほしいってわけでもなかったけど、九条のことだしもっと前もって……それこそ夏休み前にでも声をかけてくるものかと思ったけど」


 何だったら、夏休み前に俺を自分のクランに誘った時についでに誘えばよかったんじゃないかと思う。あの時に言われていればわざわざ手間をかける必要はなかった。

 これでもし俺達が神在月で出会うことがなかったらどうしてたんだろう? 普通に電話でもかけてきてたのか?


「その時は……まだ覚悟が決まってなかったのよ」

「覚悟って、俺を呼ぶのにってことか?」

「……ええ」


 わずかに眉を顰めて視線を逸らした九条だが、好きな人をデートに誘うってわけでもないんだし、そんなに悩むような何かはあっただろうか? 


「そんな覚悟が必要なことでもないと思うけど……そんなに断られるのが不安だったのか?」

「そうじゃないけど……いえ、ある意味はそうかもしれないわね。あの時は、クランに誘って断られた直後だったでしょう? それもあって、色々と思うところがあったのよ」


 あー、確かにそう言われればそうか。クランの誘いがあって、でも俺はその誘いを断った。そのすぐ後に、じゃあみんなでパーティーをするから来ない? なんて聞かれても、冷静に考えて参加を決めたかはわからない。そのまま勢いで断ったかもしれない。

 そう考えると、誘っても断られるかも、とか断られた直後に誘うのは失礼じゃないか、とか思っても仕方ないか。


 ただまあ、何の因果かこうして九条は誘って、俺は参加することになったんだ。それならそれでいいだろう。


「そういえば……まだ、って聞くにはそれほど時間が空いてないけど、まだ自分のクランを作ろうとしてるのか?」

「当然よ。あなたには断られたけれど、そこは変えるつもりはないわ。私は、お人形で終わるつもりはないから」

「ふーん……まあ、それならそれで頑張れよ」


 家の言うことを聞いて『いい子』で育ってきた九条だが、そこに自我がないわけではない。

 いつまでも自分を押し殺して家の言いなりになっている人生を認められなかった九条は、高校卒業後に自身のクランを作って家から自立することを目標としている。

 その時のメンバーとして俺も誘われたが、絶対に面倒なことになるのが分かりきっているので参加するつもりはない。


 けど、そうして自分の人生のために努力している人の邪魔をするつもりも、その願いや行動を馬鹿にするつもりもない。


 自分からかかわるつもりはないけれど、頑張れと応援をするくらいはするさ。


 だが、そんな他人事のように言ってのけた俺の態度を見て、九条は少しだけ拗ねたように口を歪ませ、数秒ほどじっと俺のことを見つめた後に口を開いた。


「もう一度誘うけれど、やっぱりあなたは入るつもりないかしら?」

「ないよ。俺は〝普通〟に生きたいんだ。『祝福者』としての活動を強制されるような場所はお断りだ。所属したら、どうしたって『祝福者』として活動しないといけないだろ」


 それはどのクランに入ったとしても同じだが、先輩と同じ『創造主の恩恵』であればそれほど厳しく縛られたりはしない。先輩を見ていれば分かるが、必要な時以外はかなり緩く、自由にさせてくれる。

 だが、他のクランであればそうはいかないだろう。なにせ、クランは所属しているメンバーに相応しい仕事を押し付けられることになるんだから。


『祝福者』がいるなら、それに相応しい仕事があり、クランはそれを解決しなければならない。そして、そんな仕事を解決できるのは『祝福者』だけだ。


 あるいは、よほど優秀な人材がいるのなら、スキルしか使えない者達だったとしても『祝福者』の代わりに仕事をこなすことができるかもしれないが、それはあくまでも大手でメンバーが充実しているからこそできることだ。作ったばかりで大した人材の揃っていないクランではそんなことはできない。


 だから、そんな作ったばかりのクランに行けば、必然的に俺は『祝福者』として相応しいだけの仕事をこなさなくてはならないことになる。

 俺が『祝福者』だということは既にバレているし、そう扱われるのは仕方ないことだが、それでも『祝福者』として生きていくのを受け入れたわけではない。


「なら、強制しなければいいの? ただ名前を……『祝福者』としての名前を貸してくれるだけでもいいのよ。そうすれば、対外的には『祝福者』が三人揃ってることになるから、他の人員だってまともな人が入るわ」


 まあ、そりゃあそうだろうな。『祝福者』が三人も所属しているなんて、大手のクランでしかありえない。

 それなのに新しくできたクランがそれだけの人員を確保できていたのなら、それは注目されるだろうな。なにせほとんど成功することが決まっているような場所だ。

 厄介な先輩やお局もいないし、新進気鋭の新人が入りたがるかもしれない。今の時点での能力はともかく、将来性を考えれば十分なメンバーが揃うだろうし、数年もすればそれなりの規模のクランになるだろう。


「でも、それだけ『祝福者』が所属していれば国から押し付けられる仕事だってそれなりのものになるんじゃないのか?」

「それは私がなんとかするわ。元々『祝福者』にしかこなせないような仕事なんてそうそうないから、人員を考えれば十分にこなしていけるわ。だから、どうかしら?」


 それは、九条一人で『祝福者』三人分の仕事をこなすってことか? できなくはないかもしれないけど、そんなんじゃいつか死ぬことになるぞ。


「……悪いけど、それでもパスだ」


 もし俺達がクランに入ったことで仕事が増え、その結果九条が死んだのであれば、俺は自分を赦せないだろう。なにせ、ある意味俺のせいで死んだことになるのだから。

 だからそんな方法は決して取らない。



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