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普通の夏休み

 

「うまいなぁ。普段はこんな肉食わないわ」


 各々肉や他の食材をとってきて再び集まったのだが、いいとことの子供たちが集まる場なだけあってかなりいい肉つかってる。口の中で溶けるってこういう肉のことを言うんだな。


「でも、お前だって買う金くらいあるんだろ? なんせ天下の『祝福者』様なんだからよ」


 金か……。確かに桐谷の言うように通帳の残高はかなりの額がある。スキルを作る際に国からそれなりの額をもらったからな。

 祈の分のスキルは作らなかったので俺の分しかないけど、それでもなかなかの額だった。


 ちなみに、何で祈のスキルは作らなかったのかというと、実際のところ試しに作ってみたこと自体はあるのだ。けど、デメリットがひどすぎた。

 いや、状況次第、使用者次第ではデメリットなんてないともいえるけど、たいていの場合はそんなうまい状況ではない。


 祈の願いは〝自分の家族に笑っていてほしい〟だ。この場合の〝自分〟が誰を指すのかと言ったら、スキルの使用者自身ではなく〝祈にとっての家族〟で、つまりは俺だ。

 祈のスキルを他人が使用した場合、強制的に俺への好意を植え付けられることになり、場合によっては俺の命令を聞く奴隷が出来上がる。


 そんなスキルを広めるわけにはいかないということで、祈は『祝福者』でありながらもスキルを作られずに終わった。


 なのでその分の報酬はないけど、それでもなかなかの金額がが振り込まれているため、金に困っているわけではない。それこそ、旅行クラブなんて場所に所属して月一で外国に行けるくらいには潤っている。


 けど、こういう肉とかに使ったことはないんだよなぁ。


「あることはあるけど、家自体は一般家庭だぞ? 庶民根性が染みついてそんな高いもんを食べようとは思わないからな」


 あくまでも俺は〝普通〟に暮らしていたこともあって、飯は自前で作るし食材はスーパーに買いに行っていた。今だってそうだ。たまの出前なんかもあったけど、基本的には庶民的な生活をしてきた。


「そんなもんか。でも、それはそれで羨ましいな。俺はまだマシな方だけど、カップ麺とかハンバーガーとかのジャンク品を食わせてもらえない家もあるからな。毎日決められた時間に小洒落た食事を、なんてところも少なくないぞ」

「いいもんは食べられるんだろうけど、それってつまんなそうだな」

「まあな。だから、ほら見てみろよ。意外と女性陣がポテチとか肉とかがっついてるだろ。普段は女の子らしくお淑やかにしてないといけないからな」

「べつに女だからってお淑やかじゃないといけない、なんてこともないと思うけどなぁ」

「今は時代が時代だしな。でも、そういうことを求めるんだよ。上流階級ってやつらはさ」


 お淑やかで行儀正しくきれいな所作で生活しなければならないって? 押し付けるほうは良いけど、押し付けられた子供の方は大変っていうかなんて言うか……哀れだよな。


「そんな場所で暮らすことにならなくてよかったよ」

「お前ならすぐにでも仲間入りできるだろ?」

「ノーサンキューだよ。俺は庶民のままでいいって」


 やっぱり普通が一番だ。

 今回の修行を通してお偉方の家にも多少の伝手ができたけど、だからといってそれを利用する日は多分来ないだろうな。そして、俺がその輪の中に入る日も多分来ない。今回の親交を深めるって目的はまるっきり無視する形になるけどな。

 けど所詮俺はどこまで言っても庶民だし、それでいい。それがいい。


「祈も友達ができたみたいだし、結構有意義な修行だったな」


 とはいえ、まったく収穫がなかったわけでもない。修行自体は役に立ったし、祈も話し相手が増えたみたいだしな。


 そんな俺の言葉に、桐谷が肩をすくめながら言う。


「あれって藤堂だろ? ……友達っていうのか?」


 まあ、確かにまったく新しい相手ってわけではない。なんだったらすでに知り合いだし、同じクラスで過ごす仲間で、昼食だって共にとるような間柄だ。

 でも、そんな関係でありながらも二人は今までまともに会話をしたことがなかった。


「今までを思い出してみろよ。学校での昼食時にもあいつらだけひとっことも話さずにいたんだぞ? それなのに今は喧嘩しないであれだけ長時間話してるんだから、もう友達でいいだろ。っていうか、友達って呼んでればなんかその気になってくれるんじゃないか?」


 学校にいた時は一言も話していなかった二人だけど、ここにいる間は話すことが増えたし、今だって肉を前にしながらなにやら〝楽しそうに〟話している。

 殴り合いに発展する様子はないし、もしこじれたとしても祈も藤堂もそんなことをするつもりはないだろう。

 こうなればこれからは学校でも話していくだろうし、もう友達って呼んでもいいと思う。違ったとしても、周りがそう呼んで外堀を埋めていけば、いつかは本当の友達になっているかもしれない。


「なんとも健気な小細工してんなぁ。けど、あの二人が仲良くなるってんなら俺としても歓迎だけどな。毎日あの二人のギスギス感漂う中で飯を食うってのは結構辛いもんがあるんだぜ?」

「その代わり九条なんて大物と話せる席を提供してやってんだろ。普通なら喜ぶべきところなんじゃないのか?」

「そりゃあ野心のある奴らだけだろ。そうじゃない奴にとっては厄介事の匂いしかしねえよ」

「そうか。ならそれを本人に聞かせてやったらどうだ?」

「馬鹿言うなよ。そんなこと言ったら今度は俺が藤堂に目えつけられるっての」


 まあ、藤堂は九条の事大好きすぎるからな。言う側としては悪意がなかったとしても、そうと受けとれる言葉を聞かれれば責められることになるかもしれない。そうなったら面倒だろうな。


「まあ、これで今回は終わりだけど、明日からはどうする? なんかやったりするのか?」

「わりい。最後くらいは適当にだらけて過ごしてえわ」


 まあそうなるか。これまでの間、夜は気絶するかのように寝る生活を送ってたんだ。学校が始まったらまたゆっくり休んでることなんてできなくなるんだし、今のうちに少しくらいゆっくりしたいよな。


「これだけ厳しく鍛えてればそうなるか。じゃあまあ、ゆっくり休めよ」

「おう。そうだな」

「それじゃあまた学校で」

「つっても、それ言うのはまだ早いだろ。どうせまた会うんだし、今日で解散っつってもまだバーベキューは続いてんだ。せっかくなんだし、今を楽しもうぜ」

「そうだな。それじゃあ、ちょっと祈のところに行ってくるか。九条にも挨拶をしないとだし」

「うげっ。お前よく行く気になれるな……」


 ……ん? そういえばさっき「また会う」って言ってたか? いや、そりゃあ学校に行けばまた会うだろうけど、今の言い方だと学校が再開する前になんか会う予定があるように聞こえるんだけど……まあいいか。会うなら会うでその時はその時だ。桐谷の言ったように、今は今を楽しもう。


「よお。祈、藤堂と喧嘩してないか?」

「してないってば。そもそも喧嘩になんてならないし」

「はあ? そりゃあ確かに私は『祝福者』じゃないしあんたよりも弱いけどさ」

「いや、能力の事じゃなくて喧嘩は同レベルの間でしか発生しないって話なんだけど」

「ぬ、ぐ……そ、そうよね。私達喧嘩なんてしてないし?」


 祈の言葉に反論が思いつかなかった、というより反論してはいけないと思ったのか、藤堂は悔し気に眉を顰めながら祈の言葉に同意を示した。


 まだまだ友達ってわけではないみたいだけど、それでもこれだけ会話ができるようになってるんだからマシだろ。


「仲良くしてるようで何よりだよ」

「佐原くん。少しいいかしら?」

「?」


 祈と藤堂の様子を微笑ましげに見ていると、九条が話しかけてきたんだが、何だか真剣な表情をしている。

 今更勧誘の話しじゃないと思うけど……なんだろうか?



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