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助けたがりの英雄は普通に生きたい  作者: 農民ヤズー


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最終日の楽しみ

 ——◆◇◆◇——


「––––さて、これで全員終えたな。『祝福者』という格上との戦いがどういうものか、多少なりとも理解できただろう。もちろんこの二人とてまだ成長途中であり、本当の強者と比べれば天地の差だろう。こいつら以上に強いものなどいくらでもいる。だがそれでも、『祝福者』の最低ラインは理解できたはずだ。これからはそれを基準として考え、行動するように」

「「「「はい!」」」」


 何組ものチームと戦い、ようやく全てのチームを相手しきることができ、今回の俺達対その他の修行生という理不尽な戦いは終わることとなった。


 一応最後まで全勝で終わったけど……かなり疲れたな。

 最後の方は疲れがたまっていたこともあって、何だったら最初に戦った九条達よりも苦戦したチームもあった。

 やっぱり、祝福とスキルで能力に差はあるって言っても、状況次第ではひっくり返されることになるんだな。気を付けておこう。


 けど、まだ陽は高い。いや、高いって程でもないけど、落ち切っているわけでもない。普段ならあと二時間くらいは修行があるだろうし、この後もまだ何かやるんだろうか?


「それでは本日の訓練はこれにて終了とする」

「え?」


 次は何をするんだろうか、なんて考えていたところに思いもしない言葉がかけられたことで、思わず間の抜けた声を漏らしてしまった。だが、それは俺だけではないだろう。

 実際、軽く周りを見回してみると、こんなに早く終わってもいいのかとでも言うかのように驚いた顔をしている者達がいる。


 だが……どういうことだろう? 困惑している者も確かにいるんだけど、していないで納得の様子を見せている者もいるし、何だったら楽しそうに何かを待っている様子の者もいる。

 これから何かあるんだろうか?


「なんだ、お前達。早く終わるのが不満か?」

「い、いえ、そのようなことは決して!」


 天満に声をかけられた修行生の一人が慌てて否定しているが、不満なんてないだろう。あるのは疑問だ。


 そんな疑問を解消する様に、天満は大きく息を吐き出すと腕を組んで堂々とした様子で話し始めた。


「本日が修行最終日となっている者が多い。残る者にとってはいつも通りの事ではあるが、明日からはこれまでよりも少なくなる。だが、このまま別れでは味気なかろう? 故に、用意してやったぞ!」


 天満がそう叫ぶや否や、神在月の使用人たちが姿を見せた。だが、なんだ? 何かを持っているみたいだ。


「存分に語らえ! 共に修行という苦痛を味わい、乗り越えた友との別れだ。いずれ敵対するとしても、そうなることが分かっている関係であったとしても、今ここにいる者達は皆、苦難を乗り越えた戦友である。今だけは過去の事、未来の事を忘れて存分に騒げ!」


 使用人たちが持っていた道具を設置しだしたことで、その全容が見えてきた。あれは網だ。海に投げる魚を捕る奴じゃなくて、金属でできた何かを焼くやつ。


 それにあの設置しているものや、近くに用意してある炭。それから更に盛り付けられた食材ときたら、答えなんて決まっているようなものだろう。


「……なんだ、何の反応も聞こえんな。不満か?」

「い、いやぁ……そんなことは……」

「た、楽しそうだなあ」


 何でいきなりこんなものが用意されたのか疑問に思っているのか、他の修行生たちの中にはいまだに訝しげな様子を見せている者もいる。

 けど、多分天満のことだし、さっき説明したとおりの意図しかないだろう。現に、さっきから楽しそうにしている一部の修行生たちは今もなお楽しそうに運ばれてくる食材だけを見ている。


「ならば騒げ! 声を出せ。叫ぶのだ!」

「う、うおーーー?」

「もっとだ。叫べ!」

「「「「う、うおおおおおおお!」」」」

「「「わああああああああ!」」」

「好し。それでは後は好きにしろ。ワシらのような大人がいれば邪魔になろう。もう見張っていなければ問題を起こすような子供でもあるまいし、退散するとしよう」


 そうして天満がいなくなったことで修行生たちは騒ぎながら食材の……肉の許へと動き出した。


「だが、くれぐれも気を付けておけ。もし騒ぎを起こし、火事でも起こそうものなら、その者はとても〝楽しいこと〟が待っているぞ」


 そんな天満の忠告にみんな一瞬動きを止めたが、すぐに何事もなかったかのように動き出した。


「修行の後のバーベキューか……」

「こんなのやるんだね」

「なんだか、ここにきてようやく夏休みらしい感じがしてきたな」


 らしい、なんて言っても、俺は一度もバーベキューなんて経験したことないけどな。なにせ、これまでがこれまでだった。野営や焚火で肉を焼いた経験はあるけど、みんなで集まって談笑しながら、なんてことはやったことがない。だから、結構楽しそうに思えている。


「だろ? 毎年恒例ではあるんだけど、これだけは純粋に楽しめるぜ。っつーか、これだけを楽しみに修行に耐えてるまであるな」


 祈と話していると、俺達のことを見つけた桐谷がこっちに歩きながら答えたが、少し疑問だ。

 俺は今までやったことがないから楽しみにしているけど、他の奴らってみんな経験あるだろ? 偏見かもしれないけど、何回もこういう集まりみたいなのをやっていて、なんだったらもっといい立食パーティーみたいなのを開いてるイメージなんだが。


「バーベキューって言っても、お前達みんな金持ちだろ?」

「まあ肉や食材自体は買おうと思えば買えるけどよお、でもこの空気は別だろ。家でパーティーとかバーベキューなんかやったとしても、どうしたって家の関係があるからメンツは限られるし、いろいろと制限がある。空気だって政治的な固さが混じるもんだしな。それに何より、親がいる。こうして友達……じゃ、ねえかもしれないけど、同年代だけで騒ぐってのは結構貴重なんだよ」


 ああ、そうかもな。こいつらは今ここに集まってるけど、普段は一緒に集まって何かをするような仲じゃない奴らもいる。敵対関係の奴や、敵対とまではいかなくとも親しくない奴ら。

 そういったメンツが家の事情関係なしに集まって騒ぐ機会なんてそうそうないか。


「そう、かもな……。でも、あれだな。金持ち連中ってのは普段から友達と遊び歩いてるイメージだったよ」


 なんて、冗談めかしながら正直に自分の想像を伝えたのだが、桐谷は苦笑しながら答えた。


「ま、そういうのがいないわけじゃねえぞ。パーティー大好きで、親の金で友達と遊び歩く、なんてのもいるさ。けど、それは一握りのアホだけだって。アホが目立つからそれが全体の事のように見えるだろうけど、結構まともな奴もいるんだぜ。特に、ここにいる奴らはそんなんじゃない奴らばっかりだからな」

「そうなのか?」

「よく考えてみろよ。そんな奴らがここの修行なんて耐えられると思うか?」

「無理でしょ」

「たしかに、耐えられなさそうだな」


 桐谷の問いかけに、祈が迷うことなく即答したけど、まあ無理だろうな。


「強制じゃねえから最初から参加しない奴もいるし、見栄張るために最初は参加するけど、途中で耐えられなくて出ていくやつらはいるからな。最後のこのバーベキューまで残ること自体少ないんだ」


 そうなると、今この場に残っている奴らはお偉方の家の中でも真面目な奴らってことになるのか。まあ、話していてバカすぎる奴はいなかったけど、そういう理由だったんだな。


「つっても、中にはこの修行を最後まで残ったアホ連中もいるけどな」

「いるんだ」

「そりゃあな。なにせここで最後まで残れば仲間内で自慢できるだろ」

「そんな理由かよ」


 それはそれで我慢強いというか忍耐力があるというか……

 理由はアホみたいだけど、それで頑張って修行を乗り切ったんだったら凄いと思う。


「他にどんな理由があると思ってんだ? 必死に鍛えて国民を守ろうって思うと思うか?」

「ないな」

「ないよねー」

「即答かよ。でも、そう思うだろ? 実際そう思われても仕方ねえから何とも言えねえな」


 だって、遊んで騒いでバカやってる奴らが、自分のために鍛えたり戦うんだったらまだしも、その他大勢である国のために戦うかって言うとそんなわけないだろ。

 もし国のために行動したんだとしたら、それは単なるパフォーマンスだろ。愛国心があると見せかけて自分のためでした、ってなやつだと思う。


「それよか、そろそろ食いもん取りに行こうぜ。順番とか暗黙の了解とかねえから、好きにとっていいんだ」


 おっと、そうだな。せっかくの機会なんだ。こんなくだらない話をしてるんじゃなく、楽しまないとな。



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