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九条対誠司3

 

「それ以上は流石に殺し合いになるのでな。その辺りでやめておけ」


 九条が矢を放つ瞬間、声をかけると同時に割り込んできた天満が九条の手を上へと弾き逸らし、九条の矢は誰もいない上空へと空撃ちすることとなった。

 それを見て、俺もとっさに足を止め、九条へと迫る大量の『手』を消した。


 そして、割り込んできた天満の姿を認めると、ホッと一息ついた。


 どうやら今回の戦いはここで終わりのようだ。

 まあ確かに、死ぬつもりはなかったけど、このまま本気で戦うことになっていれば大怪我はしたかもしれない。

 大怪我をしたところで即死でないのなら問題なかったけど、だからって怪我をしたいわけじゃない。元々好きで戦っていたわけでもないんだ。怪我をしないうちに終われるのならそれに越したことはない。


「できることならもう少し早く止めてほしかったんですけど……」

「そのようなことをすれば修行にならんだろうが」


 それはそうかもしれないけど……なんて思っていると、天満の向こうからどこか不満そうな様子の九条が俺の前にやってきた。


「佐原さん今回はありがとうございました」

「あ、ああ。なんか中途半端な感じになったけど、まあこんなもんだろ。流石に殺し合いをしたいわけじゃないしな」

「はい。もし次の機会がありましたら、その時には勝たせていただきたいと思います」


 やっぱり、その不満そうな顔は今の戦いに決着がつかなかったことに対するものか。

 でも、別に今回だって負けたわけでもないんだし、そう気にするような結果でもないと思うんだけどな。


「次はって、今回だって負けたわけじゃないだろ」

「いえ。仲間がいて数的有利があったにもかかわらず仕留めることができなかったのですから、私の負けでしょう」

「数っていっても、九条の場合は巻き込むことを恐れての連携不足だっただけだと思うけどな」


 実際、九条は仲間がいる間は牽制の矢は放っても最後のような大技は使わなかった。それは〝自分一人で勝つため〟なのかも知れないが、仲間を巻き込まいようにしようと考えたのも確かだと思う。


 だって、自分一人で勝とうと考えていただけだったら、最初っから仲間を見殺しにしておけばよかったんだから。そうして舞台を作ってから初めて能力を使って攻撃を仕掛けてくればよかった。

 でも九条は、最初は仲間と共に戦う意思を見せ、仲間のために行動していた。

 だから九条はチームとして行動していたし、そのせいで大技を使うことができなかったんだから、やっぱりただの連携不足が理由だと思う。

 言ってしまえば足手纏いだったってことだ。


「戦場では突発的なチームを組むこともありますし、それでうまく乗り越えなくてはならないのですから、連携不足はいいわけにはなりませんよ」

「……まあ、好きに思っとけばいいさ。でも、俺は自分が勝ったとは思わないけどな」


 正直、最後の攻撃は防げていたか微妙だ。まあ防がずに避けるつもりだったけど、あれだけ力が込められてたとなると反応できたかも怪しいし、万が一避けたとしても追尾機能なんかもあったかもしれない。そうなるともうお手上げだ。よくて体のどっかしらを貫かれた後に気合で相打ちに持っていく程度しかできなかっただろう。


 それに、さんざん攻撃を『手』で受け止めたことで、もう俺自身の腕が限界だった。慣れたとはいえ、痛いのは痛いんだ。痛みのせいで感覚は鈍るし、少し動かそうとしてもぴくぴくと痙攣するだけ。

 思い切り動かそうとすればできないことはないけど、それでもやはりまともに戦える状態ではなかったといえる。


 そう考えると、むしろ俺の負けだったように思えるんだけどな。まあそれを言ったところで九条はなっとくなんてしないだろうけど。


「祈。……悪かったな。痛かったろ」


 戦いが終わったことで、俺は真っ先に祈の許へと向かった。

 俺と痛みを共有している祈は俺が『手』を切られた痛みも共有してしまっている。仕方ないことだったとはいえ、そんな痛みを押し付けてしまったことを謝るべきだろう。


「ううん。あれくらいなら大したことないよ。私は元々痛みは気にしないから。それに、これは私の〝願い〟のせいだから自業自得だし」


 そう言って笑う祈からは、本当になんとも思っていないことが理解できてしまった。


 そんな態度が気に入らない。でも、これは祈がいけないというわけではない。むしろ、誰も悪くなんてないんだ。仕方ないこと……仕方ないことなんだ。


 そう理解できるからこそ、俺は自身の感情をグッと押さえつけてなんでもないかのように話を続ける。


「……だとしても、痛かったことに変わりはないだろ。次からは気を付けるよ」

「今回は仕方ないけど、私としては兄さんが怪我をするような状況にならないでいてくれる方がうれしいんだけど?」

「俺だって怪我をするような状況なんて好きじゃないっての。––––ただ、そういう状況は今後くるだろ?」

「……全部を見捨てて……それこそ〝普通〟に生きるってこともできるんじゃないの?」


 天満や天晴さんに言ったように、俺は俺自身が善人だとか英雄だなんて思っちゃいない。俺の願いは偶然の産物で、誰だって持ってるようなありふれた願いと感性だ。ただ偶然それが形になる機会があっただけ。

 だから俺は決して善い人なんかじゃない。


 祈の言うように、誰かを助けることなんて無視してどこかの田舎にでも引っ込めば平穏無事に生きていくことだってできるかもしれない。


 でも、もう無理だ。もうそんな道は選べない。

 だって俺は、もう既に〝見捨てない〟って選択をしてしまったんだから。


 今でも俺は普通に生きたいと思っているし、できることならそうあってほしいと願っている。でも、一度その道を選んでしまった以上、これからも俺は同じように行動するだろう。目の前で誰かが苦しんでいたら手を伸ばす。それが自分でもわかってしまっている。


 一度祝福を使ったことでそれがみんなにバレてしまった以上、隠す意味なんてない。今までは『祝福を隠さなくてはいけない』という思いがあり、それが枷となっていたから使わずにこれた。でも、それが消えてしまったんだ。隠す意味なんてなく、使用を制限する理由もない。

 そうなれば、俺は〝使わない〟という選択を選べないだろう。


 あの時、みんなが死にかけていた時にそれまでひた隠しにしていた祝福を使って助けたけど、助けた時は後悔もあった。なんでこんなことをしたんだろう、って。

 でも、助けた後に思ったんだ。これでよかった。みんなたすかってよかった、って。


 色々と変わることを理解して、今までの努力を無駄にして、これから大変なんだろうって考えたけど、それでもこれでよかったんだって、そう思ったんだ。


「そうできたらよかったんだけどな。でも、悪いな。多分それは無理だ」


 だって、誰かを助けることが悪いことなわけないんだって思ってしまっているから。

 やめた方がいいとわかっていても、多分頭で考えるよりも先に体が動いてしまう気がする。


「……はあ。仕方ないっかぁ。でも、できるだけ危ないことに首を突っ込んだりしないでよね」

「できる限りは努力するよ」

「それ絶対なにかやらかすやつでしょ、もー」


 誰かを助ける。きっとその願いは変わらないんだと思う。けど、今でも普通に生きたいとは思っているんだ。だから、仲間や友人が関わらない限り自分から首を突っ込むつもりはない。

 でも、そうだとしてもきっと俺が動くことになるときは来るだろう。


「話は終わったか? ならば次は祈が戦ってほしいのだがな」

「あー、はいはーい。わかりましたー」


 どうやら次は祈が戦うようで、天満に声をかけられた祈は少しめんどくさそうにしながらも天満の言葉に応えて訓練場の方へと歩きだした。


「それじゃあ、兄さん。いってくるねー」

「怪我しないようにな」

「少なくとも、兄さんよりは軽傷で済むと思うから安心してて」


 そりゃあそうかもしれないけど、そう言われると兄として情けなくなってくるな……



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