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九条対誠司2

「佐原くん。いきます。この一撃は––––重いですよ」


 そんな言葉とともに放たれたのは、普通の矢とは比べ物にならないくらいに太い、光り輝いている矢だった。


 おまえ、それは大型の魔物に使うような奴だろ!


 明らかに殺意が込められている九条の矢に驚きながらも、どうにかするために必死になって『手』を前に伸ばしていく。そして、貫かれる。


「ぐうっ!」


 矢に『手』が貫かれたせいで、痛みを共有している両腕が痛い。俺と痛みを共有している祈には悪いことをしてるな。

 だが、文句があるとしても後で聞くしかないし、謝るにしても後だ。今は我慢して目の前のことに対処するしかない。


 手のひらを屋に貫かれながらも『手』を操って矢を掴み、止める。だが完璧に止めることは難しいと判断し、ならば攻撃を逸らすことにしようと力を籠める。


 そんな作戦は成功し、九条の放った矢は逸れて後方へと流れていった。


「桜だけじゃないからね!」


 だが、そうしている間に詠唱を終えた他のメンバーが襲ってくる。

 最初に襲い掛かってきたのは藤堂だった。

 そういえばこいつの戦いを見たことはあるけど、実際に手合わせをしたことはなかったな。


 そんなことを思いながらも、囲まれてはマズいと判断して近くにあった木を掴んでワイヤーアクションのように飛び退く。


「はあ!? そんなこともできるわけ!」


 藤堂が驚いているけど、それを無視して移動を続けながら相手のチームに向かって数十という数の『手』を伸ばしていく。


「逃がさない、ってばああ!」


 当然そんな分かりきった攻撃は通用せず、九条達のメンバーは自分のことを狙っている『手』を各々攻撃して対処していく。


 俺はこの修行期間中に能力の扱い方を鍛えろと言われてそれを実行し続けてきたけど、流石にこれだけの数を実際の腕のように操るのは不可能だった。

 だからこうして迎撃されるのは当然のことなのだが、それでも九条の足を止めることはできた。

 あいつは強いが後衛だからな。『手』に対処しながら敵を追いかける、なんてのは難しいだろう。


 だが、それでも他のメンバー達にとっては『手』の対処は難しいものではなかったようで、迎撃しながらも足を止めることなく俺のことを追いかけてくる。


 このまま逃げて仲間との距離を離してもいいんだが、時間をかければ九条が新たな対処をするかもしれない。そうなる前に、何かしらの結果を出しておかないとまずい。


 そう判断し、そのまま逃げ続けていたところを突然反転し、今度は自分から接近していった。

 追いかけていたのに突然俺が向かってきたことで、相手のメンバー達は足を止めようとしたり武器を持つ手に力を籠めたりしたが、総じて対処が遅れている。それは藤堂も例外ではなく、目を見開いて驚きの表情でこちらを見ている。


 その隙をつき、能力をさらに開放して数百・・の腕を辺りにばらまいた。

 これだけの数があると流石に一つ一つ動かしていくのは不可能だ。

 でも、大雑把ではあっても敵に向かって伸ばし、捕まえることくらいはできる。


「きゃあっ!」

「うわあああっ!?」


 突然の俺の行動に加えて、先ほどまでの何倍もある『手』に驚いた九条達のチームメンバー達。

 彼らは自分に迫る『手』に対処していくが、それでも流石に数の暴力には敵わなかった。

 視界全てを埋め尽くすほどの『手』を処理しきることはできず、三人・・はそれぞれ拘束されることとなった。


「後は藤堂と九条か」


 三人は拘束することができたが、藤堂は全身に炎を纏うことで自身に迫った腕を燃やしたらしい。藤堂は一旦退いたようで、九条の前に立ってこちらを睨んでいる。


 だが、捕まること自体は回避することができたみたいだが、それでも流石にスキルでは祝福によって生み出された腕を一瞬で燃やし尽くすことは難しかったのだろう。服は破れているところがあるし、腕や足にはひっかかれたような跡や強く締め付けられたような跡も残っている。


「燃えなさいよ!」


 離れていては九条の有利になるばかりなので、『手』をだして囮、兼盾にしながら九条達へと接近していくが、その途中でまるで壁のような炎が藤堂から放たれた。


「誰が燃やされるか––––っ!」


 流石に直撃を受ければ俺でも厳しいものがあるので、とっさに後方へと跳んだのだが、それを予測していたのか炎の壁を突き破っていくつもの光の矢が俺めがけて飛んできた。


 今から避けようとしても間に合わない。体をひねったところでどれか一つは絶対に当たる。

 だが––––


 当たりそうになった直前で『手』を伸ばして地面を掴んで引っ張ることでどうにか避ける。

 自前の腕だったら地面を掴むなんてことはできないけど、この『手』は俺の肉体の限界まで力を使えるし、爪の部分はあっても爪がはがれるなんてこともないからこういうこともできる。


「あっぶな……」


 何とか避けることができたことで安堵の言葉が自然と漏れた。

 だが、助かったは助かったでいいとしても、すぐに次に備えないと。

 でも備えるって言っても、耐えているだけじゃそのうちじり貧になる。なにせ相手は二人でこっちは一人しかいないんだから。しかも残ってる二人が長年の親友ともなれば連携も抜群だろうし、さっきみたいな油断はもうないだろうからミスを誘うのも難しいだろう。


 ただ、それは分かっているがどうやって対処したものか……この程度の炎だったら行けるか?


 先ほど藤堂が放った炎の壁はまだ残り続けている。普通の人ならこの炎の壁を越えられないだろうが、俺なら対策さえすればどうにかできるんじゃないか?


 そう思うが早いか俺は走り出し、炎の壁へと向かって突き進んだ。


 このまま炎の壁を越えていけば、相手だってそんなことをしてくるわけがないと油断しているだろうし、しょうめんから奇襲を仕掛けることができる。

 大回りすれば距離が開くし、何より警戒しているだろう。

 だったら多少のダメージはあったとしても、やっぱりこの炎の壁を抜けた方がいいな。


「は? このっ!」

「へ? わきゃっ!?」


 だが、どうやら向こうも同じことを考えていたようで、炎に突っ込む直前で炎の向こうから来た藤堂と鉢合わせをし、反射的に腕を伸ばした。

 藤堂も慌てながらも抵抗しようとしたが、さすがに突然百もの『手』に襲われれば対処しきれなかったようで、雁字搦めになって捕まることとなった。


「これで一対一になったな」

「……そうですね」


 そして、藤堂が退場となったことでスキルの維持が切られ、炎の壁が消えたことで俺と九条が向かい合うこととなった。


「どうする。これ以上やると本気でやることになりそうなんだけど」

「そうですね。でも、せっかくの機会ですし、やめる必要があれば天満様がお止めになると思いますから」


 そう話している間にも俺の腕は増えていき、九条も側にいくつかの光の矢を浮遊させ、待機させている。


 あれだけの数を準備されるとなると……対処できるかもしれないけど、もしかしたら〝もう一つ〟を使わされるかもしれないな。


「そうか。それじゃあ、やるか」

「ええ」


 姿勢を低くし、伸びている『手』のいくつかで地面や木を掴んでいつでもうごけるようにしている俺。

 そんな俺に白く光る弓を構えながら周囲に光の塊でできた矢を待機させている九条。


 果たして、先に動いたのは九条だった。


 何の前兆もなく放たれた光の矢。九条の周りで浮遊していたそれは音を出すこともなく真っすぐ俺めがけて飛んでくる。


 正直言って、避けたい。けど、この攻撃はまだ避けなければならないほど危険な攻撃ではない。

 もしここで攻撃を避ければ、九条自身が弓に番えている本命の矢が放たれるだろう。攻撃を避けたばかりの体勢では、その本命の攻撃を避けることは難しいかもしれない。


 だから今は避けず、光の矢を『手』で側面から打ち抜いて弾き、逸らすことで対処する。


「流石に、この程度では足止めにもなりませんか」

「まあ、正面から向かい合ってる状況ならな」


 そうして再び補充された光の矢が放たれたが、それを逸らすために『手』を動かすと同時に、今度は九条めがけて『手』を伸ばしていく。


 だが、何十と差し向けた無数の『手』はし、そのすべてが光の矢で射抜かれていく。

 その痛みをこらえながら、俺は構えられながらも放たれることなく俺へと照準を合わせている九条の弓を警戒しつつ、一気に突き進みだした。


 睨みあっていても何も変わらない。それどころか、向こうは距離が開いている方が有利に戦えるんだから、俺の方がジリ貧になっていくだけだ。


 待ち構えるのではなく自分から動けば当然ながら隙は増えて避けづらくなる。でも、そうと分かっていても進むしかない。


 だから俺は、地面を掴んでいた『手』に力を籠め、ぐっと横に引っ張ることでパチンコのように自分を前方に射出させた。


 そんな俺の動きが予想外だったのか、九条は驚きに目を見開いたが、それも一瞬の事。すぐさま冷静な眼差しへと戻った。


 そして、矢を構えている九条の足にぐっと力が入ったその瞬間、俺は全身からできる限りの『手』を伸ばした。その数はこれまでの最高……千に届くのではないかと思えるほどの数で、そのすべてを九条へと向けて––––


「そこまで」


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