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スキルの習得完了

 

「なんだ、まだやらないのか?」


 どうするか。クラスメイト達に紛れて誤魔化しつつ触って行こうかと考えていると、桐谷がこちらに近づいてきた。


「ん、ああ桐谷か。まあ、あの中に割り込んでいくのもな。下手に近寄ったりして目をつけられたら面倒だろ」

「あー、確かにな。んじゃあ俺ももうちょい待つかな」


 正直いって今のタイミングでそばにいられるのも厄介ではあるのだが、だからといってここで断るわけにはいかない。そんなことをすれば余計に怪しまれてしまうから。


「なあ、どんなスキルが手に入ると思う?」

「さあ。自分の心なんて自分でもわかんないもんだろ。もしかしたら破滅願望とかあって自爆のスキルとか覚えるかもしれないぞ」

「あー、かもな。でも流石に自爆なんてスキルはここには置かないだろ」

「流石にな。でも似た系統のはあるんじゃないか?」


 自爆なんてスキルがあるとは思わないが、自分を傷つけて何かしらの効果を発揮する、みたいなものはあるかもしれないとは思っている。


 だが、もしかしたら本当に自爆なんてスキルがあるかもしれないとも思う。そうやって危険分子を炙り出すことで、将来の危険の芽を摘んでおこう、あるいは監視しておこうと考えるのはおかしなことではないだろうから。


「そろそろいい頃合いじゃね?」

「みたいだな。それじゃあ俺たちも行くとするか。……人殺しのスキルとか引き当てんなよ」

「そりゃあ俺もお断りだっての」


 しばらくダラダラと話していると、クラスメイトの半分ほどがスキルを覚えたようで、宝玉の台の周りが空いてきた。

 そのため俺たちは話をやめてそれぞれ宝玉へと近づいていき、順番に手を伸ばして宝玉に触れていく。


「やっぱり、俺のもあったな」


 何個目かの宝玉に触れた時、自分の胸の奥にある何かが反応した。その瞬間、理屈ではなくただ〝そうなのだ〟と理解することができた。


 自分の『スキル』に触れたことで思わず眉を顰めてしまったが、まああってもおかしくはないだろうなとは思っていた。俺だって、国の上層部には『祝福者』だということがバレているんだ。検査だって受けたし、スキルの作成も協力した。学校側だって俺の存在はわかっているのだから用意していないはずがなかった。


「壊してやりたいが……ダメだよな」

「そんなことをしたら大問題になるからね」


 自分の〝願い〟がこんな形でここに置かれているというのは、何とも心が落ち着かない。そんな気持ちが不平となって口から溢れたが、いつの間にかそばに来ていた祈に咎められることとなった。


「なんだ、もう終わったのか?」

「フリだけだからね」


 まあ、祈も『祝福者』だし、俺と同じようにいくつかの宝玉を触ってそれっぽい反応をすればそれで終わりなのだからすぐに終わるのも当然か。他のクラスメイト達は驚いたり感慨深そうな反応をしたりと様々だが、俺たちにはそんなものはないし。


 でも、ここには俺のスキルはあったが、祈のスキルはなかっただろうな。あれはこいつ以外が使っても意味のないものだし。国としても、あんなスキルの持ち主を増やしたいとは思わないはずだから。


「よう」


 百地先生へとスキルの報告を終えてしばらくすると、同じようにスキルを覚えて報告を終えたのか桐谷がやってきた。


「ん? ああ、桐谷。おかえり。んで、なんのスキルだったんだ?」

「剣だな。棒状のものを剣に変えるスキルらしい」

「なんだかやけに物騒なスキルだな。辻斬りの願望でもあったのか?」

「んなわけあるか! 実家が剣術を生業にしてるからその影響だろ。俺も小さい頃から剣を教え込まれたしな」

「へぇー……まあ、なんかわかる見た目してるわ。剣道部かサッカー部って感じしてるし」

「それって髪型だけで判断してねえか?」


 正解だ。体格が良くて程よく肌が焼けていて、それでいて短髪となれば、なんかそういうスポーツ系な感じがするのは仕方ないと思う。


 でも、こいつは実家がどこぞの名家って言ってたけど、剣の名家なのか。そりゃあスキルも剣にまつわるものになるのも当然と言えば当然か。


「で、そっちはどんなスキルだったんだ?」

「私は身体強化ね〜。まあありきたりといえばありきたりなんじゃなぁい?」

「あー、身体強化か。詳しくは色々分類があるみたいだけど、系統としてはありふれてるな」


 様々な願いがあるが、行き着く形は同じようなものになることはよくあることだ。

 身体強化もその一つ。誰かを守りたい、敵を倒したい、強くなりたい。そんなバラバラな願いであっても、身体を強化するという結果にたどり着くことはよくある。

 細かく言えば足が速くなるとか、体が丈夫になるとか、まあ効果は色々と差があるみたいだけど、〝身体が強化される能力〟という点は変わらない。


「俺の方は……念動力? なんかものを掴んで動かせる能力だな……多分」

「なんだよ多分って」

「まだ使ったことないんだから仕方ないだろ。実際に見るまでは断言なんてできないっての」


 実際にはこれ以上ないくらいによく知っているが、ここはこういっておくのが無難だろう。


「——にしても、結局『祝福者』はわかんなかったな」


 その後はクラスメイト達の反応を見ながらダラダラと話をしていたのだが、最後の一人が報告を終えたのを見て俺は思わずそう呟いた。


『祝福者』だからって何か特別なエフェクトがあったわけでもないし、わからなくても仕方ないのだが、少しだけ期待していただけに残念だ。


「ああ。まああそこら辺は自身の能力を言いふらしたりなんてしないだろうからな。訓練で見せることはあっても、自分から詳細を語ることはないと思うぞ」

「立場的にそうなるか。こんな能力なんてあったら暗闘とか襲撃とかもあるかもだしな」


 実際、事情は違うだろうが俺たちだって隠しているんだ。お姫様や大企業の令息なんて立場のある奴が簡単にバラすわけがないか。


「でも、『祝福』じゃないっぽいけど一人だけはっきりしてる人がいるみたい。ほら」


 祈はそう言いながらとある集団……というよりもとある人物のことを指さした。


「ん? あー、聖女様か。そこはな。むしろそうじゃなかったらそれはそれで問題だろ」


 下馬評では治癒に関するスキルを手に入れる、ということになっていたが聞こえてくる話に耳を傾けていると、どうやら本当に治癒に関するスキルを習得することができたようだ。


「見てる側としては面白そうだけどな」

「やめとけやめとけ。どうせ同じクラスになってる以上はなんかしらの面倒ごとに巻き込まれることになるぞ」


 それもそうか。これで『聖女様』が自爆系のスキルを覚えでもしたら、クラスの空気が最悪どころじゃなかっただろうな。それを考えると、何事もなく下馬評通りってのが一番いいか。


「——皆さんスキルを獲得する事ができたようですね。それではこれより場所を移動して実際にスキルを使用しての確認となりますので、それまではくれぐれもスキルの使用は控えるように」


 全員のスキルの報告を受けた百地先生は、そう言うなりすぐに歩き出し、俺達はその後に続いて宝玉の保管庫から出ていった。


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