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子供たちの修行事情

 ——◆◇◆◇——


「あのクソジジイ……次はもっと普通の方法で移動できるようにしてくれよな」


 結局俺は再び天満の脇に抱えられて山の中を猛スピードで飛び跳ねながら帰還することになった。

 自分で走るのではなく抱えられながらだったせいで、到着した時にはかなり気持ち悪かった。それもすぐに治ったけど、あの移動は荒波の中の船よりも酔いそうだ。


 祈なら俺を抱えながらでも背負いながらでも、あまり揺らさずに天満の後をついていくことはできただろう。

 だが、いくら能力にちががあるっていっても、流石に妹に背負われながら、抱えられながら移動するっていうのは受け入れられなかった。


 だから仕方なく天満の方を選んだんだが……できることなら次からはもっと普通の移動方法を用意してもらいたいものだと切実に思う。


「おい、誠司!」

「ん? あ、桐谷か」


 祈はシャワーを浴びるといって風呂に行ったことで、一人となった俺が神有月家の母屋に戻って自身に与えられた部屋へと向かっていると、その途中で桐谷と出会った。

 桐谷の周りにいるのは他の修行生だろうか? 同年代の男子達が集まっていたが、桐谷はその集団に一言声をかけるとこちらにやってきた。

 ありがたいけど……いいんだろうか? なんか視線を感じるんだけど……。

 でも、仕方ないか。俺はこの場所に毎年のように修行に来てるわけじゃないし、初見のやつがいたら見るのは当然のことだろう。そう理解できるからこそ、俺は自分たちに向けられる視線を努めて気にしないようにした。


「どこ行ってたんだ? ずっと話してたってわけでもないんだろ?」

「話の途中で天満先生がやってきてな。俺達はこっちだ、って拉致られて今まで付き合わされたんだ」


 そう行ってから思い出したけど、桐谷はあの部屋に俺たちだけを残していくことを心配していたし、せめて一言残してから移動した方が良かったか。


 ただ、あんな状況で攫われるように移動したこともあり、すっかり忘れてしまっていたのは仕方ないことだろう。


「天満先生って……先代の御当主様か……。直接稽古をつけてもらえるなんて、やっぱすげえな」


 桐谷は俺たちの稽古相手が天満だと知って驚いているが、それはそうだろう。だが、そうやって純粋に驚いていられるのはあの人の修行風景を知らない人だけだ。


「すごいことなんだろうけど、あんまりやりたくないんだよな」

「なんでだ? なんかあるのか?」

「なんかっていうか、あの人化け物みたいに強い上に容赦ないからさ」


 役に立つし強くなれるし、ありがたいことは間違いないんだけど、でも本当に死にかけるくらい容赦がない。

 しかも俺達の場合は多少の怪我があっても死なないから余計に無茶なことをやらかす。


「あー……。でもまあそんなもんだろ。修行なんだし。それに、こっちはこっちで結構ひどいぞ」


 そう言いながら桐谷は肩を落として、いかにも疲れていますと言わんばかりにため息を吐き出した。


 そういえば、桐谷達はどんな修行をしたんだろうか? 天満とではないことは明らかだけど、やっぱり他の強者と組み手をしたりしていたんだろうか?


「そっちは何やってたんだ?」

「対人戦もやったけど、基本的には体力作りとかそういうのだばっかだな。山ん中を走り回ったり崖を登ったり木の上を飛び移ったり……色々だ」


 崖登りに木の上って……それ本当に戦士を育てるための修行か? 


「……この家は忍者でも育ててんのか?」

「似たようなもんだな。でも、実際魔物と戦おうと思ったら正面から突っ込んでいくことしかできないやつよりも、色々な場所を移動できて裏を突けるやつの方が使えるだろうし、方針としては間違ってないと思うぞ」


 俺の問いかけに桐谷は苦笑しながら答えたけど、言っていることはなるほどと納得できる内容だ。

 この間の試験の時、俺は祝福を使ったけど、あんな感じで建物やなんかを自由に移動することができれば戦いを有利に進めることができるだろう。


 ただ、そうと理解していても、やっぱり戦士ではなく忍者の修行な気がする。


「まあ、そりゃあそうだけど……そっちはそっちで大変なんだな」

「やること自体は毎年同じようなもんだから、もう慣れたもんだけどな」


 毎年夏休みに崖登りするのか……。まあ、クライミングが趣味の人だと思えば普通か? 桐谷達の場合は趣味じゃなくて強制だけど。


 なんて話していると、不意に視界の端にとある集団が移動しているのが映った。


「ん? あっちは……子供?」


 その集団は全体的に小柄な者達で構成されており、見た感じだと年齢は俺たちよりももっと下……十歳から十二歳かそこらだろうか。


 修行、なんてものをするには俺たちの年齢も十分若い気もするけど、あの集団は少し若すぎないか?


「ああ。あれは……あれだ。幼年部? 俺もそうだったけど、小さい頃から最低限体力やらなんやらはつけておいた方がいいってことで、五歳くらいからここに送り込まれるんだよ」

「そういえば、前にもそんなようなこと言ってたっけな」


 桐谷の家だけじゃなく、武門の家、あるいは魔物との戦いで名を馳せようとしている家は幼い頃から子供を鍛えている、みたいな話を聞いたことがある。あの子達もそういった家の事情があるんだろう。


 でも、あの年齢から崖登りとかするんだろうか? それは流石にちょっとどうなんだ?


「まあ流石に俺たちみたいな死ぬほどの走り込みとか、限界を超えた筋トレとかはさせないけどな。そんなことしたら体がぶっ壊れるし、成長の邪魔になるから。鍛えるのは主に体力と技術。それから、他の家との交流だな」


 ああ良かった。そりゃあそうか。いくらなんでもあのくらいの子達には無茶はさせないよな。

 でも、他の家との交流っていうのは、やっぱりお家の事情的な感じか?


「他の家との交流ってのは……お偉いさんの家で繋がりをってことか?」

「ああ。ここにいる奴らってのは、中には敵対関係の家とかもあるけど、基本的には将来一緒に戦場で戦う奴らだ。仲良くなっておくことに損はないだろ」


 うーん。まあ、魔物と戦っていれば同じ場所で戦うこともあるだろうし、なんだったら同じ相手を協力して倒すことだってあるかもしれないな。

 それを考えると、少しでも関わりを持っていた方がいいのか。全く知らない奴よりも、少しでも一緒にいた記憶があれば親しみを持ちやすいだろうし。


「それに、家の利益での敵対はあったとしても、戦場での連携は取れないとまずいからな。幼い頃は家の対立とかわからないし、今のうちに多少なりとも仲良くさせておこうって腹だ。小さい頃って言っても、一度一緒に頑張ったって結果があれば、将来も協力しやすいしな」

「……お偉いさんの家ってのも色々大変なんだな」


 偉い立場でいるためにはそれなりに成果を出さないといけないし、そのためには率先して魔物と戦わないといけない。だから子供であろうと幼いうちから鍛えさせられるし、嫌いな相手でも仲良くしないといけない。


 それに相応しいだけの恩恵もあるんだろうけど、俺だったらそんな面倒な生活よりも普通の一般家庭での生活のほうがいいと思ってしまう。まあこれは俺が〝普通でいたい〟って思っているからってのもあるんだろうけど。


「まあな。でも、大変なのは一部だけで、他の親族連中は楽に遊んで暮らしてるけどな。あいつらをみると毎回ぶん殴りたくなってくんぜっ」

「……ほんと、マジでお偉いさんの家も大変だな」


 語気を強めて話す桐谷になんと答えていいのかわからず先ほどと同じ言葉を返した俺は、あまりこの話題に触れないようにしようと誓って母屋の中を歩き出した。



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