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魔物の発生

 

「それよりも、そうね。少し手伝ってくれないかしら?」

「なんだか今思いつきました、って感じで誤魔化そうとした気がするけど……何?」

「この魔物の解体を手伝ってほしいのよ。倒したはいいけれど、流石にこれだけの数を処理しなくてはならないとなると、時間がかかりすぎるわ。報酬は倒した魔物の三割を好きにして構わないわ。だから手伝ってくれないかしら?」


 一部を渡すのは良いけど、三割もか? けち臭いかもしれないけど、もうちょっと少なくてもいいんじゃないだろうか?


「三割!? そんなもらっていいわけ!?」

「ここで無駄に時間を使うよりはいいわ。他のチームが来たりまた魔物が湧いたら面倒なことになるもの」

「それは私らとしても願ったりだと思うけど……ちょっと話し合ってくるね!」


 藤堂はそう言うと小走りに仲間たちの許へと戻っていき、話し始めた。けど、言われてみれば確かにそうかもな。

 ここにある魔物の死体だけで五十に届きそうなくらいはあるし、それを全部解体してとなると、さすがに疲れるし時間が足りない。まあ解体って言っても全身をってわけじゃなくて得点となる部位だけをだけど、それでも俺達四人だけでやるなら時間がかかるのは間違いない。


 それを考えると、三割渡すだけで人手が倍になるっていうのは、十分ありな考えか。


「勝手に決めて申し訳ありませんでした。ですが、この場はこうするのが最善だと判断したもので……」

「うちのチームリーダーは九条なんだ。そうする必要があると判断したんだったらそれでいいさ」

「まあね~。獲物が減るのはちょっとざんねんぽんだけど、実際全部解体しろって言われても困るしね~」

「僕もいいと思います。下手に独占してやっかまれても面倒ですし」


 申し訳なさそうに謝る九条に対し、俺達三人は誰一人として文句も不満も言うことなく了承の意を示し、相談が終わった藤堂のチームと共に魔物の解体を始めた。


「ああ? おいおいなんだよ。もう終わってんのか? やっぱさっきの雷か?」


 解体を始めて数分ほど経った頃、新たなチームが姿を見せた。

 そのチームは、俺は話したことはないけどよく知っている、俺達のチームとも藤堂のチームとも関係のあるチームだ。つまり……


「織田? げっ。あいつも来たわけ? 最悪……」


 九条の婚約者でいろんな女を口説いてる不倫男の社長令息、織田だった。

 なんか改めてこう言うとだいぶクズい奴だな。いや実際にクズなのかもしれないけど。


「信弘さん。こちらにいらしたのですね」

「桜? ってえことは、これはお前がやったのか?」

「ええ。チームメンバーと共にですが」

「チッ。そうかよ。ご苦労なこったな」


 婚約者との会話という割にはだいぶ壁がある対応だな、と思わずにはいられない。


 だが、そんな九条との会話を早々に切り上げた織田はその場を見回し、他の生徒達のことを睨みながら観察していく。

 すると、その途中で興味をひかれる人物でも見つけたのか、わずかに目を開いて動きを止めると、二ッと笑みを浮かべながら堂々と歩き出した。


「あ? なんだ、光里もいたのか。調子はどうだ? 必要だってんなら獲物を分けてやってもいいぞ。なんだったら一緒に行動するか? 俺はもう十分な点を稼いだから、おまえが必要だっていうんだったら力を貸してやるぞ」


 こいつ、本当に最悪だな。話には聞いてたけど、本当に婚約者を蔑ろにいたうえで他の女……それもその婚約者の親友に声をかけるとか駄目だろ。

 いや、婚約者だからって絶対に好意を抱くわけじゃないってのは分かるし、その親友のことを好きになってしまったってのも仕方ないことかもしれない。

 でも、それならそれでもう少し周りのことを考えて動けよ。少なくともこの場では口説いてると思えるような親し気に声をかける場面じゃないだろ。


「おあいにくだけど、私ももう結構点数稼いでんの。あんたの力なんて必要ないってば」

「まあそう言うなよ。むしろ、お互いに点数稼いでるんだったらあとはリタイアしないことのほうが重要になってくるんだし、一緒にいた方が合理的だろ?」

「なら桜を誘ったら? なんでこっちにばっかり声かけてくるわけ?」

「桜? ああ、当然誘うさ。だからお前もどうだ? 桜が一緒ならお前だって嫌とは言わねえだろ?」

「……ちょっと。それって桜が––––」


 オマケみたい。とでも言おうとしたのだろう。俺だってそう感じたし、他にもそう感じた者はいただろう。

 でも、そんな藤堂の言葉は最後まで紡がれることはなかった。


「みなさん、敵です!」


 藤堂の言葉を遮るように叫んだのは誰か。あまり聞き覚えのある声ではなかったからおそらくは藤堂か織田のチームの生徒なんだろうが、今はそれはどうでもいいか。


 それよりも、敵が現れたということの方が重要だ。九条もリンリンも多少なりとも回復したとはいえ、まだ全快とは言えない状態だ。そんな状況で新たな敵となると、少し厄介かもしれない。


 ただ、今は他にもチームがいるんだし、倒せないことはないだろう。そう思っていたのだが……


「はあ? なんだって急にこんなのが出てくるわけ!?」


 藤堂がそう叫んだのも理解できる。なにせその魔物は、今までこの試験で倒してきた魔物とはまるっきり違っていたのだから。


 まずその大きさが桁違いだ。前回模擬戦で戦った魔物は三メートルくらいだったが、こいつはそれよりも大きい。倍、とまではいかないかもしれないけど、もしかしたら本当に倍くらいはあるかもしれない。


 それから、獣要素があるというのは変わらない。だが、獣要素があるってだけで獣型ではない。あれは何型と言えばいいんだろうか? 人型になるんだろうか?


 胴体に頭があって手と足が2本ずつ。確かにそれだけ言えば人と同じだ。だけど、誰もアレのことを人とは言わないだろう。

 地面に触れるほど長く垂れ下がった獣の腕に、口が縦に割れている獣の頭。そして開いた肋骨とその奥から伸びてる無数の人の手足。


 沢山の腕って……親近感が湧くなあおい。


「魔物だと? 今発生したってのか?」

「皆さん、あれは大型です! いったん下がって態勢を整えましょう!」

「ハンッ! んな悠長なことしてられっかよ! んなことしなくても、まだ完全に出来上がってねえんだからそこをたたけばいいだけだろうが!」


 九条が下がるように指示を出したが、そんな指示に逆らって織田が調子に乗って叫びながら槍を握りしめて走り出した。


 なんだあいつは。バカなのか? どう考えたって流石にこんなのは異常事態だってわかるだろ!

 分からないならバカだし、わかったうえでの行動なら余計にバカだ。


「くそがっ! 硬えな。流石は大型ってか。雑魚とは違えってわけだ」


 突っ込んでいった織田は持っていた槍を大型魔物に突き出したが、刺さっていない。

 勢いはよかった。あれならそこらの魔物なら一撃で仕留めることができていただろう。だが、あの魔物はそこら辺の雑魚ではない。


 このまま戦っても厳しい戦いになることは簡単に予想できる。ここは一旦引いて教師たちの協力を得るべき、あるいはまるっきり全てを教師たちに任せるべきだ。


 であるにもかかわらず、織田はいまだ引く様子を見せず、大型魔物に向かって槍を構えている。織田のチームメンバー達は逃げたそうにしているが、織田に意見することもできず、また、意見をしたところで聞き入れてもらえないんだろう。おろおろと引け腰で様子をうかがっているだけだ。


「光里、お願い!」

「了解! みんなは巻き込まれないように自分たちのことを守っておいて!」


 そんな織田を見て、説得することは不可能だと感じたのだろう。九条は藤堂を呼んで織田のそばへと向かっていった。


「ねえ、どうすんの?」

「どうするって……」


 不安そうにしながらリンリンが問いかけてくる。普段の彼女であれば突っ込んで一撃お見舞いしただろうけど、今はまだまともにスキルを使うだけの力が回復していないんだろう。

 そんな状態であれば普通は逃げるべきなのだが、仲間を置いて逃げることに抵抗があるようで逃げようとするそぶりは見せていない。


 けど、こんな状況じゃやっぱり教師たちを呼びに行くのが正解だと思う。呼ばなくても異変を察知してきてくれるかもしれないけど、来ないかもしれない。生徒達の安全を図るという意味でも、いったん逃げて教師を呼びに行くべきだ。


 ただ……ここで他の生徒が全員逃げて、俺も逃げるとなると、万が一のことが起こりえるかもしれない。


 そうなるくらいだったら、その前に俺が祝福を使って敵を仕留めた方がいい。それなら誰も怪我をせず、誰も死ぬこともなく無事に終えることができる。だから助けるべきだ。


 でも、そんなことをすれば目立ってしまう。


 祝福を使えば、当然ながら俺が『祝福者』だということが他の生徒達にばれてしまう。それはできることなら避けたい。だって、そんなことになったら俺は〝普通〟ではいられなくなってしまうから。

 今だって俺がいなくても織田や藤堂達だけで戦えているんだから、俺は戦わなくてもいいんじゃないか。


 そんなつまらない保身で迷い、俺は動けずにいた。


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