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一網打尽

 ——◆◇◆◇——


「上ってこれるか?」

「ええ。大丈夫よ」


 行動に移ってからしばらくして魔物の発生源を発見することができた俺は、その場所を狙うのに最も適している場所を探し出してビルの屋上へと他の三人を引き上げた。


「それで、ここからならどうだ」


 少し距離はあるけど、このくらいならスキルは届くはずだ。それに、これだけ距離があれば万が一に失敗しても逃げることができる。一網打尽なんてできたらいいけど、できないかもしれないんだから安全第一で行くべきだ。


「そうね……問題ないでしょう。ここからなら敵もよく見えますし、補足されてもすぐに逃げれば逃げ切れるはずです」

「うわっはー! めちゃんこ敵がうじゃうじゃってるわね! あそこにぶっぱしたらすっごい楽しそう!」


 リンリンの言うように、視線の先には魔物達が蠢くように屯している。


「それじゃあ二人とも、準備を頼む」

「おっけー! このあたしにお任せあれれ~!」

「佐原さんも守谷さんも、万が一の場合はすぐに撤退をお願いします」

「はい」

「ああ。任せてくれ」


 俺達が頷くと、九条は一歩前へと足を踏み出して建物の端へと立つと眼下の魔物達をみおろした。


「ふう……リンリン。準備はできていますか?」

「もっちもち! いつでもバッチこいよ!」


 いつものような軽い調子の返事ではあるが、そう言ったリンリンの表情は今まで見たことがないくらい真剣なもので、目はやる気に満ちていた


「それでは行きます。––––〈再演アゲイン・この世に蔓延る魔性を赦さない。私の苦痛も人生も、全ては人々を守るために––––私は魔を退けなくてはならない〉」


 九条がいつものように淡々と祝福の詠唱をすると、頭上には複雑な文様が描かれた光の輪が出現し、その手には神々しさを感じさせる和弓が出現した。


「〈上演イミテル! 光は怖い。音は痛い。世界は恐ろしい。けれどそれこそ神秘。それこそ奇跡。私はそれらを追い求める。私の道を阻むものは神の怒りで焼けてしまえ––––私は世界を愉しむ者〉」


 九条とは対照的に、リンリンが力強さを感じさせてスキルの詠唱を終えると、頭上に単調な光の輪が出現し、全身から放電する様に雷を纏い始めた。


 そして、準備を終えた二人は同時に顔を見合わせると頷き合い……


「いきます!」

「ゴロゴロドッカン! ふっとんじゃえ!」


 二人による高威力、広範囲の攻撃が放たれた。


 九条の手元から放たれる光の束と、魔物達の頭上から降り注ぐ光の束。

 同じ光の束でもその性質はまるで違うものだが、魔物を倒すという狙いと、その結果だけは同じだった。


 二つの性質の違う光の束が同時に魔物達の群れに着弾すると……


「すっげ……」

「でも、これだけの威力なら……」


 光の束は魔物を等しく蹂躙し、轟音と衝撃をまき散らした。


「佐原さん。敵の残りはどうなっていますか?」


 流石の九条もあれだけの攻撃をするのは疲労を感じるのか、若干ふらついた足取りで建物の端から中央付近に戻ってくると、先ほどまでよりも覇気のない声で問いかけてきた。


「ちょっと待て。……ここからじゃ全部見えるってわけじゃないけど、残りは二、三体程度だな。それだって二人の矢と雷で手負いだ。今なら割と簡単に倒せると思う」


 まだ先ほどの攻撃による土煙が魔物達のいた場所を薄っすらと覆っているが、見た感じだと動いている影はそれほどではないように感じる。

 仮に生きていたとしても、あれだけの衝撃の中でまともに動けるやつなんてそういないだろう。


「そうですか。ではそれらはお二人で対処することはできますか?」

「二人でか……やっぱり負担は大きいか?」


 二人ってのは俺と守谷だよな。できるかできないかで言ったらできるだろうけど、やっぱり九条達が……九条が協力してくれた方が確実で安全なのは確かだ。それは九条もわかっているだろうに、それでも俺達二人でって言ってくるってことは、それだけ疲労を感じているからだと思う。


「ええ。流石にあれだけの威力でとなると、私も相応に力を使いましたので厳しいものがあります。攻撃を放つ程度であれば十分もあればできますが、まともに戦えるようになるまで最低でも三十分。できれば一時間は欲しいところです」

「リンリンの方はどうだ?」


 なんて聞いてみたけど、地面にぶっ倒れているのを見ると、見るからに駄目だというのは分かる。今まではスキルを使ってもふらつくだけで動けてはいたんだから、今までよりも余計に力を込めたんだろう。


「あたしもだめー……もー、ほんとに動けないかも。あと一日は待ってほしいところね」

「リンリンの方は問題なしっと」


 そんなふざけた返しができるんだったら深刻な感じではないな。スキルも祝福も、限界を超えて使いすぎると本当に意識を失ったり倒れたりするからな。動けないかもしれないけど、そこまでではないようで安心した。


「ちょい待った! 問題あるわ。ありありよ! 動けないって言ったじゃない!」

「一日なんて待ってられるかよ。そんだけふざけることが言えるんだったらまだ余裕あるだろ」

「冗談は言ったけど余裕がないのは本当なんだから!」


 まあ、それはそうだろうな。でも、俺だってそんなすぐに動けなんて鬼みたいなことは言わないっての。


「すぐに回収されるということはないでしょうし、ここからであればあの場所に接近した者がいればわかるはずです。今はしばらくの間ここで休んでいてもいいのではないでしょうか?」

「……まあそうだな。功労者は九条達二人なんだし、俺だってそんな無茶させるつもりなんてないさ。ゆっくり、とはいかないけど少しでも休んでおいてくれ」

「ありがとうございます」

「周囲の警戒は俺がやっておくから、守谷。二人の警護を頼めるか?」

「はい。まかせてください」


 ——◆◇◆◇——


 そうして俺達は九条達が動けるようになるまで……大体二十分くらいその場で敵を警戒しながら休み、その後に倒した魔物達の得点を回収しに行くこととなったのだが……


「あれ? 桜!」


 焼け焦げた魔物達の死体の山へとたどり着くと、ちょうどそれと同じタイミングで藤堂のチームがこちらにやってきた。

 けど、なんだろうな。やけに慌てているというか、焦っているような気がする。藤堂のチームメンバー達も、なんだか緊張してる感じか?


「光里? まさかこんなところで会うなんて……でもどうしたの?」

「どうしたのってか、なんか魔物が多かったから、そっちに行けばいっぱい点が稼げるんじゃないかってことでこっちに来たんだけど……桜達は違うの?」

「私たちも同じようなものよ」


 やっぱりみんな同じようなことを考えたか。まあ、その考えは既に俺達が実行した後だったけど。


「ってかさー、ここに来るまでにすっごい雷が降ったんだけど、あれ何か知ってる? まさかこんな天気で偶然魔物のところに雷が落ちたってわけでもないと思うんだけど……」


 そりゃあそうか。九条の光の矢は角度的に見られない場所があっても当然だけど、リンリンの雷は空から降ったんだからどこからだって見えるよな。


 あ……。というか、もしかしてさっきから藤堂のチームが何か警戒してるのはそのせいか? あんな雷を降らせるような敵がいると思って、あるいはあんな雷を使わないといけないような敵がいると思って慎重になっているのかもしれないな。


「ああ。あれだったら私のチームに所属しているリンリ……林さんのスキルよ」

「スキル? アレで? めっちゃ威力あったから教師の誰かが『祝福』を使ったのかと思ってたんだけど」

「そうね。威力だけは素晴らしいと思うわ。それこそ、光里が言ったように『祝福』と間違えるくらいには」

「桜がそうやって褒めるのも珍しいけど……その言い方だと何かその人に問題ある感じ? スキルに副作用があるとか?」

「そう、ね……」


 九条としては特に含みを持たせたつもりはないんだろうけど、これまでのリンリンの振る舞いを見て呆れた気持ちや押し殺していた感情がにじみ出てしまったのだろう。

 まあ実際、リンリンって問題あるし、なんだったら問題の塊だし。

 あるいは、普段通りの振る舞いをできないくらいに疲労がたまっているとか?


「ちょっとそこの人。俺らのチームの情報を抜こうとしないでもらえるか?」


 疲労を感じさせていることは悪いとは思う。九条の負担はかなり大きいからな。


 でも、今は一応試験の最中で、この試験は他のチームと争う可能性があるものなのだ。

 安心できる相手、姉妹のような相手だとしても、自分たちのチームの情報を漏らすようなことは認められない。


「はあ? ああ。なんだあんたか。情報を抜くって大げさじゃない? こんなのただの世間話っていうか普通の話でしょ」

「でも聞こうとしたのは他人のスキルや欠点についてだろ? しかも今は試験中で、競争相手だ。そんな奴の事を知ろうとするんだから、情報を抜こうとしてるって言われても無理ないと思わないか?」

「それは……まあ、そうかも」


 俺の言い分が正しいと判断したようで、藤堂は不満を感じているようではあったが大人しく引き下がった。


「九条。俺達は身分が違うし、仲のいい妹みたいな存在に会えたのがうれしいのは分かるけど、今は俺達はチームなんだからもう少しきをつけてくれ」

「……そうね。ごめんなさい。少し気が緩み過ぎていたわ」


 正しいことを言ったはずだけど、そこまで申し訳なさそうな顔をされるとこっちが悪者な気になってくる。まあここは空気を読んで話を続けさせてもよかったのかもしれないけど……はあ。こんなこと言うから友達いないんだろうなぁ。


「っていうか、私は妹じゃないんだけど。どっちかって言うと姉だし」


 そんな少し沈んだ空気を変えるためだったのか藤堂がそう口にしたけど……


「え?」


 藤堂の言葉に対して九条は素で驚いたような声を漏らした。ような、というか、ほんとうに驚いたんじゃないか今のは?


「ちょっと桜。え? ってなによ。なんか文句あるわけ?」

「え、いえ。そういうわけではないけど……


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