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試験前半戦終了

 

 魔物が蠢く廃墟街で行動すること数時間。時刻は十二時を回り、現在は物陰に隠れての昼休憩をとっている。


 少し離れたところには魔物が徘徊しているが、この辺りは魔物の数も少ないしそう簡単には見つかることはないだろう。


 あの気持ち悪い魔物達から一時的にでも離れることができてホッとする。なにせあの化け物共は、本当に気持ち悪いのだ。


 前回の模擬戦の時を思い出してもらえればいいだろうが、獣と人間の要素が半端に入り混じっている姿はかなり気持ち悪い。

 獣何割、人間何割といい感じに混じっているとか、獣耳だけとか爪だけ、手だけとか、そういう一部だけが人間についているのもいい。


 けど、獣に人間の腕が付いていたり、口だけが付いていたりというのは素直に気持ち悪い。眼球がむき出しになっていたり、眼球の上に眼球が重なって生えているような、それ本当に目として機能してるのかっていいたくなるような奴もいた。


 一応ベースは体高二メートルくらいの獣……というか犬の形ではある。だけど、個体ごとに微妙に差異があるのが厄介なのだ。

 基本的に性能に違いはないのだが、姿に違いがあれば行動にも多少なりとも違いが出てくる。万が一の失敗をなくすためにも、敵の変化は見逃さないようによく観察しなければならない。あんな化け物を細部まで観察するんだ。

 な? 気が滅入るだろ?


「––––これまでは何とかなってるな」


 それでもまあ、これまでの戦いは予定外も予想外も起こらず、順調に一体、あるいは二体ずつ丁寧に倒すことができている。

 俺は怪我をしていないし、前衛で壁をやっている守谷だって多少の怪我はあれど疲労はあまり、というかほとんどないようだ。


「そうですね。思っていたよりもいいペースで戦うことができていますが、佐原さんのおかげです。ありがとうございます」

「まあここは環境がいいからな。建物の上に登って見渡せば結構簡単に魔物が見つかるもんだ。これが森の中とかだったら見通しが利かないでうまく役目をこなせなかっただろうよ」

「だとしても、今の状況で活躍しているのであればそれで十分です」


 廃墟の上に『手』を伸ばしてぴょんぴょん移動していると、結構魔物の動きが分かった。そのおかげで次にどこに行けば敵がいて、どこに敵がいないから休めるとか指示を出すことができた。


 それに、戦闘中に横やりを入れられることもなかったし、初めて斥候役をやるにしては中々いい感じでできているんじゃないだろうか?


「他のお二人も、よくできていると思います」


 九条はリンリンと守谷に向かってお礼の言葉を言うが、その様子は最初のころよりも少し砕けた態度になっているように見えた。


「あったぼーでしょ! あたしはめちゃつよなんだから!」


 まあ、強いことは強いんだけどな? 今回だって三体くらいまとまってるところに一撃入れて倒すことができてたし。まあ、その後しばらくは何もできてなかったけど。


「うまくできてるならよかった。けど、この先も戦い続けることを考えると僕はそろそろきつくなってくるかな。スキルを使ってるって言っても、流石にこうも戦いが続くと痛みや疲れは出てくるから。今だってちょっと手が震えてるくらいだし」


 なんて守谷は言ってるけど、あんまり疲れたようには見えないんだよなぁ。心配をかけまいとやせ我慢でもしてるんだろうか?


「……それは仕方のないことです。むしろ、これまでありがとうございました」

「なんだかその言い方だとここで守谷を切り捨てるみたいに聞こえるな」


 そんなことはないとわかりつつも、肩をすくめながらそんな冗談を言う。


「そのようなつもりはありません。ですが、これからどうするかは考えなければなりませんね」

「まあそうだな。無理して守谷を戦わせ続けてもそのうち崩壊するだろうし、俺が索敵から守谷の補助に比重を変えた方がいいか?」


 疲れているようには見えなくとも実際に疲れていることは確かだろうし、ここで無理をさせて怪我をされるよりはそっちの方が良いだろうか?


 だが、九条は少し悩んだのちに首を横に振った。


「……いえ、それでは敵を見逃すかもしれません。現在は戦えていますが、それは敵が少数だからです。戦闘中の乱入が起きるようになれば、その時点で私たちの作戦は崩れることになるでしょう」


 まあな。戦ってる最中に横やりがあったらそれはそれで被害が増えることになるけど、だからってこのまま守谷にばっかり負担を強いるのはマズいだろ。


「じゃーどうすんの? あたしが攻撃する頻度をもうちょっと上げる? あたし的にはそれでもおっけーっていうか、むしろバッチこいって感じなんだけど」


 これまでリンリンがスキルを使ったのは四回だけ。大体一時間に一回くらいのペースだ。

 だがやろうと思えば威力は下がるけど二十分に一回は使えるらしいし、それはそれでありかもしれない。その場合強敵が現れた際の保険が消えることになるけど、守谷に無理させ続けるよりはマシか?


「それでもいいのかもしれませんが……ここは私が攻撃する頻度を上げましょう。今まではできる限り一撃で仕留めて無駄を省いていましたが、これからは一撃で仕留めることにこだわらず、牽制なども交えて戦います。そうすれば守谷さんも楽になるでしょうし、無理せず戦いを続けることができるでしょう」


 九条が? 確かにこいつはスキルじゃなくて祝福を使うから、他の者よりも余分に力を使うことができる。だからその分多少無理しても戦闘を継続していくのに影響は出にくいだろうけど……


「えー、あたしはー? もっと戦いたいんだけどー」

「リンリンにも今までよりも魔法を使ってもらうことになりますが、どちらかというと私の補助をお願いします」

「補助?」

「はい。今までと戦い方を変えると、流石に私も疲労がたまります。ですので、少しでも休みを多くとりたいのですが、そのためリンリンに敵を任せることもあると思います。その処理を頼みたいのです」

「うんっと、あたしの出番が増えるってことよね? じゃーオッケー!」


 作戦を変えることでうまく回るのか不安はあるが、変えるしかない状況だし他に案があるわけでもない。それに、リーダーが決めたんだからそれに従うとしよう。


「それでは、皆さん。試験もすでに半分終えましたが、この後もよろしくお願いいたします」


 そうして俺達は試験後半戦へと突入することとなった。



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