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期末試験開始

 

「全員参加するということですので以前決めた通りの動き方で問題ないとは思いますが、再確認を行いましょう。基本的に戦闘は前回の模擬戦と同じようにします。守谷さんが壁となり、私が仕留める。佐原さんは守屋さんの補佐ですが、今回は戦闘だけではありません。佐原さん。実際に状況を目にして、ここでの索敵などはできますか?」


 今回の試験会場となるのは、ビルがいくつか点在している地方都市のオフィス街、といった雰囲気の場所だ。コンクリートジャングルとまではいかないが、それでもなかなか隠れるところが多く、奇襲を受けやすい地形。

 ただ、俺の場合はそんな場所の方が動きやすい。なにせ自由に動いて好きなだけ伸ばせる『手』があるんだから。どっかのアニメのように立体的な機動をすることができる。


「まあそれなりに。ただ本職に比べると甘さが目立つぞ」


 能力を使えば好きに動き回れるとはいえ、俺は斥候として専門に学んだわけではない。どうしたって見逃しや対応ミスが出てくる。


「たとえあなたの能力が不十分であろうと、警戒する者がいるだけでも多少はマシになるでしょう。やらないよりは良いかと」


 言い方よ。言っていることに間違いはないし、本人にもそのつもりはないんだろうけど、やっぱり育ちの影響なんだろう。ずいぶんと上から目線な言葉だなと思った。


「じゃあ俺は索敵と遊撃で守谷は前衛。九条は後衛で敵を仕留めるってことでいいな」


 そう言うと九条も守谷も頷きを返してきた。大まかな作戦は決まったのだが、まだ残っている問題がある。それは……


「はいはーい! あたしは? それってあたしはどうなる感じ? やっぱりずっと見学的なあれなの?」


 こいつなんだよなぁ。

 リンリンは確かに一撃の威力で言えば素晴らしいものがある。けど、逆に言えばその一撃以外は使い道がないんだよな。いや、使い道がない以前に何も使えないというか……。

 全開の模擬戦の時は敵が一体だけだったからいいけど、今回は一体倒して終わりではないのだから、一度戦えばしばらくは何もできなくなるリンリンは扱いが難しい。


「……リンリンは一度しか魔法を使えないとのことですが、再使用まで二十分程度かかるのですよね?」

「うん。まあ早くて二十分くらい? って感じだけど、それだと本気でー、ってわけにはいかないわね」

「今回は魔物の討伐数を競う試験ですが、実戦に近いということですので大型の魔物がいるかもしれません。実際、それらしい痕跡が見受けられます。ですので、予定通りリンリンはその時に備えて力を溜めておいてください」


 まあ、そうなるよな。俺達三人でも問題なく倒せる雑魚相手にリンリンを使うよりも、万が一の時に備えて〝必殺技〟を残しておいた方がいい。攻撃役が減ることで多少九条の負担が増えるかもしれないけど、それは仕方ない。


「むゅー……まあ仕方ないっかぁ。でもあれよね。真打ちは後から登場する的なやつって思っとけばいいのよね!」

「そうですね。そのようなものだと思っていただいて構いません」


 個人的にはそんな真打ちが後から登場するような状況にならないと良いんだけどな。


 それにしても、九条もだいぶリンリンの扱いに慣れたよな。最初は戸惑ってたのに、今ではリンリンの言動も軽く流すことができている。


「それじゃあ早速倒しに行きましょうか!」

「いえ、ですから魔物に遭遇してもあなたはあまり前に出ないようにしてほしいのですが」

「というかまだ試験始まってないし」


 九条が慣れたっていっても、やっぱりリンリンの扱いは面倒ではあるってのは変わらないな。


「––––それではこれより前期期末実技試験を始める。今回の試験はこの廃墟地帯に出現する魔物をどれだけ狩ることができたか、だ。倒した数は、魔物毎の指定採取部位を取ってこい。ここでもいいが、各地に設定してある回収ポイントまでもっていけば得点になる」


 模擬戦と違って倒した魔物は実物として残るので、その一部を採集して報告することで得点となる。ただし、このルールだと一つ問題があるんだよな。それは、得点の横取りだ。


 得点となる部位を教師のいる回収ポイントまでもっていけば得点となるということは、持っていくことができなければ得点とはならないということだ。

 つまり、魔物を倒さずに生徒を倒すことで横取りをすることができてしまう。


 学園側がそこに気づかないはずはないんだけど、おそらくそれも試験の一部として考えてるんじゃないだろうか。実際の戦いであれば、魔物だけじゃなくて魔人に襲われる可能性だって考えないといけないわけだし。


「それじゃあ、各自準備しろ。十分後に始めるぞ。移動したい奴は試験範囲に入らなければ好きなだけ移動してもかまわない」


 そうして説明を終えたことで一旦解散となり、いくつかのチームは他のチームと獲物が被らないように場所を移動しだした。


「兄さん」

「ん? ああ、祈か。どうしたんだ?」


 そんないくつものチームが行動を起こす中で祈がこちらに近寄ってきたけど、チームの他のメンバー達は良いんだろうか?


「これから試験が始まるし、うちのチームはここから移動するからちょっと挨拶しとこっかなって」

「そっか。まあお前に言う必要もないかもしれないけど、気をつけろよ」

「わかってるって。っていうか、わたしよりも兄さんの方が気を付けてよ? 怪我したら飛んでいくからね」

「それはやめろ。試験なんだし、こんな場所なんだから怪我くらいするかもしれないだろ」


 昔みたいに少しの怪我で飛んで来たらこんな試験なんてやってられない。俺が怪我をした瞬間に試験そのものが終わってしまう。そんなことになったら目も当てられない。


「祈ちゃん。そろそろ行くからって……」

「あ、うん。ごめんごめん。今行くね」


 チームメンバーの女子生徒に声をかけられ、祈は申し訳なさそうな顔を浮かべて謝った。


「チームメンバーとは仲良くしてるみたいだな」

「ん、まあ友達だしね」

「そっか。うん、まあうまくやってるようで良かったよ」


 祈に聞いたところでは他のメンバーは全員Bクラスだとのことだ。それだけ祈が強いと判断されたのだろう。

 それは良いのだが、クラスが違うことで壁ができるかと思ったが、そんなことはないようで一安心だ。


「それじゃあ、試験頑張れよ」

「兄さんこそ。何度も言うけど怪我には気を付けてよね」


 向こうは向こうで頑張ってるんだし、俺も余計な心配をかけないようにできる限り怪我には気を付けてやるとするか。


「で、俺達はどうする? 移動するか?」


 移動していった祈を見送ってから九条へと問いかけたが、九条は静かに首を横に振った。


「いえ、このままで構わないでしょう」

「そうか? みんな移動してるけど」

「そうですね。ですが、どこにどのような敵がいるのかも分からない以上、移動したところで意味などありません。他の方々と距離がとれるために狩りをしやすくはなるかもしれませんが、それによって敵に囲まれないとも限りません。ここから始めてみて、余裕があるようであれば奥に進んでいけば良いのです」

「たしかに、この試験は丸一日がかりの長丁場になるんだし、急いで動く必要もないのかもしれないね」


 守谷が言ったように、今回の試験はほぼ丸一日がかりだ。それだけの時間を使って動くんだから、最初のスタートダッシュなんてそんなに気にしても仕方ないのかもしれない。


「私たちが目指すのは、成果を焦るよりも、安定した戦いを行うことです。そうすれば最終的には多くの敵を倒すことができるでしょうから」


 マラソンだって途中で全力疾走をはさむよりも、ずっと安定した速度で走り続けるほうが結果的に速くなるし、戦いもそんなもんなんだろう。


「それにしても、丸一日って長いよな。まあ実際に戦う試験だっていうんだったらそんなもんかもしれないけど」


 ただ戦う技術の確認をするだけだったら、この間みたいなシミュレーションでの戦いでいいもんな。


「朝七時っから夕方五時までだもん。めっちゃめっちゃ長いわよね~」

「一年はまだそれだけで済んでるみたいだけど、二年にもなると何日か泊りがけで試験をやるらしいから大変だよね」

「まあそれが必要なことだってのは分かってるんだけどな。こうして戦うのに泊りがけで行動できなければ、行動範囲なんてごく限られたものにしかならないし」


 俺達『カラット』の学生は、将来的には必ず魔物と戦うことになる。中には「このあたりで見かけたけど、今はどこにいるか分からない」なんて場合もあるし、「この区域の魔物が増えすぎたから沢山倒して間引いてくれ」なんて場合もある。

 そうなったら一日だけで終わることでもないんだから、数日がかりで戦うことができるようにならなければならないのは理解できることだ。


「ですが、それは二年になってから考えれば良いことです。今は目の前のことに集中しましょう」


 それもそうだな。どうせ二年になったらその時にまた考えるんだし、今は大人しく今回の試験の事だけを考えていればいいか。


「まあ、そうだな。で、どうする? 試験が始まったら真っすぐ進む、でいいんだよな?」

「そうですね。周囲の警戒を行いながら直進しますが、一度浅い段階で出現する魔物の種類や数を把握しておきたいですね」

「了解。––––っと。そろそろ始まりそうな感じだな」


 ちらりと教師たちの方を見ると、にわかに慌ただしく動き始めた。


『それではこれより試験を開始する。この試験の光景は各クランや上層部にも送られるので、結果次第ではスカウトが来ることもあるだろう。各自最善を尽くすように』


 そうして、拡声器で辺りに声が届けられたが、きっと他の場所でも同じように行われているのだろう。


「ふっふーん。わたしのカレーな技でばちこん目立ってやるわ!」

「一応聞くけど、作戦覚えてるよな? むやみにスキル使うなよ?」

「わかってるってば! でも、様子を見て行けそうなら使ってもいいわよね?」


 本当にわかっているのかこいつ?


 九条も同じような不安を抱いたのか眉を顰めているが、少しして小さくため息を吐き出しながら口を開いた。


「……まあ、いいでしょう。試験であるにもかかわらず、チームの方針のせいで全くの見せ場がないというのも問題でしょうから」


 それは……まあ、そうか。これは試験なわけだし、いくら作戦とはいえずっと見ているだけってなったら評価に関わるか。魔物の討伐数が得点になるって言っても、生徒達の様子を見ていないわけでもないんだから。


「まーまー。任せときなさいって。あたしだってそんな無茶をするつもりなんてないんだから、ちゃーんと考えてドッカンするわ!」

「すっげー不安なんだけど」

「なんだか僕もそんな気がしてきた」


 どことなく不安を抱かせる話をしているとサイレンの音が辺りに鳴り響き、それによって夏休み前の期末試験が開始となった。



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