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襲撃犯探しと期末試験

 

 ——◆◇◆◇——


「先輩。今から行きます」


 病院から出た俺は、歩きながら先輩へと電話をかけた。少し気が急いているからいろいろとすっ飛ばして要件だけを伝えてしまったけど、先輩ならこれでわかってくれるだろう。


「およ? お話はもう終わった感じ?」

「はい。そっちももう調査は終わってるんですよね?」

「一応だけど~、わたしがやるべきことはやったかな~。はぁ~、最近まともに能力使ってなかったからちゅかれちゃわ~」

「お疲れ様です。それで、〝視え〟ましたか?」


 先輩は普段はどうしようもないだらしなさをしてるし、絵を描くこと以外に興味を持たない変人だ。けど、その能力だけは間違いない。


 先輩––––天宮透香の能力、通称『天眼』。その効果は地球上のどこであっても見通す眼と、人の心を覗く眼。そして、過去を視る・・・・・ことができる眼。視ることに関しては右に出る者がいないこの能力があれば、今回の事件も片が付く。


 今までは制服だけがあったといっても、その場所を調べても何もなかった。おそらくは風かなんかで飛んだりしたんだろう。

 流石に先輩も場所がわからなければ過去を視ることができない。制服が移動した経路を追って順番に見ていけば判明したかもしれないけど、いくら先輩でも過去を視る能力はかなり疲れるらしく、そう何度も連続で使うことはできないらしい。だから今まで犯人も犯行場所も調べることができなかった。


 でも、今回は違う。明確に襲われた場所が分かっているのだから、そこを視ればいい。


「ま~ね~。驚き桃の木~って感じだけどぉ、誰が何をしたのかばちこん分かったわ~」

「そうですか。もう既に確保に動いたとかは……」


 動いたなら動いたで構わない。でも、多分それはないだろうと考えていた。なにせ、相手は学園内にいるのだ。いくら犯人が分かったって言っても、日本の組織がそう簡単に介入できることでもない。

 それに、瞳子たちを倒したっていうんだったらそれなりの武力を持っているはずで、そんな人物を制圧するための戦力であればなおのこと送ることはできないだろう。


 だからまだ犯人は捕まっていないはずだ。


「んや~、そ~いうのはないわね~。ま~、ちょっと落ち着いてさ~。詳しいことはこっちに来て話そ~? もっちーがお菓子とか準備して待ってるっぽいから~」

「……そうですね。すみません。少し急ぎ過ぎました」

「いいっていいって~。だってそれが〝あなた〟でしょ~? そこで急がないようじゃぁ、そっちの方が心配になるわ~」


 先輩は大きく息を吐き出すと、それまでとは雰囲気の違う様子でフフッと笑った。


「だってあなたは、私みたいな自己中とは違って、本物の『英雄』なんだから」


 その一言を最後に電話が切れ、俺は一度だけ深呼吸をしてから先輩の許へと向かった。


 ——◆◇◆◇——


「––––それではこれより前期期末試験のための訓練を行う。全員気を引き締めて取り掛かるように。今回は訓練ではあるが、下手すりゃあ死人も出るような危険なもんだ。せいぜいゆだんするんじゃねえぞ」


 瞳子の見舞いに行った後に先輩の許に行って犯人について話をしたわけだが、犯人の正体を知っても俺は動かずにいた。


 本当は動きたかったさ。無差別に人を襲って友達に怪我を負わせたくそったれなんて、一秒でも早く処理したかった。

 でもそうなるとこの試験に影響が出てくるんじゃないかってことで、試験が終わるまでの先延ばしとすることになった。


 そんな悠長な対応でまた人が死んだらどうするんだ、と言ったけど、上の決定は変わらなかった。


 まあ、わからなくもないさ。この期末試験は学園側でも無理して場所を整えている。教師だって普段よりも仕事が増えて忙しいし、なんだったらわざわざ外部から人を補充して試験に挑んでいる。そんな状況で余計な事件なんて起これば、試験そのものが中止になるかもしれない。


 試験を先延ばしにするにしても、そもそも試験から二週間もすれば夏休みだ。準備しなおすには二週間くらいはかかるようで、どうあがいても夏休みには間に合わない。

 特別に夏休みの日程を変えて試験を、というわけにもいかない。なにせこのクラスにはお姫様や大企業の令息なんていう、予定が詰まってる奴らがたくさんいるんだからな。


 試験への影響という意味以外でも、その犯人の仲間や背後関係を調べたり、確保するための準備に時間が必要だったっていうのもある。

 今は野放しにしておいて油断を誘い、準備ができたら犯人ごとその背後も捕まえていく、というのが理想だってのは十分理解できる話だ。


 そのため、試験を中止にも先延ばしせず、なおかつ犯人の一味を取り逃がさないようにするためにも、犯人の処理は後回しということになった。


 しかも、俺には犯人さえ教えてもらえなかった。知れば勝手に動き出すかもしれないから教えるわけにはいかない、だそうだ。これまで『上』の連中に協力してきてやったのに……ほんと、すごく信用されてるようで何よりだよ。


 もちろん、何か余計なことをして新たな被害者が出ないように監視はしているらしいけど。でもそれもどこまで安心できるものなのか……


 ただ、考えていても結果なんて変わらず、俺が抗議したところで意味がない。だから、今日まで苛立ちを感じながらもそれを表に出さないようにして普段通りの生活を送ってきたのだが、ようやく犯人を教えてもらえなかった理由の一つである期末試験の日となった。


「本日は改めてよろしくお願いします」


 それぞれ武装や道具を整えてチーム四人が揃った。


「そーんな畏まっちゃって。あたしらの仲じゃん。気にしなくていいってば、さくらん!」

「……よろしくお願いします。り……リンリン」


 まだリンリンと気軽に呼ぶことに慣れていないのか、九条はどこか戸惑いながら挨拶をしている。


「リンの言うとおり、とは言い難い気がするけど、気にしなくていいってのはそうだな。同じチームなんだし、もっと砕けた態度でいいぞ」

「いえ、これが私にとっては普通の態度ですので」


 うーん。まあそうだよなぁ。教室でもそんな感じの喋り方だし、態度だって他のクラスメイト達に向けるものと同じだ。

 でも、多分これは演じているものだろうし、もっと自然な反応をすることだってできるはずだ。だって、藤堂相手にはそうしていたんだから。


 あれは藤堂という姉妹のような存在が相手だからこその反応だろうけど、それでももう少し柔らかい態度になることはできると思う。

 まあ、それは強制するようなことじゃないから何とも言えないけど。自然と仲良くなるしかない。


「それよりも、本日は実技試験となりますが、皆さん準備のほどはいかがでしょう?」

「ばっちしおっけー!」

「僕も問題ないです」

「俺も大丈夫だ」


 誰も怪我も病気もなく無事にこれたのは喜ばしいことだ。失踪者の犯人に襲われでもしたら、試験に参加なんてできなかっただろうからな。


 と、そこまで考えて実際に参加することができなくなった瞳子のことが頭によぎった。


「そうですか。本日は前回のようなシミュレーションではなく学園側で用意した場所での魔物との戦いとなりますが、前回の模擬戦とは違い一体だけを相手するのではなく不特定多数との遭遇戦となります。簡単に言えば、より実戦に近づいた形式となるわけですが、そのため危険も多くあります」


 今回は外部から人を雇ったうえでの試験というかなり大掛かりなものだ。

 それもそのはず。なにせ、実際に魔物が生息している場所に来て魔物を狩るんだから。


「教師の方々が見回りをしているとのことですが、どうしたって危険を取り除くことはできません。最悪の場合は死ぬことになるかもしれませんが、その覚悟はよろしいでしょうか? 臆したというのであれば、今のうちにお伝えください。私はそれを否定しません。戦いたくないものを連れて行ったところで足手まといにしかなりませんので。いかがですか?」


 実戦形式での試験である以上、最悪の場合は死ぬことだってある。前回のシミュレーションでの模擬戦は、怪我をした者はいたけど死んだ者はいなかった。ギリギリのところで魔物の幻影が消えたし、教師が助けに入ったからだ。

 でも、今回はそれがない。途中で魔物が消えることもなければ、教師が助けてくれるわけでもない。

 いや、助けてはくれるんだろうが、前回の模擬戦よりも助けに入るまでのタイムラグがある。もしかしたらその間に攻撃を受けてしまうかもしれない。だから、今回は前回よりもかなり危険なものとなる。


「へーきへーき。そもそも死ぬのが怖かったらこんなとこにいないって」

「僕も同じです。覚悟はこの学校に来た時にすでにできてますよ」

「そんなわけらしいぞ。まあ大丈夫だろ」


 この学校に来る時点でみんな危険があることは承知しているんだ。承知の上で魔物と戦う道を選んだんだから、いまさら引くやつなんていない。

 あるいは、前回のシミュレーションで魔物と戦うことに恐怖を覚えた者もいるかもしれないが、少なくともうちのメンバーの中にはいない。


「そうですか。では、改めてよろしくお願いします」


 俺達の返答を聞くと九条は静かに一つ深呼吸をし、そう口にした。

 そうして始まるのは作戦会議だ。作戦会議といっても、大まかには既に決まっている。なのでこれからやるのは確認と、実際に現地に来たことで判明した現実と予想していた状況との擦り合わせだ。


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