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予期せぬ進展

 

 ——◆◇◆◇——


 それから更に一週間が経過した。


 授業的には特に変化はないが、強いて言えばチーム戦について九条と話すことが増えたくらいだな。

 ただそれはあくまでも普通の範疇の出来事で、問題なのは失踪事件の方だ。


 最初は二週間の期間があって、次は一週間あった。となれば次は三日後くらいか、なんて警戒していたがそんな警戒をあざ笑うかのように何事も起こらずに今日まで来た。


 この間先輩にも電話をして状況を確認したけど特に進展はなかったみたいだし、ある意味それまでと変わらない日常を過ごしていた。

 今週は夏休み前の期末テストもあるし、それが終わったら夏休みだ。だから、もしかしたらそこで失踪事件も途切れるか、最低でも何かしらの変化は訪れるだろう。

 そして変化があれば捜査にも進展があるんじゃないだろうかと期待している。


 そうなればまた平穏な日常が訪れるんだろうなんて思っていたんだ。けど……


「––––あ。しもしも~。おっは~。あっさでっすよ~!」


 珍しいことに、朝っぱらから先輩から電話がかかってきた。というか、朝って言ったけどまだ日が明けてもいないしどっちかって言うと夜だな。

 こんな時間にこの人がかけてくるなんて、さてはこの人徹夜してたな? じゃないと何か用があってもこんな時間に起きて電話なんてしてこないだろ。それにテンションがいつもよりうざく感じる。深夜テンションってやつだろう。


「朝っぱらからなんですか。どうでもいい要件だったら切りますよ」


 先輩がわざわざ電話をかけてくるんだからよほどの事なんだろうけど、こんな時間に電話で起こされるのは流石に不機嫌になっても仕方ないと思う。


 だが、半ば寝ぼけながらの言葉に、先輩は慌てながら理由を説明し始めた。


「みゃ~! 真面目な話だってば~。というかぁ、そもそもわたしがまともな要件もないのにぃ、電話なんて面倒なことするわけないっじゃ~ん」

「ならさっさと要件を言ってくださいよ」

「あ~はいはいっと~。えっとね~、襲撃があったっぽいよ~?」

「襲撃?」

「そ~。学校にぃ、ほら~。例の人攫いいたでしょ~? あれぇ、失踪事件だっけ~? まあどっちでもいいけどぉ、それの対処に学校側で生徒使ってたでしょ~? その生徒が襲われてぇ、何人かは大けがで入院したんだって~」

「生徒が入院って……いや、それって犯人を見たってことですか?」


 ……やっぱり、生徒達が犯人を捜すなんて危険すぎたんだ。

 でも、生徒が入院したことについては気になるけど、今の話し方だと死者は出てないみたいだから後回しでもいいだろう。

 それよりも、直接対峙したってことはその姿を見たってことだろうし、とうとう犯人の正体がわかったんだろうか?


「らしいけどね~……まあ当たり前だけどぉ、顔を隠してたみたいだから誰かまでは分かんないっぽいぽいよ~」


 まあ、それはそうか。ヤバいことをするのに正体を隠さない奴はいないよな。


「でも、身長とか声とかそういうので性別くらいは分かるんじゃ……」

「その辺は分かったらしいけどぉ、それよりも今回電話したのはそっちじゃなくって~。う~んと、入院した子のことで言っておいた方がいっかな~、って思ったからなわけなの~」


 ……まった。入院した子って、確かにそれは大事だ。失踪みたいにどうなったか分からないことじゃなくって、ちゃんと怪我人という形で結果が残っているんだから騒ぎになるのは分かる。しかもそれが俺と同じ学校の生徒となれば、知らせておくべきだろうというのも理解できる。


 でも、〝そんなこと〟を本当にこの人がするか? そんな気遣いなんて、この人がするか?

 するわけがない。でも実際に先輩は俺に入院した生徒について電話をしてきたわけで……いやな予感がする。


「……入院した子、ですか?」

「そ~そ~。ほらあの子~。せいじーちゃんと前に京都に旅行に行ったぁ、女の子のお友達~。名前は、えッと~……」

「女の子のって––––まさかっ!」

「あ、そうそう~。星熊って女の子ね~」


 ——◆◇◆◇——


「病院はここか……」


 先輩から話を聞いた俺は、個人情報だなんだといっている先輩を言いくるめて瞳子の入院することになった病院へと向かうことにした。

 本当ならあの電話のすぐ後に行こうとしたのだが、流石に時間が時間ということもあって病院が開いてなかったのもあるが、それ以外にも調書とか検査とかで午前はつぶれるようなので、午後になってから病院に行くことにした。


 そのため授業自体はさぼることになったけど、まあ一日くらいさぼったところでなんともないだろ。それに、授業をさぼるのは学生の特権だ。これくらい普通の事だろ。


 ちなみに、祈は普通に授業を受けるように言い含めて送り出した。あいつは瞳子と特に関係があるわけでもないし、二人そろって休むといらぬ心配をかけそうだからな。祈には普通に登校してもらって桐谷たちに俺が休んだ理由とかを説明しておいてもらわないと。


 それに、学園の状況も知りたかった。流石に入院するような怪我を負う生徒が出た以上、学園だってこれまで以上に騒ぎになるだろう。しかも、それが特待クラスの生徒となればなおさらだ。

 加えて言えば、学園側が打った対策のために選ばれた生徒が怪我をしたのだから余計に面倒なことになると思う。


 学園で何か特別なことをするんだったら先輩たちの方から連絡が来るかもしれないけど、それとは別に生徒達の反応も知りたかったし祈には学園に行ってもらわなければならなかった。

 それに、あいつはあいつで生徒会としてやることもあるだろうし。


 ともかく、そんなわけで俺は一人で瞳子の入院している病院へと向かうことにした。


「いちいち入院なんてさせないでスキルでどうにかすればいいのに……利権争いってばかばかしいな」


 スキルで怪我を治すことはできるが、一度入院した者は緊急時でない限りその怪我をスキルで治してはいけないという法律がある。


 そもそも治癒系統のスキルを使える者が少ないというのはある。全国の怪我人をいちいちスキルで治すには、スキルを使える人の数があまりにも少なすぎるんだ。

 でも、それならそれで治癒系統のスキルが使える人の手が空くのを待っていればいい。いったん入院して、それから場繋ぎの治療を行ってからスキルを使って癒す。これが最も合理的な流れだろう。


 だが、実際には一度入院したらスキルで治してはいけないというクソ仕様だ。

 これは、これまで築き上げてきた病院という利権がなくなるのが嫌な奴らが反発した結果、というところが大きい。


 病院側の言い分としては、スキルを使える者だけに頼ることはその人物を酷使することとなるうえ、治癒系統のスキルを使えるからとその人が進む将来の道が限られてしまうということらしい。それも間違いではないと思うけど、要は人権を盾にしての抵抗だろう。


「瞳子の部屋は……ああ。ここか」


 見舞い用に買ってきたドーナツを片手に教えてもらった病室にやってきたわけだけど、この感じは個室か? まあ実家が名門なんだし、そうなるか。

 とりあえず、ノックしたほうが良いよな。


「は、はいっ! どうぞ!」


 部屋のドアをノックすると、中から緊張したような声が聞こえてきた。

 なんとも瞳子らしくない声ではあるが、声そのものは間違いなく瞳子のものだったので、俺はそのままドアを開けて中に入ることにした。


「え……ああ、せいっちか……」


 ドアを開けて部屋の中にいた瞳子と視線が合うと、瞳子はあからさまにがっかりした様子で呟き、小さく息を吐き出した。


「なんだ、期待してた人でもいたのか?」

「へ? ……あ、ううん。そうじゃなくってさ。まじごめんね。お見舞いに来てくれたんしょ? ありがと」


 まあ、俺みたいな数回話しただけの友達がこんな時間に来るとは思わないだろうな。俺自身、もし俺が入院して瞳子が見まいに来たら驚くし。

 そう分かっていながら冗談交じりに問いかけてみると、瞳子は慌てたように手を振って笑顔を浮かべて見せた。


 ……けど、その笑顔は明らかに無理をしているとわかる作り笑顔で、それが俺にはどうにも気に入らなかった。


「べつに、暇だったしいいって」

「嘘じゃん。今学校の時間でしょ。さぼりじゃん」


 うん。確かにそう言われるとそうなんだけど……まあいいだろ、これくらいはさ。


「学校の授業なんて一日くらいでなくてもどうにかなるんだから平気だろ」

「まーねー。でもそれでいくと、うちはちょっとやばめかも? なんか結構かかるっぽいし」


 少し困ったような笑みを浮かべる瞳子だけど、入院したことからもわかるが、その様子も併さって瞳子の怪我は軽いものではないのだと理解せずにはいられなかった。


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