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模擬戦後の雑談

 

「先ほどは申し訳ありませんでした」

「ん。何がだ?」


 模擬戦が終わって舞台から出てきた俺達だが、一息つこうとしたところで九条がそんな謝罪を口にしてきた。


「最後に魔物の動きを止めてくださったでしょう。あれがなければ私はあのまま倒されていたことでしょう。攻撃できたとしても、相打ちになっていたはずです。私が倒すと大言を口にしておきながらの体たらく。お手数おかけしました」


 なんだ、そんなことか。

 たしかにあのまま攻撃を受けていたら、九条の言ったとおりになったかもしれない。でも、それは一人で戦っていた場合の話だろ。これはチーム戦なんだ。仲間の危険を助けるために動くのは当然のことで、そうでなくても困っている誰かを救うために動くのは人として当然のことだ。

 だから、そんな申し訳ないなんて言うことでもない。


「そんな気にすることでもないだろ。一時的なものといっても同じチームなんだし、俺の役割は全体の補佐をする遊撃だ。自分の役割を果たしただけで、それはみんな一緒だ。だからそんな申し訳ないなんて思う必要はないって」

「ですが……」


 尚も申し訳なさそうに口を開いた九条だが、そんな言葉は最後まで紡がれることはなかった。


「さくらん、ナイッス~! さくらんの祝福ってすっごいのね! なんてゆーか、すっごいすっごかった!」

「え、ええ。そうですが」


 突然背後から抱き着いてきたリンリンに戸惑いながらも、九条は強引に押しのけるようなことはせずに頷いている。


「いや~。あたしも自分のスキルめちゃつよだと思ってたけど、それ以上じゃん! あんな一撃でギュパーンッなんて凄すぎない!?」

「ぎゅ、ぎゅぱーん? あ、いえ。結局一度では仕留めきれなかったわけですし……それに、リンリンもすごかったですよ。まさかあれほどの威力があるとは思っていませんでした」

「えへへ。そっかなぁ? ま、まああたしもそれなりにやるってことよね!」


 なんとも華やかなことだ。まあ女子は女子で話してればいいか。こんな時に俺が入り込んでもまた申し訳ないとか言い出しそうだし。

 そう考えるとリンリンのあの間抜けさ……いや気楽さは助かるものがあるな。


「守谷さんも、お疲れさまでした」

「え、あ、いえ。僕はただ守っていただけですし、それほど活躍もできませんでしたから」

「そんなことないだろ。守谷が耐えてなければ九条の攻撃までつながらなかったんだから、守谷だって十分活躍したさ」

「そうですかね? だったらよかったんですけど……」


 九条とリンリンが話している間、こっちは男同士で称えようと思って守谷に声をかけたんだが……


「……?」


 何だろう。なんだかそんなに疲れてない感じなのか? 前線で敵の攻撃を受け止めていたはずなのに、守谷は大して疲れた様子がないように見える。

 そりゃあ俺も補助に入ったし、前線で戦ってたって言ってもそう長い時間じゃなかった。でも、Bクラスで最下位争いしてるようなやつが耐えるには厳しいものがあったと思うんだけど……俺の思い違いか? あるいは、思っていた以上に桐谷の能力が防御寄りのものだったとか。


 まあ、俺だって自身の能力のことは隠してるんだし、桐谷が何か隠していてもおかしくはないけど……うーん。


「桜大丈夫だった!?」


 桐谷のことを頭の隅に置きながらもそれ以上考えることはなく、俺達は舞台端から観戦エリアまで戻っていったのだが、その瞬間、俺達が……というか九条が帰ってくるのを待っていたように藤堂がこちらに向かって駆け寄ってきた。

 いや、この反応を見るに、帰りを待っていた〝ように〟ではなく、実際に待っていたのだろう。


 まあ藤堂は九条の護衛で、幼馴染で、姉妹のように育った相手だからな。あんな襲われそうになった光景を見ていたら心配になって当然か。


「光里。だいじょうぶよ。少し焦ったけど、怪我はないわ」

「よかったぁ」

「ごめんなさいね。私がもう少ししっかりしていれば、あなたにそんな心配をかけることもなかったのに」

「なーに言ってんのよ。しっかりしてるしてないなんて関係ないでしょ。あんたが完璧に買ったとしても、私はあんたのことを心配してたってば」


 九条も九条で藤堂に会ったことで気が抜けたのか、先ほどまで俺達に向けていたものとは違ってやわらかい表情と言葉をしている。

 普段は教室でもこんな様子は見ないけど、それは立場とかを考えてそう振舞っているだけで、もしかしたらこっちの態度が九条の本来のものなのかもな。


「それじゃあ次のチーム出てこい」


 なんて話している間にも模擬戦は進んでいき、次のチームが呼ばれたのだが……


「あ––––」

「へ? ……あー。織田か」


 九条が舞台に進んでいったチームを見て声を漏らし、それに反応した藤堂が同じように舞台を見たが、九条とは違ってはっきりと嫌悪感を滲ませた声で呟いた。


「知り合いか?」

「は? ああ、あんたか。うんっとね、まあなんていうか、家の付き合い、かな? あ、私じゃなくって桜のだけど」

「九条の? 確かあいつはどこぞの大企業の次期社長だったっけ。ならそういう付き合いがあってもおかしくないか」


 確かそんな感じの奴だった気がする。どうせ係わりはないだろうと思って詳しくは調べてないけど、九条と繋がりがあったのか。


「次期社長かは決まってないけど、まあ大体そんな感じかな。っていっても、家の付き合いっていったけど、正確には桜のいいな––––」

「光里。もうすぐ模擬戦が始まりますよ」


 まるで愚痴るように言葉を吐き出していった藤堂だが、そんな藤堂の言葉を九条が遮った。だがその声は、先ほどまでの安堵した柔らかいものではなく、その逆で固く重いものだった。


「へ? ……あ、ごめん。ちょっとしゃべり過ぎたかも」

「いえ。口止めしてるわけではありませんし、知ろうとすれば知ることができる情報ですから。ですが、だからと言って言いふらすことでもありません」


 九条に止められたことでバツが悪そうにしている藤堂だけど……九条と織田の間には何かあるんだろうか?

 さっきの藤堂が言いかけた言葉から考えるなら『許嫁』ってやつだろうけど、でもそれだけで止めるか? それも、あんな声で。


 ……分からないけど、あんまり人様の事情に踏み込むのもよくないか。


 そう考えて頭を切り替えてから織田のチームの観戦を始めたんだけど……


「強いな。けど、この模擬戦の目的とかチームを組まされた意味とかわかってんのか? ほとんど一人で終わったな」


 織田は槍を使うようで、開幕早々スキルを使ったかと思ったら一人で魔物へと突っ込んでいき、何度か軽い攻撃を受けながらも一人で最後まで倒しきってしまった。


「わかってないんじゃない? あいつ、自分かっこいい、自分凄い、って自慢ばっかりだし。それに何より、協調性皆無だもん」

「まあそりゃあ見てればわかるけどさ。それでもひどすぎないか?」


 もうちょっとチームで協力して戦えば安定して戦えただろうに。怪我だって、軽いものとはいえ怪我をしていいことなんてないんだからもっと抑えられたはずだ。


「でも、強いわ。私と違って」


 その呟きは誰に聞かせるつもりがあったわけでもないんだろう。だが、俺には聞こえてしまった。

 私と違って、というのは先ほどの戦いのことを言っているんだろうか? あるいは、やっぱりほかに何かしらの事情があるとか? そうでもなければ、『祝福者』が『スキル』持ち相手にそんなことを言うとは思えない。


 ただまあ、強いことは事実だと思う。


「祝福じゃなくてスキルのはずなのに、結果だけ見れば祝福と同じくらい戦えてるな」

「相性がいいスキルだったっていうのもあるだろうけど、あいつ、ずっと前からスキル鍛えてきたっぽいからそのせいでしょ」

「……ずっと前から?」


 それはおかしくないだろうか? だって、スキルを覚えるのはこの学校に来てからだ。槍を使うことに決めたのだってこの学校に来てからだろう。それなのにずっと昔からスキルを鍛えていたというのは、どう考えてもおかしい。ぶっちゃけて言えばルール違反。もっと言えば犯罪だ。


「え? あ、いや、違くってさ。あー、あれよ。その……」


 藤堂はそんな自分の発言がまずいものだとようやく理解したようで慌てて誤魔化そうとしているが、うまい言葉が出てこないようで視線をあちこちへと泳がせている。

 そんな中、藤堂をフォローする様に九条が話し出した。


「私達のような一部の人間は、ズルいかもしれませんが事前に学園で覚えることのできるスキルを把握しています。ですので、目的のスキルに合わせて鍛えたり性格を矯正することもあるので、彼もその一人ということです」

「そ、そうそう。そんな感じ!」

「ふーん。まあ、流石は上流階級ってことだな。俺らみたいな庶民とはえらい違いだ」


 なんて言ったけど、もしかしたら本当は子供のころからスキルを覚えていたのかもな、とも思う。以前桐谷がそんなことを言っていた気がするし、子供のころからスキルを覚えさせておけば、そしてそれを鍛えさせれば大きなアドバンテージになるから。

 まあ、下手に突いてもいいことなんてないだろうし、これ以上織田のスキルについては言及することはないけど。


「そのおかげもあってあれだけ強くなれたのか」

「でもさー、それってズルくない? だってあたし達とはもうスタートラインが違うってことでしょ?」


 なんて納得した様子を見せたのに、その話を聞いていたリンリンが不満を口にした。


「そうかもしれないですけど、でも他にも武術を習っていた人っていますよね。それと同じようなものなんじゃないですか?」


 守谷もあまり言及しないほうがいいことを理解しているのかリンリンを宥めようとしたが、そんなことを理解できていないリンリンは尚も言葉を紡ぎ続ける。


「ちっがーう。ぜんっぜん違うってばさよ」

「ばさよ?」

「なんか剣道とか柔道を習ってた人がスキルを手にした場合は、これまでの経験がうまく活きたね、ですむけど、最初からそのスキルのために鍛えたんじゃ目的とか意識とか鍛え方とか全部が根本から違うじゃん。それじゃあ同じ時間鍛えたとしても、差が出るに決まってんでしょ!」

「……まあ、そういった違いはたしかにズルいかもしれないね」

「かも、じゃなくてばちくそズルいじゃん!」


 いや、ズルいのなんてみんな理解してんだよ。その上で黙ろうね、って言ってるんだから気づいてくれ。余計な厄介事を持ち込むのは勘弁してくれよ。



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