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模擬戦終了

 その化け物のベースは虎だろうか? 体高三メートルほどの四足歩行の獣だが、明らかに普通の動物とは違っていた。

 顔が常に九十度横に傾いており、全身の体毛は形もだが、その色も蠢いている。

 更に獣の顔には本来の獣の口はなく、歯がむき出しとなった人間の口と、獣の耳のほかにもう一組人間の耳が顔の横に付いている。


 明らかな化け物。どことなく人間らしい雰囲気を感じさせるが、やはり人間とは似ても似つかないせいでより不気味さを出している。


 これが魔物だ。基本は地球上の動植物だが、それが歪に姿を変えた生命体。そして、どこかに必ず人間の要素が混じっている。

 この人間の要素が混じるのは、最初に世界が〝こう〟なるように願った魔物の生みの親が人間に悪意や恨み辛みを持っていたからじゃないかと言われている。


 分かりやすいといえば分かりやすいのだが、自分たちが暮らす場所がこんな奴らに脅かされているとなるといい気はしない。


「これが魔物なの? なんか、すっごい気持ち悪い感じね」

「そうだな」


 リンリンは両腕を抱いて嫌悪感を見せているけど、俺としては、こんなもんか、程度の感覚だ。


「そうだなって、あんた達はなんでそんな平気そうなの? アレ、なんかぞわぞわってしない?」

「するけど、初めて見るわけじゃないし」

「私も、以前から何度か見せられてきましたから」


 嫌悪感は感じるけど、今までも何度も見てきたことがあるから今更怖がったりはしないさ。そしてそれは九条も同じようだ。


「ほえー。じゃあもりりんは?」


 もりりんって守谷の事か? まあいいけど、そういえば守谷も何の反応もしてなかったな。

 いくら授業でその姿を写真として見ているって言っても、普通は最初にあいつらに遭遇した時は声を漏らすくらいはするもんだと思うんだけどな。

 それだけあいつらは恐ろしい。いや、恐ろしいというよりも不気味か。写真と実物では明らかに違う。本物にしかない気配というか、重苦しい不愉快な空気があるのだ。


「あ、僕はその、緊張しすぎて反応できなかっただけというか、そんな感じです」


 ふーん。まあ初めて見たとなれば緊張するか。それも、これからあんなのと戦わなくちゃいけないとなると猶更。今までは訓練って言っても魔物と直接戦うなんてことはなかったし、さっきまでも他のチームの戦闘を見ていたけど、魔物の気配までは感じ取れないようになってたし。


「緊張とか恐れとかはあるだろうけど、そのせいで動けない、なんてことはやめてくれよ」

「それは大丈夫です。自身の役割はこなして見せますから」


 そういいながら守谷は盾を持っている腕に力を入れ直して構えた。どうやら、怯えて足が動かない、なんてことはないようだ。


「それじゃあ、これより魔物の幻影と『三本の矢』の模擬戦を始める」


 ……なんか、改めてチーム名を言われると力が抜けるな。だって、他のチームは何もないのにうちだけわざわざチーム名があるんだぞ?


 なんて、いまさら言っても仕方ないし目の前のことに集中するか。


上演イミテル・〈僕は世界が怖い。嘘をつく人間が。牙を向ける獣が。毒を持つ虫が。すべてが僕を傷つける。誰も頼れず、誰も守ってくれない。––––だから僕は僕だけを守る〉」


 生み出された魔物の幻影は、その動きを確かめるように体をゆすったが、その間に守谷がスキルを使用し、魔物へと突撃していった。


 そんな守谷を見送りながら、後衛の二人もスキルと祝福の文言を唱え始める。


「〈––––この手は誰かの手を取るためにある〉」


 他の人たちには聞こえないように俺も小さく呟いて祝福を発動させた。

 その直後、俺の体から発生した半透明の腕が前方へと延びていき守谷の動きを補助する様に魔物の動きを阻害していく。


「でっかいの行くわよ!」


 そうして時間を稼いでいると、スキルの準備が終わったのだろう。後ろからリンリンの声が聞こえてきた。


 その声に反応して俺も守谷もその場を飛びのいて魔物から距離を取った。


 直後、ピシャッ––––ドオオオオンッ!! と一瞬世界から他の音と光が消えたのではないかと思えるほどの轟音と閃光が魔物へと叩きつけられた。


 雷。それがリンリンのスキルだ。この一撃を喰らえば、俺なんていくら祝福で守っても致命傷だろうし、祈だってかなりの怪我を負うことになるかもしれない。だが……


「うっそ! これで倒れないとかジョーダンでしょ!?」


 そんなスキルとは思えないほど高威力の一撃を受けてもなお、魔物は倒れることはなかった。

 ダメージはあったのか動けてはいないし、全身から焼けた臭いはしている。けど、それでもまだ倒れておらず、憎悪のこもった混沌としたその瞳は、未だ俺達のことを見つめていた。


「私が仕留めます。そのために私がいるのですから」


 その言葉と同時に、まだ待機していた九条の攻撃が放たれた。

 構えた和弓からは光の矢が放たれ、魔物の体を貫き、頭の半分を吹き飛ばす。

 放たれた矢はそのまま勢いを止めることなく突き進み、魔物の体を貫通して後方へと抜けていった。


 ……終わったな。即興のチームで不安もあったが、なんだかんだで結構スムーズに勝つことができた。

 そう思ったのだが、違った。まだ終わりではなかったのだ。


 九条の矢を受けた衝撃で魔物は体をよろめかせ、倒れた––––かと思ったが、魔物は倒れそうになった体を踏ん張ることで強引に起こし、倒れそうになった勢いのまま前方へと走り出した。


「頭が吹っ飛んでるのにっ!」


 リンリンは九条の矢を受けてもまだ動き続ける魔物に驚いているが、魔物はかなりしぶといものだ。それに、頭が九十度傾いているのも原因だろうな。普通の生き物のように額を狙ったんだろう。九条の矢は傾いた魔物の顔––––頬を打ち抜いていた。


 普通に致命傷ではある。でも、即死するほどの怪我ではない。人間だって下あごが吹き飛んだところで生きていられるのだ。それが魔物の生命力でとなったら、死んでいなくてもおかしくない。


 ただ、俺もそうだがみんな油断していた。あんな雷を受けた上に頭の半分を吹っ飛ばされて体まで貫かれたんだから死ぬだろう、と。だからこそ反応が遅れた。


 九条はこちらに向かってくる魔物に向かって矢を放ったが、油断していた状況で急いで矢を放ったことで狙いが甘く、攻撃が逸れて右肩を穿っただけに終わった。


 半身がまともに動かないにもかかわらず、魔物は自身にとってもっとも恨みのある九条を狙ってそのまま走り続けた。


「やばっ! さくらんっ!」

「っ––––!」


 幻影とは言え、実体を持っている以上は攻撃を受ければ怪我をするし、死ぬ可能性だってある。

 目の前でそんな事態を見逃すことはできない。


「止まれ!」


 そう思った瞬間に俺の口は動いており、同時に俺の意思に反応するようにヘイローが一瞬だけ強く光り、新たな『手』が魔物へと向かって動いていった。


 今までの二本だけしかなかった『手』が六本となって魔物を拘束する。


「〈私は、魔性を祓わなくてはならない〉っ!」


 敵の動きが止まったのを見逃すことなく、九条は祝福の文言を唱え、弓を構えた。

 そして––––


「これにてチーム『三本の矢』の模擬戦を終了とする」


 九条の一撃を受けて今度こそ頭をすべて吹き飛ばした魔物は動きを止め、まるで存在していなかったかのように体を塵へ変えて霧散していった。


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