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『三本の矢』結成

「それで、作戦だけどさっき守谷が言ってたような感じでいいのか?」


 守谷が盾として敵の注意を引きつけ、他の三人が敵を攻撃する。大雑把にはこんな感じだろう。


「基本はそれで構わないでしょう。問題はそれぞれがどの程度役割をこなすことができるのかですが……」

「実際に動いてみて確認する暇なんてないだろうし、ぶっつけ本番でやるしかないだろ」


 これが数日前にチームを組まされていたんだったら練習する時間もあっただろうけど、この後すぐにシミュレーションでの魔物との戦闘だからな。練習する時間なんてない。

 多分学校としてはそれも計算のうちというか、目的の一つなんだろうな。いきなり組まされたチームでどこまで対応することができるか。突発的な状況での対応力とかそんな感じのを見てるんだと思う。


「気になるのは、戦力の総合値はある程度バランスがとれるようになっていると言っていたことです」

「戦力のそうごうちー?」

「はい。自慢をするつもりはありませんし、嫌みと取らないでいただきたいのですが、事実として私は『祝福者』です。他の方よりも戦力という意味では優秀でしょう。となれば、必然的に他のメンバーは平均よりも劣る者ということになります」

「ずいぶんはっきり言うもんだな」


 たしかに、そんなことはないと理解しているけど、この言い方だと自慢してるようにもバカにしてるようにも聞こえるかもな。


「申し訳ありません。気分を害したのであれば謝罪いたします。ですが、状況を客観的に見ることこそが成功の足掛かりとなると思っていますので」

「いや、別に気分を害したなんてことはないさ。それに、その考えには俺も賛成だしな。一人がとびぬけて強いんだったら、周りを落として調整を取るってのは間違いじゃないだろうよ」


 各チームの戦力が並ぶようにチーム分けされたんだったら、『祝福者』という強者の足を引っ張るような弱者をチームに入れて戦力を均そうとする、っていうのは理解できる。俺なだって一応Aクラスだけど、普段の成績はパッとしない感じだし。


「まー、あたしもそんな強いわけじゃないしねー。いや、強いのよ? でもなんていうかぁー……使える回数に制限があるからちょっとね」


 リンリンの場合はそこが最大の欠点なんだろうな。どれだけ威力があっても、戦闘中に一度しか使えないんだったらどうしたって評価は低くなるに決まってる。


「僕の場合はスキルではなく、実際の能力値の方ですね。戦えるけど、純粋に能力が低いので。でも自分の役割は全うします」


 守谷は戦えるしスキルも普通に使えるけど、単純にスペックが低いらしい。


「で、俺は本来なら戦いに向かないようなクソ雑魚スキルの使い手、ってことだな」


 一応俺の能力は戦闘系に分類されるけど、直接的な強さに結び付くかと言ったらそうではない。


 うーん……これは確かに足手纏いだな。


「……」


 ほら見ろ。九条だって難しい顔してるぞ。


「どうしたそんな顔して。やっぱり不安になったか?」

「正直に言えば。ですが、うまく戦えば勝てるはずですし、勝たなければなりません」

「まー、勝たないとつまんないしね。っていうか、勝たないと成績的にヤバババだし」

「そんなに成績が悪いのか?」

「ふふん。自慢じゃないけど、勉強はからっきしなの! できることなんて一撃に全力ぶっぱするくらいね!」

「リンリンはBクラスの成績最下位者ですよ。ちなみに僕は実技に関して言えば最下位から三番目くらいをうろついてる感じですね」

「……」


 お、思ったよりもヤバかったな。いやまあ、それだけ『祝福者』が期待されてるってことでもあるんだろうけどさ。

 でも、教師達は『祝福者』に期待しすぎだと思う。『祝福者』って言っても、そんなに万能じゃないんだ。精々、自身の祝福の分野においてはスキルを使うやつらより強いってだけで、状況が悪ければ普通に負ける事になる。


 まあ、いまさらそんなことを言ってもどうにもならないけどさ。


 ……でもそれで言ったら、祈の方も似たような状況になってるのか? あいつだって『祝福者』なわけだし、きっと困ってるだろうなぁ。まあ頑張れとしか言えないけど。


「聞けば聞くほど絶望的になってくる、ってか?」

「それでも、やらないわけにはいきません」


 かなり不利な要素が詰まっているチームであるにもかかわらず、九条は諦めた様子を見せずに堂々と言ってのけた。


「まあ、そうだな。結果がどうなるにしても、まずはやらないことにはどうしようもないか。とりあえず、何ができるか詳しく聞いて、それから作戦立ててくか」

「はい。まずは提案があるわ!」


 すっごい嫌な予感しかしないんだが?


「なんだ?」

「チームの名前決めましょ!」

「はあ?」


 ほらな。短い付き合い、とすらいえないくらいの短さだけど、それでもリンリンがまともことを言わないってことくらいは分かってたさ。


「これからみんなで一丸になって戦うっていうのに、名前も何もないんじゃまとまることなんてできっこないでしょ! だから、最初に名前を決めるべきなのよ!」

「名前ねえ……」

「いいんじゃないかしら。名前を決めるくらいすぐに終わるでしょうし、それから戦いについて話し合いを行っても十分時間はあると思いますので」


 おいおい、そんな安請け合いしていいのか? 妙なこだわりを発揮して時間を使うことにならないと良いんだけどな……。


 そうして話し合った結果、チーム名は『三本の矢』に決まった。

 毛利元就の言ったたとえだが、協力すれば困難に打ち勝てる的な意味合いだ。リーダーは九条に決まり、そのリーダーが弓を使うことからその武器にちなんだ名前となった。


 チームメンバーが四人なのになんで〝三本〟なんて名前にしたのかと言ったら、矢を放つ人が必要でしょ、とのこと。九条が弓を使って俺達という三本の矢を放って敵を倒す、みたいな意味合いだそうだ。


 三本の矢ってそういう使い方じゃなかった気がするけど、意外と秀逸な名前なのが悔しい。


 ただまあ、名前が決まったこと自体は良いことだ。名前なんてどうでもいいとは思うけど、そのために時間を使って悩んだんだから、これで決まらなかったらまるっきりの無駄になるんだからな。だから名前が決まったことはいいことなんだが……


「––––結局チーム名を考えるだけで時間が過ぎてしまったわ」


 名前を決めるだけで作戦を考えたり相互理解を深めるための時間がすべて消えてしまったのが問題だな。

 もう今日だけで何度目になるかわからない九条のため息が聞こえてきた。


「このチームっていうか、こいつが大外れなんじゃねえのか?」

「まあまあ、かっこいいチーム名が決まったんだし、いいじゃんいいじゃん!」

「チーム名より作戦のほうが重要だったと思うんだけど……」


 喜んでるのはリンリンだけだな。

 ほどほどにやればいいやと、あんまり試験をまともに受けるつもりがない俺でさえ溜息を吐きたくなってくるよ。


「つっても、ここまできちまったんだ。四の五の言っててもなんも変わんねえし、基本的な戦術は決まってんだ。覚悟決めてやるしかないだろ」


 今俺達の前に一チーム戦ってるけど、それが終われば次は俺達の番だ。何を言ったところでもう遅い。


「––––ふう。そうですね。最低限、時間だけ稼いでくれれば私が何とかしますので、皆さん退場はされないように」

「り~!」


 九条の言葉にリンリンは楽し気に返事をしているけど、その返事が無性に不安を掻き立てる。


「……本当に大丈夫なのでしょうか?」

「やるしかないだろ」


 そうして俺達が戦う番となり、シミュレーションのための舞台へと向かうべく立ち上がった。


 舞台といっても演劇なんかの舞台じゃない。単なる広い空間に線を引いて戦う場所と観戦、待機する場所を分けてあるだけだ。一段高くなったりもしていないし、壁やガラスで遮られているわけでもない。ただし、使っていい範囲を示すためなのか、四方に太い金属質な柱が立っている。

 そんな舞台の中心へと向かって進みだした。


「それじゃあ、これから九条のチームのテストを––––」

「あっ! あたし達のチームは『三本の矢』って名前になったからよろしく先生!」


 戦闘開始の合図を言おうとした教師の言葉をさえぎって、リンリンが無駄なことを叫んだ。

 せっかく決まったんだからそれを使ってもらいたいって気持ちは分からないでもないけど、こんな時にわざわざ訂正させる必要があることでもないだろ。


「ああ? なんだお前ら。作戦考えんじゃなくてチーム名なんて考えてたのかよ。大丈夫か?」


 呆れてるけど、そうだよなぁ。他のチームは戦闘の作戦に関して考えたりしてるのに、俺達はチーム名なんて無駄なことを考えてたんだから、そりゃあ呆れるさ。


「……そのことは気にせず、試験を始めてください」

「試験っつっても模擬戦だからそんな気張る必要はねえんだけど……まあせいぜい頑張れよ。『三本の矢』」


 揶揄うようにチーム名を呼ばれ、九条は眉を寄せているけど、その気持ちは理解できる。嬉しそうにしてるのはリンリンだけだ。


「意識を切り替えましょう。––––始まりますよ」


 そんな九条の言葉が合図になったわけではないだろうが、俺達のまえにうっすらと光を放つ靄が集まり、塊となった。

 かと思ったらその塊は靄ではなく実態を持ち始め––––化け物と成った。



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