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四人チーム

 

 グダグダと不満を言っている祈をなだめてから分かれ、俺は自身のチームメンバーを探しだした。

 これだけの生徒の中から自身のチームメンバーを探し出すってのはそれだけでちょっとした作業だけど、俺の場合はそんな大変なことでもなかった。だって、メンバーの一人がとても目立つ存在だったからな。


「四人揃ったようですね」

「悪いな。少し遅くなった」


 俺がその人物の許に行くと、他のメンバーは既に集まっていたようで俺が最後の一人となっていた。祈と無駄に話をしていたせいで遅れたようだ。


「いえ、かまいません。それほど遅れたというわけではありませんので。それよりも、まずは自己紹介と参りましょう。お互いの名前すら知らない状況ですもの」


 だが、その場にいた三人のチームメンバーの中で最も目立つ女子生徒はゆっくり首を振ってから話を進めた。


「私は九条桜と申します。所属は1-Aとなります。戦闘における役割は後方からの弓術を主としております」


 目立つ女子生徒––––九条は軽く頭を下げて自己紹介をした。

 そう。今回の俺のチームはどういうわけか九条と同じチームなのだ。

 なんでだろうな? 俺達は和解したとはいえ喧嘩をした仲だ。まあ実際に喧嘩をしたのは俺じゃなくて祈だけど、それでも一緒に組ませるような間柄ではないと思う。


 あれか? 九条と護衛の藤堂を一緒にするわけにはいかないけど、九条一人だとチームで浮くことになる。だから少しでも面識があって他のメンバー達との緩衝材になれそうだってことで選ばれたのか? ……その可能性は十分にありそうだなぁ。


 あるいは『祝福者』とチームを組ませるのに、妹が『祝福者』であり『祝福者』についてよく知っているであろう俺がいた方がいい、とか思われたんだろうか?


 どっちにしても厄介な役割を押し付けられたような気がしないでもない。


「あー、じゃあ次は俺か? 同じく1-Aの佐原誠司だ。ポジションは……遊撃か?」


 この四人の中では俺と九条がAクラスで、他の二人がBクラスとなっている。

 だから何だって感じもするし、別に順番なんてどうでもいいんだけど、まあ最初だし同じAクラスである俺から放した方が良いよ、ってことで話したんだけど……なんだか締まらない挨拶になったな。


「おっほ。次はあたしの番でおっけー? はいおっけー。ってことであたしは林凛でっす! 呼ぶときは『リンリン』って呼んでいいから。ってかそう呼んで。そっちの方がかわいーし」


 ……なんか、やけにテンション高いやつがきたなぁ。

 林凛でリンリンね……可愛いって言えば可愛いのか? まあ悪いやつじゃなさそうだし、偏屈な奴よりも全然いいか。


「林さんは––––」

「リンリンって呼んでいいよ!」


 すっげー困ってるな、九条の奴。でも、そうなるか。なにせ九条にとってはこんなふうに自身の言葉を止めてまで名前の呼び方を強要してくる奴なんて、出会うのは初めてだろうからな。

 かく言う俺も初めてだけど。俺が相手しなくてよかった。


 九条は一つ息を吐き出してからゆるく首を振り、再び口を開いた。だが……


「……凛さんは」

「リンリンって呼んで!」

「……」

「リン☆リンッ!」


 キラッとでも擬音が付きそうな明るさでポーズまで取りながら自身の名前を口にする林––––リンリン。

 そんなリンリンの対応に、九条はしばらくの間瞑目すると、一度だけ深呼吸をし、再びゆるく首を振ってから目を開き、覚悟を決めたような面持ちで口を開いた。


「リンリンさんは」

「あ。さんもいらないから」


 だが、覚悟を決めたにもかかわらず再び言葉をさえぎられてしまったせいで、九条は間抜けに口を開いたまま固まってしまった。そして、助けを求めるためなのかゆっくりとこっちに顔を向けてきた。


 いや、こっち見んなよ。お前普段の凛々しい感じの表情はどうした。今の顔、かなり情けない感じになってるぞ。


 ここで俺が間に入っても意味なんてない。だって、この場は流したとしても、どうせ後で呼び方を強要するだろ? だったら今のうちに慣れてしまうしかない。

 そんな意思を込めて顎でリンリンに向き直るように伝えると、九条は眉を寄せた状態でリンリンへと向き直った。


「……リンリンはどの役割を行うのでしょうか?」

「あたしはあれよ。魔法でどっかーん、って感じ?」

「後衛でのスキルが主ということですね」


 なんかこの二人、すっごい対照的な感じがするな。


「そそー。あー、でも魔法の威力自体はそこそこあると思うんだけどね? ちょこーっと問題があるっていうか、使える回数に制限があるのよねー……」

「なるほど。その回数というのはどれほどでしょうか?」

「……い、一回?」


 一回って……お前マジか?


「……一回? それは……戦闘中に一回だけしかスキルを使えないということですか?」


 ほら、流石の九条もその言葉を受け入れられてないみたいだ。そんな改めて聞かなくてもいいことをわざわざ聞いてる。丁寧に聞き直したところで結果なんて変わらないだろうに、でもそれくらいには驚いているんだろう。


「いやー、私ってばスキルの制御があんましうまくなくってさー。強くする方なら大得意なんだけど、弱めるほうってなると……ね? だから一回で余力を全部出しきっちゃうっていうか、そんなかんじなのよ」

「……なるほど」

「い、威力だけは完璧最強なのよ!? 今までの授業でも威力の項目だけは一番だったもん!」


 そりゃあ、そうだろうな。スキルの使用回数を気にしないで全力で撃てば、高威力が出るに決まってる。

 まあそれが分かっていてもできない人もいるみたいだから、全力でスキルを使えるっていうのはある意味才能なのかもな。


「……リンリンに関しては分かりました。次をお願いします」


 一旦リンリンの戦い方については気にしない方向にすることにしたようで、九条は残っていたもう一人へと声をかけた。


「僕は守谷・ジェームズっていうんだ。よろしく」


 九条の言葉に頷いてから話し始めたのはリンリンと同じくBクラスの男子生徒だったが、その名前が独特だった。


「めちゃんこ変わった名前ねー。外国の人的なあれ?」

「母親がね。僕自身は日本国籍だよ」

「ほえー。でもなんかかっこいいわね!」

「そうかな。ありがとう」


 つまりハーフってことか。言われてみれば顔立ちも日本人から少しずれてるな。でもそのおかげでというべきか、結構美形な感じになってるから羨ましい。俺なんて割と平凡な顔なのに。


 っていうか、このチームって俺以外ビジュアル強者ばっかじゃねえか? 守谷は今言った通りだし、九条は大和撫子って感じの日系美人で、リンリンだって可愛い系の少女だ。


 ……なんか、戦闘に顔の良し悪しは関係ないってわかっていても格差を感じるな。いやまあ、俺だって悪いわけじゃないんだけどさ……


「それで、守谷さんはどのような役割なのでしょうか?」

「僕は基本的に身体強化を使っての接近戦ですが、このチームの場合だと僕は攻撃よりも相手の注意を引く感じになるかな? 攻撃はお二人に任せてもよろしいのですよね?」


 なんてどうでもいいことで落ち込んでいる間にも話は進んでいったが……よかった。リンリンとは違って守谷はまともな奴のようだ。いや、リンリンも話し方や態度がちょっとテンション高いだけで、モラルやマナー的な意味ではまともなやつかもしれないけど、とにかく安心した。


「ええ、かまいません。それと、私の立場はひとまず気にしないでくださってかまいません。気にしたことで動きが鈍る可能性も考えられますので」

「そう? じゃあそうさせてもらうよ」


 あ……こいつも意外と変わってるかもな。俺が言うことじゃないけど、態度を気にしなくていいって言われてその直後に切り替えられる奴って、あんまり普通じゃない気がする。


「ねえねえ。さくらんっていい感じのお嬢様的な感じのあれだったりする?」


 さくらん……。それって九条の名前が〝桜〟だからそれをもじっての愛称なんだろうけど、それだと〝錯乱〟と間違えるんじゃないか?


 ただ、そんなリンリンの言動は気にしないことにしたのか、九条は自身の呼び方を無視して話を進めることにしたようだ。


「一応は皇族の傍系ではありますので、そういっても差し支えはないかもしれませんね」

「おー! 皇族! じゃあじゃあ天皇様に会ったことってある感じ?」

「え、ええ。あの、それよりも今は試験に関して話をしませんか?」


 ただ、やっぱりリンリンのテンションの高さに押され気味のようで、強引に話を変えて逃げることにしたようだ。


「そうだな。この後すぐに模擬戦があるみたいだし、それに向けて話し合いをした方がいいだろ」

「そっかー。じゃあまたあとでは話そーね」

「え、ええ。またそのうち機会があればいずれ」


 リンリンは名残惜しそうに九条へと笑いかけているが、当の九条は笑いを返した頬がひくついている。


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