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期末試験前の模擬戦

 ——◆◇◆◇——


 失踪者が出た翌日であろうと普通に授業は進んでいく。特に今は、夏休み前の期末テストに向けての大事な時期だ。変に日程を変えるわけにはいかないだろうし、普通にやるしかないんだろう。


 そんな普通な授業だけど、その普通とはあくまでもこの学校での普通だ。

 この学校は戦士を育てるための学校で、そこでの普通ということはつまり、戦闘だ。


 どうやら今日は期末試験に向けての予習というか、練習をするための戦闘訓練の授業のようで、俺達は普段とは違って戦闘方法で分かれることなく一か所に集められていた。

 そして今日の授業の説明が行われたのだが……


「シミュレーションで死ぬかもなんて、学校的にどうなんだろうな?」

「学校って言っても、戦士を育てるための場所だからな。言っちまえば軍学校みたいなもんだろうし仕方ないんじゃないか?」


 まあ、実際入学時に授業中の死傷に関しての同意書を書かされたし、桐谷の言うことは間違いじゃないんだろうけど、それでもあえてこの授業前に死ぬかもしれないことを示唆するなんて、どれだけ危険なんだよ。


 なんて思いながら辺りを見回してみるけど、隣にいる桐谷を含めAクラスの大半は何とも思っていないような表情をしている。きっと元々そのつもりがあってこの学校に来たからだろうな。


 九条なんてその最たる例だろ。魔物を倒すために『祝福者』になったくらいだしな。

 他の奴らだって同じようなもんで、瞳子みたいな武門の家系ならなおさらそういう戦う意識が強いんだと思う。


 それに比べて……あっちは微妙だな。


 視線をAクラスの面々からもう一つの集団へと向けると、そこには普段見かけない生徒達が集まっていた。Bクラスの生徒達だ。普段戦闘の授業で一緒になることはあるけどそれは一部の者たちでしかなく、こうしてBクラスの全員と一緒に集まるってことはなかったんだけど……今回は違うみたいだな。


「今回はAクラスだけじゃなく、Bクラスとも合同で行うから、その辺気いつけとけよ」

「あー、やっぱりあっちにいるやつらはそういうことか」


 教師からの説明を聞けば彼らが一緒にいる理由も納得できた。まあ、授業前に同じ場所に集まってるんだから同じ授業を受けるんだろうなってことくらいは予想できたけどさ。


「勝負するかも、って思ったけど、協力の方だったかー」

「そりゃあそうだろ。AクラスとBクラスじゃ戦闘力が違うし、仮に勝負させてお偉方のお子様が怪我でもしたら怪我させた生徒も学校も対応が面倒だろ」

「まあそーだね」


 桐谷の言葉にうなずいている祈だが、その様子はどっちが相手でも大して変わらないとでも思っているように感じられた。実際、祈は強い。それこそ、教師でも相手にならないくらいには。

 そんな祈からすれば、AクラスだBクラスだ、って言われても大した違いなんてないと思えてしまうだろう。


「そんじゃあチーム分けを発表する」

「えっ! 自分たちで決めるんじゃないの!?」

「アホ。考えてみろよ。自分たちで決めさせたら、結局いつものメンバーで固まるだろ。お互いのクラスから何人ずつ入れないといけないって条件にしても、戦力が偏るのは間違いないしな」


 合同でやるってなっても、知り合いと組もうとしたり、少しでも強いチームを組もうと考えれば、絶対にAクラスの生徒だけで組んで、余ったBクラスはBクラス同士で組む、なんてことになるに決まってる。

 でもそれじゃあ合同でチームを組む意味がない。


「えー。……いや、でも戦力って意味だったら私と兄さんが一緒になる可能性も……」

「どうだろうな? でも多分ねえだろうな」


 学校に入学する際は俺達の事情を考えて同じクラスにしただろうけど、こんな高が授業のチーム分け程度にまで気を配るとは思えない。


 まあ、学校側がどう考えるか、どんなチームになるのかなんてのは決まってからのお楽しみだ。


「それぞれ自身のチームは把握したか? チームはそれぞれの能力やらなんやら考えてそこそこのバランスでチームを組んであるから、どこかだけがとびぬけて強いってことはねえはずだ。まあそれでも多少の差はあるだろうが、評価はその差を考えた上ですっから気にすんな。この後チームごとに分かれてもらって、少ししたらそのチームでシミュレーションで模擬戦してもらうから、よーく話し合っとけよ」


 発表されたチームを確認すると、やっぱりというべきか、俺は祈とは違うチームだった。ついでに言うと桐谷も違うチームだ。


 ただ、このチームもなんだか面倒なことが起こりそうな予感がひしひしとするチームなんだよなぁ。


「ああ……分かれちゃった」

「まあそうなるだろうな。でも、どうせこの授業中だけなんだし、そんな気にすることでもない……」


 どうせ今回の授業中だけのメンバーなんだから、そこまで気にすることでもないだろ。一生同じチームで行動するってわけじゃないんだし、よっぽど気に入らないとしても今日だけ我慢すれば……


「言い忘れたが、今回のメンバーはそのまま期末試験のメンバーになる。だから下手に人間関係を壊さないようにな」


 あー……うん。まあそれでも今日と試験の時だけだし。それくらいなら我慢できるだろ。


「……まあ、どうせ試験の間だけなんだし、気にすることでもないだろ」

「にいさーん……」


 祈はチームに分かれて行動するのがそんなに嫌なのか、不満たらたらな様子で俺の服を掴みながら上目遣いにこっちを見てくる。


「あー、よしよし。邪魔だから離れようなー」


 どうせもう決まったことなんだし、ここで駄々をこねてもどうしようもないことだ。


「ひっど。もっと丁寧に可愛がってくれてもいいんじゃない?」

「必要ないだろ。それよりも、お前は気をつけろよ」


 乱暴に頭を撫でまわしながら距離を離すように押すと、祈は不満そうに唇を尖らせた。

 そんな祈を無視して忠告をすると、祈はキョトンとした表情を見せた。


「え? 大丈夫だってば。私がこの程度で怪我なんてすると思う?」

「怪我云々は心配してないっての」

「心配してよ!」


 いや、だってお前こんな学生の〝お遊び〟くらいで怪我をするようなやつじゃないだろ? 仮に怪我をしても死なないし、そこに関しては心配するだけ無駄だろ。


「それよりも、お前だけで片付けないかってのが心配なんだよ」


 俺が心配しているのは怪我よりもそこだ。むしろそこしか心配していないとさえ言える。


「? 試験なんだし、敵が出てくるんでしょ? 倒せるんだったら倒しちゃっていいんじゃないの?」

「お前自身で今言ったけど、これは試験だぞ。チームを組ませるってことはチームワークを見るためでもあるし、お前ひとりで片付けたら他のメンバーの試験にならないだろ」

「えー……めんどくさー」

「それが人の世で生きるってことだ。がんばれ」


 祈なら敵を倒すだけなら簡単だろう。クラス全体で挑むような敵が出てきても、祈一人でどうとでもなってしまう。だけど、それではだめだ。


 人の社会の中で生きていくんだったら、状況を判断して周りに合わせる能力が必要になってくる。祈にはその能力が決定的に足りていない。こいつの生い立ちを考えれば仕方ないことではあるんだけど、そういった〝人の世の生き方〟をもっと学んでほしい。


 今回の試験は生徒達の戦闘能力や戦場での役割を理解しているか、といった能力を確認するんだろうけど……そんな中で祈だけ別の試験を受けることになりそうだな。まあ、うまくやってほしい。


「うーん。まあわかったけど怪我しないようにね」

「断言はできないけど、気を付けるさ。だから、俺が怪我した程度で暴れたりするなよ?」

「……ちょっと頑張る」


 こいつはその〝願い〟のせいもあるけど、過保護すぎるんだよ。俺が少し怪我したくらいで怒って祝福全開で暴れまわるのはやめてほしい。



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