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期末試験について

 

「でも、それより先に試験のことを考えた方がいいんじゃない?」


 なんて夏休みのことを考えていると、祈がくぎを刺すように言ってきた。楽しい気分が邪魔された感じだが、言っていること自体は間違いではない。


「あー、試験かー……」


 確か筆記試験と実技試験があるんだったよな。筆記は普通に紙のテストだけど、実技は魔物の幻影を作って戦うとかそんなんだった気がする。


「そういやそれがあったな。……やりたくねえ」

「俺だって試験なんて嫌だっての」


 むしろ試験なんてやりたい奴はいないと思う。

 なんて思ったのだが、祈は首をかしげながら口を開いた。


「そう? 普段の授業より楽だし、私は大歓迎なんだけど」


 ああ……まあお前はな。お前にとっては普通の授業も試験も変わらないだろうよ。


「そりゃあ祈が『祝福者』だからだろ。この間の模擬戦だって余裕そうだったじゃんかよ」


 桐谷は祈のことを見ながら羨まし気に溢した。

 祈が優秀なのは『祝福者』だからと思っているようだし、実際にそれも間違いではないのだが、正解でもない。

 まあ、祈が優秀だという事実は変わらないのだけど。


「うんまあ、あの程度ならね。流石に負けたりはしないよ」


 祈は今のところ授業中に行われる模擬戦においては負けなしだ。それは誇ってもいいことなのだが、祈は自慢するでもなく頷いている。


 そんな様子に、俺も桐谷も溜息を吐くしかなかった。


「そういやお前ら兄妹って、筆記の方は成績悪くないよな」

「まあな。祈が特待クラスに入るのなんてわかりきってたから、俺もそれなりに勉強できないと同じクラスになれないだろ」


 とは言ったけど、実際は『祝福者』になったせいで言語に関しては言葉の壁なんて消えたように全て理解できるし、記憶力や学習能力だって強化されているから他人よりもできるというだけ。

 他の『祝福者』達も同じようなものだろう。


「……それじゃあもしかして、兄さんって私のために頑張ってくれたってこと?」

「そうだよ。だからありがたがれ」

「きゃー、大好き。愛してるー」

「すっげー棒読みだな」

「でも妹から本気で愛してるとか言われても困るでしょ? それとも、兄さんってそういう趣味だったの?」

「違えよ、アホ」


 なんて茶番を繰り広げていると、その様子を見ていた桐谷が呆れたように息を吐いた。


「お前ら、マジで仲いいな」

「そうか? 普通の兄妹もこんなもんだろ」


 少なくとも、昔の俺達はだいたいこんな感じだった。昔って言っても小学校のころだから、それを今でも続けてるのはちょっとおかしいのかもしれないけど。

 でも、少なくとも俺にとってはこれが〝普通〟なんだ。


「俺の知ってる兄妹だと骨肉の争い、ってほどじゃねえけどいがみ合ってばっかのがいるからなぁ。それを知ってると、お前たちはすげえ仲いいだろ」

「喧嘩するのは分かるけど、兄妹っていう〝家族〟で争いあうなんてバッカみたい」


 〝家族〟というものについて思い入れのある俺達としては、家族で争うなんてのは馬鹿馬鹿しいことこの上ないことだ。

 喧嘩をするのは理解できる。対立することがあるのもまあ仕方ないだろう。でも、血を見るほどの争いなんて、くだらない。そこまでして何を手に入れたいんだかまったくもって理解できない。


「それは俺も思うけどよ、でも家の相続とか金銭のやり取りとか関わってくるとどうしたってそうなるもんなんだろ」

「だとしても愚かとしか言いようがないと思うけどね。だって、人生で一番大事な存在って〝家族〟でしょ? 私だったら、何があっても〝家族〟だけは守り抜くけどね」


 その言葉の真意を桐谷が理解できたかはわからない。いや、きっと理解することはできなかっただろう。けど、それが嘘でも誇張でもなく本心から言っていることが、俺には理解できた。


「羨ましい限りだな。俺も兄妹とかいたらそんなに仲良くなれたもんなんかね?」

「いたらいたでめんどくさく感じることもあるけどな」

「あっ、ひっど! こーんな可愛い妹に対してめんどくさいって言う?」

「だってお前バカじゃん」

「いやいや、何言ってんの。これでも筆記は成績上位者なんだけど?」

「そういう意味でのバカじゃねえっての」


 普通の人間社会での生活における常識のなさって意味でのバカよ、バカ。


「まあ、そんなもんなのかもな。妹じゃなくて従妹ならいるんだけど、たまに会う時はそれなりに楽しいけどあれが毎日ってなるとダレてくっかもな」


 家族なんてそんなもんだろ。いても特別なことなんてない。いて当たり前。むしろ、いたらいたで煩わしい。

 でも、いないと悲しいし寂しい。失って初めて気づく〝普通〟の象徴––––。


「かもな。まあそれはそれとして、夏休みは結局どこに遊びに行くんだ?」

「あれ? 試験の話じゃなかったの?」

「そっちだったっけ? でも試験は何とかなるだろ。勉強はそこそこまじめにやってればそんなおかしな点数取らないだろうし」


 俺も祈も筆記の方は問題ないし、なんだったら学年上位だってとれる。目立ちたくないからほどほどにするつもりだけど。


「筆記の方はそうかもしんねえけど、やっぱ戦闘試験のほうが問題だよな。チームメンバーとの連携とかあるし、変な奴……ってーのもアレだけど、九条とか当たったらどう対応するのが正解か迷いそうだしな」

「あー、まあ言いたいことは分かるけど、案外何とかなるもんじゃないか?」


 桐谷が言ったように九条と同じチームになったらあのお姫様の相手をしないといけない。

 下手に対応をすれば後々面倒なことになるかもしれないっていうのは俺自身が経験したことだ。

 けど、九条だってもう余計な問題は起こしたいとは思わないだろうし、そもそもあの件だって九条本人が起こしたものじゃないんだから大丈夫だろ。


「そうか? まあそれならいいんだけど……そんじゃあ予定について話すか……って、そうだ。どっか行くのもいいけど、一回うちに来ねえか?」

「うちって、桐谷の家か?」

「そうそう。俺んちを見せる、みたいな話を前にした気がするし、俺も普通の友人ってやつを家に呼んでみたかったんだよな」

「友達を家に呼んでみたかったって……今まで友達いなかったわけ?」


 祈はどこかかわいそうな人を見るような目で問いかけているけど、今のところ俺にも桐谷以外で友達らしい友達っていないんだよなぁ。

 小学校の頃は普通に友達を呼んで遊んでたことあるけど、それ以降は家に誰かを呼んだことなんてなかったし。


「いや、いたさ。いたけど、なんつーかこうして気楽に話すような関係じゃないねえからさ。家に呼んでも実家の迷惑になったりしないように全員そこそこ気を使って上品にふるまってるから、なーんか〝遊んだ〟って感じしねえんだよな」

「星熊も似たようなこと言ってたけど、やっぱりお偉いさんもそっちはそっちで大変なんだな」


 友達作るのにも親の同意や家の都合を考えないといけないなんて、面倒だよな。まあ、同じクラスに天皇の血筋とか他国のお姫様と書いたら気にしないわけにはいかないんだろうけどさ。


「まあな。大半は権力争いを子供に押し付けてるだけだから、バカバカしいと思うけどな。……それより、星熊って、あの星熊か?」


 桐谷がどこか驚いたような顔をしているけど、そういえば星熊について話したことなかったっけ? まあ言いふらすようなことでもないし、そりゃあそうか。


「ああ。『旅行クラブ』で同じ班になってな。そん時に話すようになったんだよ」

「へー。そういや、言われてみれば何回か話してるのを見かけたか?」


 まあ、挨拶をする程度にはな。後は機会があったら少し話をする程度か。


「まあなんにしても、夏休みは一回うちに来るってことでいいか? 他の予定はそん時に決めようぜ。っつか多分そっからじゃねえと挨拶回りとか終わってねえだろうし、予定とか決めらんねえわ」

「そっか。じゃあまあ、そんな感じで」


 もう高校生なんだし、年甲斐もなく、って程歳をとってるわけじゃないけど、それでも友達の家に遊びに行く予定を立てるって、なんだかワクワクしてくるな。



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