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次の襲撃

「まあそんなわけでぇ、今日来たのは~、そんな感じでこーたいになったもっちーの紹介もかねてるのよね~」


 もちろんそれだけではないだろう。イベントに出る必要があったことを合わせたとしても、たったそれだけの理由でこの人が出てくるはずがないんだから。


 ただ、そうは思うけど、それとは別に暇つぶしできたんじゃないかとも思うんだよな。普通の人ならありえない行動だけど、だってこの人だし。なんか面白そうだから、俺達に会えるみたいだから行きたい、なんてことを言い出してもおかしくないからなんでここに来たのか予想がつかない。


「まあそれは理解しましたけど、ずいぶんと若い方ですね」


 この人の護衛として選ばれるには経験豊富な人じゃないと無理だと思うんだけど、それにしてはやけに若い気がする。年齢はまだ二十代くらいじゃないだろうか?


「今までは年上ばっかだったから~。そろそろ同い年くらいの子が欲しいな~ってお願いしたの~。それにぃ、もっちーは若いけど結構できる子だしぃ、あなた達と連絡を取ったり調整するのにも都合がいいかな~、ってことで決まったっぽいわ~」

「決まったっぽいって……自分で決めたわけじゃないんですね」


 普通はこういうのって護衛される者とする者との相性を考えて何人かと顔合わせみたいなのをして、そのうえで護衛を決めるもんだと思ってたんだけど……してないのか。


「え~? だってめんどくさいし~。わたしにそんな面倒なことなんてできると思う~?」

「できないことはないんじゃないですか? 今日だってかっこよく演説してたわけですし」


 普段からあの調子でいるんだったら、護衛決めだって問題なくできていたと思う。


「ぷえ~、えへへ~。かっこよかったぁ? ほんとに~? まああれくらいはね~。わたしだってやろうと思えばできるんるんなのよ~。普段はやろうとなんてしないけどね~」

「自慢げに言うことじゃねえ……」


 できるんるんってなんだよ。もうちょっとまともにやれば余計な面倒も減って、結果的に自分の時間とか増えると思うんだけど……でも無理か。そんなことは今まで何度も言われただろうし、それでもこんな態度を続けてるってことはもう直せないものだろう。


「それより、俺達と連絡を取るっていうのはどういうことですか? 電話するんだったらいつでも関係ないと思うんですけど」


 何かあった時にはすぐに連絡を取りたいっていうのは理解できる。でも、だったら普通に電話をしてくればいいと思う。この間だってほとんど私用みたいな感じで電話をしてきたんだし、電話ができないなんてことはないだろ。


「あ~、それねぇ。もっちーってこの学校に関係者がぁ……うーんと、お姉ちゃんがいるみたいでね~。あなた達だっていっつも連絡が付くわけじゃないでしょ~? 学校の授業とか行事の最中だったら電話できない時もあるでしょうしぃ、そんな時に学校の関係者に融通が利く人がいると便利よね~、ってことなの~。特にぃ、最近は物騒になってきてるからね~。な~んかあるかもしんないしぃ、連絡を付けることができる手段はいくつあってもいいよね~?」

「学校にお姉さんですか……」

「そういえば、お名前は百地さんっていうんだよね? それって戦闘教諭の人と同じ名前じゃ……」


 いわれてみれば、確かに祈が言ったように百地先生がいたな。あまり個人的に話すこともないから親しいってわけじゃないけど、いることはいるな。


「おっしゃるとおり、その百地は私の姉になります。姉はお二人の詳細について存じませんが、それでも我々と繋がりがあることは伝えておきましたので、多少の融通はしてくれるでしょう」


 んー、まあ俺が『祝福者』だってことは秘密にしているし、その秘密を続けたまま協力者が増えるっていうんだったら便利は便利かもしれない。

 でも、そうまでする意味が分からないんだよな。


「でも、そんな関係者を抱き込んでまで連絡手段を用意したってことは、何かあるんですか?」


 ただ問題がある、あるいは起こりそうってだけなら、そんな特別扱いみたいなことをする必要はないと思う。『上』の人たちだって、俺が普通に暮らしたい、余計なことに巻き込まないでほしいことを理解しているだろうから無駄に干渉してくることはないはずだし……


「まあね~。というかぁ、それが今日ここに来た本題なのよね~」

「本題? あー、そういえばさっき真面目な話がどうのって言ってたっけ」

「そういえばそうかも? てっきり暇だから遊びに来るついでに説明会に来たんだと思ってた」

「そんなわけないでしょ~? これでもわたしはおっきなクランの副リーダーなんだも~ん。わたしがただ二人に会うためだけにここに来たと思った~?」


 その言葉に俺と祈はお互いに顔を見合わせて、一つ頷いた。


「まあ、七割くらいは思いましたね」

「普段から意味なく行動するし、今回もきまぐれかな、とは思ったかな」


 だよなぁ。やっぱり祈りもそう思ったよな。


 ただ、俺達の答えが想定外だったのか、先輩は目を見開いて驚いたような表情を見せている。


「……さっきから、わたしの評価ひどくなーい?」


 あ、これ割と本気なトーンだ。

 そう思えるくらいには先輩の声が落ちており、普段のようなふわふわした気楽さが消えている。


「普段の行いってやつじゃないですか?」


 ちょっと悪いかな、とも思ったけど、この人だしまあこんなもんだろ。


「むー……。もっちー! 後の説明はお願いー!」


 そう言うと先輩は拗ねたようにそっぽを向き、再びお茶とお菓子を手にしてもしゃもしゃごくごくと乱暴に飲食をし始めた。

 でもあの……いいのか? ある程度人が捌けたとはいえ、一応ここはまだ人目があるんですけど? そんな振舞をしているところを見せちゃっても大丈夫なのか? せっかくさっきまでのかっこいい女性のイメージが崩れない?


「学校で何か起こるかもしれませんので、お二人は十分にご注意を」


 なんて考えているうちに百地さんの話が始まったのだが、何かって言われてもな……


「何かっていうのは、具体的にはなんでしょうか?」

「それはまだわからない状態です。ですが、先日の事件を思い出していただければご理解いただけるかと。あのようなことが再び起こる可能性が高いと上層部は判断しました」

「つまり、『クリフォト』が動くってことか」

「それが本体なのか前回のように下部組織なのか、あるいは傭兵のような雇われなのかは不明ではありますが、おそらくは。ただ、今回は前回のように学校行事での外出時に襲撃が起こるということはないでしょう。流石に学校側も警戒していますから」


 とりあえずヤバいやつらが動いてる感じだから何かあると思うよ、気を付けてね。ってわけだ。

 なんとも大雑把というか行き当たりばったりというか……でも実際、そうするしかないんだろうな。なにせ本当に動くのか確信すら持てていない状態なんだから。


 まあ、それでも何もなく事件が起こるよりはマシだろうけどさ。


「ですので、問題は学校の普段の生活です」

「普段のって……学校の中で襲われるかもってこと? でもここって不審者は入ってこれないんでしょ」


 この学校はある意味この世界の将来を握っている場所だし、そうでなくとも各国のお偉いさんの子供たちが集まっている場所でもある。そんな場所なだけに、この学校どころか島に来ることさえ厳しい審査が必要となる。とてもではないが部外者が入ってきて何かをやらかす、なんてことは難しいだろう。


「はい。ですが、もし教師や生徒の中に紛れ込んでいたら可能です」


 確かにそれならできるだろうけど、でもそんな奴がいるんだろうか? 部外者もだけど、入学する生徒や教師でさえ最初に厳しくチェックが入るはずなんだけど……っ! いや、でもそうか。そういえば前例があったな。前例というか、その可能性があるってだけだけど。


「……そういえば、前回は学校関係者の中に『旅行クラブ』の活動先を漏らしたやつがいたんだったっけ」


 そうでもなければ前回俺達が京都に行ったときに突然襲われることになるはずがなかった。なにせ俺達は転移装置を使って一瞬で移動したんだ。飛行機のように行き先が判明してから準備をする、なんてことはできなかったはず。


 だがそうなると、最初から俺達の行き先を知っていて準備をしていた、ということになる。それには学校内の情報を手に入れる手段が必要になってくる。その手段として、内通者がいるんじゃないか、とはあの襲撃の後にあった報告で言われていた。


「そうですね。ですので、その者が動くのかあるいはほかの者が動くのかはわかりませんが、学校内で問題が起こる可能性は十分に考えられます」

「そうまでして入り込んだ場所で騒ぎを起こすとなると……テロか暗殺か」


 学校内で騒ぎを起こせば、当然ながら潜り込ませた存在に気づかれることになり、下手をすればその正体までバレることになるだろう。

 苦労しただろうに、その駒を捨てる可能性まで考えたうえで行動するとなれば、それは駒を失っても惜しくないだけの成果を求めるということ。


 そんな大きな成果なんて、誰かの命を狙うことくらいしか思いつかない。


「一番効果がありそうなのは教室か寮だよね。教室はみんなが一か所にまとまってるし、寮は寝ちゃえば隙だらけだし」


 授業中、教師の話を聞き流しているような緩んだ空気の中で襲撃があれば、たしかにその教室の生徒達はほとんどがしぬことになるだろう。


 寮での睡眠時も同じだ。寝ているところを一人一人殺すのでもいいし、寮ごとまとめてばくはをするのでもかまわない。どちらにしてもまともに対応することもできずに多くの人が亡くなることになるだろう。


「お二人の場合はあのご自宅があるので寮に関しては問題ないとは思いますが、代わりに通学路での危険が考えられます」


 他の学生を狙ったんだったら家に帰る俺達は巻き込まれないで済むけど、もし俺達を狙ったんだったらその帰るときこそが最も狙い目となる機会だ。相手の目的が分からないうちは警戒して備えるしかない。


「なんともめんどくさいことになったな。これからは登下校も祝福を使って守りを固めた方がいいのか?」

「それでもいいのですが、そうすると目立つことになるかと思われます。不必要に目立てば、むしろ余計な敵まで引き込むことになるかと」

「まぁそ~よね~。頭の上でぴかぴかピカッてたらぁ、流石に怪しいもんね~」


 ああそうか。そういえばヘイローなんて余計なものがあるんだったな。能力を使うと自然と出てくる光の環のせいで、能力を使っているか否かはすぐにわかる。もし四六時中能力を使っている奴がいたら、そんなの怪しいに決まっている。

 もし俺達を狙っているわけではないとしても、その狙いが俺達に変わる可能性さえあるんだから、能力を使っての帰宅というのはやめておいた方が無難だろう。


「兄さんは私が守るから安心して!」

「お~。さっすがは妹ちゃんよね~! せいじーちゃんのことをばちこん守ってね~?」

「うん。任せて」


 妹に守ってもらうことを前提として行動するのは何とも情けない限りだけど、仕方ないか。祈なら祝福を使っていなくても銃弾を弾くことができるくらいの身体能力は持ってるし、初撃さえどうにかできれば祈に頼るのが一番安全で安定した守りだ。


「必要ならばご自宅や通学路にも護衛を配置いたしますが、どうされますか?」

「さすがにそこまではやる必要ないでしょう。それに、護衛なんてついていたら自分は重要な秘密があるって言いふらしてるようなものでしょう?」


 ヘイローがなかったとしても、護衛がいる生徒なんてことになれば目立つだろう。それが陰ながらの護衛だったとしても、相手だって生徒達の情報や周囲に潜伏している者について調べるはずだから、もしそこで見つかれば疑われる。

 だったら最初から疑われないように護衛なんてつけないほうがいい。


「ん~……まぁそうかもだけど~。せいじーちゃんはもうちょっと緊張感持った方がいいかも~?」


 けど、そんな俺の考えがお気に召さなかったのか、先輩は優雅にお茶を飲みながら小さく首を傾げた。


「まさか、こんなイベントに参加しているあなたから緊張感を持てなんて言われるとは思わなかったですね」


 この国で最も守られるべき対象であるあなたが言うことじゃないでしょうに。むしろ先輩の方こそもっと護衛を付けた方がいいんじゃないんですかね。

 こんなイベントなんて参加してる場合じゃないでしょ、あんた。


「ん~。今日のは必要だったから~。イベントが~、じゃなくってぇ、能力的にだけど~」

「能力的に? でも先輩はどこでも見ることができるんですよね? その範囲に制限はなかったって聞いてますけど」

「あれ~、しらな~い? わたしはどこでもみれるけどぉ、場所次第で見るまでに時間がかかるのよね~。でも一回行った場所だとぉ、ぴょんってすぐに見られるの~」


 それは初耳だ。要はマーキングみたいなものだろう。

 あー、でもそうか。そんな理由があったから今日はこの学校に来たのか。一度来ておけば、何か問題が起きた時にすぐに様子を確認することができるから。それなら、彼女が多少の無茶をしてでもここに来た……というか来させられたのも理解できる。


「それにわたしだって緊張感を持つときはあるしぃ、ちゃんと身の振り方を考える時だってあるんだから~。そのほとんどをどうでもいいものとして判断してるだけで~」

「それはそれでどうなの?」

「今日だってちゃ~んと護衛はいるのよ~? 隠れてて見えないけどね~」


 だろうな。……っておいおい。あんたどこ見てんだよ。この話の流れでそんないろんなところに視線を移したら、そこに隠れてます、って言ってるようなもんだろ。ああ、そんな笑顔で笑いかけるなよ。あんたもしかして、実は攫われたいとか、敵側の人間なんじゃないか? 行動が迂闊すぎるだろ。


「まぁとにかく~。わたしは自分が貴重な能力を持ってるって自覚はあるけどぉ、あなたのほうが貴重だってことを忘れちゃダメなんだからね~。『一番神様に近い人間』で、『一番神様から愛された英雄』なんだからぁ」


 その言葉を聞いて、俺はピクリと体をはねさせてしまった。

 そして、そんな俺の反応に同調するように、祈がそれまでの穏やかな表情を消して先輩のことを睨みつけた。

 今にも襲い掛かってきそうな祈に、護衛である百地さんは腰を落として身構えたが、肝心の先輩はにこにことこっちを見ているだけで動こうともしない。


 そんな三人を見て、はあっと息を吐き出してから祈を手で制して落ち着かせる。


 実際、そこまでの事でもないんだ。今の言葉が嫌だったのは事実だし、受け入れたくはない言葉ではある。けど、だからって他人を攻撃するほどの事でもないし、それを『妹』に代わりにやってもらうほどの事でもない。

 ただ、ちょっと気に入らない言葉だったってだけ。本当にそれだけなんだから。


「……そんなの、能力が珍しいってだけで、有用性で言ったら俺以上の人なんて幾らでもいるでしょうに」

「そうだけどぉ、でも能力の性質も考えると一番マシっていうか~、他よりは持て囃しやすいわよね~」

「そんなこと、本人は望んじゃいないんですけどね」


 いくら俺の能力が珍しかったとしても、いくらその能力を有難がる人がいるとしても、そんなのは俺にはどうでもいい。俺はただ、以前のように家族と普通に過ごしたいだけだ。


「それはわたしだっておんなじだも~ん。わたしはただ好きに絵を描いてられればそれでよかったのにぃ、今じゃ前よりも絵を描く時間が減っちゃってぇ……まったくも~、って感じよね~」


 その言葉からは悲壮感なんかは感じられなかったけど、呆れのようなものは確かにあった。でもきっと、『祝福者』なんてみんなそんなものなのかもしれない。

 確かに願ったし、願いがかなった人はいたのだろう。でも、その代償に失った何かだって、たしかにあるんだ。

 そしてその失ったものは、きっと一生戻ってこない。だって俺達は、もう祝福を得る前の〝俺達〟とは別物になってしまったんだから。


「ともかく~、そんな感じで敵がいるかもしれないから気を付けてね~、ってお話でしたぁ。おしま~い!」


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