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『天眼』天宮透香

 

「ちなみに、どこから誘いが来てるんだ?」

「えっと……『創造主の恩恵』と『純粋な祈り』と『先駆者の集い』と……あとは色々?」


 今祈があげた三つのクランは、この国において最大手の三つだ。国内で大きな事件があればまずこの三つのクランに話が持っていかれるほどである。


「全部大手じゃねえかよ。ってかこの国のトップクランが全部そろってんじゃねえか」

「まあこれでも『祝福者』だし? それだけみんな『祝福者』が欲しいってことでしょ」


 それだけ『祝福者』という存在に価値があるということだ。でも、それもそうだろうな。だって祝福者はスキル持ちが何人いたところで比べ物にならないだけの可能性があるんだから。


「『純粋な祈り』に入ったらどうだ? 〝祈〟が入るのにちょうどいいクランだろ」


 ぷっ。たしかにな。でもそれで入って祈がトップにでもなったら、まるで自分のことをクラン名にしたようで恥ずかしいだろうな。見てる側としては面白いだろうからいいけど。


「祝福使ってぶっ飛ばしていい?」


 けど、そんな桐谷の言葉が気に入らなかったようで、祈は笑顔でそう言いながら拳を持ち上げた。


「おい、ぜったいにやんなよ? そんなことされたら俺死ぬからな!?」

「なら馬鹿なこと言ってんじゃないってのよ」


 実際に祝福で殴るつもりはなかっただろうけど、素の能力で殴られたとしても結構痛いだろうな。


「まあ真面目に話すんだったら『創造主の恩恵』じゃないか? あそこは国内最大手のクランだし、全国的に見てもトップ争いしてるようなクランなんだから」


 たしか、全国でのクランの成果、勢力を比べたランキングでは二位か三位だった気がする。何回かは一位を取ってたこともあったはずだ。


「でもそういうところってなんか厳しそうじゃない?」

「どうなんだろうな? でもノルマとかはあるんじゃねえか?」

「それはそれでめんどくさそう……」


 元々『祝福者』としてまともに活動したいと思っているわけではない祈としては、『祝福者』として働いてノルマを達成しなければならないことに忌避感があるようだ。まあ、祈も俺と同じで〝普通〟でいることを望む類の『祝福』だしな。特別扱いなんて望んでいるわけじゃないんだ。


「そういう桐谷はどっか入りたいクランとかあるのか?」

「あー、俺はあれだ。自分の家の関係っていうか、武門の家系が集まって作ったクランがあるから、そっちに入ることになるだろうな」

「そんなクランがあったのか?」

「あるんだよ。『日本武士連盟』なんつー、そのまんまな名前の奴だ」

「なんていうか、すっごい古風な名前」

「古風っていうか、古臭い名前だろ。どっちかっつーと」

「無駄にハイカラな名前を付けようとしてるよりマシだと思うけどな」


 勝手なイメージだけど、そういう剣術家の人ってそれなりに年齢いってたり、堅物……いかにも剣士って感じの雰囲気の人がいるんだろうと思ってる。

 そんな剣術家の集まりなのに『ソードマスター』とかつけてたらなんかイメージが崩れる気がする。


 ——◆◇◆◇——


 祈達と適当に話をしながら歩き、体育館へとやってきた俺達だが、どうやらクラス順で並ぶようで、すでに並んでいる他の生徒たちを尻目に前の方へと進んでいった。


 なんでクラス順なのかと言ったら、舞台に近いほうがクランのトップ陣……有名人の近くにいることができるからだそうだ。アホらしい。どうせ直接言葉を交わしたり、目立ったから後で呼ばれたりするわけじゃないんだ。どこにいようと変わらないだろ。


 そう思うけど、他の生徒たちはそうは思わないようで横を通り過ぎて行った俺達のことを羨ましげな眼で見ているのが分かった。


「こういうところでもクラスの差っていうか身分の差って出てくるよな」

「身分っつーか実力な。まあ、身分が関係しないとは言わねえけどよ」

「ライブで言ったらs席だもんね」


 なるほど。そう考えると良い場所なのか? いや、どっちにしても興味がない側からすればどうでもいいことか。むしろ場所を譲ってやりたくなる。


「まずクランとは何かという説明から行わせていただきます」


 雑談をしながら待っているとようやく始まったようで、教師の一人がそう話し出した。


 ただ、そうして話された内容はすでに知っているもので、むしろ知らない者はいないだろうという内容だった。なんだったら学校の授業として教えられたし。


 まあ教師の言ったクランの説明を改めてまとめると……


 ・祝福でもスキルでも、能力を持った者は国が管理する組合に所属しなければならず、そのうえでクランという独立性のある部署に配属される。

 ・クランに所属しない場合は能力を使用してはならない。

 ・大規模なクランほど設備や権限があるので、ソロ活動でもグループ活動でも大手に属したほうが効率がいい。

 ・成績がいいほうが大手のクランに勧誘されやすくなるぞ。

 ・だからみんな頑張ろう!


 こういうことだ。やっぱり抜けている知識なんかはなく、本当に簡単な説明だけだった。

 この説明は、今回のクラン説明会の導入というか、共通の認識という意味で一応確認しているだけのものだろう。

 強いて言うなら、クラン同士で対立があり、派閥争いのようなことをしている、といったところだろうか。


 ただ、派閥争いって言っても一位になったところで何があるってわけでもないだろう。ただちょっと権限が他よりすごくなるとか、周りに自慢できるとか偉ぶれるとか、多分そんな程度だと思う。

 いや、何か他にもっとあるのかもしれないけど、俺は興味がないのでどうでもいい。


「『創造主の恩恵』からは、副リーダーの『天宮透香』がお越しになられています」


 ……え? なんだって?


「皆さん初めまして。本日はクランの説明で参りました、『創造主の恩恵』にて副リーダーをさせていただいています、天宮透香です。本日は短い間ですけれど、よろしくお願いしますね」


 壇上、舞台の端から出てきてそう言ったのは、車いすに乗って膝の上にひざ掛け、フリルのついた黒い布で目隠しをした女性だった。

 なんて言うか、その姿だけでもう属性過多っていうかお腹いっぱいで特徴的な人だ。


 長い黒髪は一本の三つ編みとしてまとめられて顔の横から前に流されており、肌は真っ白といっていいほどの色合いをしている。

 これで日傘でもついていれば、深窓の令嬢と呼んでもいいかもしれない。

 だが、彼女の場合は引きこもりなだけだ。肌が白いのも外に出ないからで、髪が長いのも切るのがめんどくさいから。たったそれだけの理由だ。


 ただ、目隠しとひざ掛けの方にはそんなくだらないものではなくちゃんとした理由があった。


「まじかよ……まさか『天眼』が来んのかよ」

「あの人ってあんまり人前に出てこないんじゃなかった?」

「この国でもっとも有名な『祝福者』が本当に……?」


 周りは騒いでこそいないが口々に彼女の名前が出ている。それもそうだろう。天宮透香という人物は基本的に外に出てこないんだから。出てくるのはよほどの時だけ。

 それなのに、将来のクランメンバーのためとはいえ〝こんなところ〟に来るなんて、ありえないはずだ。


「なんであの人が……」


 そして、周りと同じように俺もまた、〝先輩〟がここに来ることに驚いていた。いや、なんだったらこの生徒たちの中で俺が最も驚いているだろう。なにせ、俺は彼女の性格を知っているんだから。あの人は間違ってもこんなところに進んで出てくるようなひとではないんだ。


「なんだ。誠司もあの人のことくらいは知ってるのか。まあそうだよな。ある意味あの人がこの国で一番恐れられてるからな」


 俺の驚きをちがう意味で撮ったようで、桐谷がうんうん頷くようにして話しかけてきた。


「……どんな情報だろうと隠し通すことができないから、だろ?」


 それがあの人の能力––––『祝福』だ。


「ああ。どんな場所だろうと見通すことができる千里眼。それがあの人の祝福だからな金庫の中だろうとシェルターの中だろうと関係なしだから、後ろ暗いことがある人間からすれば恐ろしいことこの上ないだろうよ」


 天宮透香の祝福。それは一言でいえば千里眼だ。どこでも、どこまでも見通す神様の眼。それが彼女の能力。むしろ、〝千里〟眼なんて呼び方は控えめですらある。なにせ、彼女が見通すのは単純な距離だけではないんだから。

 間に障害物があってもその向こう側を見ることができ、その場所で起こった過去さえも見ることができる。


 未来までは見ることはできないみたいだけど、それでも破格すぎる能力だ。

 ただし、その代償はあったけれど。


「にしても、珍しいな。あの人はあんまり外に出てこないって話なんだけど」

「まあ、基本ひきこもりだし」


 貴重な能力だからこそ、あまり外に出ないように言われているというのはあるけど、そもそもあの人が引きこもり体質だからっていうのもある。というよりも、どちらかと言ったらそっちのほうが比重が大きいだろう。

 千里眼の能力だって、『世界中の絵が描きたい』なんて願いで生まれた能力だし。


「え? なんか言ったか?」

「いや、車いすだし、移動だけでも大変なんだろ」


 ただ、そんな裏話をおいそれと話すわけにはいかないので、誤魔化すしかなかった。


「そういうのもあるだろうな。あの脚は祝福でも治らないって話だしな」

「あの人の場合はあの脚も含めて〝願い〟だからしかたないんだろ」


 元々は病気にかかったことで目が見えなくなったんだ。でもその時点で絵を描くことが好きだった彼女は、頭がおかしくなるくらい悩み、願った。……いや、実際に頭がおかしくなっていたんだろう。だから、自分で自分の足を切り落とした。それだけの覚悟をもって〝願え〟ば、自分は再び『眼』を手に入れることができると信じて。


 実際、そんな考えは正しかったのか、彼女は『祝福者』として再び眼を手に入れて世界を見ることができるようになった。代わりに、どんなことをしても、祝福を用いても足を治すことはできなくなったが。


「そんな話聞いたことないけど……そうなのか?」


 あ、っと……自分が知っている話だからついこぼれたけど、一般には知られてない話だったな。


「ん……あー、いや。前に会ったことがあってな。その時に少し聞いたんだ」

「へー。まあ妹が同じ『祝福者』だとそういった話も聞けるもんか」


 どうにか誤魔化せたか? こういう時に妹が『祝福者』だって設定があると便利だな。あいつに全部押し付けているようで心苦しさはあるけど。


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