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旅行中のイレギュラー

 

「——それでは、全員揃ったのでこれより『世界情勢見学会』の活動を開始する。向こうに着いたら自由行動となるが、それまでは全員まとまって動くように!」


 それから十数分程度が経過すると全員集まったようで会長の話が始まった。

 話といっても前回の部活の時のように長ったらしい無駄話ではなく、これから旅行するにあたっての軽い説明と注意事項の再確認程度なもので、話自体はすぐに終わった。


 そうして俺達は話が終わるなり移動を始め、学内にある転移装置の元へと歩き出し、数分とせずに転移装置の設置されている場所へとたどり着いた。


 転移装置は、見た目は金属でできた大きなドア枠といった見た目をしているが、その中心は普通ではなかった。

 あれをドア枠とするなら、ドアがある部分にはあたりまえながらドアは存在しておらず、代わりに虹色の膜が存在していた。まるでシャボン玉の膜のように揺らめいているが、シャボン玉のように薄くはなく、奥を見通すことはできない。


 転移装置を見るのは初めてではないけど、やっぱりこの光景は不思議だな。


「転移装置ってあんまし好きくないんだよね〜」

「そうか? すぐに辿り着けるんだから飛行機より良くじゃないか? あっちは事故ったらひとたまりもないぞ」


 転移装置の前で列を作って進んでいくが、装置に近づいていくにつれて瞳子が不満そうにつぶやいたけど、時間の短縮もできるし、事故率も少ないんだからいいものだと思うけどな。


 転移装置だって事故がないわけじゃないけど、事故の時は一人二人が死ぬだけで他は無事だ。

 それを考えても転移装置はありがたいものだ。まあその分金はかかるけど。


「そーなんだけどさ、でもなんかこう、風情ってのがないじゃん。旅行って、旅行先でのあれこれだけじゃなくって、その場所に着くまでの道のりとかも楽しむもんっしょ。それが一瞬でパーッて終わっちゃうと、なんかなーって感じしない?」

「まあ、一瞬でこれるってなったらたとえ外国だとしてもありがたみが薄れるかもな」

「っしょ? まー、今回は仕方ないと思うけどね。わざわざヒコーキとか乗って移動してる時間なんてないし」


 そんなことを話しているうちに俺達の番になり、俺達は順番に転移装置の膜を潜っていく。

 虹色の膜を通り過ぎた後、視界に入ってきたのはそれまでとあまり変わらない、だけどどことなく雰囲気の違う空間があった。


 転移装置なんて精密で大掛かりなものが設置してあるんだから同じような施設になるのは当然といえば当然なのだろうけど、この一瞬での変化を改めて体験すると瞳子の言いたかった風情がないっていうのも理解できるな。一瞬で終わると旅行感が薄い。


 それから部員全員が移動し終えると、再び会長から軽い説明が行われて解散することとなった。


「それじゃ、行こっ!」


 ——◆◇◆◇——


「旅行っていっても、流石に京都だとあんまり特別感しないなぁ」


 解散して瞳子と二人で京都のあちこちを巡っていくが、もう結構な時間がたった。最初思っていたような、うまく楽しめるのだろうか、なんて思いはすでになくなっていた。瞳子は元の性格がそうなのだろうけど話しやすいし、どこに行っても楽しそうにしているから空気が悪くなることもないのでこっちも気を使いすぎる必要がなくてありがたい。


 でも、なんだろうな。初めてな場所なんだけど、なんだか特別感は薄いな。これも瞳子が言ったように移動時間がないからこその弊害なんだろうか?


「せいっち〜。次どこ行く〜?」

「どこっていっても、寺しかないんじゃないか? そんな寺ばっかり見ても面白くないだろ?」


 偏見かもしれないけど、ギャルって寺とか神社とか興味なさそうな人が多いイメージなんだよな。


「え〜、そんなことないけど? お寺とかって、なんか馴染むっていうかさー、意外と居心地好くない?」

「わからなくもないけど、瞳子みたいな女子はあんまり好きじゃない感じしないか?」


 ギャルって言っても来たら来たで楽しむんだろうけど、瞳子みたいに〝居心地がいい〟なんていう人は少ないと思う。

 でも、俺としてもわからないでもない。静謐っていうか、さすがに寺の中に入るとなんか特別感がするし、集中できそうな雰囲気がある。まあ、客がいないで静かならだけど。


「んー、そっかもね。まー、これも個性ってことっしょ」

「嫌いなよりも人生を楽しめるんだからいいと思うけどな」

「……たしかに? そう考えるとめっちゃお得じゃん!」


 瞳子は俺の言葉に気付きを得たかのようにハッと目を見開き、楽し気に笑った。


 それからどこに行こうかと話し、とりあえずお土産屋なんかが集まっている場所に行こうかということで、その辺りをぶらぶらと歩いていたのだが、不意に瞳子が足を止めた。

 そして、それと同時に瞳子から不穏な気配というか、闘気や戦意のようなものが感じられた。


「ねー。なんかやな感じしない?」


 なんでそんなことに、と思って瞳子とのことを見つめると、そんなことを言ってきた。


「やな感じ?」

「うん。なんてーのかな……敵意を向けられてる感じ?」

「敵意って……悪い。全然わからない」


 瞳子に言われたことで周囲に気を巡らせてみたが、そんな敵意なんてものを感じ取るための訓練なんてした来なかった俺では何もわからなかった。


「ううん。私の気のせいかもだし、そんな気にする必要ないからさ。この後も楽しも!」


 そう言って瞳子は先ほどまでと同じように楽しげに笑って歩き出したが、彼女がこんな風に言うってことは本当に何かあるんじゃないだろうか?

 何もないならそれでいいんだが、何かあってからでは遅い。わかるわからないはともかくとして、俺も何かあったらすぐに対応できるように気を付けておこう。


 なんてことを考えて再び旅行を楽しみだしたのだが、何件目かのお土産屋を回ったところで瞳子の機嫌が悪くなりはじめた。

 普通ならなんでいきなり、と思うかもしれないが、前情報をもらっていただけに、戦いに疎い俺でも今の状況について理解することができた。


「……流石にここまでだと俺にも分かるな。なんか見られてるだろこれ」


 何て言うか、まとわりつくような何かが向けられているような気がする。きっとこれが視線を感じてるってことなんだろう。

 それに、視線以外にも胸がうずくというか、胸の奥にある祝福が警告を出しているように思える。


「ね。やっぱそうだよね。どーする?」

「どうするかな……。警察にでも駆け込むか?」


 それが一番無難だと思う。そんなことをすれば今回の旅行はそこで打ち切りになるが、被害といえばそれだけだ。

 ただその場合、俺達の言葉をどこまで信じてもらえるかが重要になってくるよな。なんだかやばそうな視線を感じたので警察に来ました。保護してください、何て信じてもらえるものだろうか?


「ってかそもそもなんでうちら狙われてんの? マジ意味不なんだけど」

「これがただ可愛い女の子を狙ってる、って話だったら楽なんだけどな」


 道端で見かけた可愛い女の子を標的とした性犯罪者、ってんだったら話は簡単だ。おそってきたらぶっ飛ばせばいいんだから。

 でも、ここで重要になってくるのが瞳子の家柄だ。俺には瞳子の家がどれくらいの格がある家なのかわからないが、もし『星熊家』が相応に力を持っている家であるなら、そっちの関係で娘を狙ってきたという可能性もないわけではない。


 もし組織的な動きだっていうんだったら、ただ警察に行っただけじゃ意味がない。この場はしのげたとしても、そのあとで再び付きまとわれることになるかもしれない。


 それに、そもそもこの推測には穴がある。『星熊』を襲ったのは良いとしよう。でも……なんで今なんだ?


「はあ? 可愛いって、こんな時に口説くとかマ?」


 そんな俺の考えに反して瞳子はちょっとだけ眉を顰めて咎めるような視線を向けてきた。だがそれはお前の勘違いだ。


「口説いてねえよ。じゃあこれが女子を狙ってるんだったらいいけど、俺か瞳子個人を狙ってのことだったら結構厄介なことになりそうだな」

「その場合だったらうちじゃない? だってほら、家がそーいう感じの家だし。身代金的な?」


 そうなんだろうな。理由は分からないけど、もし身代金とか政治的な理由でっていうんだったら、俺なんかよりも瞳子のことを狙うのは至極全うな考えだろう。

 でも、疑問が残る。


「……ないとは言わないけど、じゃあなんで瞳子……いや、『星熊』なんだ?」


 今の俺達は旅行中だ。確かに本拠地から離れて旅行をしている最中に襲うっていうのは間違いじゃないだろう。

 でもそれは、俺達の行き先が分かっている場合の話だ。

 俺達が今日ここに来るって事前にわかっていたんだったら、ここで付きまとってくるのも理解できる。けどその場合は俺達の予定を把握していたってことで、俺達が部活動としてここにやってきたことも把握しているだろう。


 だったら、『星熊』じゃなくてもよくないか?


「へ? いや、だってせいっちとうちだったらうちじゃない? こう言ったら何だけどさ、さとっちの家って一般家庭っしょ?」

「俺たち二人だけだった場合はな。でも、ここには……この地域には俺たち以外にも『金を持ってる学生』はいくらでもいるぞ」

「っ! それって……」


 こう言うと失礼かもしれないけど、俺は星熊家なんて名前は知らない。それは俺が上流階級の家々について詳しくないからだが、今のこの場所には俺でも知っているような家の子供たちがいくらでもいるんだが。だったら、そっちを狙ったほうがいいんじゃないだろうか?


「他の生徒達がいる中で、何で瞳子を狙った? 瞳子が名家の出身だってわかってんなら、他に一緒に来てる学生達もそうだってわかってるはずだろ? そんな中でなんで『星熊』を狙う必要がある? 星熊よりも上の立場の家だってあるだろ?」

「まーね。うちは名家って言っても武家の系統だし、純粋な資産だけじゃ他の子達の方が上だし。でもそー考えるとさ、何でうちら狙ってるわけ?」


 今のはただ単に身代金なんかの金銭目的で俺達をどうにかしようと考えている場合の考えだ。もし相手の目的が身代金ではなくもっと違う政治的な理由だとしたら、瞳子のことを狙う理由もわかるんだが……そういった話は聞いてもいいものなんだろうか?


「星熊家を特別狙う理由があれば別だけど……」

「んー。うちは特に思いつかないかも。たんに知らされてないだけかもだけど、少なくともうちは知らない」


 まあ子供にすべてを話すなんてことはないだろうから瞳子が知らないことがあってもおかしくはないだろうけど、でもこうして直接行動に出てくるような相手なら少しくらい……それこそ噂程度でも知っている者なんじゃないだろうか?


「……もしかしたら、うちらだけじゃないのかもね」


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