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旅行クラブ活動開始

 ——◆◇◆◇——


 そして一週間が経過して、土曜日。予定していた旅行の日となったのだが、今日は朝から問題が発生していた。

 問題といっても些細なものなんだが、ある意味でとても厄介な問題だ。


「ねえ。ねえねえねえねえねえ! 旅行行くんでしょ? だったらお土産お願い!」


 俺が祈を置いて一人で遠出するからか、祈は今日の朝……いや、昨日の夜の時点からすでにやかましかった。

 俺一人で旅行なんて行くのは初めてだからか、なんだか祈のテンションがバグッてる気がする。

 多分だけど、〝日常〟から外れた行動をとらないといけないせいでどう対応すればいいのかわからないんじゃないだろうか?


「京都の土産くらい通販で買えばいいだろ。八ツ橋なんてネットで買えるぞ」


 送料が入ったりして割高になるかもしれないけど、その程度は気にならないだけの余裕はあるはずだ。


「そーいうのとは違うじゃない! ああいうのって誰かに買ってきてもらうから楽しいんであって、自分で買っても美味しさ半減でしょ」

「わからなくもないけどな。他人からもらうお土産ってなんだか特別感あるし。まあ金はあるし大した手間でもないからいいけど……でもせめてもうちょっと大人しく頼みにきてくれ。いきなりタックルはやめろ」


 玄関で靴を履いて立ち上がった直後にタックルをするかのようにとびこんでくるのはやめてほしい。おかげでお兄ちゃんはお腹が痛いよ。


「え。でも兄が旅行に行く場合の仲のいい妹ってこんな感じじゃない?」

「かもしれないけど、お前の身体能力を考えろ。それから、お前の歳についてもな。もう少しお淑やかさというか、おとなしさがあってもいいと思うぞ」

「そっかなー?」


 〝普通の妹〟のふるまいが未だに理解できていないのか、祈は頭を左右にゆっくり動かしながら考え込んだ。

 けど、そうすぐに理解することはできないだろう。今までできていなかったことがその証明だ。もしかしたら、一生かかってもりかいできないかもしれない。

 なにせ祈は、普通の人間とは根本的な在り方が違うから。


 そんな当の祈本人は、答えが出ない問題を棚上げすることにしたようで首をゆるく横に振った。


「んー……まあいいや。とりあえず気をつけてよ? 怪我とかしたらダメだからね」

「わかってるよ。ただ、指先にちょっとした怪我とかは許してくれよ?」

「まあそれくらいなら? でも許してあげるから、お土産はよろしくねー!」


 なんとも過保護な妹だ。でも、この様子なら怪我をしたら本当に飛んできそうだな。

 ないとは思うけど、くれぐれも気を付けないと。


「さて、集合場所にはついたが……ああ。いるな」


 祈をなだめて家を出てきた後は、学校へ通う時と同じように普段通る道を進み学校へと向かった。

 学校に着いて指定された場所へと向かうと、今日の旅行のペアである瞳子を探したのだが、それほど探す必要もなくすぐに見つけることができた。あの派手な格好は可愛いとは思うが、周りの生徒とは雰囲気が違うのでだいぶ見つけやすかった。


「あ、せいっちじゃん。おっはよ〜」


 どうやら友達と話していたようだったけど、俺がそっちに近づくと俺のことに気が付いたようで友達の元から離れてこちらにやってきた。


「ああ、おはよう。今日はなんだか一段と気合い入ってるな」


 どこが、とは言えないが、なんだか前回あった時よりも丁寧というか、雰囲気がきらきらしてる気がする。


「わかる? でしょ? まー、今日はマジでキメてきたからね〜。どこが違うかわかる?」

「ん? あー……ピアス?」


 前回はピアスなんてつけてなかった気がする。まあ戦闘をする学校だし、ぶらぶら揺れるような装飾品なんて邪魔以外の何物でもないしな。何か特別な効果があるんだったら別だろうけど、そういった品は高いので普通は学生がつけたりはしない。……一部の金持ち達は別だろうけど。


「せーかい! でも他にもあるから全部探してみ?」

「全部って……絶対当てられないぞ」

「いーからいーから、ほら」


 そう言われてじっと瞳子のことを見つめて違いを探すが、正直よくわからない。

 ただ、なんだかすごい楽しそうだし、ここで「わからない」なんていうのは雰囲気ぶち壊しだろう。とりあえず、なんでもいいから適当に答えておくか。


「んー、じゃあシャンプー変えたとか?」

「変えてないし。それめっちゃテキトーに言ってんじゃん。もっと真剣に!」

「つってもなー。……化粧変えたか?」

「具体的にどこを?」


 ああ。適当に苦し紛れで言ったけど、化粧を変えたこと自体は合ってるんだ。

 でも具体的にどこって言われてもなぁ……というか、まだまともに向かい合うのが二回目の人間にそんな化粧の違いとか判ると思ってるのか?


「……目の周り? なんかその辺にこの間と違和感がある……気がする」


 その辺りに違和感を感じた、ような気がしたから言ったのだが、瞳子は驚いたように目を瞬かせた。


「え、やっば。わかんの? つけま変えたんだけど、わかるとかマ?」

「つけまって、そんなんわかるわけねえだろ! 俺がわかったのなんて精々違和感くらいなもんだぞ」


 つけまって……なんだその間違い探し。ハードモード過ぎないか?


「いやいや、違和感ってだけでもすごいじゃん。うちらこれで会ったの二回目なんだよ?」

「むしろ二回目だからじゃないか? 普段一緒にいるわけでもないから、変化がわかりやすいとか?」

「あー、ね。なんかありそ〜」


 瞳子は楽し気に笑っているが、そんな笑顔を見てるとこっちまで楽しい雰囲気になってくるな。


 ……あ、そうだ。丁度話も一段落ついたし、楽しそうにしているところ悪いが、一つ聞いておこうかな。


「ところで、こっちに来てよかったのか?」

「へ? 何が? ペアなんだし一緒にいるのはおかしくなくない?」

「いや、俺が来るまで他の女子達と話してたろ? 無理してこっちに来なくても、そっちで話しててよかったのにな、って」


 俺は特に何か面白いことが言えるわけでもないし、今合流しなかったからって機嫌を悪くするような人間でもない。


 旅行が始まれば数時間は一緒に行動することになるんだし、普段接しない、特に仲がいいわけでもない俺よりも友達と一緒に話してたほうがよかったんじゃないだろうか?


「な〜に〜? せいっちってばうちが来るの嫌だったりしたわけ?」

「え、いや、別にそういうわけじゃないけど……ほら、友達付き合いとか大事だろ?」


 だが瞳子は、俺の問いかけに不愉快気に眉を顰めて俺のことを睨んできた。

 その様子に俺は慌てて手を振りながら否定しようとするが、なんだか言葉のすべてが言い訳がましいもので、もっとマシなことは言えないのかと自分が情けなくなってくる。


 だが、そんな俺の焦った様子が面白かったのか、瞳子は不愉快気な表情から一転して楽し気に、ぷっと噴き出すように笑みをこぼした。


「じょーだんだってば。マジにとんないでよ。でも、あの子達は別にいいの。どうせ後でも話すし、んー……ぶっちゃけ友達ってわけでもないしねー」

「そうなのか? その割にはなんだか親しげに話してたけど」

「まー、そういう〝ご命令〟がきてっからでしょ」


 そう言った瞳子はさっきまでは楽しげな様子だったが、友達のことを話す彼女はどこか冷めた目をしている。


「命令? 誰から?」


 あまり踏み込むべきではないのかもしれないが、話の流れ的に聞かないのも違う気がしたし、何より俺自身がきになったのでつい問いかけてしまった。


「パパとママ。あとはもっと上とか。まーなんかそのへん」

「……お家事情ってやつか」

「そーそー。家同士の繋がりがあるから、下手に関係切れないし程々に仲良くしとかないとなんだよね〜。くだらないしめっちゃ面倒だけど」


 瞳子の家––––星熊家がどの程度の立ち位置なのか知らないが、それでも上流階級の枠には入っている家なのだろう。その関係で色々と考えなくてはならない面倒なことがあるようだ。


「話せるし話すし、まー一緒に遊んだり笑ったりもするけど、結局はぜんぶ上部だけの関係ってやつ。だから、別に気にしなくってもいいよ〜」


 軽い調子で言っているが、くだらないものだと思っているのか声から感じる雰囲気がとても冷ややかなものになっている。


「金持ち連中ってのは大変そうだな。みんなそんな感じなのか?」

「んー、みんなってわけでもないんじゃない? ほら、せいっちが喧嘩した九条さんと藤堂さんはフツーに仲がいいと思うし、他にもまともな友達作ってるのはいるっしょ」

「……そんなもんか」

「そんなもん、だね〜。––––そんなことよりさー」


 この話はこれでおしまい、とでも言うかのように瞳子は話題を変えて話し始めた。

 色々と聞きたいことはあるし、聞いておいたほうがいいこともあるんだろうが、それでもここで無理して聞いて瞳子の機嫌を損ねてもつまらない。


 今すぐに聞く必要はないんだし、聞くにしてもあとでいいか。


 そう考えて、俺は時間になるまで瞳子とだらだらと特に意味のない話をして時間をつぶすのだった。


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