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助けたがりの英雄は普通に生きたい  作者: 農民ヤズー


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天使を殺せ!

 

 ——◆◇◆◇——


 誠司が鬼崎たちに捕まって逃げ出そうとしていた丁度その時、祈の方でも動きがあった。


「クソッ! なんだって急に暴れだしてんだよ!」

「何してんのさ。なんかまずいことでもしたの?」

「んな無駄な事すっかよ! とっつかまえた時からなんも変わらずに見てただけだっての!」

「じゃあなんでこんなに暴れてるわけ?」

「知るかよそんなこと! 俺が知りてえよクソがっ!」


 それまでもどうにかして逃げ出そうと暴れていた祈ではあったが、誠司が逃げ出そうとした際に暴れたことで生じた痛みを祈も感じ、それによって誠司が何か危機的な状況に陥っていると察したことで、全ての制限を捨て去ることにした。


 それが今の祈の状況なのだが、そんな事情を知らないロジーたちにとっては祈が突然暴れだしたようにしか見えなかった。


「っていうかさ、その拘束大丈夫なの? なんだか今までで一番暴れてるみたいなんだけど」

「……チッ。絶対に問題ねえとはいえねえな。こいつマジでなんなんだよ。どんな願いだったらこんな力が出んだよクソッ!」


 今もなおロジーの能力によって拘束している上に宝器によっての拘束も行われているが、そのすべてが嫌な音を立てて軋んでいる。


 それでも拘束から逃げ出されてはたまらないので全力で止めるしかない。


「––––ふう……クソがっ。なんなんだよこいつ……」


 それからしばらくして、誠司が九条によって解放されたことで祈が共有している痛みも止まり、ひとまずは危機を脱したと判断し、祈は無茶をしてまで暴れることを止めた。


 それによってロジー達も一息つけることになったのだが、その顔は汗で濡れており、祈の足下にはいくつもの砕けた鎖の破片などが転がっている。


「やあっと静かになったけど……なんだったんだろうね?」

「知るかよ。クソったれ。研究とか言って手足引っこ抜いて持っていったイカレ野郎にきいてみたらどうだ?」


 疲れた表情をしながら話しかける理沙に対し、ロジーは祝福の効力を強めるために自分で刺した腹を押さえながら椅子に体を預ける。


「そうしたほうが早いかな~。でも、うちのリーダーって邪魔されると機嫌悪くなるから、できることなら途中で話しかけたくないんだよね」

「んなこと言ってる場合かよ。最悪の場合、俺は逃げるぞ。契約ってんなら、あいつを捕まえてここまで連れてきた時点で終わってんだからな」


 ただ敵を捕まえて終わりだと思っていたが、その捕まえた対象は思った以上に強く、いまだに暴れ続けている。このまま暴れるようであればいくら治癒のスキルを受けられると言っても、自分の体の方が先に限界が来る。そうなる前にさっさと逃げ出した方がいいかもしれないとロジーは考え始めていた。


「そんなこと言わずにさ~。もうちょっと僕たちと一緒にいようよ」

「だから、そうしてほしかったらなんかわかったことを教えろっつってんだよ」


 と、ロジーが苛立った様子で話してからしばらくすると、部屋のドアが開いてリーダーの男が部下を連れて部屋の中に入ってきた。


「『天使』が暴れたと聞いたが、どうだ?」

「チッ。やっとお出ましかよ。どうもこうも、なんなんだよあいつ。もう捕まえてあって宝器まで使ってんのに、自傷までしなきゃ抑えられなかったくれえ強えぞ。『天使』なんて呼んで研究してたんだろ? なんかわかった事ねえのかよ」


 部屋の中にやってきた部下から治癒を受けながらロジーは問いかけるが、男は緩く首を横に振りながら答えた。


「研究と言っても、まだ調べ始めたばかりだ。まともに調べるには時間が足りんよ」

「じゃあ何もわからなかったってか? はっ……このまま何にもわからずに、何の対策も打てずにこいつが暴れるようなら、俺は抜けるぞ。契約自体はもう果たしてんだからな」

「そう急くな。時間が足りないとは言ったが、何も分かっていないわけではない」


 たかだか数時間ではあるが、男たちも世界を敵に回す組織なだけあってそれなりの研究チームを保有している。そのおかげで、祈の体––––『天使』の体について分かったことがいくつかあった。

 しかし、そのことを話したところで解決方法になるわけではなく、そもそも今は話す時間があるわけでもなかった。


「だがそれよりも、今は仕事をするのが先だ」

「仕事だあ?」


 目の前の『天使』を捕えるという仕事をすでにしているというのに、その上さらに仕事だと言われたことでロジーは拒否感をあらわにした表情で男のことを睨んだ。何も話していないが、理沙も同じ感情だろう。


「侵入者がやってきた。恐らくは『天使』の兄だろう」

「兄って……戦力としては大したことない『腕の祝福者』だよね?」

「そうだ。それと、九条家の『祝福者』と、スキル保有者が数名だ」

「それだけか? 他の『祝福者』はどうしたよ。あいつを取り戻しに来たってんなら、もっと戦力を固めてもおかしくねえだろ」

「おそらくは独断なのではないか? この国の上層部に働きかけてすぐには動けないようにしておいたはずだからな」

「わざわざお兄さんの方を拘束する様にまで頼んでおいたもんね。そのうえで来るとなったら、あの子を助けるために強引に、ってことになるよね。妹や友達を助けるために危機に突っ込んでくるなんて、なんとも素晴らしい青春模様だね~」


 クリフォトは犯罪者たちで構成されている魔人組織だが、その力は表の権力者たちにまで影響している。今回の一件も、クリフォトだけでやっているのであれば早々に騒ぎを聞きつけられ、軍でも派遣されていたことだろう。

 だからこそ、そうならないようにあらかじめ国の上層部には手をまわしてあった。誠司を危険な目に遭わせたくないことも理由ではあったが、そういった理由もあって国は誠司に協力することを止め、逆に拘束するに至ったわけだ。


 だが、国に働きかけることができたとしても、誠司達がここにやって来てしまったことは事実であり、その状況は変わらないのだからロジーにとってはどうでもいい事だった。


「んなこたあどうでもいい。それで、俺達に何をしろってんだ?」

「奴らは連絡通路を通ってこちらにやって来ている。この部屋に来る前に捕らえておきたいものだが、最悪の場合は来るだろう」

「ハッ! 悪者のアジトの癖に、んなガキどもも止められねえのかよ。なっさけねえな」

「まあ、急造の拠点だしね~。それに、相手も『祝福者』ってことでしょ。二人もいたら、流石に厳しいんじゃないかなぁ」

「ともかく、こちらで止めるが、万が一の場合はお前が止めろ。ここまで来たのなら弱っていることだろうから、『天使』を拘束しながらであっても止めることはできるだろう」

「チッ。こいつだけでもダリいってのに……追加で報酬を寄こせよ」

「分かっている。それでは頼––––なんだっ!?」


 三人が今後の動き方について話をしていると、突然隣の部屋に拘束されていた祈が再び暴れだした。


「うっわ……すっごい暴れてるんだけど……どうしたの?」

「おいっ! 拘束はどうなっている!」

「見りゃあ分かんだろうが! ちゃんとやってんよ!」


 三人が騒いでいる間も祈は暴れており、先ほどと同様に縄も鎖も軋んだ音を立てている。


「クソッ! 今まで大人しかったのになぜ今になって……!」

「さっきも暴れてたけどね。まあ、こっちの話が聞こえてたとか、何らかの能力で助けに来てくれてることを理解したとかそんなところじゃない?」


 その考えは正しかった。誠司が近くにやって来ていることを理解し、ただ助けられるのを待っているわけにはいられないと拘束から抜け出そうとしているのだ。

 もし抜けることが叶わなかったとしても、暴れればその分敵の意識を集めることができ、誠司の行動を助けることができるだろうと考えての行動だった。


「くっちゃべってねえで手え貸せや、クソがっ!」

「こんなのどうしろって言うのさ! 僕は戦闘は専門外なんだけど!?」


 この場にはまともに戦える者、拘束できる者はロジーしかおらず、能力を使えない者は数がいたところで何の役にも立たない。

 それでも少しでも祈のことを消耗させることができれば、あるいは少しでも気を逸らすことができればと部下たちに命じて祈のことを銃で撃たせる。


 だが、それも大して意味があるようには思えず、銃如きでは大した傷はできず、傷ができたとしてもすぐに治癒されてしまい効果はない。


「クソッタレがああっ! おいっ、もうこれ以上は無理だ! まだ止めろってんなら、俺は消えさせてもらうぞ!」


 今回は先ほどよりも祈の抵抗が強く、ロジーは治癒したとしても先ほどの自傷による体力の消耗で力が弱まっている。

 そんな状況で拘束し続ければどうなるかと言ったら、そう遠くないうちに破綻することは目に見えている。


 他のスキル保有者もいるが、呼んだところで祈を拘束できる程の能力者はいない。数人揃えば効果はあるだろうが、その人数が揃うまでこの拘束が続く保証はない。

『祝福者』とスキル保有者の能力の差を考えれば仕方ないことではあるが、だからと言って素直にうなずけるほど優しい状況ではない。


「……チッ! 仕方ない。殺せ。生かしたまま確保できないのは惜しいが、死体だけでも価値はある!」


 できることなら捕まえたまま『天使』の肉体を調べたかった。だが祈から切り落とした腕を調べていたことからも分かるように、生きた状態でなかったとしても『天使』を調べることはできるとわかっている。


 だからこそ、リーダーの男は一瞬悩んだものの、すぐに決断を下した。


「つっても殺せるのかよこんなバケモン!」

「首を落として心臓を貫けばいい。それで終わらないのであれば全身をすり潰す。戦力をあつめる。もう少しだけ時間を稼げ!」


 通常の動き回っている状態であれば首を斬ることも心臓を貫くことも難しいだろう。だが拘束している状態であれば、難しいとしても不可能ではない。


「クソ女! 全力で気を引け!」

「だから僕は専門外なんだってば、もー!」


 そう言いながらも理沙は隠し持っている宝器や銃を使い、少しでも祈の気を逸らしていく。


 時間を稼いでいる間にリーダーが呼んだ援軍が到着し、一斉にスキルの詠唱をし始めた。


「今だ。殺れえええ!」


 そして全ての詠唱が終わり、合図とともにスキルが放たれた。だがそれでもまだ祈は––––『天使』は死んでいない。


 だが確実に弱っている。その隙を逃すことはなく、リーダーの男が剣を構えて祈の首へと振り下ろす。その時––––


「祈!」


 誠司が部屋へと辿り着いてしまった。



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