敵地突入
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「それで、ここに敵がいるってことだけど……先輩」
先輩の指示に従って祈が捕まったらしい場所までやってきたけど、そこはどう見ても普通の喫茶店だった。
だがそれは、あくまでも外観の話で、少し中の様子を覗けばここで何かあったんだろうってことは容易にわかった。きっとここで間違いないだろう。
もっとも、この建物の中だけで完結しているわけではないだろうから、どこかに隠し通路みたいなものがあって別のところに通じているんだろうとは思うが。
後は先輩の能力で中がどうなっているのか、敵はいるのかと言ったことを調べて突っ込んでいけばいい。
因みに、一応敵対関係ではなくなり和解の証として名前の呼び方を戻したが、長い間この呼び方をしていたことでこの方が呼びやすいな。ただ、それでも本当の意味で心から和解できたとは思えない。まあ、そんなのは俺だけで、先輩は本当にもうなんとも思っていないだろうけど。
「おめめは貸したげるからぁ、隙に動かして~。操作権限はあげるから~。……あっ! でもぉ、気づかれて壊されないようにね~? それが攻撃受けるとぉ、私の目も痛い痛いだからさ~」
「先輩の祝福のデメリットですか……」
「そ~そ~。ま~、結構早く動かせるしぃ、不意打ちでも喰らわない限りは大丈夫だと思うけどね~」
祝福には全てデメリットが存在しているが、先輩の能力は眼球の代わりに生み出した光の球がダメージを受けるとその痛みを共有することになるというもの。言ってしまえば俺と同じ類のものだ。
だが、腕と目では痛みの感じ方も違うものだろう。
とはいえ、それなりに早く動かすことができるので、先輩の言ったように気を付けてさえいれば攻撃を受けることはないだろう。
「それで……瞳子と桐谷はここにいてもいいのか?」
先輩との話が一区切りついたところで、俺は新たに突入メンバーとして俺達の仲間に加わった瞳子と桐谷へと顔を向けた。
「おいおい、呼んだのはそっちだろうがよ」
「少しでも戦力が欲しいんしょ? うちらだって嫌だったら来ないし、気にする必要ないじゃん」
「そうかもしれないけど……いや。来てくれてありがとうな。面倒かけると思うけど、できる限りのことはするから、今回は手を貸してほしい」
少しでも戦力がいた方がいいと考え、仲間を増やそうとした俺達は知り合いに電話をかけることにした。
だが、国と関係なく、なおかつ裏組織との戦いに参加させても問題なさそうな者と言うと、この二人しかいなかった。
俺は人脈が薄いし、九条は逆に人脈はあるけど全員がそれなり以上の地位を持っている者だから呼ぶことはできなかった。
なのでこの二人だけとなったのだが、まさか本当に来てくれるとは思っていなかった。
「おう!」
「オッケー。マジで任せてくれていいから」
電話をしてこんなところに呼んでしまった申し訳なさがある。だがそれと同時に、電話をしてすぐに迷うことなくここまでやってきてくれたことはとてつもなく有り難いとも思う。
「話は付いたようだけど、どうするつもりなの?」
「先輩から借りた目を使って内部の調査をする。それを元に突撃だな」
「呆れた。そんなの作戦なんてないようなものじゃない」
「けど、急がないといけない状況で悠長に事細かに調べてる余裕なんてないだろ」
「そうかもしれないけど、だからと言って全く考えなしに突撃していくのは違うわ」
「じゃあお前には何か考えがあるのか?」
そう問いかけると、九条は少しだけ自慢げな様子を見せた。本当に何か策があるんだろうか?
「ええ。もっとも、内部の構造が分からない以上ははっきりとは言えないけれど……相手の拠点は地下なのよね? できるだけ長い直線の通路はないかしら?」
「直線? ちょっと待ってろ」
そう告げてから先輩から預かった『眼』を動かしていくが……これは感覚が難しいな。『手』を動かすのとは似ているけどまったく同じではない。むしろ、似ている部分があるからこそ逆に動かしづらいかもしれない。
だがそんな中でも何とかして『眼』を操って建物の内部を調べていく。
隠し通路を見つけ、その先まで進んでいくと、想像通り地下室が存在しており、いくつかの部屋とどこかへ繋がっているかなり長い通路が存在していた。
「一応あった。けど流石に両サイドにドアがついてるぞ」
「廊下なんだから当然そうでしょうね。でも、それで構わないわ。だから、そこで勝負を仕掛けましょう」
その後は隠し通路の位置とその先の構造、突入後の動き方などを話し、俺達は敵の拠点である喫茶店に侵入することにした。
「––––意外と人がいないんだな」
「だねー。もっと警備とかいるんだと思ってたわー」
クローズドの看板がかかっている喫茶店の中に入ってみるが、中には誰もいなかった。先輩から借りた目で分かっていたことだが、実際に見てみると安心感がある。
だが、人はいないが場所自体はやはりここで合っているのだろう。建物の中はかなり荒れていて、何者かがここで戦ったことがわかる状態になっていた。
「普通のカフェにそんなのがいたらおかしいでしょ」
「待機するだけだったら地下でじゅうぶんだしね」
まあたしかに、こんな場所に警備なんていたらそれこそ怪しい。普通に何もしないのが効果的な守り方だろう。
とはいえ、警備がいないというだけで、守りがないというわけではない。隠し通路の先が騒がしくなっているのが聞こえてくるし、借りている視界には地下で動き回っている敵の姿が映っている。
「けど、人が来るみたいだぞ。俺達に気づいて少し騒がしくなってる」
「ま、悪の組織だもんな。センサーとか監視カメラとか……ああ、あれか? まああるよな」
「せっかくだしピースでもしてく?」
「する意味ないだろ。それより、瞳子。ここ壊してもらっていいか?」
そう言いながらキッチンの床を示す。隠し通路はこのキッチンの地下にあるんだが、開け方がわからない。どうせバレてるんだし、壊して進んだ方が早いだろ。
「おっけー。思いっきりやっちゃっていいんでしょ?」
「ああ。どうせ気づかれてるんだ。やってやれ」
それに、大きな音が出て騒ぎになれば、上層部だってもうここでの騒動を隠すことはできないし、すでに暴れているとなれば様子見をしてる意味もないんだから国が援軍を送ってくれるかもしれない。奴らにとっては、俺は死んでほしくない『英雄』だろうからな。
「りょうかーいっと」
そう言うと瞳子は足を振り上げ、思い切り床に振り下ろした。
轟音と共に床が抜け、その先に通路が見えた。その先にいる敵はそれまでも慌ただしく動いていたが、その音で蜂の巣をつついたように一斉に動き出した。
「いくぞ。急ぐけど、あんまり無茶はするなよ。最低でも死ぬな。死ななければ首だけになっても治してやるから」
「首だけになった時点で死んでねえか?」
「治るとしてもそんな経験はしたくないわね」
「あたしだって嫌なんだけど」
「そもそもうちらはそんなみっともないやられ方なんてしないっしょ」
そんなふうに軽口をたたきながら俺達は地下へと降りていく。
「来たぞ!」
階段を下りていると、その先から何人もの武装した男たちが銃を構えながらこちらに上って来ていた。
「先手必勝!」
男たちは俺達に気づいて銃を構えたが、それを使用される前に瞳子が敵の真っただ中へと突っ込んでいく。
そのまま階段にいた敵を蹴散らして進むと、少し広めの部屋へと出た。
そこでも敵が待ち構えていたが、スキルを発動している今の瞳子相手では多少の銃弾程度ではまともにダメージを与えられないでいる。
「俺にも出番をくれよな!」
瞳子が敵陣へと突っ込んでいったことで敵は混乱していたが、その隙をついて接近した桐谷が刀を抜いて敵へと斬りかかった。
桐谷の刀はまるで何も邪魔するものがないかのように真っすぐ進み、奇麗に敵を切り裂いていく。中にはスキルを使って攻撃を防ごうとしたものもいたが、防ごうと構えた武器ごと桐谷の刀は切り裂いていく。
あれが桐谷のスキルだ。刃物の切断力を上げるというそれだけだが、単純なだけに強力な能力。
ただの剣だと思ってるとそのまま斬られることになるため、こんなふうに混乱している状況だと対処もできずに斬られるしかない。
「お前の話は聞いたことあるし、学校ではそれなりに近くにいると思ってたけど、なんだかんだで一緒に戦うのは初めてだな!」
そんな二人を助けるように俺も『手』を伸ばして敵の邪魔をしていくが、言われてみればそうかもしれないな。今まで授業では一緒に行動することはあったが、今回みたいな命がけの事件だか事故だかに突っ込んでいくのは初めてだ。
「今まで助けてもらったお礼。百倍で返してあげるから!」
助けたことなんてなかっただろ。瞳子とは今まで一緒に戦うことはあったが、それは助けてやったんじゃなくて俺も助けられたんだからお互い様だ。
俺こそ、今回こんなところまで来てくれたんだからお礼したい気分だよ。ここを出たらそれこそ百倍で返してやる。
「そんな悠長に話していないで、早く進みなさい!」
「桜! あんまし前に出ないでよ! 危ないってば!」
敵が少なくなった部屋を進んで先に行こうとする九条と藤堂を追いかけ、俺達も敵を倒しつつ先に進んでいくことにした。




