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助けたがりの英雄は普通に生きたい  作者: 農民ヤズー


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無駄じゃない!

 

 ——◆◇◆◇——


「こっちは確かにお前のことを殺すこたあできねえよ。けどな、殺さなきゃあいいだけなんだったらどうにでもなるんだよ! オラアッ!」

「ぐっ……!」


 祝福を使っていくつもの腕を出したけど、それだけで対処しきれるほど戦闘用の『祝福者』というのは弱くはなかった。


 腕を伸ばしても避けられ、弾かれる。一つでダメなら複数で、と襲い掛かっても、そのすべてが対応されてしまう。

 しかも、本気じゃなくてこれだ。一応祝福自体は発動させたみたいだけど、簡易的なものでしかない。


「おうおう、どうしたよ。そんな腹押さえちまってよお。そんなんで助けに行くんだ、なんて騒いでんのか? てめえ『英雄』なんて呼ばれて調子こいてんじゃねえだろうな。てめえはな、所詮政治の道具にするために『英雄』になった単なる道化なんだよ」


 そんなの、誰に言われるまでもなく知ってるさ。俺だけじゃない。ある程度の立場にいる奴らなら全員知ってることだ。そんなことを今更言ってるなんて、お前バカなんじゃねえのか? それとも、俺のことが羨ましいのか?


「俺は、一度も自分で『英雄』なんて名乗ったことはねえよ。お前らが勝手に呼んだだけだろ」


 そもそもの話、俺は『英雄』なんて名乗ったことはないし、『英雄』に成り立ちと思ったことがあるわけでもない。むしろ、『英雄』なんてなりたくなかったんだ。それなのに勝手に呼んだのはお前達の方だろうが。


「『英雄』になりたくてもなれない三下としては、俺のことがムカつくか?」


 どんなに強い力を持っていても、お前は『英雄』じゃないもんな。『英雄』なのは俺と、大手の三大クランのトップたちくらいなもので、こいつはあくまでも〝二番手〟でしかないんだ。

 どれだけ頑張っても上にはいけず、なのに俺みたいな雑魚が『英雄』なんて呼ばれてたら、そりゃあ気に入らないよなあ。


「てめえ、本当に調子のってんじゃねえぞ?」

「調子に乗ってんのは、どっちだよ……」


『祝福者』になったからって、子供のことを利用するためにただでさえ悲劇に見舞われていた家族をさらに追い詰めて、壊して、最終的には騙して無理やり契約を結ばせる。

 そんな契約だって未成年なら解約できるはずなのに、利用価値があるからって色々と理由をこねくり回して却下して利用し続ける。


 挙句の果てに、こっちが助けてほしいって言ったらその願いすらも聞き入れないどころか、こうして力で制圧して捕まえようとする始末だ。


 なあ、そんだけやりたい放題やってて、どっちが調子に乗ってるって言うんだ? お前らは調子に乗ってないって言うのかよ。なあ。


「俺は『英雄』じゃない。俺はお前たちの犬じゃない。俺は、お前たちの言いなりになる道具じゃない!」


 叫びながら立ち上がり、鬼崎に向かって百を超える腕をけしかける。

 腕が相手に近づくたびに壊されていくが、それでもかまわない。壊されていく端からどんどん追加していく。


「誰かを助けることがそんなに悪いことなのかよ! 妹を助けたいって思う気持ちがそんなに許せないことかよ! たった一人の家族なんだ。あの時助けることができた大事な家族なんだ! それを見捨てろなんて、そんなふざけたことをどうして言えるんだよ!」


 どれだけ不条理な契約で、どれだけ理不尽な対応だったとしても、俺は今までお前たちの言うことを聞いてきたはずだ。だったら、今まで尽くしてきた分一度くらい力を貸してくれてもいいだろうが。


 力を貸せないって言うんだったら、せめて俺の行動を見逃してくれよ。祈だけは……あいつだけは守らないといけないんだ。あの時助けられなかった代わりに、今度は守ってみせるって誓ったんだから。


 俺はお前たちが何と言おうと、何をしようと、絶対に諦めないし、見捨てない。


「馬鹿がっ! 無駄だって言ってんだろうが!」

「無駄じゃねえ!」


 終わることなく差し向けられる腕が気に入らなかったのか、鬼崎は苛立ったように腕を振りまわし、迫っていた腕を一気に消し飛ばした。

 けど、無駄なんかじゃない。今のが消されるなら、また作ればいい。足りないのなら、もっと増やせばいい。


 そうして増えた腕を見て余計に苛立ったのか、鬼崎は歯をむき出しにした鬼のような形相で自分に迫る腕を消しながら俺へと突っ込んできた。


 そして……


「無駄だって言っただろうがよ、馬鹿がっ!」


 視界を覆いつくすほどの腕の壁を抜けて、鬼崎は俺の腕を掴んで組み伏せた。


 これで最初と同じ体制になってしまった。けど……


「俺は無駄じゃねえって言ったはずだぞ、馬鹿が」


 同じ態勢であっても、同じ状況ではない。

 さっきは素の状態だったけど、今は祝福を使ってるんだよ。


「こっちはいくらでも治せるんだ。腕の十本でも二十本でも、折たければ折れよ。その代わり、あんたの腕をもらってくぞ」


 鬼崎は俺の腕をひねって抑え込んでいるが、代わりに俺は鬼崎の腕に何本もの腕を巻きつかせている。鬼崎も能力を使っているから体が丈夫になっているかもしれないが、全力でやれば腕を折ることくらいはできる。


 その代償に俺の腕も折られることになるだろう。

 でも、それがどうした。腕なんて折れたら治せばいい。どうせ殺すことはできないんだ。だったら何も気にする必要はない。


「治るっつっても、痛みはあんだろ……。イカレてんじゃねえのか?」

「家族を助けるために必要なんだ。だったら、腕だろうが足だろうが、首だったとしてもくれてやるよ。その程度の覚悟なんて、あいつと家族になったその時からできてたよ」

「……はっ。マジでイカレてんな」


 俺からしたら、自分たちの欲のために他人の幸せを踏みにじることができるお前たちの方がイカレてるよ。


「腕を折られたくなきゃ放せよ」

「その程度で俺がビビるとでも思ってんのか––––があっ!」


 放すつもりはなかったようなので、最後まで言葉を聞くことなく鬼崎の腕を折り、拘束が緩んだところで全ての腕で鬼崎を突き飛ばして距離をとる。

 その際に俺の腕も折れたが、どうでもいい。どうせ後で治せるんだし。


「てめえ……まだ話してる途中だっただろうがよ」

「おしゃべりがしたいんだったら自分の家族とでもしてろよ」


 折れた腕に手を当てながら祝福で癒していく。この場で完全に治すことはできないが、ひとまずは問題なく動かせる程度までは治すことができた。


「俺はあんたたちが相手だとしても絶対に諦めない。手足をなくす覚悟ができてないなら引っ込んでろ!」

「そう。ならごめんなさいね。覚悟なんてできてないけれど、割り込ませてもらうわ

「っ!?」


 どこかから別の誰かの声が聞こえてきた直後、空から炎の塊が降ってきた。


「まったく……私の方まで手を煩わせないでほしいわね。あなた一人で大丈夫だって話だったでしょう?」

「チッ……問題ねえよ。お前が割り込んでこなくても、俺だけで終わらせられたっての」

「でも、その場合は結構時間を使うことになったんじゃないの? あの子、私達よりもずっとイカレてるわよ」

「流石は『二重祝福者』ってこったろうな。〝願い〟が二つともなれば、その影響だって強くなんだろ」


 とっさに腕を重ねて防いだが、炎が消えた後に姿を見せたのはいかにも魔女といった格好をした女性だった。あれは、確か鬼崎と同じ三大クランの一つで副リーダーをやってる安心院だったか?

 ……先輩もいたけど、そうなると三大クラン全部が敵に回ってるのか。トップ自身が来ないのはありがたいことだけど、まあ忙しいからこんな些事に関わってる暇はないんだろうな。


「ほんとう、ごめんなさいね。個人的な恨みはないし、今回の話し自体もどうでもいいと思っているのだけれど、だからと言って動かないわけにはいかないのが社会人の辛いところなの。理解してちょうだい」


 けだるそうな様子で話しかけてくる安心院からは本当に申し訳なさそうに感じている雰囲気が感じ取れる。

 だが、だからと言って手を抜くつもりはないようで、頭の上には祝福の使用中であることを示す光輪が浮いている。


「そういうわけだから、死んでちょうだ––––ああいえ、死んだらまずいんだったわね。面倒だけれど加減してあげるから、しばらく寝ておきなさい」


 そうして空に浮かぶ無数の魔法。


「おい……マジで殺すなよ?」

「分かってるわよ。相変わらず、言動は大きいくせに肝っ玉は小さい男なんだから」

「てめえらがいい加減すぎるんだろうが」


 気楽に話している鬼崎たちとは違い、こちらはとてもではないがそんな気持ちになる事はできない。


「ぐ、うううう……ああああああああっ!!」


 そして、空に浮いていた無数の魔法が俺めがけて降り注ぎだす。

 さっきの魔法の威力からすると、一つでもまともに喰らえば行動不能になるだろう。

 一つも受けてはならないと、必死になって避け、防ぎ対応していくが……


「九分四十二秒か……十分には届かなかったけれど、まあまあいいデータが取れたわね」

「……あの程度の能力で、十分も耐えるのか……バケモノだな」


 結局逃げることも耐えきることも、敵を倒すこともできずに魔法による攻撃を受けてしまい気を失うこととなってしまった。



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