道が違っただけ
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「ほわぁ? はいは~い。しもしも~?」
「先輩、いきなりすみません。少しお願いしたいことがあります」
「ほ?」
やっぱり、俺が頼るとしたらこの人になるな。なんだかんだ言って役に立つ人だし、権力も持ってる人だし。
藤堂との電話を終えた後、俺は祈の行方を調べるために方々に電話をした。けど、その結果は芳しくなかった。
なので、最後に頼れる相手として先輩に電話をすることにしたのだ。
「……うーん。確かに、いのりんがこの時間まで帰ってないって言うのはおかしいかもね~。今までそんなこと一回もないんでしょ~?」
「はい。先輩もご存じですが、祈は〝特殊〟ですから。たとえ誰かと行動を共にしていたとしても、どうしても外せない用事がある時以外は多少強引でも帰ってきますし、帰れなかったとしても連絡を忘れることはありません」
「だよね~。それでぇ、どーすればいいの~。なんか頼みたかったんでしょ~?」
「実は、学園からクラスメイトと一緒に出ていった可能性があるんですけど、それ以降の足取りが分かっていないので監視カメラやなんかで調べてもらえないかと」
この学園島には、スキルの保有者がたくさんいるだけあって町中に監視カメラが設置してある。それを調べれば、祈の行方を調べるくらいできるだろう。
「ふ~ん。まあいいけど……でもぉ、そんなんだったら『上』に頼んだ方が早くな~い?」
「それは……そうなんですけど……」
確かに、先輩の言う通りそうするのが一番手っ取り早いだろう。だが、それは無理だ。いや、無理だったんだ。
「もしかってぇ、断られたりした~?」
先輩の言葉にぐっと拳を握る。だが、そうだ。先輩に電話をする前に、俺自身そっちの方が早いだろうと思って『上』に連絡をした。けど、どういうわけか断られたのだ。
正確には断られたわけではないか。ちゃんと調べると言われたのだから。そして、実際に調べたのだろう。だが……
「……はい。調査自体は受け入れてもらえましたけど、その結果を教えてもらうことができませんでした。祈が捕まるような相手であれば、俺が行ったところで対応できるとは思えないと言って」
調べてもらった結果、祈が町中にある喫茶店に入ってからしばらくして騒動が起き、それ以来何の動きもなく祈も出てきていないというものだった。
そこまで分かっているんだったらさっさと場所を教えてくれと頼んだが、『上』の方で何とかするからと教えてもらえなかった。
「あ~。まあせいじーちゃんって弱いもんね~。お国としては貴重な『英雄』を死なせるようなことはしたくないんでしょ~ね~」
「そうかもしれませんが、俺は祈を見捨てるなんてことはできません」
『英雄』だから助けに行けないなんてふざけた理由なんだったら、俺はそんな『英雄』なんてやめてやる。国に協力することは契約として結んだけど、『英雄』なんてお遊びに付き合うことまでは契約に入っていなかったからな。
それに、もし契約に入っていたとしても、あるいは契約を盾にして言葉をこねくり回して止めようとしても、関係ない。そんな契約だったら破って逃げ出すに決まってるだろ。そんなものを破ったところで、日本に住めなくなるだけでしかないんだから。
「見捨てるっていうのとは違うんでなぁい? ただちょっと準備に時間がかかるけど専門家に任せましょ~、って感じでしょ~?」
「そうかもしれません。……でも俺は、祈を助けないといけないんです。そう〝願い〟、誓ったんですから」
この〝願い〟が叶えられないようなら、多分その時に『俺』は壊れると思う。だって、今の俺の中にある本物の〝願い〟は、祈を幸せにすることだけなんだから。
「……因みになんだけどぉ、これで私が見つけたら一人で突撃しちゃう感じ~?」
「はい。できることなら先輩に協力してもらいたいとは思っていますが……」
「んみゅ~……ごめんだけどぉ、そこまでは無理かも~? っていうかぁ、戦力で言ったら私も戦力にならないし~」
「はい、分かってます。なので、居場所を突き止めてくれればそれで構いません。一人で、と言ってもやりようはありますから」
全く戦闘力がない先輩ではあるが、その能力は強力だ。偵察役としては最高峰の戦力となるだろう。
けど、そこまで無理強いするつもりはない。祈の場所さえわかれば、それを教えてくれるだけで十分だ。
「……おっけー。そいじゃあ、ちょこっと待っててね~」
そうして電話が切れてから十数分後。待っている時間が数時間にも感じられたが、そんな時間もようやく終わりを迎えた。
「––––しもしもー」
「先輩。どうでしたか?」
「結果の前になんだけどぉ、ちょっと外を確認してくれなーい? 人を送ったのー」
「人、ですか……?」
「そーそー。詳しくはそっちと合流してから話すからさー。多分もうそろ外にいると思うんだけどー……」
なんて話をしていると、家のチャイムが鳴った。どうやら先輩の言う通りほんとうに人が来たようだ。
「あ、今来ましたね」
「おっけー。それじゃあ、ちょっと外に出てくれるー?」
「はい、分かりました。……先輩。ありがとうございます」
「……」
「先輩?」
どうしたんだろう? なんだか急に声が聞こえなくなったけど……向こうで何か作業でもしてるんだろうか?
とりあえず外に出てみるか。でも、人を送ったってことは、その人たちと協力して祈を助けに行けってことなのかな? だとしたら、先輩には感謝しかないな。普段は抜けてるところとかあるから頼りにならないような感じがするけど、やっぱりそんなことはなかったな。
そう思いながら玄関のドアを開けると……
「がっ……!?」
突然腕を引っ張られ、外に出されたかと思ったら地面に叩きつけるように抑え込まれた。
なんだっ!? いきなり何が起こったって言うんだよ!
「あー、『先駆者』の鬼崎だ。目標の確保は終わったぞ。……ああ、問題ねえよ」
俺を抑え込んでいる人物は誰かと話をしているようだけど、『先駆者』って確か先輩の所属してるところと同格の大型クランだよな? しかも鬼崎って言ったらそこのナンバーツーじゃないか。そんな奴がどうして……
「訳が分からねえと思うが、悪いな。大人しくついてきてくれや」
そう言いながら俺のことを無理やり立たせようとしたが、訳が分からないけどこのままじゃ祈を助けに行くことができなくなるような気がする。
「あ、げ……ぐふっ」
「させるわけねえだろうがよ。ったく……こっちだって『祝福者』なんだ。対策くらい心得てるに決まってんだろ。いいから着いてこい。そうすりゃあ無駄に殴ったりはしねえし、説明も後でしてやっから」
そう判断した俺は祝福を使って逃げ出そうとしたけど、その前に思い切り腹を殴られて黙らされることとなった。
なんでだ。なんでこんなことになってるんだ。なんだってこんな奴らが俺を捕まえに来たんだよ……
「なん、で……」
「説明は後でっつっただろ」
『まー、いーんじゃなーい? それくらい教えてあげてもさー』
「あ? んだよ。まだ電話繋いでたのか?」
不意に先輩の声が聞こえてきた。けど、その内容は俺の求めている者ではなかった。
人を送ったといってやってきたのは俺を捕まえようとした人物で、先輩はそんな人物と仲良さそうに話をしている。
となれば、そんな状況から考えられるのは一つだけだ。
「せん、ぱい……? まさか、あんたも……?」
『ごめんねー? 私としてもぉ、できることならいのりんを助けてあげたいとは思うんだけどねー。でも上の方で色々と決まっちゃったみたいでさー。うちのリーダーからストップがかかっちゃったのよねー』
つまり、この人は俺の味方なんかじゃなかったってことだ。
人を送ったというのは嘘ではなかった。けど、それは俺を手助けするためではなく、俺を捕まえるため。
『でも、なんにも分かんなかったとしてもぉ、せいじーちゃんは自分だけでも動いちゃうでしょぉ? そーなると貴重な『英雄』が死んじゃうかもしれないからー、ってことで、確保することになったのよー。私としてもリーダーからの命令は逆らうと面倒だしぃ、ほんとーごめんねー?』
……そう、なるか。まあ、そうだよな。最大手のクランって言っても、そこの二番手で、世界的にも有名な『祝福者』だって言っても、所詮は国に所属している者なのだ。上から言われれば、それに従うしかないだろう。
それは理解できるさ。仕方ないことだとも思う。でも、それでもさ……こんなのってないだろ。
「……結局、貴方も俺達を裏切るんですね」
『悪いとは思ってるんだけどぉ、でも私は私のために動くって知ってるでしょー?』
「そうですね。ああ、そうでした。あなたは〝そういう人〟だった。裏切ったんじゃなく、ただ今回は俺達と道が違ったから敵対しただけで、そこに他の意図はないんでしょうね」
『そーそー。さっすがよくわかってるー』
「ええ、勘違いしてました。期待した俺がバカだった」
今まではあくまでも敵対する要因がなかった上、協力関係を結んでいることに利点があったから助けてくれていただけだったのだ。俺はそれを勘違いしていた。
「ちなみに、一つ聞いておきたいんですけど……俺を捕まえるのにこれだけの戦力をそろえる事ができたのなら、祈を助けるために動くことだってできたんじゃないですか? 祈だってこの国の『祝福者』で、死なれては困る戦力なんじゃないんですか?」
『あー、言われてみればそうかもー? でもまぁ、そうしないってことはぁ、何かしらの考えがあるんじゃなーい? それにぃ……そもそもいのりんって死なないでしょ?』
先輩の言っていることは正しい。国の判断も正しいのだろう。死なないのだから、しばらくは放っておいて準備が整ったら仕掛けよう、と。
でも、そんなことを認めるわけにはいかない。
「……一応聞いておきます。今から手を貸してくれるつもりはありますか?」
『ないかなー。悪いとは思わなくもないんだけどねー? でも、私達ってそんなものでしょー?』
「そうですね。〝願い〟のために生きて、それ以外はどうでもいいろくでなし。それが俺達『祝福者』ですから」
バカだな。この人が絵を描くこと以外に本気になるはずがないんだから、上から命じられればそれに従うなんて最初っから分かってたことだろうに。
「おい、話はもういいだろ。行くぞ」
「はあ……分かりました。抵抗したところで勝てないみたいですし」
そう言いながら立ち上がり、鬼崎が引っ張るのに合わせて歩き出す。だが……
「なんて……」
「なっ!?」
「そんなこと言うと思うかよ!」
能力を使っていないのだから威力なんて乗っていない。それでも油断していたところに顔面に入った頭突きだ。多少は効くだろうよ!
「勝てないからって諦めることができるようなら、俺は『祝福者』になんてなってないんだよ!」
俺の拘束が緩んだ瞬間に身を投げ出すようにその場から距離をとり、同時に祝福を発動させる。
「俺は祈を助けに行く。それが俺の〝願い〟なんだからな」
「クソがよお。仕事増やしてんじゃねえっての」
仕事増やしてんじゃねえってのはこっちのセリフだ、クソ野郎ども!




