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助けたがりの英雄は普通に生きたい  作者: 農民ヤズー


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帰ってこない祈

 ——◆◇◆◇——


「祈?」


 部屋でいつものようにだらだらとしていたのだが、そろそろ夕食の時間だなと思ってリビングに向かったところでいつもとは様子が違うことに気が付いた。


 いつもは家に帰ると祈が家事をやっている。別にそんなことしなくてもいいと言っているし、なんだったら家政婦を雇おうとしたのだが、祈は家族のためになる事は全てやりたいといって、実際に言葉通り家のことは全て祈がやるようになった。


 夕飯もそうだ。学校から帰った祈が夕飯を作ることになっているのだが、今日はどういうわけか何の匂いもしないし、キッチンを覗いても何の用意もされていない。


「……この時間でもまだ帰ってきてないなんて珍しいな。……いや、初めてか?」


 友達と遊んでるってんならそれはそれでいいし、なんだったら喜ばしいことだけど……


「多分、それはないよな」


 別に遊ぶなとか、絶対に家事をやれとは言わないさ。でも、祈のことだ。どうせ何か遅れる用事とかができたとしても、一言断りの連絡を入れてくるだろう。無断でどこかに遊びに行くというのはあり得ない。


 にもかかわらず、今日は何の連絡もなく、家に帰ってきていない。どう考えてもおかしい。


 何か事件に巻き込まれた、という可能性も考えたが、それはないだろうとすぐに否定した。だって、祈だぞ? あいつが事件や事故に巻き込まれたとしても、力技でどうにかできるし、どうにかするに決まってる。


 どんな状況だって祈が死ぬことはない。そう確信しているだけに、何か事件に巻き込まれたと考えるのは難しかった。


「学校か? 何か異常事態があって生徒会の仕事が遅れてるとか……」


 その可能性もないわけではないと思う。ただ、それにしたって遅すぎるよな。

 それに、生徒会の仕事で遅れることがあったとしても連絡くらいは許してくれるだろうし、許してもらえなかったとしても強引に連絡してくるのが祈だ。


「とりあえず電話するのが先か」


 そう考えて祈のケータイに電話をかけてみるが、電源が入っていないようだ。

 気づいていないだけなら何回もかけ直せば気づいてもらえるかもしれないが、そもそも電源が入ってないとなったらどうしようもない。


「九条……いや、先に藤堂にかけるか」


 どうするかと考えた結果、そうすることにした。

 もし本当に生徒会で仕事をしているのであれば、九条にかければ邪魔をすることになる。

 だが藤堂なら、まあ九条が生徒会として仕事をしている間は暇だろうし、護衛として一緒に行動しているんだから九条が生徒会として学校に残っているかどうか位は分かるだろう。


 今まで一度も電話をかけたことはなかったが、以前に番号の交換だけはしていたのが役に立つ。

 大丈夫だとは分かっているが、それでも心の中で少しだけ焦りを感じながら藤堂に電話をかけていく。


『はーい。どうしたの? あんたから電話してくるのなんて初めてじゃん。っていうか、そもそもこうして電話したことだってなかったでしょ』


 まあ、学校ではそれなりに話すとしても、電話なんてして話すような仲でもなかったからな。特に電話をかけるような行事や予定があるなんて話もしてないし、いきなり電話をしてきたのは不思議だろうな。


「ああ、いきなり悪いな。ちょっと聞きたいことがあって電話したんだけど……もう生徒会は終わってるのか?」

『は? 生徒会って、桜の事? そんなのとっくに終わってるけど……』

「今日は特別何か遅くなったりとか、予定外の何かがあったとかはないんだよな?」

『え、まあ何があったかまでは知らないけど、生徒会自体は普通に終わったっぽいけど。あたしが桜と合流したのはいつも通りの時間だったし』

「そうか……」



 やっぱりもう終わってたのか。でも、だったら祈はどうして帰ってこないんだ? 他に用事ができた? いや、その場合は連絡するだろ。

 そうなると……何かに巻き込まれた……いや、巻き込まれただけじゃ無事なのは分かってるだろ。だから考えられるとしたら……祈自身が狙われた?


『ねえ、マジでどうかしたの? っていうか生徒会が関係してるんだったら桜に直で電話すればよかったんじゃない?』

「あ、ああ。そうしようかと思ったんだけど、ほら。九条ってお嬢様だろ? なんか電話してもいいものかってしり込みしてな」

『あたしなら遠慮しなくていいってわけ? それなんか失礼じゃない?』

「そういうつもりじゃ……いや、悪いな」

『……何よその反応。こっちが悪いみたいじゃん』


 電話越しに溜息を吐く藤堂の声が聞こえてきたが、確認したいことはできたのでそれ以上話すことはないと電話を切ろうとしたのだが、その前に藤堂が話しかけてきた。


『それで、何があったの? なんかあったんでしょ。じゃないとこんな電話なんてしてこないだろうし、普段と態度が違いすぎるんだけど』


 そんなことを聞いてきたが、話してどうなるものでもないだろう。もし本当に祈自身が狙われたのなら藤堂に話したところで何の解決もしないし、それどころか面倒に巻き込むかもしれない。


 ……だが、もしかしたら違うのかもしれないし、話して相談してみた方がいいのだろうか?


「……実は、祈がまだ帰ってきてなくてな。電話をかけてみたけど繋がらないし、それでまだ生徒会の業務に時間がかかってるんじゃないかって思ったんだよ」

『なーんだ。そんなことだったわけ? そりゃああの子だって帰るのが遅くなることくらいあるでしょ』

「いや。それはない。あり得ないんだ」


 そうだ。祈が連絡もなく遅くなるなんてことは絶対にありえない。だって、あいつは〝そういう奴〟なんだから。


『ありえないって……随分はっきり断言するじゃん。まあ、あの子ってそんな友達いる感じじゃないし、どっかで誰かと遊んでる、なんてことはないのかなぁ? でも一応女子なんだし、どっかによって連絡し忘れたとかは普通にあり得るんじゃないの?』

「いや、あいつは〝そういう奴〟なんだよ」

『そこまで断言されるとブラコンが心配になってくるんだけど……』

「とにかく、生徒会はもう終わってるんだよな。ありがとう。いきなり電話して悪かったな」

『いや、それは良いんだけど––––え? 何? 電話?』


 話していると電話の向こう側が少し騒がしくなった。誰かと話しているようだが誰だろうか? 何か忙しい状況なんだったら電話を切ってもいいんだけど……


『あーっとさ、桜がなんか話したいみたいだから、ちょっと電話代わるね』

「え? あ、ああ」

『電話の途中で割り込んで悪いわね』


 どうやら電話の向こうで話していたのは九条のようだ。

 でも、そりゃあそうか。護衛として一緒にいるんだし、一緒に暮らしてるとも言っていたからこの電話を一緒に聞いていてもおかしくない。


「それはいいけど……なんだ突然。話したいことがあるって……」

『そばで聞いてたんだけど、祈さんがまだ帰っていないんでしょう? そのことで一つ思い当たることがあるのよ』

「本当か!?」


 思わぬところから答えが判明しそうになり、俺は思わず声を荒らげてしまった。


『え、ええ。生徒会で一番最後に話したのが私なの。それで……えっと、ちょっとした約束をしたのだけど、その時はそれでおしまいだったわ』

「じゃあ生徒会が終わるまでは何の問題もなかったわけだ」

『そうね。それでそのあとなのだけど、祈さんが生徒会室を出て行ってから少しして私も部屋を出たの。でもその際に誰かと……おそらくは三友さんかしらね。彼女と一緒に歩いていくのを見たの』

「……三友さん?」


 誰だ? この口ぶりからすると知っていてもおかしくない……というか知っていて当然、というような感じな気もするけど、正直なところ全く思い出せない。


『もしかして、同じクラスの人を覚えていないの?』

「……ああ。でもあれか、その言い方だと、クラスメイトなのか」

『ええ。私達とは関係はあまりないけれど、そこそこの会社の一人娘だったはずよ』

「よく覚えてるな。……それで、その三友と祈が一緒に帰ったってことか?」

『そこまでは分からないわ。私が見たのは廊下を一緒に歩いていく姿だけだから。もしかしたら偶然出会ったから玄関まで一緒に歩くことにしただけかもしれないもの』

「そうか……。いや、だとしてもそれが分かっただけでも助かるよ。ありがとう、九条」


 役に立つかどうかは分からないけど、何もわからないでいるよりは前進した。それが分かっただけでもありがたいことだ。


『これくらい、どうということもないわ。それよりも、祈さんに何かあるならこちらでも調べてみるわね』

「いや、そこまでしてもらうわけには……」

『いいのよ。私がしたくてするんだもの』

「九条……」

『それから、何かほかに手伝えることがあるなら躊躇わずに電話してくれて構わないわよ』

「……ありがとう。その時は、頼らせてもらうよ」


 そう言って俺は電話を切った。


「祈……」


 遊んでいるだけで、思わず連絡するのを忘れてしまっただけというのならいいんだけど……


 そんなふうに祈りながら俺はさらに知り合いへと電話をかけることにした。



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