祈の交友関係
——◆◇◆◇——
・祈
「皆さん。本日の作業はこれにて終了となります」
誠司達と教室でぼやいていた日から数日経った放課後。祈はいつものように生徒会の仕事を行っていた。
「祈さん」
だが、普段は帰りの挨拶をしてそのまま解散していたというのに、今日だけはいつもと違っていた。祈が廊下に出ると、その後を追って九条が廊下に出て祈に声をかけてきたのだ。
「いえ、その……言うまでもないことだと思うけれど、気を付けて帰ってくださいね。最近はおかしな事が起きてるとのことですし……」
昼食を共にとる関係上、九条達も誠司達の身に起こったことをある程度は知っている。その為、二人の身を案じて声をかけてくることはおかしいことではなかった。もっとも、言葉自体はおかしくないとしても、その態度は普段の九条のものとはどことなく違っていたが。
だが、祈はそんな九条の変化を気にも留めず話を進めていく。
「ありがと。でも、突然事故られても死ぬことはないし大丈夫だから」
「そうですか」
「うん。心配してくれてありがと」
「いえ、お二人に何かあっては大事ですから」
そうして二人の話は終わり、沈黙が訪れたことで今度こそ帰ろうかと祈が考え始めたその時、九条が眉を顰めながら小さく呟いた。
「……いや、そうじゃなくって……」
「?」
常人には聞こえない言葉でも祈には聞こえてしまう。
突然何かを言い出した九条のことを疑問に思い、祈は首をかしげることとなった。
だがその疑問はすぐに解消することとなった。
「祈さん。今度、休日にお時間をいただくことはできますか?」
「時間って……何かするの?」
「……申し訳ありませんが、祈さんたちが話しているところを聞いてしまいまして。祈さんが歩み寄ろうとしてくれているのにこちらは待っているだけというのも不義理と申しますか……」
どうやら以前祈たちが話をしていた〝九条と友人になる〟という話を聞いていたようだ。
だが、そう話している九条はどこか照れた様子で視線が定まらず、声も震えているように感じられる。
そんな九条からの言葉をうけて、祈は少し考えこんだ様子を見せ……
「いいよ。それじゃあ今度遊びにいこっか」
「本当ですか? ありがとうございます」
祈の返事に喜びの色を見せた九条。どうやら話を聞いていたからという理由だけではなく、純粋に祈と仲良くなりたかったようだ。
そうして約束をした二人は今度こそ解散することになり、九条は護衛である藤堂を待つためにそのまま残り、祈は帰るために一人歩きだした。
「ねえ、佐原さん。ちょっといい?」
「はい。……ああ、三友さんか。どうしたの?」
だが、そのまま帰宅というわけにはいかず、少し廊下を歩くとまたも祈は声をかけられたのだが、その相手はクラスメイトの三友という女子生徒だった。
とくに祈と仲良くしている、というわけでもなかったはずだが、いったいこんな時間まで残っていてどうしたのだろうかと内心で疑問に思いながらも祈は三友に向かい合う。
「あー、っとさ。この後って暇だったりする? せっかく同じクラスになったんだし、もうちょっと仲良くしたいなって思ってさ。私達これから街に遊びに行くんだけど、一緒にどうかなって」
「遊びに……。あの、私は––––」
このまま帰る、と断ろうとしたが、兄である誠司の言葉を思い出し、考えを改めることにした。
三友というクラスメイトのことは特になんとも思っていない。正直に言って祈にとっては有象無象、その他大勢と大差ない存在でしかない。正直なところ、そんな存在が自分を誘いに来た、というのも違和感がある。
だが、そんな存在であったとしても、『学校帰りに遊んだ』と誠司に報告すれば、きっと誠司は喜ぶだろう。それに、親しくならなかったとしても、ここで縁を作っておくのは悪いことではない。
感じた違和感も、自分がまだ人間というものについて完全に理解したわけではないからそう感じただけだ、と判断することにした。
「……ううん。その方が兄さんにとっていい結果になるかもしれない、かな」
それに、私自身も九条さんと会う時の練習になるし。と判断し、祈は三友の言葉を了承することにした。
「え?」
「ああ、ううん。何でもない。いいよ。そんなに遅くならないように少しだけでいいんだったら、一緒させてもらってもいいかな?」
「うん! こっちから誘ったんだし全然いいよ! それに、『祝福者』兄妹の片割れと縁を作れるだけで儲けものだし、ここで縁を作っておけばまた今度付き合ってもらえるかもしれないでしょ?」
「そんな堂々と言っちゃうの? 普通隠さない?」
「だって、隠したってこっちの魂胆なんて丸わかりでしょ? 状況が状況だし、今の二人に近寄ってく人なんてみんな同じようなこと考えてるに決まってるって」
「そうだけど……自分で言うのは違くない?」
どこかぎこちない笑みを浮かべながら話している三友に対し、祈は楽しそうに笑ってみせた。
「それで、どこに行くの?」
「う、うん。えっと、一応同じクラスだけど、お互いの事ってよく知らないし、とりあえずは街に出てカフェでも行こうかなって思ってるんだけど」
「そっか。じゃあ行こ」
その後、二人は学園の敷地を出てカフェに向かったのだが、祈は学園を出た時から……いや、出会った時から三友の様子は何かおかしいと感じていた。その違和感が徐々に強まっていたのだった。
「––––ねえ。何か困ってることでもあったりする?」
違和感を感じたがどうすればいいか分からない祈は、いっそのこと正直に聞いてしまおうと考え、三友自身に問うことにした。
「えっ!? そ、そんなことないよ。なんでそう思ったの?」
「なんとなくだけど、気がそぞろになってる感じがしたんだよね」
「そ、そうかな? そんなことないと思うんだけど……それよりもさ! 目的地に着いたよ!」
なにかを誤魔化すように慌てた反応をした三友だったが、彼女が指さした先には一軒の古ぼけた建物があった。
「なんだか趣があるお店だね」
「うん。店の人がアンティークとか好きらしくて、ああいう感じなんだって」
「普通の流行とは違うかもしれないけど、こういうのも楽しそうかも」
今風ではない、不思議とどこか懐かしさを感じるような外観のその店に向かって歩いていく二人だったが、その店の前にたどり着いたことで戸惑うこととなった。
「あれ? 休業ってなってるけど?」
「えっ! ほんとだ。なんで……?」
人が営業している店なのだから休みの日もあるだろう。そして三友はそれを知らなかったのだろうと、祈としては仕方ないと割り切ることのできる状況だ。
だが、どうしたことか隣にいた三友はそんな祈とは違って納得できない……いや、理解できないといったように困惑した様子を見せている。
「うーん。じゃあどうしよっか」
「え、えっと、でも……」
普通だったら店がやっていないのだから別の場所に行こうとするものである。だが、三友はこの場から離れようとはせず、きょろきょろと辺りを見回している。
どうにもおかしい。だが、祈が何かを想うよりも先に、一人の男性がい二人の元へと近づいて行った。
「ああ、お客さんかな? ごめんね。所用でちょっと席を外していてね。今開けるよ」
「あ……」
「いいんですか?」
「ああ。せっかく来てくれたのにこのまま追い返すなんてかわいそうだろう? それに、一人でも多くリピーターは確保しないとだからね」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとう、ございます」
現れた男性はどうやら店の店主だったようで、店のカギを開けて二人を店内へと招き入れた。
先ほどまで休業中であり、店に鍵がかかっていたのだから当然ではあったが、その中には他に誰もいなかった。
そんな店内の様子を見回してから、祈は一つ息を吐き出してから三友へと顔を向けた。
「三友さん。さっきの話だけど、困ってることがあるんだったら言ってくれていいからね。まだ友達ってわけじゃないけど、それでも知らない仲じゃないんだから。同じクラスになったよしみっていうのもあるし、助けられることは手を貸すからさ」
「佐原さん……」
祈は言いたいことだけ言うと、誰もいない店内を進んで適当な席に着くのだった。
「––––もういい時間だね」
カフェに来たのだからやるべきことは決まっており、注文をして甘味とドリンクを楽しんでから少しして、祈は三友のことをまっすぐ見つめながらそういった。
「そ、そうだね」
「そろそろ帰ろうかなって思うんだけど、その前に聞いておかないといけないことと、場合によってはやっておかないといけないことがあるんだけど……」
祈は一旦そこで言葉を止めると、一度だけ息を吐き出し、それから改めて三友のことを見つめた。
「あなたはこの状況を知ってたの?」
「っ!」
祈の言葉を聞いた瞬間、三友は驚きに目を丸くし、がたりと音を立てて腰を浮かせてしまった。
そんな三友の態度が何を意味するのか、祈にはよく理解できた。
「ああ……うん。その反応で十分だよ。悪いけど、あいにくと毒は効かない体質なんだよね」
「あ、うあ……」
その言葉で本当に祈が理解していることを理解したのだろう。三友はうめき声を漏らすだけしかできなかった。
「一応大体理解できてるけど……でも、できることなら貴方の口から聞きたいかな」
「………………ご、ごめ––––」
三友が体を震わせながら言葉を紡いでいくが、その言葉の途中で店の奥に潜んでいたのだろう。幾人かの男たちが祈に向かって襲い掛かっていった。
「人が話してるんだから、大人しくしててくれないかなぁ。すっごい邪魔なんだけど」
襲い掛かってきた男たちを殴り倒しながら、苛立たしげな様子で祈はそう呟いた。




