何だか疲れる日常
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「なんだか、最近は無駄に疲れるな」
「そーだねー。なーんか厄介事に遭遇する率が多くない?」
自分の席に座りながら、俺と祈はため息を零す。だが、そうしたくなる気持ちも理解してもらいたいものだ。
「それってこの間言ってたトラックの事故か?」
俺達のため息を聞き、隣に座っていた桐谷が首をかしげながら問いかけてきた。
確かにそれも厄介事の一つだが、それがすべてではない。その事故以外にも、色々と面倒なことが起こってたんだよ。
「それもだけど、あの日以来なんだか事件とも事故とも呼べないような出来事に遭遇するんだよな。急にエレベーターが止まったり、持ち運びバッテリーが発火したり……」
「小さなことだけど、積み重なるとかなり面倒だよね」
そう。一つ一つは大したことないはずなんだけど、それがこうも重なるとかなり疲れる。誰が悪いってわけでもないし、全部運が悪いってだけだから何か対策をしようとしてできることでもないし。ちゃんとバッテリーなんかは自国製のをつかってたんだけどなぁ。
「んー、お前らいろんな事件に巻き込まれるし、そんなことが起こるんだったら、呪われてたりするんじゃねえのか?」
「おいおい、呪いとかやめてくれよ。俺達これでも『祝福者』だぞ。神様からご加護を授かってるってことになってるんだから、そんな呪いくらい跳ねのけてくれるだろ」
「神様のご加護を実感したことはないけどね」
それを言うなよ。実際俺もそんな神様のご加護なんてものを感じたことはないけどさ。
「罰当たりだな。祝福が使える時点で加護があるだろ」
「いやー、こっちとしてはいらないものを押し付けられてるだけなんだよな。能力なんてなくて普通に暮らしたかったのが今の俺の〝願い〟だし」
「そんな願いがあるんじゃ、確かに『祝福者』なんて立場はいらねえかもな」
桐谷は冗談めかして言っているけど、マジで笑い事じゃないんだよな。
祈とまだ暮らすことができているのは素直に嬉しいけど、もう少し違う結果があっても良かったんじゃないだろうかとも思うし。
やっぱり、祝福は神様のご加護なんてもんじゃないよな。
まあそれはそれとして、だ。
「それにしても、ほんとなんでこうも問題ばっか起こるんだろうな?」
「実はお前のことが嫌いな誰かが嫌がらせのために事故を装ってるとかはどうだ?」
「どうだって……わざわざそんなことするか?」
俺に何かしたいんだったら直接襲い掛かってくればいいんじゃないか? 俺なんて祝福を使わなかったら単なる雑魚だし。
と言うか、そもそもの話だがそんなに狙われるようなことをした覚えはないんだけどな。
「人の嫉妬やなんやらッて悪感情は思ってるよりも醜いぞ。時には周りのことを見ずに行動するバカもいるんだし、可能性が全くないってわけでもないだろ」
「でもそんなことでトラックの事故とか起こすか?」
結局あの一件では運転手の人は亡くなった。それが俺達のせいだとは言われなかったし、何のお咎めもなかったけど、人が死んだという事実は変わらない。
あんな大掛かりなことを引き起こしてまで恨み辛みを向けられるなんて、そんなヤバい何かをした覚えなんてマジでないぞ。
「それは普通に偶然なんじゃねえか? 流石に他人を巻き込んでの殺しまではしないだろうし。でも他のエレベーターとか充電器とかは個人でどうにかできるだろ」
まあ確かにそれくらいならできるかもしれないけど……そんなことをされるほどの悪意を向けられるもんかぁ?
でもまあ……
「もしそんなバカがいるんだったら、それはそれでアリだけどな」
「は? なんでだ? もしかしてお前、実は今の状況を楽しんでるとかか?」
「そんなんじゃねえよ。ただ、呪いとか言って説明がつかない現象が起きてるよりも、誰かが意図的に事故を引き起こしてるって分かってた方が気が楽だろ」
敵がいるんだってはっきりしてるんだったら、そいつをどうにかすればそれでこ不幸の連続も終わるんだからな。
「つまり、そんなバカから守るために、私はずっと兄さんと一緒にいた方がいいってこと?」
「何が〝つまり〟なのか分からねえけど、ずっと一緒とかすっげー嫌なんだけど」
祈の場合、ずっと一緒にいるって言うと本当にずっと一緒にいるから困る。
「ひっど。こんなかわいい妹が側にいて守ってあげるって言ってるのにその言い草はないんじゃない?」
「普通守る立場が兄と妹で逆じゃないか?」
「だって兄さん弱いし」
「ぐっ……。そりゃあお前に比べたら誰だって弱くなるだろ」
確かに俺は『祝福者』の中でも弱いほうだろうさ。なにせ能力は戦闘向けの者じゃないんだしな。でも、お前と比べたら全員弱いって言われることになるだろ。
「でも、ずっと一緒ってそれは誠司だけじゃなくて祈の方もきつくないか?」
「そう? そんなことないけど。私は別に二十四時間だろうと一緒にいても平気だし」
「……お前の妹、ブラコン過ぎないか?」
「これはブラコンっていうか……いや、まあそうだな。どうにかしたいところなんだけど、どうにもなってないのが現状なんだよなぁ」
これでもマシになった方なんだ。以前は本当にずっと俺の後をついてきて、風呂や寝る時だって一緒にいたくらいなんだから。
「じゃあ離れててあげよっか?」
「いや、別に無理して離れてほしいってわけでもないぞ?」
「っていっても、実際放課後とかは離れるしかないじゃん。こっちは誰かさんに押し付けられた生徒会の仕事があるんだし」
「それは大変だな。がんばれよ」
ジトッとした目で祈がこっちを見つめてくるが、知らない。まあ、生徒会のおかげでお前も真っ当な人間味ってのが増してきたんだから、仕事を押し付けられた甲斐はあっただろ。
「まあ、兄さんにも一人になる時間は必要だろうし、そこは理解のある妹が気を使ってあげる」
「……はあ。まあ俺も気をつけるけど、お前も気をつけろよ。お前の場合、万が一にでも殺されることはないだろうけど、それでも怪我はするんだから」
「怪我してもすぐに治るけどね」
「だとしても、怪我するのも、したのを見る側も楽しいわけじゃないんだ。気を付けるに越したことはないだろ」
この辺がまだ完全には理解できてないみたいなんだよな。怪我をしても治るからいいってもんじゃないだろ。もう少し自分の身のことを考えてくれ。
「まーそうだねー」
「なんだったら九条達と一緒に帰るとかできないのか?」
「え、無理」
「即答かよ」
生徒会で一緒に仕事をしているんだから、それくらいできる関係になれよ。
「だってそんな一緒に帰るほど仲が良いってわけじゃないし、向こうだってそうじゃない?」
「分かんないぞ? 意外とお前と仲良くしたいって思ってるかもしれないだろ」
「そっかなー? でも、そんな深い付き合いをする必要もないでしょ。どっちかって言うと距離をとった方がいいんじゃない? 九条さんって兄さんに色目使ってるんでしょ?」
「色目っていうか勧誘な。ついでに言うと、俺だけじゃなくてお前にもだろ」
俺をクランに誘おうとしてるのは面倒だけど、それ以外は普通だし、祈の友人としては丁度いいと思うんだけどなぁ。
「……面倒だし、やっぱりそこそこの距離感でいいかなー」
「もう少し仲良くなる努力しろよ。この際九条達じゃなくてもいいから誰か新しい友達でも作れよ」
「うーん……でも、友達を作ったとしてもさ、この学校って基本的に寮でしょ? 私達みたいに家に帰るのは家を持ってる人たちだし、その人たちってそれなりに立場がある人たちだからみんなとっつき辛いと思うんだよね」
「それは、まあ……そうだな」
一緒に帰ることが目的で友達を作るっていうのは不純かもしれないし、そもそも一緒に帰れないんだったら今から慌てて友達を作る必要もないんだよな。
「でしょ? だから……あっ! そうだ。じゃあ、兄さんが新しく友達作ったら私も九条さん達ともう少し仲良くするってのはどう?」
「俺が友達を……」
「ははっ。一本取られたな。この調子じゃ新しい友達なんて増えないだろうな」
俺の反応を見て桐谷が笑ったが、現状俺の友人らしい友人と言ったら桐谷くらいしかいないからな。それを知っていればこんな反応にもなるだろうよ。
「……馬鹿にすんなよ。俺だって友達の一人や二人くらいできるっての」
「そう? じゃあたのしみにしてるね」
……今更俺に友達なんてできるか?




