クリフォトの次の行動
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「––––お前に頼んだ仕事はどうなった。理沙」
誠司達がトラックの事故に遭遇した日の夜。とある場所でまた二人の男女が密会を開いていた。
だが、やはりと言うべきかその話の内容は色恋とは程遠いものだった。
「あー、それね。まあ僕としてもその話をしに来たんだけどぉ……ごめぇん。失敗しちゃった」
「失敗だと? 『祝福者』を何人も仕留めてきたお前が、今更ただの学生を仕留められなかったというのか?」
全く悪びれる様子のない女性––––理沙の態度に、男性が眉を顰めて不愉快そうに問いかける。
「『祝福者』って時点で〝ただの〟って称するにはおかしいかもしれないけど、まあその通りだね」
「……まさか、遊んでいたわけではないだろうな」
「いやまあ、遊びが入ってたことは認めるよ。君が言ったように、学生を殺すなんて簡単だと思ってたからね。でも、殺せるだけの仕掛けを用意したことは確かだよ」
この女性は仕事はできるが面倒だからと手を抜くことがあることを知っているため、男性は理沙に疑いの目を向ける。
だが、そうして見つめた理沙の眼差しは真剣なもので、とても嘘をついているようには思えなかった。それによって、ひとまずは理沙の言葉に納得を示すこととなった。
「なら、なぜ失敗しているというのだ」
「それなんだけどね、本来の目的の方……『治癒の祝福者』の男の子の方は殺せそうだったんだ。でも、その守りが厄介だね。そのせいで止められたんだから」
「守り?」
「妹だよ。ほら、彼には身体強化系の『祝福者』である妹がいただろ? その子がトラックから庇って、爆発からも庇って、って……いやー、すっごい反射神経と身体能力だよね。祝福をつかってなくてあれなんだから、使ったとしたらどうなるんだろうね? なんていうか、普通は〝人の肉体に祝福が宿っている〟わけだけど、あれはもはや〝祝福を使うために存在している肉体〟って言っていいかもしれないくらいだよ」
「それほどか……」
理沙の言葉を聞いて何を思ったのか、男性は眉根を寄せながら何かを考えこむように黙り込んだ。
「そうじゃないとあの反応は説明できないよ。いくら『祝福者』はその能力に応じて素の能力が強化されるって言っても、あんなに酷くはない。だからこそ僕は今まで『祝福者』を殺してこれたんだ。あれで祝福を使えばさらに強化されて、しかも傷も治るんでしょ? そんなの殺しようがないよ」
理沙は冗談めかすように肩をすくめて話しているが、実際に言っている内容自体は嘘ではない。
彼女は今まで『祝福者』を何人も殺すことに成功している。だがそれは彼ら彼女らに隙があったからで、祈には同じ手は通用しない。仮に通用したとしても、殺しきることはできないだろうと理解できた。そして、一度で殺すことができないのであればいくらでも傷が治ってしまうのだから、理沙にはどうすることもできなかった。
「毒はどうだ?」
「それは試してないね。効くんだったらいいけど、効かないんだったら下手に試して警戒されても困るし」
毒が効いて殺すことができるのならそれでいい。だが、もし毒が中途半端に表れて、死なずに治癒されてしまった場合、以降は毒を使用して殺すことも、体調を悪くさせて隙を作ることすらもできなくなってしまう。
「もし毒が効かないのであれば、かなり厄介なことになるな」
「ねー。体がものすっごく丈夫で、動きも良くて、怪我も勝手に治るとか卑怯すぎるって」
「そうだな。だが……」
男性はそこで言葉を止めると再び何かを考えこむように黙りこんでしまった。
その様子を見てしばらくは黙っていた理沙だったが、待ちきれなくなったのか少しして自分から問いかけることにした。
「だがって……何かする気?」
「もし、その肉体を調べ、その力をスキルではなく純粋な肉体として再現することができるのであれば、我々は世界が滅んだあとの新たな人類として、次なるステージに進むことができるようになるかもしれない」
次なるステージ。常人が聞けば何を言っているのかと思うかもしれないが、それが彼らの目的だった。
彼らの所属している組織『クリフォト』は、祝福によって生じた魔物によって人類が絶滅する世界が正しいと考えて行動している組織だが、それがすべてと言うわけでもない。
組織が大きければいろいろな考えがあるように、クリフォトの中でも人類を滅ぼしておしまいではなく、その先を考えている者達もいる。
それが今ここにいる二人の所属している派閥だった。
「スキルじゃなくて純粋な肉体として? ……あー、つまり祝福関係なしに最初っから強くて傷が治る体を手に入れましょう、ってこと?」
「そうだ。そして、人類を一度滅ぼし、しかる後に新たな肉体を得た我々が人々を導くのだ」
「旧人類と新人類。奴隷と支配者の構造ってことだね。……んー、でもさ。そんな感じの計画ってあったよね? 全然進んでないで余計な道具とか作ってるみたいだけど」
「そうだな。魔物を召喚するための宝玉も、スキルの効果を封じ込めた道具も、スキルの上書きをする技術も、全ては『救世主計画』の派生に過ぎない」
「派生っていうか、失敗作でしょ」
どこか呆れを含んだ理沙の言葉に男性は理沙のことを睨みつけたが、そんな視線に恐れた様子もなく理沙は肩をすくめた。
「ま、そのことは僕にとってはどうでもいいんだけどさ。……どうするの? 例の妹ちゃんの方は殺せばいいの? それとも今の話しの感じからして捕まえてきた方がいい?」
「捕まえてこい。研究に回せば何かしらの役に立つだろう」
人類を滅ぼした後、その世界で自分たちが生き残り、支配する側になるためにはどうすればいいのか。その答えの一つが、自身らの進化だった。祈の体は、その研究に役立つかもしれないと考えたのだ。
だが……
「言うのは簡単だけど、実際に捕まえる方の身にもなってよ。『祝福者』を捕まえるってかなり厳しいんだけど?」
そう。ただでさえ『祝福者』という強者を捕まえるのは至難であるのに、その中でも祈を捕えるというのは更に厳しいことだ。
「だが、人である以上はいつか隙ができるだろう。そこを狙え」
「隙ねぇ……小細工をたくさんして注意を逸らすとか?」
「方法は何でもいい。俺が口を挟んだところで、専門家であるお前にとっては的外れであることもあるだろうからな」
「そうだねー……。ま、分かったよ。どうなるか分からないけど、適当にいろいろと試してみることにするねーっと。ああそうだ。捕まえてあげるのは良いんだけど、捕縛系の能力持ってる『祝福者』って呼べないの?」
クリフォトは世界に敵対する組織なだけに、世界的にも希少な『祝福者』ではあるが、その『祝福者』を何人も保有、あるいは協力関係を結んでいる。その中から誰かを捕えることに特化した『祝福者』を呼ぶことができれば、祈を捕獲する際に大いに役に立つと考えたのだ。
「……時間がかかるぞ」
「どうせ今は様子見するしかないんだし、時間なんて幾らかかってもいいでしょ」
「分かった。代わりに、必ず捕まえてこい」
「できる限りぜんしょさせていただきまーす」




