トラック事故
——◆◇◆◇——
「トラック、か……?」
「……運転ミスなのかな? でも、それにしてはなんだか……」
一直線にこっちに突っ込んできたような気がするんだけど……気のせいだろうか?
「とりあえず助けるぞ」
「でもこれって生きてるの?」
「わからん。けど、まずは確認しないと何も始まらないだろ。もし生きてて手遅れになったらどうしようもないぞ」
実際、突っ込んできたトラックは俺達のいるところからでは運転席の中が見えないくらいに潰れている。けど、トラックの形自体は保ってるんだから、中にいる人だって生きているかもしれない。
「でも、こんな人の目があるところで力を使うの?」
「今更だろ。この島にいる人たちはみんな関係者なんだ。俺のことくらい知ってるだろうし、学校で使ってるんだからここで使ったところで何も変わらないさ」
前だったら少しは悩んでいたかもしれないけど、もう俺の能力なんてバレてるんだから隠す必要なんてないだろ。
見せびらかしていくわけではないけど、目の前で助けられるかもしれない人がいるのに無視をするのはできない。
「なに? 吹っ切れたとかそんな感じ? 前はあんなに普通に生きたいって言って能力を使うのを控えてたのに」
「普通に生きたいのは今も変わらないさ。でも、能力自体はバレてるんだから、使うのを控える必要はないだろ」
「……それ、〝願い〟に引きずられてるんじゃない?」
「かもな。でも、目の前で助けられるかもしれない人がいるのに助けないのは違うだろ」
誰かを助けたいって願いの影響があるかもしれないことは認めるさ。でも、困ってる誰かを助けるなんて普通の事だろ。人間に限らず、目の前で困っている奴がいたら助けるのが生き物として当然の考えだ。
だから俺の行動はあくまでも〝普通〟の範囲内のことだよ。
「ちょっと! せめて私に先に行かせてよ。それかもう少し離れて力を使って。じゃないと、万が一爆発したら耐えられないでしょ」
「ああ、そうか。車の事故だと爆発するもんだよな」
「まったく……。分かったなら離れてて。私がやってくるから」
言われてみれば確かに、これだけ派手に事故を起こした車なんだから爆発してもおかしくないか。でも、だからって祈がやったらそれはそれで危ないだろ。もし本当に爆発した場合、俺は怪我しないで済むかもしれないけど、祈は直撃を喰らうことになるんだから。
……まあ、祈だったらたかが車の爆発くらいだったら耐えきることができるだろうけど。
「それだと服が傷ついたり汚れたりするだろ。元々俺がやろうとしてたことなんだし、俺がやるよ。祈は警察と消防に電話しといてくれ––––再演」
祈を隣に置いたまま祝福を使って慎重に車のドアを剥がして中の様子を確認する。
「中の人は……まだ生きてるな」
ドアを剥がしたことで中の様子がはっきりとみえるようになったが、やはりと言うべきか中にいた人物は両足がひしゃげた車に挟まれており、頭からは血を流して意識を失っている。
けど、そんな状態であってもまだ死んではいない。助けることができるんだ。
「あれだけ派手に事故ったのに凄いね」
「運が良かったんだろ。まあ、死んでるよりも生きてる方がいいだろ。俺達がやったわけじゃないけど、少なからず関わりを持った以上は生きて助けることができた方が気持ちいいしな」
電話を終えた祈とそう話しながら治癒の祝福を発動させて死なないように少しだけ回復させる。この状況で完璧に回復させると、足が変な形で治るかもしれないからな。
「正直、私はどっちでもいいけどね。だって相手が私達だったから……ううん。私がいたから大丈夫だったけど、兄さんだけだったら轢かれてたでしょ。そしたら、下手したら死んでたんだよ? ミスなのか故意なのかはわからないけど、どっちにしても〝生きててよかった〟なんて思える相手じゃないよ」
それは、まあ、そうかもしれないけど、でもそれは可能性の話だ。実際には俺達は怪我をしていないんだし、この人か、もしくは車の整備をした人だって今回の事故について反省をするだろうから許してやれよ。
「でも、実際は誰も死んでないし、誰も傷ついてないんだ。もしかしたらお前が言ったような未来だってあったかもしれないけど、でもそれはあくまでも可能性の話だ。今は何も起こってないんだから無駄に敵意をむけたりするなよ。それに、もしかしたら車の方の故障かもしれないだろ?」
「お人好し過ぎ。まあ、知ってたけどさ」
「とにかく、話はあの人を助けてからだな」
お人好しなんかじゃないっての。俺は傷つけられなかったからそこまで深刻にとらえることができないってだけだ。
「ん? あの人、今何かしゃべった?」
「え––––」
少しずつひしゃげた車を剥がして中の人を助けようとしていると、突然祈がおかしなことを言い出し、その言葉に気を引かれて振り返った瞬間––––爆発が起こった。
「兄さんっ!?」
「ぐう……!」
視界の端が突然明るくなったな、なんて思う間もなく祈に腕を引かれてその場から離れることとなった。
だが突然の事だったこともあり、祈が守ってはくれたがそれでも多少の熱や金属の破片が襲い掛かってきた。
「兄さんっ、大丈夫!?」
「あ、ああ……ッ! 悪いな。またそっちにも痛みがいっただろ」
距離をとってある程度の安全を確保したところで、祈が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
確かに痛みはあるが、この程度なら慣れたもんだ。
刺さった破片を無理やり取り出しながら治癒をかけていくと、それだけでもう元通りだ。服は傷がつき、血で少しだけ赤く染まってしまったけど、まあそれくらいだ。ただ、祈自身は大した痛みがなかっただろうに、俺が怪我をしたことで祈にも痛みがいってしまうことが申し訳ない。
「そんなの別にいいって。私はこの程度じゃ何の障害にもならないんだから。それよりも、傷は大丈夫なの? 治ったって言っても、痛みは残るでしょ?」
「いや、もう慣れたよ。このくらいの痛みなら二、三分もあれば普通に動かせる」
「でもそれって、逆に言えば二、三分は駄目ってことでしょ? 無理しないでよ?」
「ああ。悪いな」
「いいってば。それよりも……」
「流石に、こんな状況になると助け出すのは無理だろうな」
爆発し、今もなお炎上し続けている車を眺めるが、運転手の生存は絶望的だろう。これで生きていたら、それこそ神の奇跡だ。
「消防はもう電話したわけだしすぐに来るだろうけど……帰るわけにはいかないよな?」
「うーん、どうだろう? 一応助けようとしたわけだけど、それが原因で爆発したんだって言われたら否定しきれないし、後々呼び出されることにはなるかも?」
「だよなぁ……」
俺が下手なことをしなければ爆発なんてしなかった、なんて言われると反論のしようもない。あの時助けようとしなければ、あの運転手はそのまま死んでいたかもしれないとは思う。だから助けようとしたのは間違いではないはずだ。
けど、それはあくまでも俺の主観でしかない。実際には間違った行動だったと言われたら何も言えない。
「ただ、あの運転手……」
「どうかしたか?」
「最後、爆発する前にあの運転手の人が何かを喋ってこっちを見てたような気がしたんだよね」
喋ってた? でも、俺が確認した時は気を失ってたけど……ああ。治癒のおかげで一時的に意識を取り戻したってのはあるかもな。
「運転手って、あの状況でよく見えたな。あれだろ、助けてとかそういうことを言ってたんじゃないのか?」
「……そう、だよね? なんだかもっと長くは話してた気がするけど、別に知り合いでもないし、車内に他に人がいたわけでもないんだから、偶然そう見えただけかな」
そう結論付けると、祈は首をゆるく横に振ってから俺へと顔を向けてきた。
「それより、帰ったら話があるから。今の兄さん、言動が矛盾してるって気づいてる? そんなんじゃいつか後悔することになるんだから、〝願い〟に沿って生きるのか、それとも無視するのか。どっちにするのか決めてもらうからね」
「どっちって……」
誰かを助けるという願い通りに生きるのか、それとも願いを無視して普通に生きることを選ぶのか……。確かに、矛盾しているかもしれない。
でも、矛盾していてもどっちも俺の本心であることに変わりはないんだよな……。




