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多くが死んで、多くを救って

 ——◆◇◆◇——


 騎士と、その後にやってきた少女を倒し、俺が祝福でレイチェル達を癒した後は、俺達は安全な場所を求めて宮殿の中へと非難することにした。

 そこでは騎士の言っていたように王族やその警護達が何人も殺されており、建物自体もだいぶ破壊されていた。そして、殺された者の中にはレイチェルの両親や祖父母も交じっていた。

 つまり、実質的にこの国の王族はレイチェル以外みんな死んだといってもいいような状況だ。


 それでも他のところよりは安全であり、王族としてレイチェルが生き残っていたことで今回の襲撃の対策本部も多少なりとも落ち着きを取り戻し、レイチェルがトップとして指揮をすることで事態は収束に向かっていった。


 元々テロ犯側も、目的を達成したら、あるいは失敗したと判断したらすぐに撤退する様になっていたのだろう。あっけないほど簡単に敵はいなくなり、最後には焼けた街と崩れた建物。それから様々な要因で亡くなった人々の死体が残った。


 そんな状況でよそ者である俺達がずっと滞在しているわけにはいかず、転移装置の使用ができるようになるなり生徒達は学園に戻ることとなった。

 生徒達としても、敵に襲われるかもしれない場所に残っていたくはないだろうし、俺達がいなくなった後に襲われたようで、怪我人もいたから休みたいところだっただろう。


 そんなわけで、〝生徒〟である俺も学園に戻ることになったのだが、レイチェルは残ることにしたようだ。


 だがそれは仕方ないだろう。これだけの事件が起こったんだ。王族は遠縁であれば残っているようだが、直径はレイチェルだけになってしまったのだからいろいろとやるべきことがあるのだろう。


「ありがとうございました。我が国の不祥事であったにもかかわらず、あなたに助けていただくことになってしまい、申し訳ありませんでした。国としてのお礼は改めて後日させていただきます」


 転移装置の置かれている建物の一室で、俺はレイチェルと向かい合っている。今頃他のメンバー達はすでに学園に戻っていることだろう。

 新学期早々、とんだ部活動になってしまったが、まあ学園を卒業して正式にクランに所属して働くようになれば、似たようなことなんて幾らでも遭遇するんだから、遅いか早いかの違いでしかないだろう。


「どういたしまして。……なんて、まあ別に大したことしたわけじゃないし、そんなに気にしなくてもいいけどな」


 実際、俺は大したことはできていない。

 そりゃあ、あの異常事態の最中は戦ったし治癒まで使いはした。その後も多少瓦礫をどけて救助活動に参加したりもしたけど、言ってしまえばそれだけだ。これから大変な人達が大勢いることを考えると、俺のやったことなんて小さなことでしかない。


「そんなことはありません。あなたのおかげで多くの人が助かりました。当然、私もです」

「でも、助けた数の何倍もが死んだ」


 手の届く範囲も届かない範囲も、大勢の人が死んだ。その中には、俺が最初から本気で事態の収束に当たっていれば、あるいは人命救助のために動いていれば、助けられた人はいただろう。


 俺は自身の生活を守るために、本来助けられたはずの人を見殺しにしていたんだ。それを考えると、間違っても〝多くの人が助かった〟という言葉にうなずくことはできない。


「それは……あなたのせいでは……」

「ああ、そうだろうな。俺だって自分のせいで死んだなんて思っちゃいないさ。誰かの死を背負うつもりもない。でも、事実として多くの人が死んだ。誰かを救えたことを誇らしく思わないわけじゃない。人が死んだのが事実なら、助けることができたのも事実なんだからな。けど、そのことで恩を着せるほどのことだと思っていないのも事実なんだよ。だから、本当に気にしなくていい。国としての対応は別かもしれないけど、俺は恩だとか貸しだとか思ってないんだから」


 俺としては、ただ自分がやりたいからやったというだけだ。それを有り難がるのは他人の勝手だけど、過度に恩を感じられると困る。


 まあ、だからと言って国としては助けてもらったのは確かなんだから礼をしないわけにはいかないだろうし、それが分かっているからこそ俺も礼をされるのを拒んだりはしないけど。


 だが、俺がそう言ってもレイチェルは納得できなかったようで、眉を寄せてもの言いたげな表情をしている。


「あの時の選択は、あなたにとっては大事なことだったでしょう。それほどの秘密なのですから。あの選択の結果で、あなたの人生は大きく変わってしまうことだと思います」

「だろうな。俺もそう思うよ」


 あの時二つ目の祝福……『治癒』を使用したことで、俺の価値は跳ね上がった。ただの『祝福者』から、世界で唯一の『二重祝福者』になったのだから。

 これからの生活は、とてもではないが〝普通〟とは呼べないものになるだろう。


 最初の数年……精々学園にいる間は何とか普通っぽく過ごすことはできると思うが、それ以降は絶対にこれまでの生活とは違ったものになると断言できる。

 そして、それは逃げることができない運命だ。国はどうあったって俺のことを手放さないし、自分たちにとっていいように使うに決まっているんだから。


 戦場に送り込んでおけば、それだけで不死身の軍隊の完成だ。

 レイチェルのように一旦人を集めて、あるいは自分が近寄って直接触る必要がないのだから、戦いながら、怪我をしながら治され続けて戦うことができる。


 死にさえしなければ、腕がとれようが足がとれようが腹をえぐり取られようが、止まることなく突き進む。傷ついてすぐだったら頭を半分失ったとしても治るのだから、なんとも地獄みたいな戦いが行われることになるだろう。


 誰かに泣いてほしくないからと傷を癒すための力を手に入れたのに、誰かが傷つくことを加速させるなんて、何とも皮肉だよな。


「自身の平穏よりも悲しんでいる誰かのために動き、にもかかわらず気にしていないと本心から言ってしまえるところが、やはり『英雄』と呼ばれる所以なのでしょうね。そして、そんな『英雄』だからこそ輝くのでしょう。私のような偽物が憧れ、手を伸ばし、求めてやまないほどに」


 確かに俺はこいつの生き方は嫌いだ。でも、同時に憧れもしてるんだ。数人を治癒したところで意味なんてないことも、誰かを助ける事なんて世界にとっては大したことではないことも理解しているだろう。王族なんだ。そういう大局的な視点は俺なんかよりもよっぽどしっかりしているだろう。


 けど、それでもレイチェルは誰かを治したいと、癒してやりたいと思い、実行している。俺はその生き方は凄いと思っているんだ。だってそれは、俺が手放してしまった生き方なんだから。


「レイチェルだって多くの人を救ってきたんだろ。だったら偽物ってこともないだろ。それに、何度も言うけど俺は英雄なんかじゃないよ。俺みたいなのが英雄だなんて、悪い冗談だ」


 それに、レイチェルが偽物だというのなら、あの時たまたま妹の生存を願っていただけの俺が『祝福者』となり、あの時の〝願い〟を固定されたまま誰かを助ける行為をしている方が、よっぽど偽物と言えるだろう。少なくとも、『英雄』なんかじゃない。


「人々を傷つける敵を倒し、災害から命を救う。あなた自身ではなくとも、あなたから生まれたスキルを含め、多くの人々が助かってきました。私が助けてきた人たちも、結局はあなたがいたからこその功績です。それは、言い換えればあなたの功績でもあります」


 それは言いすぎだろ。俺の祝福から生まれたスキルまで俺の功績って、それは暴論過ぎる。俺のスキルなんてなかったとしても、治癒を得るような奴は他の治癒のスキルを手に入れていたはずだ。今俺のスキルを持っている奴は、たまたま自分の目の前に配られたのが俺のスキルだったというだけのことだ。


「それだけではありません。あなたはあなた自身も危険に身をさらして誰かを助けて来ました。それはまさしく『英雄』の行いです。あなたの為してきたことを知れば、誰もが『最も神に愛された英雄』という言葉に納得を示すでしょう」


 またその呼び方か……ほんと、随分と気に入ったんだな。俺としてはクソッタレって感じなんだけどな。


「……ほんと、やめてくれよ。俺は『英雄』ってやつが一番嫌いなんだから」


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