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ひまつぶし

これは東方projectの二次創作になります

 外は雪。立春過ぎても雪が降るとは、今更になってレティが元気になってきたとでもいうのか。


 とにもかくにも秋姉妹は今日も暇だ。

 二人でこの暇な時間をなんとかしようと、色々な事を試した。


 二人で怪鳥の舞いを舞ったり、穣子考案の焼き芋体操なるものを踊ったりもした。しかし案の定、すぐに飽きてしまった。

 当然である。やきいも!やきいも!のかけ声と共にただその場で跳ねているだけの体操など今日日、子供でも1分足らずで飽きる。どうやら彼女にはその手の才能はないらしい。


 ならばとばかりに次は、二人で大喜利を始めてみたが、静葉の出すお題や答えが突拍子なさ過ぎて穣子がついて行けず、これもすぐ飽きてしまう。困ったように静葉が告げる。

 

「もう、これじゃいつまで経っても暇をつぶせないじゃない」


 呆れた様子で穣子が返す。


「いや、こうしてる間にも着実に暇はつぶせてる気がするけど……」

「違うのよ。私はもう少し充実感があってマーベラスな暇つぶしをしたいのよ」


 大層な横文字まで使っちゃって、一体どんな高貴な暇つぶしをご所望なのかと穣子が呆れていると、急に静葉が立ち上がって告げる。


「そうだわ。暇を潰せばいいのよ」


 怪訝そうな顔で穣子が返す。


「そりゃ当たり前でしょ。暇をつぶすのよ? 暇をつぶす為にこうやって何か面白いことを考えてるんでしょ?」


 静葉は首を横に振りながら穣子に再び告げる。


「そうじゃなくて暇を潰すのよ」


 穣子は再び怪訝そうな表情で返す。


「そりゃそうでしょ。暇をつぶすのよ? 暇以外何をつぶすってのよ。長芋でもすり潰すわけじゃあるまいし……」

「芋なんか潰しても面白くないわ。そうじゃなくて暇を潰すのよ。こうやって」


 と言いながら、静葉は何かを手で押しつぶそうとするような動作をする。

 とうとう何を言ってるか分からなくなってしまった穣子は、静葉に尋ねる。


「姉さん。ついに寒さで頭おかしくなった?」

「私は正気よ」

「……どう考えても、さっきから言ってることが正気の沙汰とは思えないんだけど、大体なんなの。暇をつぶす暇をつぶすって。暇をつぶすために何かするってことなんでしょ?」


 すると静葉はニヤリと笑みを浮かべて告げる。


「そうよ。暇という文字を潰すのよ」


 静葉が得意げに言うが、穣子はぽかんとしたままだ。再び静葉がじれったそうに告げる。


「だから。暇という文字を神の力で、実体化させて潰すのよ」


 ようやく分かったのか穣子は「あー……」などと言いながら首を傾ける。


「よーするに物理的に暇を潰すって事?」

「そうよ」

「楽しいの? それ」

「楽しいかどうかはやってみないと分からないでしょ」

「……本当にそれ暇つぶしになるの?」

「暇を潰すんだから暇つぶしになるでしょ」

「いや、そりゃそうだけど……そうじゃなくて」

「ここで言い合ってても話が始まらないわ。まずは一回やってみるわよ。百聞は一見にしかずって言うでしょ」


 と、静葉の勢いに圧されるままに、早速二人は暇潰しを始めることにした。


 静葉が墨と筆で和紙に大きく「暇」という文字を書き、その文字に向かって神の力を注ぎ込む。すると、みるみるうちに文字がむくむくと盛り上がっていき、気がつくと平面世界から立体の世界へと「暇」という文字が降臨する。


 穣子は、思わずは「おー」と言いながらぱちぱちと手を鳴らし「暇」に告げる。


「ようこそ「暇」さん。三次元の世界へ!」


 静葉もそれに続く。


「あなたはこれから私たちの暇潰しのための遊び相手となってもらうわ。しっかり潰されて頂戴ね」


 彼女の言葉を聞いた途端「暇」は一目散に逃げ出す。


「あらあら。ずいぶん積極的な子ね」

「……姉さんがあんな怖いこと言うから、驚いて逃げたんでしょ」


 ジト目を送る穣子を尻目に静葉は「暇」を追いかけ出す。


「ほら、穣子も早く追いかけなさい。楽しい暇潰しの始まりよ」


 楽しいかどうかはさておき、唐突に始まった鬼ごっこに穣子は困惑しながらも「暇」を追いかけることにした。

 すばしっこいが、大きいので割と目立つ。これなら捕まえるのにそんなに苦労しないなと穣子が思いながら追いかけていると「暇」は物陰の隙間にするりと入り込んでしまう。


「んえっ!? こんなところに……!? ったくゴキブリじゃないんだから……」


 と、ブツブツ言いながら穣子が物をどかそうとあくせくしていると、突然目の前からぽーんっと「暇」が飛び出したかと思うと、彼女の頭上を飛び越えてそのまま縁側の方へ去って行ってしまう。


「あ、こら! 待ちなさーいっ!!」


 慌てて穣子は追いかけるが、足を滑らせてすっころんでしまう。彼女が起き上がったときには、すでに「暇」は姿を消してしまっていた。その様子を見ていた静葉が彼女に一言。


「鈍くさいわね」

「なによ。そんなら姉さんやってみてよ!」

「いいわよ。見てなさい」


 不服そうに頬を膨らます穣子を尻目に、静葉は不敵な笑みを浮かべながら廊下の方へやってくると、すっと天井を見上げる。するとそこには「暇」が張り付いていた。


「さあ見つけたわよ」


 静葉は側にあったホウキを持って天井の「暇」を追い出そうとする。すると「暇」は天井からぼとりと落ちたかと思うと脱兎のごとく玄関の方へ逃げていってしまう。


「ちょっと逃げられちゃったわよ!?」

「まあ見てなさい」


 静葉は音を立てずに玄関に近づくと辺りを見回す。そして玄関の戸に張り付いている「暇」を見つけると指をパチンと鳴らす。

 次の瞬間、戸が勢いよく倒れ「暇」ごと押しつぶそうとするが、すんでの所で「暇」はするりと抜けるように避けて、台所の方へ逃げていってしまう。


「……ちっ。思ったよりすばしっこいわね」

「えっ今どうやったの? 戸をばたんって」

「あなたが追いかけている間に罠を張ったのよ。家中に」

「罠?」

「そうよ。あいつを捕まえるためのね」

「ほぇー。流石姉さんだわ……」

「感心なんかしてないで、早く追いかけて。台所に行ったわよ」

「よっしゃまかせろー」


 心強いと思った穣子は、意気揚々と台所へと向かう。


「さあ出てこい暇ぁ!!」

 

 と、穣子が勢いよく台所へ入るが、辺りはシーンと静まりかえっていた。


「どこに隠れてるのー出てらっしゃーい」


 彼女が辺りを見回していると、土間の方で何やら物音がする事に気づく。

 穣子が恐る恐る近づくと、そこには水を張ったタライが置いてあってその中から音がしていた。

 彼女がそっと覗くとそこには、水の中でびちゃびちゃと音を立てている大きく黒っぽいものの姿が。

 穣子は「しめた!」言わんばかりにそっと両手を近づけるとそれをわしづかみする。


「やった!! やったやった!! 姉さん!! ねえさーん!! きてー!!」


 彼女の大声を聞いて静葉が慌ててやってくる。


「捕まえたの?」

「捕まえたっ! ほら! ほらっ! これ!」


 と穣子は両手で掴んでいるそれを見せる。静葉はじっとそれを見つめると残念そうな表情で彼女に告げる。


「……それ違うわよ。穣子」

「えっ!?」


 驚いて穣子がそれをよく見るとそれは確かに「暇」に似ているものの何か違っていた。


「よく見てご覧なさい。それは暇じゃなくて蝦よ」

「え、蝦……? あ、本当だ!? 暇じゃなくて蝦だこれ!?」

「まったく。穣子ったら、そそっかしいんだから」

「ちょっと! なんで蝦なんかあるのよ!?」

「私が罠の一つとして作っておいたのよ。仲間だと思って近寄ってくると思って」

「紛らわしいことしないでよ!! どうすんのこれ?」

「そうね。今夜はエビフライにでもしましょうか」

「食えんの!? これ!?」

「そりゃそうでしょう。蝦だもの」

「いや確かに蝦だけど……」


 と、いまいち腑に落ちない様子で穣子は「蝦」をタライに戻す。「蝦」は再びタライの中で元気に跳ね始めた。


「穣子。蝦より暇よ。暇。暇を早く見つけなさい。まったく。暇を潰すのにどれだけ時間かかってるのよ」

「そう言う姉さんも手伝ってよね! 二人でやれば暇潰しなんて多分あっという間なんだから」


 端から聞いたら意味のわかない会話をしながら二人は暇潰しならぬ暇探しを始める。しかし、暇は一向に潰せず。


「そんなこんなで夜になっちゃったわよ。姉さん……」

「……ええ。暇を潰すのにずいぶん暇取っちゃってるわね……」

「……姉さんの張った罠が邪魔してるのよ! せっかく見つけたと思ったら天井からスパイクボールが落ちてくるなんて、危うく潰れるところだったわ……!」

「あなたが潰れてどうするの。暇を潰すのよ」

「そんなのわかってるわよ……」


 二人ともすでに疲労の色は濃い。しかし、辺りはすっかり暗くなってしまった。夜になってしまっては黒い色の「暇」を見つけるのが大変になる。このままでは暇潰しに失敗してしまう。静葉はすっと立ち上がって穣子に告げる。


「穣子。暗くなる前にカタをつけるわよ」

「りょーかい。そろそろ夜ご飯にしたいし」



 二人は改めて家中を大捜索を開始した。そして開始から四半刻ほど経った頃。


「姉さん! こっちこっち!」


 穣子が手招きする方に静葉がそっと行くと、たたんだ布団の上で、すやすやと寝息のようのなものを立てている黒い文字の姿があった。紛れもなく「暇」だ。


「……何よこいつ。寝てんの?」

「暇が暇つぶしに寝ているなんてシュールな光景ね……」


 静葉が呆れた様子で呟く。


「それはそうと大チャンスよ。今のうちにこの虫取り網で……」


 穣子が、そいやっと虫取り網を「暇」にかぶせると、気づいた「暇」は網の中でじたばたと跳ね回る。その様子はまるで捕まった蝉のようだ。


「やったー! 捕まえた!!」

「もう面倒だから網のごと踏みつけて潰しちゃいなさい」

「よーし!!」


 と、穣子が網の中の「暇」を足で踏み潰そうとしたときだ。バラバラと黒い紐状の姿になったかと思うと、そのままするすると網の外へ逃げてしまう。


「あーーっ!!? 何よこいつ!! ずるい! そんなのあり!?」


 穣子が抗議の声を上げるも時すでに遅し。「暇」は網の外で二人をまるであざ笑うように体を小刻みに揺らしている。


「姉さんもう疲れたわー……」

「奇遇ね。私もよ。穣子」


 と、二人がその場に座り込んでしまった、そのときだ。


「こんばんはー」

「あら、この声は……」


 静葉が玄関へ行くと、そこにはコート姿をした文の姿あった。その手には紙袋が携えられている。彼女は完全オフモードらしく、どうやら二人に飯をたかりに来たらしい。


「あ、こんばんは。美味しいシシ肉が手に入ったので是非一緒にお鍋にでもと……」

「文。いいところに来たわ」

「どうしたの……?」


 静葉は文に事情を説明する。事情を聞いた文は呆れた様子で彼女に告げる。


「はぁ……一体何やってるのよ。……わかったわ。私がそいつ捕まえておくから調理の方お願いね」


 と、文は部屋の中に入ってくるとコートをばさりと脱ぐ。


「文。気をつけて。相手は文字とは言え、なかなかの強敵よ」

「私を誰だと思ってるの。文字の扱いなら得意よ」


 静葉にそう返すと文はふっと笑み浮かべる。


「さあ、出てきなさい。私からは逃げられないわよ!」


 そう言って彼女は柏手をぱーんっと一回打つ。すると天井からぼとりと奴が落ちてくる。文はすかさずそれを両手で掴むと、直ぐさま逆さまにする。するとあれほど五月蠅かった「暇」は微動だにせず、しーんと静まってしまう。


「凄いじゃない。一体どんな魔法使ったの?」


 驚く静葉に文は得意げに返す。


「ちょっとした言葉遊びよ。ほら、ひまって逆さから読むとまひになるでしょ? だから逆さまにしてみたらこの通りってことよ」

「……流石、普段から文字と戯れてるだけあるわね」

「……なんかその言い方引っかかるんだけど……ところで、これどうするの?」


 と、文は生け捕った「暇」を静葉に差し出す。


「そうね……どうしてやろうかしら」


 受け取った静葉はそう言ってニヤリと笑みを浮かべた。



 ◆


 事が済んだ三人は夕食を始める。食卓には文が持ってきたシシ肉を使ったぼたん鍋と、黒く細長い揚げ物が置かれている。


「何これ」


 文は訝しげに食卓の上に置かれたそれを箸でつまむ。


「ああ、それー? エビフライよ。……一応」

「エビフライ? エビってこんな黒かったですっけ……」

「そういう品種なのよ。……多分」


 文は「ふむ」と言いながらそれを口の中へ入れる。


「……あら、いけるじゃない。……少し墨っぽいのが気になるけど」

「美味しいんだ……これ」

「当然でしょう。蝦なんだから」


 驚く穣子を尻目に、静葉はその蝦フライをついばむ。


「ところで、あれで本当によかったの?」


 そう言って文は壁の方を見る。


「いいのよあれで。次の暇潰しまで休んでてもらいましょ」


 そう言って静葉も壁の方を見やる。壁には「暇」と書かれた和紙が貼り付けられていた。


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