表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/41

第9話 放蕩王、ガリアスの視点2

 

 テントの外はどこまでも白く滑らかな砂漠と、それを照らす月明かりが見えた。

 傍にはあの凶暴な砂喰い鯨の死体と、赤々と燃える焚き火の炎。このテント周辺を守らんと、聳え立つ世界樹の若木……。何もかもが出鱈目な光景だ。魔法ではこうはならない。

 気紛れで残忍な妖精や精霊が、嬉々としてあの子に力を貸し与えている。しかも見張り番を、かつて神の座にいた風の精霊王が担うのだから驚くしかない。


「……シルクニフパラディーン。あの子は、『黄金の林檎』の化身なのか?」

「ふふふー! ボクらの愛し子は凄いだろう!」


 そう言いながら光の玉は、エメラルドグリーンの美しい髪の偉丈夫の姿に戻る。半透明だがその魔力は凄まじく、以前と何一つ変わっていない──が、中身はだいぶ丸くなったような気がした。


「確かにすごい。出会って間もない私に求婚するなんて、大胆な子だよ」

「……え。求婚?」

「そうだろう。私を抱きしめて何度も……ふ、触れるのだから。それだけではなく、私に食べ物を与えるし、魔法術式的にも食べさせる行為は『特別な存在』だと決まっているし、体を洗って……寝る前にキスだってしてきた。添い寝ではあるけれど、同衾までされたら愛されていると言っても過言ではないだろう」

「あーーーうん」


 思わず私を撫でた手の感触を思い出し、胸が熱くなった。

 あの子の笑顔を思い出すと、無性に会いたくなる。数分前に寝顔を見たばかりなのに、おかしい。

 なぜ? 

 よくわからないが、体温が上がって心臓が早鐘を打つ。自分の体の管理はしっかりしていたが、魔力酔いだろうか?


「んーーーー、ええっと……ガリアス。一つ聞くけれど……昼間の君の姿って、どう認識している?」

「ん? 髪が藻のように膨れ上がって両手が痺れて上手く動かせず、二足歩行が困難になる呪いのことかい? そういえば君たちの声も、時々ぼやけて聞こえるね。確かに大人としてあのような姿は無様としかいえないけれど、そういう呪いだし。数百年経っても呪いを解く方法もないままで、お手上げだったのさ。この一カ月、あの子の料理を食べたからか体が軽い」

「あーー、んんーーー」


 そう矢継ぎ早に話したのだが、なぜか古き友は頭を抱えていた。今の説明にどこに考え込む要素があったのだろう。それとも私が呪いにかかっていたことを今知ったとか?

 いやそれはないな。彼は風そのもの、どこにいようとあらゆる情報がすぐに手に入る。


「それにしても些か薄情じゃないかい? 私が呪いで苦しんでいるというのに、放っておくとは」

「それは自業自得だろう。半神半人である概念を壊して自国民を不老不死にしたり、黄金を永遠に生み出す魔法術式を編み出したり……。これだけでも他の神々はガチギレだったけれど、その辺の回避は見事だったし、見ていて面白かったよ。でもさ、恋愛関係だけは、しくったね」

「私なりに善処したが……」

「好いていたら『空中都市と妻を交換しろ』なんて条件は、飲まないからな。他の種族に妻候補を奪われた時も、病弱で痩せ細って死にかけていた妻にも、君は心を大きく揺さぶられなかったし、取り乱すこともなかった」


 さすが情報通。よく知っている。

 過去を思いつつ、当時の気持ちを振り返った。


「空中都市は珍しかったし興味があって、つい。略奪婚は立派な伝統だし、他種族との軋轢を生むよりは合理的だ。それに彼女も満更じゃなかった。……病気は不老不死の研究を始めたキッカケだったけれど、彼女は不老不死を受け入れずに死んでしまった」

「そんなんだから十二の魔女に呪われるんだよ。呪いが掛け合わさって……昼間はあんな姿なのに自分で認識できないってのが、あの魔女たちらしい報復だね」

「魔女たちは素晴らしい能力を持っていたから、傍に置きたいと心が動いた。プロポーズや贈り物もしっかりしたのに……呪うなんて……」

「そりゃあ、十二の魔女全員同時にアプローチすればそうなるだろう!」

「?」


 全員気になったのだ、しょうがないだろう。私の心が揺さぶられることは滅多にないのだから、心が少しでも動いたら距離を縮めて傍に置きたい。

 そうだ。

 あの子は、今までと違う。

 私の心を大きく揺らした。目まぐるしく巻き起こる変化、見たことのない景色を見せてくれる。可愛らしくも大胆な子だ。今まで妻に迎えてきた女性とはなにかが違う。なにより──うん、気付くと彼女のことを考えてしまう。


 そういえば名前は……なんだったか。

 仕事以外で誰かの名前を覚えないのも、問題だったか?……よく考えたら、今まで妻たちの特徴は思い出せても、名前は覚えていなかったな。困っていなかったし。


「シルクニフパラディーン。あの子の名前は、なんていうんだい?」

「へぇ……。仕事以外で名前を覚えるくらいには、成長したのか」

「……私の呪いを解いてくれる恩人の名前が分からないなんて、失礼だろう」

「本当に君って恋愛関係を除くとしっかりして真面目だし、いい王ではあるんだけどねぇ。恋愛関係だけはどう考えても、クズだからなぁ」

「それは褒めているのだろうか?」

「一応? まあ、ボクがいたからユティアとの運命の導きに、君の魔術的な要素は触れたのかもしれないけれど……どう結末になるのか少し興味が湧いた」

「酷い言われようだ」

「……ガリアス、ボクたちの愛し子の名前はユティアだよ。君でもあの子を泣かせたら、許さないからね」

「……ユティア」


 名前を呼んだだけなのに、胸がじんわりと温かくなるような満足感が生じた。魔力が満ちるような心地よさ。

 これも……料理の力なのだろうか?

 心臓の音も酷くなっていく。

 早く呪いを弱めて、意思疎通ができるようになりたい。けれど呪いが解けたら、ユティアはこの土地からいなくなってしまうのだろうか。

 そう思うと、胸が酷く痛んだ。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ