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第5話 砂食い鯨のソテーとオニオンスープを作りましょう・後編

 全長26フィートもある砂食い鯨は、巨大な骨は美しいアーチを描いているが、肉の色は紫でこのまま食べたら間違いなく死ぬ。通常毒袋は内臓の傍にあるのだが、個体によって様々な場所にあるのだ。砂食い鯨は尾羽根の近くにあり、尾から微量の毒を放出して外敵から身を守るためにそうなったのだろう。海と違い、砂漠では空と地中に様々な天敵がいるからだわ。


 風魔法でシシンに作ってもらった手袋を装着しつつ、尾羽の尾肉部分から毒袋を取り除く。両手いっぱいの毒袋を肉体から除去した瞬間、砂食い鯨の肉が赤々と宝石のように色を変える。

 いつみてもこの光景は不思議ね。ドラゴンの時も酷い褐色からつやつやの赤い色になったし……。毒袋の完全除去により、肉に染みついていた毒も消える。

 そこからは狼妖精(コボルド)たちに頼んで部位をさらに分けて貰うように頼む。六対四で、六が狼妖精(コボルド)の取り分となる。


 先に赤肉の部分を貰って調理再開。

 お皿にお肉を載せて戻ってくると砂海豹は固まっている。なにやら衝撃を受けているようなので、そっとしておいてあげた。


 赤身と脂身の間に五、六カ所切り込みを入れてスジを切る。肉の両面に軽く星屑の塩と小麦粉をまぶしたら、フライパンでこんがり焼き色ができるまで中火で焼く。

 もう一つのほうは塩胡椒で揉んだ肉と、出汁になりそうな骨を炒める。こっちはオニオンスープに入れる用だ。そのタイミングで泡沫セロリ、あと異世界人考案の万能出汁を投入。様々な魚のエキスと大豆や海藻を使ったこの味を、隠し味として入れると美味しいのよね。


「きゅうううう」

「良い匂いでしょう」

「きゅう」


 肉の焼ける匂いに反応して、砂海豹様は興味深そうに私の調理を見ていた。目をキラキラさせて可愛いわ。

 蒸かした春露ジャガイモを見ていたら、このまま皮だけ剥いてソテーの付け合わせに変更。潰すのって手間がかかるものね。それにソテーもできたし、スープは明日ぐらいになったほうが美味しいけれど……。うん、こっちも肉汁がたくさんの野菜と合わさって、良い感じに美味しい。


「砂食い鯨のソテーとオニオンスープです」

「きゅう!」


 白いお皿に盛り付けられた砂食い鯨ソテーは、表面が良い感じに焼けている。星空バジルと付け合わせで蒸かした春露ジャガイモ、さっき収穫したばかりのプチトマトを添えておいた。水露タマネギをベースにした具だくさんのスープ。どれも自信作だ。


 テーブルと椅子も用意して、私と砂海豹様とシシン、ディーネ、ノーム、アドリア、コームの分も用意している。

 砂海豹様はひっくり返らないように、シシンの風魔法で空気椅子を作って貰った。ソウたち狼妖精(コボルド)は新鮮な肉をそのまま自分たちの集落に持ち帰るので、食事は不参加だ。

 さて、どんな味かしら。


 ナイフとフォークでソテーに切り込みを入れると、思ったよりも柔らかい。肉汁がじゅわっとでる。本当は下味として塩胡椒をモミモミして少し馴染ませたかったけれど……。

 一口食べてみたら、良質な肉と油が溶けるように口の中に広がっていく。

 あ、美味しいぃ。塩胡椒と香辛料だけでも、えぐみは無いし、うまみ成分がたまらないわ。


「きゅうううううう!!」

「ん? あ」


 あまりの美味しさに夢中で食べていたら、砂海豹様が涙目で訴えてきた。特別な椅子なのでずれ落ちることはないけれど、やっぱりあの前脚じゃ上手く食べられないわよね。一応、一口サイズに切ったけれど……。


「きゅうう……きゅう……」

『そのまま顔を近づけて食べれば良いのに。……え、そんなことできない? 面倒だな。ユティア、コイツに食べさせる必要ないと思う』

「まあ、神獣種だと矜持も高いのね」

「きゅう!」


 必死で前脚を動かして抗議しているが、まったく何を言っているのかわからない。でも確かにこのまま顔をお皿に口を付けて食べたら、顔の周りがベトベトになるものね。

 しょうがないと、食べさせる。

 シシンは「甘い」と言うけれど、私たちの国では神獣種や幻獣種で特に白を持つ獣は、大事にする風習がある。


 遙か昔神々の遣いとされて、白き獣が国の危機を救ったという言い伝えが各国に今も色濃く残っていることもあり、手を貸してしまう。

 モフモフの魅力に負けたのもあるけれど。フォークで一口サイズのものを砂海豹様の口に運ぶ。


「きゅっ。…………きゅうう!! きゅう!!」

「あら、お気に召しました?」

「きゅきゅ!」


 一口食べさせるたびに後脚が揺れて可愛い。よく咀嚼して味わっている姿は人間みたいだわ。スープを飲みたいのか、前脚でアプローチしてくる。

 熱いので大きめのスプーンで掬って食べさせたが、こっちもお気に召したのか目をキラキラさせていた。こんなにも全身で喜んでくれるなんて、作った甲斐がある。


 黒い痣が消えるような変化はないけれど、元気になったのは良いことだわ。

 ある程度、砂海豹様の料理を食べさせたら自分も料理を味わって食べる。やっぱりできたて、特に手間をかけて作った料理は美味しいわ。

 特に春露ジャガイモは蕩けるような味わいで、お肉と一緒に食べると塩っ気と肉汁が合わさって最高。


 思えば国の面倒事ばかり押しつけられて、ここ最近料理なんて作ってなかったもの。冒険者ギルドからの依頼は、大体秋口から冬前と春先。今頃だったわね。冬眠していた竜種や獣が出現していたし。

 私がいなくとも、なんとかなるでしょう。


 あ、いろんな具材を煮込んだスープが美味しい。泡沫セロリの風味が良い感じに調和しているわ。これ絶対明日になったら、もっと味に深みが出るわね。ああ、楽しみ。

 食べ終わったら、今度の方針とか改めてシシンたちと相談しよう。ついでにデザートとか作っちゃおうかな?

 死の砂漠って言われているけれど、夜でも気温が下がらないし、ジェラートとかちょうどいいかも!

 あー、なんだか楽しみ♪


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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