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第29話 夕食前の甘い時間と、あの方の正体

「キス……!」

「ユティアは……昼間はたくさん触れてキスをしてくれるのに、どうして夜になると消極的で照れてしまうのかな?」

「それは……ええっと……」


 そういえばリア様って、昼間の姿をどう認識しているのかしら?


「リア様は、昼間の姿をご自分で──んっ」


 リア様は私がキスをしてこないことに痺れを切らしたのか、自分から唇にキスをする。

 それは甘くて、優しくて──でもちょっとだけ強引。たくさんキスをして、好きだという気持ちを言葉にする。


「ユティア、好き。愛しています。……なぜ恋や愛の詩や物語が語り継がれていくのか、こんなにも夢中になるのかが、わかった気がする」

「リア様……。私も……ですよ」

「ユティア?」

「……私はずっとこんな風に好きな人と、たくさんのお話がしたかったのです。でも以前の私は仕事の忙しさもあって、婚約者がいた時も温室(あの場所)で待っているだけでした。手紙や会いに行く手段はあったんです。でも勇気もなくて、ううん、あの人が他の女性と楽しく話しているのを見て、何度も落ち込むだけでした。『私の婚約者です!』なんて言い出す気持ちも、気力も……魔力なしだと思っていた私は、何もかも後ろ向きだったのですよ」


 以前の私だったら十二の魔女様たちに対して、あんな風に交渉はもちろん、立ち向かおうとなんて、できなかった。

 私を突き動かしたのは……。


「私を変えたのは、リア様ですよ」

「私が?」

「公爵令嬢でも、魔力なしの娘でもない──私自身を頼ってくれた時、すごく嬉しかったんです。必要とされていることが嬉しくて、リア様との時間はいつだって楽しくて、幸せな気持ちにさせてくれるのです」


 私から何度かキスを繰り返すと、リア様は満足そうに微笑んだ。人の姿になっても、私の肩に顔を埋めるのは変わらないらしい。なんだか甘えているようで可愛い。

 そっと頭を撫でたら「もっとしてほしい」と言わんばかりに、頭を差し出す。髪もモフモフしているのよね。しかもサラサラ。しかもいい匂いがするのだから狡いわ。今度は私がリア様の首に手を回して抱きついた。


「──っ」


 砂海豹とは違う。男の人の逞しい体と、シトラスの香りに包まれて、うっとりしてしまう。


「ああ、こんなに愛くるしくて、可愛くて……ちょっとずつ私の匂いに馴染んで染まっていくのは、特別感があって安心する」

「リア様の匂いに染まる?」

「魔法術式的にも必要だし、邪竜にユティアの存在を悟らせないようにしたい。いやこの問題は、さっさと終わらせるに限るな」

「リア様?」

「私の呪いはシシンたちとも話して、満月の夜がいいと思うんだ。シシンたちの契約を一時解除すれば、ユティアの魔力量も一時的に戻るからそれを使わせてもらいたい」


 リア様の呪いの上書き……不安はちょっぴりあるけれど、大丈夫だって思える。


「他に私のできることは、ありますか?」

「……魔力供給をしやすくするため……というか」

「なんでも言ってください!」

「……番として、私のだって印をつけたい」

「つが……っ!」

「ユティア、キス痕を残しても──」

「だ、ダメです! 恥ずかしいですし!!」

「ユティアが好きだって証を、ユティアに残したいのだけれど、ダメかな?」

「うっ……ダメです! だいたい目立つじゃないですか!」


 即答したらリア様は涙目になってしまった。そんな儚げな顔をするのは、卑怯だと思う。もしかしてわざと?


「見えるところにしなければ、分からないよね?」

「そ、そういう問題じゃな……」

「ユティア」


 低音ボイスは、反則だと思うのです!

 リア様は時々、我儘で強気に出る時がある。こういう時は私が何を言っても、上手い具合に振り回されてしまう。これだから恋愛慣れしているリア様は卑怯だ。恥ずかしいだけで嫌じゃないからこそ、私も流されてしまうところはあると思う。

 そんな感じで甘々な時間を過ごしたのだが──問題は、このあとだった。



 ***



「だ、誰だ、貴様!? ユティア嬢から離れろ」

「ふぇ!?」


 夕食の準備のため、自分のテントから調理場がある大きめなテントに向かう途中、ロウィンさんが私たちを見るなり、叫んだのだ。しかもいつの間にか、手には剣を持っているし!

 リア様に斬りかかりそうな勢いだったので、慌ててリア様の前に出た。


「ロウィンさん、この人はリア様で呪いが──」

「私はリア。ユティアの恋人で、結婚を前提に付き合っている」

「にゃ!」

「──は?」


 なんだか他人に『恋人兼未来の妻だ』って紹介されるのは、嬉しくも恥ずかしい。『リア様の恋人』というフレーズに大興奮の私とは違って、ロウィンさんは「本当か?」と疑わしい目を向けたままだ。


「そ、そうです。リア様は、わ、私の恋人で……その、将来を約束してくださっています」

「ユティア!」

「きゃ」


 リア様は私を軽々と抱き上げてしまう。これは私の物だと言われているようで、すごく恥ずかしいけれど、嬉しい。

 こんな展開って、まるで恋愛小説のようだわ。


「リア……? あの呪われた砂海豹、ああ。なるほど、昼間、ユティア嬢にべったりだったのは、そういうことか」

「砂海豹?」


 リア様は小首を傾げている。あ、これもしかしなくてもリア様は自分が昼間、砂海豹の姿だって自覚してない?

 そう考えると、私が昼間と夜で態度が違うことに色々言ってきたのも、なんとなくわかる。


「それで──彼女の弱みにつけ込んで、恋人枠に収まったのか?」

「キッカケはそうだったかもしれないけれど、今は違う。心からユティアを愛しているし、この先もずっと一緒に、好きなことをやってみたい」

「リア様……。私も、リア様と昼間も一緒に料理をして、お散歩したいですわ」

「ユティアっ──君はいつだって些細な願いばかりだ。もっと贅沢を言ってもいいのに。君が望むのなら、なんでも与えたいと思うのに。ああそうだ、夜に指輪を贈ろうと話していたね。今、貰ってくれるかな?」


 リア様が手を翳した瞬間、幾重にも魔法陣が連なって白銀と金の指輪が形成される。シンプルだがとても素敵なデザインだ。宝石は金色の輝きを放っている。


「リア様は指輪も魔法で作ってしまうのね! なんて凄いのかしら!」

「ユティアとお揃いだけれど、いい?」

「ええ、もちろん」


 深く考えずに答えると、ロウィンさんは剣先をリア様に向けた。


「私は認めない──メイフィールド公爵から貴女様の安全を託された以上、そのような勝手な話は許されない」

「え」


 唐突な発言に耳を疑ったが、ロウィンさんは胸ポケットから、ある物を取り出す。それはメイフィールド公爵家の紋章入り封蝋印だった。

 あれは本物!


「……ということは、お父様の……部下の?」


 ロウィンさんは気まずそうな表情で、小さく頷いた。突然、お父様の部下だと分かって驚いたが、となるとリーさんも?


 しゅるるる……。

 風? そよ風にしては変な……。

 リア様が静かだと思って視線を向けた途端、目を疑った。複雑な幾何学模様の魔法陣が展開しつつあったのだから、心臓が飛び出るかと思った。


「リア様!? な、なにを!?」

「あれを消してしまえば、ユティアは誰にも縛られないのだろう?」

「いやいや! 大問題になりますし話がややこしくなるので、却下です!」

「……ユティアからキスしてくれたら」

「あーー、ええっとだな」

「もう! そういう使い方は卑怯です! ……そもそもそんなこと言い出さなくても、二人きりなら、リア様にキスしますよ?」

「ユティア!」

「んん──っ、ってだから人前は恥ずかしいって、言っているのです!」

「昼間は人前でもしているだろう」

「そうですけど……!」

「あーーーーーーー! すまない。話をしても?」

「あ。はい」


 ロウィンさんの言葉に頷き、リア様は膨れていた。

 リア様、私への溺愛ぶりがカンストしてしまったのではないかと思うほど、甘い。ミルクティーに、お砂糖十三杯入れるぐらい甘いわ。

 そんなこんなで、夕食時に改めて話すことに……。



楽しんでいただけたのなら幸いです。

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