表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/41

第23話 疲労回復には幸福蜂蜜のアイスミルクをどうぞ

「──ということで、王国は精霊の加護も消えて凶作、魔物討伐は騎士団が対応していますが、例年に比べて被害規模は酷いそうです。これは氷山の一角ですよ。アドルフ王太子の業務が滞って聖女エリーに仕事を押しつけたそうですが、彼女は王妃教育を受けていない平民出身ですからね。いくら魔力が高くても、そんなのは政治には関係ありませんから、仕事は溜まるばかり。離職者も増えて、ついには王太子の位を返上することになったとか」


 うわぁ……。

 思っていた以上に酷い状態ね。もっとも私が気にすべきことは、国の状況を憂うことでも、「ざまあ」と、ほくそ笑むことでもない。

 むしろ──。


「もしかしてリーさんがここに単身で来られたのは、国王か王妃に依頼されたから──ですか?」

「さすが察しが良い。たしかに打診はありましたが、その依頼は断っておいたからご安心ください。なんなら誓約書でも書きますよ」


 にっこりと笑顔を見る限り、まったくもって信用できないのは、なぜだろう。うん、笑顔が胡散臭いからだわ。


「それで私の居場所を秘密にして貰うために、なにをご所望ですか?」

「ほんと、話が早くて助かります」


 リーさんは満面の笑顔で、条件をさくっと語った。


「商談で何度かユティア様とお会いした、私の義理の兄が呪われておりまして……。貴女様の提供してくださっていた菓子で相殺してましたが……このところ口にしていなかったため、悪化してしまったのです」

「ロウィンさんが?」

「はい。しかし義兄は、ユティア様に合わせる顔がないと言い出して……」


 片手で顔を覆い、盛大な溜息を漏らした。あのリーさんが手子摺るなんて……。

 ロウィンさん。たしか前髪が長くて、髪の色は青黒かった人よね。たまにリーさんの商談に付いて来て、お茶や食事を振る舞ったことがあった。

 どうして私に合わせる顔がないのかしら? 別にロウィンさんのせいで、王城を追い出されたわけでもないのに。


「義兄にも色々事情があるのですが、説得してもぜんぜっん聞き入れる様子がありませんでしたので、強制的に連れてきた次第なのですよ」

「……ん?」


 今さらっと恐ろしいことを言ったような?

 私の予感は当たっていたようで、魔法陣を展開すると黒い上等な棺桶が出現した。

 ごめん、なんで棺桶。

 え、本当になんで!? 趣向を凝らした彫刻があり、これだけでも相当高いものだと推察できる。

 え、どうして銀の鎖で棺桶をぐるぐる巻きにしているの?

 殺す気?


「ええっと……助ける気は、あるんですよね?」

「もちろん。ですがこうまでしないと、すぐに逃げ出してしまうのもので」

「そういう問題?」


 棺桶を開けると真っ白な薔薇が添えられて、手足も縛られている青年が横たわっていた。青黒い髪は前髪だけがやたら長い、中肉中背で細身な感じだけれど、かなり抵抗したのか白いシャツはよれよれだし、黒のズボンもいつも新品ばかりだったのに、今日はかなり使い古されている。

 うん、これ拉致監禁じゃないですかね!?

 というか殺しにかかっていませんか……。恐る恐るリーさんに視線を向けた。


「……本当に助ける気は、あるんですよね?」

「もちろんです。私が葬儀屋に見えますか?」

「見えませんが……なんでしょう。言われたらしっくりきます」

「酷いですね」

「きゅい」

『高度な術式を感じられます』

「そうなの? 見ただけでわかるなんて、リア様はすごいのですね」

「きゅう」


 リア様は私の肩に顔を埋めて照れている。モフモフの毛並みが頬に当たって役得だわ。


「大変申し訳ありませんがイチャイチャぶりを見せつけないで、ささっと義兄を看ていただけますか?」

「イチャ……はい」


 そんなつもりはなかったけれど、指摘されるとなんだか照れるわ。リア様はリーさんの話を無視して、ベッタリと背中に引っ付いたままだ。微妙に体重をかけない気遣いを感じる。

 改めて棺の中を見ると眠っている──と思っていたら気を失っていた。黒い痣が腕から首に向かって広がって見える。以前会った時は、痣はなかったはず。たぶん。


 問題というのは、この痣というか呪いの解除方法ね。私が作るものなら効果があるらしいけれど……。とりあえず両手の鎖を解き、疲労回復によい幸福蜂蜜を使った食用の牛乳に、ディーネの力でひんやりして貰ったアイスミルクを用意する。


 幸福蜂蜜は、幸運の加護が強い世界樹リッカでしか取れない特産品で、極上の蜂蜜には疲労回復だけではなく、呪いや、状態異常も無効化する素晴らしい効能を持つ。ちなみにリア様に一度飲ませたのだけれど、ただただリア様が酔っ払って可愛くなるだけだった……。

 ともあれ通常なら、この飲み物で多少回復する──はず!


「ロウィンさん、こちらを飲んでください」

「……その必要はない。私は」

「そういうのはいいんで、さっさと飲んでください。私はリーさんに対価を払わないといけないので、ロウィンさんの事情はどうでもいいのです」

「あ、はい」


 有無を言わさずに飲ませると、最初はチビチビ飲んでいたが途中からぐびぐびと飲み出す。やっぱり喉が渇いていたようだわ。

 んー、料理もちゃんと食べていなそう。ひとまずトマトスープを食べてもらったが、お昼は食べやすくて栄養価が高いものを作ろうかしら。


「ユティア嬢は……今の生活が楽しいですか?」

「はい。執務に追われることもなく、自給自足で自分の時間を取れてとても幸せですわ」

「…………それは、よかったです」

「きゅう!」

『ゆてぃあ』

「ふふ、もちろんリア様と出会えたことも、含まれていますわ」

「きゅ」


 後脚をバタバタさせつつ、モフモフの毛並みを私の頬に近づけてくる。こういう甘え上手なのも狡いわ。頬にキスを一つして、鼻先にもキスをしたら「きゅうう」とふにゃふにゃになって、私に寄りかかる。可愛い。

 ロウィンさんは私に返答にホッとしたのか、両肩の力を抜いて安堵していた。どうしてロウィンさんが負い目を感じているのかしら? 謎ね。


「義兄さん、スープを飲んで少しは楽になったかい?」

「ああ……。死を覚悟したけれど、勝手に幕を下ろす訳にはいかないようだ」

「うんうん」


 リーさんとロウィンさんの事情はよくわからないが、お昼の前にディーネやシシンたちから話を聞きたいのよね。

 リーさんは『忘れ時の絵画』ことを知っている風だったけれど、リア様の呪いのこともあるし、聞かれるのは避けたほうがいいわよね。


「リーさん、シシンに相談したいことがあるから、少し外してくれる?」

「おや、『忘れ時の絵画』やユティア様の記憶関係でしたら、私の知っていることでしたら情報提供できるかと思います。どうです、何かと便利かもしれませんよ?」

「タダじゃないのね」


 リーさんらしい。どこまでも彼は商人なのだろう。


「タダほど怖いものはありませんからね」

「そうね」


 私としてもお金や対価を払うことで秘密が守られるのなら、有難い。こういう時、信用というのは本当に大事だわ。

 リーさんが一流の商人である以上、秘密は守るだろうけれど、それを過信しすぎずに注意しないと駄目ね。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

下記にある【☆☆☆☆☆】の評価・ブクマもありがとうございます。

感想・レビューも励みになります。ありがとうございます(ノ*>∀<)ノ♡


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

平凡な令嬢ですが、旦那様は溺愛です!?~地味なんて言わせません!~アンソロジーコミック
「婚約破棄したので、もう毎日卵かけご飯は食べられませんよ?」 漫画:鈴よひ 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

【単行本】コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(↓書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください↓)

https://potofu.me/asagikana123

html>

訳あり令嬢でしたが、溺愛されて今では幸せです アンソロジーコミック 7巻 (ZERO-SUMコミックス) コミック – 2024/10/31
「初めまして旦那様。約束通り離縁してください ~溺愛してくる儚げイケメン将軍の妻なんて無理です~」 漫画:九十九万里 原作:あさぎかな

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

コミカライズ決定【第一部】死に戻り聖女様は、悪役令嬢にはなりません! 〜死亡フラグを折るたびに溺愛されてます〜
エブリスタ(漫画:ハルキィ 様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

攫われ姫は、拗らせ騎士の偏愛に悩む
アマゾナイトノベルズ(イラスト:孫之手ランプ様)

(書籍詳細は著者Webサイトをご覧ください)

html>

『バッドエンド確定したけど悪役令嬢はオネエ系魔王に愛されながら悠々自適を満喫します』
エンジェライト文庫(イラスト:史歩先生様)

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ