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第16話 魔女たちの宴への唐突なご招待

 神々が去った後、世界は十二の魔女と他種族たちで指針を決めるべく会議を開くことが多かった。魔女たちは常に珍しい物を好み、菓子には様々な注文を出したという。

 十二の魔女全員の舌を唸らせた料理人は、年端もいかない一人の少女だったとか。そんな夢物語をお母様は眠る前に話してくれたっけ。


 どうして、忘れていたのだろう。

 どうして、忘れることができたのだろう。

 あんなに大切で、大事な思い出だったのに。


「それは忘れていたのではなく、奪われたからですわ」


 奪われ……ん?

 聞き覚えのない声に、意識が浮かび上がる。


 花とお香の甘ったるい匂い、お皿の揺れる音と賑やかな声と楽しげなメロディ……。

 宴かしら?

 重たげな瞼を開くと、そこは白い森の中だった。

 幻想的なほど美しい白い木々に葉、円卓のテーブルの上には様々な白い食器が並べられているが、そこには料理や菓子が一つも見えない。

 ティーカップもあるのに、中身は空だ。


 クスクスと微笑む笑う声に気付いて、円卓のテーブルをよく見ると、黒のとんがり帽子に黒のローブを羽織った美女十二人がおのおの席に座っていた。

 わっ、美人さん……。

 そう美人さんだというのは認識できるのに、髪の色や雰囲気、()()()()()()()()()()()()()()。白昼夢のような不思議な感覚だわ。


「ようこそ、魔女の宴(ワルプルギス)に」

「魔女様の宴……?」

「そう。ここは魔女たちが集う宴」

「君が過去、現在、未来だろうと、この場所は様々な縁によって辿り着く」

「アンタは悲しいことに、私たち十二の魔女と間接的に縁を作ってしまった。怨むのなら、あの愚かな王を呪うことね」


 縁。

 繋がりというのなら、リア様のことかしら?

 シシンからもリア様は遙か昔に王様で、魔女たちから呪いを受けたと言っていた。ということは、その縁に私は巻き込まれた?


「わ、私が……リア様の恋人になったから……間接的に魔女様たちと縁ができて……呼び出された……と?」

「その通りよ。あの男は私たちに全く同じ言葉で愛を囁いたわ。『ずっと傍にいて欲しい、心を動かされたのは久し振りだ』とね」

「うわあ、それは最悪ですね……」


 思わず声が漏れた。

 それに対して魔女様たちは、さらにヒートアップする。


「でしょ!」

「やっぱりそう思うわよね」

「ねー、やっぱり安全装置は用意しておいて、よかったでしょう!」

「ね」


 話が見えず小首を傾げていると、魔女様たちはクスクスと笑った。笑い方まで品があるなんて、魔女様はすごいのね。


「貴女は哀れにも、あの王を助けた善良な娘なのでしょう。あの王に惹かれているのなら、ここで目を覚ましなさい」

「え」


 それは恐ろしいほど良く通る声だった。


「あの王は愛を知らない。心を持たない神にも人にもなれなかった──なれのはて。そんな王に、私たち全員でいくつもの呪いをかけたわ」

「砂海豹になる呪い」

「意思疎通ができない呪い」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 え……?

 助けた人に惚れる……呪い?


「惚れ続けて徐々に触れたくて、押し倒したくなる呪い」

「結ばれた瞬間、全ての呪いが解けて自由になる。つ・ま・り☆惚れていた呪いも解かれて、君を好きだって思いすら全部忘れてしまう呪い」

「──っ!?」


 私の傍にずっといたのも、やたらとボディタッチや触れていたのも──全部、呪い。

 今度こそ頭蓋をガツンと殴られた気分だった。

 あんなに好意的だったのも?

 胸が軋むように痛い。


「…………」


 何を浮かれていたのだろう。

 なぜ、気付かなかったのだろう。

 シシンだって複雑な呪いで、自業自得だって言っていたのに。分かっているつもりになっていたのね。


「私たちの呪いを調節して、あの王がずっと貴女に惚れたままにすることだってできるわ」

「うんうん。だからあの王に酷いことをたくさんしてあげて」

「ひどい……こと?」

「僕としては、君が他の人と恋人になって、結婚して見せつけてやるのもいいと思うな」

「わたくしは、ありとあらゆる金銀財宝を強請って、無理矢理でも集めさせるのも面白いわ」

「「「「あの王の絶望が見たい」」」」

「「「「あの王に最大の苦しみを」」」」

「「「あの王が酷い目に遭えば良い」」」


 苛烈で真っ黒な感情。

 それは魔女たちが受けた屈辱や悲しみなのだろう。魔女様だって女の子なのだ。

 あんな素敵な殿方に愛の告白をされたら、少しぐらい心が揺れ動いてしまう。私は大いに揺れ動いていたけれど!

 だから魔女様たちは、仕返ししようと考えたのね。かつて自分たちがされたことを知らしめるために──。


「さぁ、この鈴を受け取れば、契約は成立よ。鈴の音をならせば結ばれた後でも、あの王の心を貴女が好きにできるわ」


 黄金の可愛らしい鈴だった。

 赤と銀色のリボンがついている。

 ああ、魔女様としては『リア様を愛玩具として飼い続けろ』と言いたいのね。


 リア様のことを考える。

 恋人として夢のような時間だった。本当に泡沫の──儚い一時。

 何もかも偽りで、魔女様たちに仕組まれていた。


 自分を必要としてくれるのが嬉しくて、向けてくれた思いが温かかったから……。最初はモフモフに惹かれて、神獣種だったし、助けなきゃって思った。


「きゅう!」


 前脚で必死に何かを訴える姿が可愛くて、表情豊かで、些細なことで不貞腐れるし精神年齢は子供並みだし、すぐに泣くし、でも美味しい物を食べるときは嬉しそうで……。


『ゆてぃあ』

「ユティア」


 リア様が好意的だったからこそ、私たちは恋人関係になった。一緒に暮らして、恋人になったのは数日前で、でも全部呪いのせいだって……。

 リア様には心がない?

 ううん、私の知っているリア様は誰よりも喜怒哀楽が激しくて、ちょろいぐらい簡単に機嫌が良くなる。人の姿の時も王様というより、料理に興味がある魔法好きの青年で、甘い言葉やスキンシップは多いけれど、嫌じゃなかった。


 お、大人の関係はまだ早いって思っていただけで、私はリア様が好きになっていた。

 リア様のことを知りたいって、傍にいたい。

 リア様のことが好き。

 キッカケはリア様の呪いだったかもしれないけれど、私の中で育った思いは私のものだわ。


「さあ、鈴を」


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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