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第10話 ふわふわ幻想パンケーキにかけるものは?・前編

 死の砂漠で暮らし始めてから、一カ月半が経とうとしていた。

 生活基盤を整えるため田畑の拡大、食料の備蓄庫に、簡素ながらの厨房を造った。家の建築などは、矮人妖精(ドヴェルグ)のティーさんとラテさんに依頼している。二人とも長い髭をしている三頭身の小人だが、私よりもずっと力持ちで武器や複雑な道具、建築などが得意な種族だ。


 彼らへの報酬は決まってお酒だったりする。ワインやエールなどの醸造酒、ウイスキーなどの蒸留酒、梅酒やリキュール系の混成酒の三種類の中ですぐに用意ができそうなのは、朝霧の星葡萄で作った赤ワインだったので提案したところ承諾してくれた。

 朝霧赤ワインは、朝霧の星葡萄を潰して果梗を取り除き、果汁と果皮と種が混じったものを樽にいれて15日間ほどアルコール発酵させる──という超絶簡単な方法で作れる。しかも朝霧の星葡萄を潰すのは狼妖精(コボルド)さんたちにお任せしたので、良い具合に大地の加護と祝福を凝縮したワインになること間違いなし。


 以前、商業ギルドにも卸したが、かなり人気で即売したとか。私も葡萄踏みをしてみたのだが、精霊と妖精双方から酒ではない別のものができあがったせいで、次回以降は全力で止められたのよね。リーさんは「エリクサ!?」とか言っていた気もするけれど、もしかしたらエタノール的な幻想酒だったのかも?

 そんな感じで、不本意ながらワイン作りは葡萄の収穫のみしかしていない。


 テント暮らしも慣れてきたし、朝昼晩の食材も充分足りている。というのもこの死の砂漠というのは、魔力をひたすら吸い続ける特性があるのだけれど、常に魔物を呼び寄せる香りを漂わせているらしい。それらに引かれて様々な魔物が姿を見せるのだ。


 つい最近は雄鶏と蛇のコカトリスの一団が死の砂漠を縦断しているのを見かけて、何羽かコームに狩って貰った。しかも妖精界に戻ることもなく、一緒にいてくれる。

 コームは一匹狼みたいな硬派な感じだったけれど、もしかしたらもっと仲良くしたかったのかも? 

 あるいは温室の空気が合わなかったのかな?


「きゅう!!」

『ゆてぃあ!!』

「ぬにゃ!?」


 唐突に飛びついてきたのは、砂海豹のリア様だ。途端にコームは嫌そうな顔をして姿を消してしまい、リア様はそんなことお構いなしに私の傍を浮遊する。

 シシンから風魔法の加護をもらったのか、水中を泳ぐように生き生きとして動き回るようになった。それだけじゃなく──。


「きゅううきゅうううう!」

『ゆてぃあ。じょせいとしては、ゆてぃあはこのましい』

「まあ! ありがとう」


 この一カ月半で、リア様と意思疎通ができるようになった。若干、文脈が可笑しいけれど、なんとなくのニュアンスで理解できる。シシン曰く、風と音魔法で言語自動翻訳を行っているらしい──うん、この時点で意味不明なのだけれど、つまりは意思疎通できる魔法だとか。ただ呪いの影響で、翻訳がどうにも直訳的な感じになる。

 リア様の声って結構好きかも。

 それに。


「ゆてぃあ」と名前を呼ばれるたびに、脳裏に褐色の偉丈夫が浮かび上がる。

 ここ一カ月半、褐色の偉丈夫と夜の散歩や、他愛のない話をする夢をよく見るのだ。

 夢の中だから、なにを話していたのか思い出せないけれど、終始ニコニコしていたあの人が忘れられない。……我ながら出会ったこともないのに、人恋しいのかしら?

 それともホームシック? 

 うーん、それはないわね。

 仕事人間の父に、社交界での評判しか興味の無い母。あんな針の筵のような実家になんて、絶対に戻りたくないわ。


「きゅうう?」

『ゆてぃあ、そくさいですか?』

「ソクサイ? 息災──元気か、っていいたいのね? ふふ、難しい言葉を知っているのね」


 リア様のモフモフに抱きつく。今は浮遊しているので抱きつくのが簡単にできる。以前よりも毛並みもよくなって、ふわふわ具合も最高に心地よい。良い香りがする。

 それこそ、あの夢に出てくる人を思わせるような?

 ──って、何を考えているの!?

 ぶんぶんと頭を振って、愚かな考えを取り払う。


「きゅうきゅ……」

『ゆてぃあ、きょうのおちゃのこは、なんでしょうか?』

「お茶の子? ……あ、オヤツね!」

「きゅう!」

「ふふっ」


 リア様はすっかり料理の虜だ。最初の数日は魔物種に対して難色を示していたが、無害だとわかり、あっという間にメロメロになった。

 食獣種も捕獲できる時は、そちらで対応するけれど、毒抜きした魔物種のほうが素材の味が美味しいのよね。下拵えもちょっとで良いぐらいだし。


 一カ月半ほど見てきて、リア様はスープにご執心で、何杯もお代わりを要求する。その分、主食の肉や魚は小食。最初は口に合わないのかと思ったけれど、シシン曰く「あとはデザートを食べるためだって」と呆れ顔で話してくれた。


 精霊も妖精たちも甘い物には目がないが、神獣種のリア様もどうやらそのようだわ。

 私としては自分の作った物を喜んでくれるのは、この上なく嬉しいのだけれど……。一つだけ悩みがある。


「昨日はゼリー系だったから、今日はふわふわ幻想パンケーキなんてどうかしら?」

「きゅう!!」

『支持します』

『はいはーい! パンケーキには、もちろん蜂蜜と上にジェラート乗せよね♪』

『ググッ。……パンケーキには真っ赤なベリージャム』

『私はもちろん、生クリームだわ』

『カスタードクリーム』

『ふふっ、ユティアのパンケーキなら断然、黒蜜一択だろう!』

『『『『あ?』』』』


 始まったわ。

 以前からパンケーキはもちろん、ケーキ類になると精霊と妖精それぞれで意見が分かれる。どれも自分の好物が一番だと譲らないのだ。

 どれも美味しいじゃダメなのよね。

 ちなみにリア様は傲慢にも『全部乗せ』が大好きなので、他の子たちから「ありえない」と言われていたけれど……。

 そんな傲慢さも、可愛らしく思えてしまう。


「黒蜜とジャムと蜂蜜、それとジェラートはストックがあるけれど、生クリームとカスタードクリームは準備しないといけないから、みんな手伝ってね」

『わかった!』

『ググッ。切るのなら、なんでもする』

『もう、しょうがないわね』

「ありがとう」


 自分たちが食べなくても、彼らは手伝いを喜んでしてくれる。そこは協調性があるので助かるわ。

 もっとも自分たちの好きなものは、色んな人の手で作られているって分かっているからこそ、手伝ってくれるのよね。

 一人で材料から集めて作るのは、とてつもない労力と時間と手間がかかる。それこそ温室で焼き菓子や調味料を頼まれることが多かったけれど、手伝ってくれたのは、いつだって妖精や精霊の彼らだわ。


楽しんでいただけたのなら幸いです。

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