願いの花を探して
初めての投稿です。
よろしくお願いします。
動物の国の猫ばかりが住むミャウという街に、5匹の兄弟猫達と母さん猫が、父さん猫の帰りを待ちながら暮らしている。
この動物の国は、隣の国である虫の国と、一年程前から国境付近の鉱山を巡って戦争が続いている。
そのため、街の冒険者ギルドには志願兵を募集する張り紙が常に張り出されていて、冒険者をしていた父さん猫は報酬目当てで志願兵になり、長い事家に帰って来ていない。
兄弟猫達と母さん猫は、定期的に父さん猫に手紙を書き、返事が届くたびに安堵することを繰り返すうちに、眠る前に母子揃って夜空を見上げ、1番輝く大きな星に向かって「父さんが無事に早く帰って来ますように」と、お祈りするのが習慣になった。
そんなある日、いつもの様に母さん猫のお手伝いで畑へ行った帰りに冒険者ギルドの前を通りかかると、数人の冒険者が噂話をしているのが聞こえてきて5匹は足を止めた。
「なぁ、お前ら願いの花って知ってるか?」
「願いの花?」
「あーそれ、聞いたことある!手に入れたやつの願いが叶うとかなんとかって迷信みたいなやつだろ?」
「それそれ。どっかの言い伝えかなんかかねぇ?」
「胡散臭いな。俺はそんなもん探す暇があったら、少しでも依頼をこなして稼ぎたいけどな」
会話の内容に興味津々で、兄弟猫の長男モモタは飛びつく様に「その話本当⁈どこで聞いたの⁈」と、冒険者達に近づいた。
いきなり話に割って入られた冒険者達は、その勢いに気圧されながらも「ただの噂であって実在するかわからない」と念押ししつつ「願い事を叶えてくれる花があるらしい」ということをモモタに教えた。
「そんなに花について知りたいなら、街の外から来た旅の冒険者にでも聞いてみろよ。この街の中じゃ噂自体知ってるやつが少ないからな」
「そうなんだ…でも、それがあったら……教えてくれてありがとう!」
お礼を言って、モモタは兄弟達とまた家に向かって歩き出した。
数分後、家に着くなりモモタが目を輝かせながら「さっきの願いの花ってやつ、本当にあったらいいな!」と言うと、長女のアズマがモモタと同じ様な表情をしながらうんうん頷いて、次女のモモは「まさか、さっきの話信じたの?」と呆れながら言い、次男のシャイと三女のベニは思案顔になった。
◇
モモタは丸顔で短毛のサバ虎で、性格はヤンチャ。おやつを盗み食いしたり兄弟達にイタズラを仕掛けてよく怒られている。
アズマはシュッとした細身で短毛のサバ虎で、性格はお転婆で男の子に混ざって体を動かして遊ぶのが大好き。
モモは丸顔でふわふわ長毛の三毛猫で、性格はツンデレ。とても愛らしい顔立ちをしているので、街の同年代の猫達はモモを街のマドンナの様に思って憧れていたりする。
シャイは目鼻立ちがはっきりしたふわふわ長毛の白黒猫で、兄弟の中で1番賢い。性格は大人しく口数が少ないのでクールに見える。女の子にはクールなイケ猫だと思われていて人気だが、男の子からは何を考えてるかわからない奴だと思われている。
ベニはふわふわ長毛のキジ虎で、性格はおとなしくて無口。他の兄姉より小柄なので友達からも妹扱いされている。
それぞれタイプは違うけど、不思議といつもどこに行くにも一緒に行動している仲良し兄弟である。
◇
噂を聞いた翌朝、兄弟猫達は外の騒がしさで目を覚ますと、眠い目を擦りながら窓を開けて外の様子を伺った。すると、冒険者ギルドの方向に何やら猫達が集まっているのが見えて、これは何かある!と急いで身支度を整え外に出た。
集まりに近付くと、父さん猫が戦場に赴く時に志願兵達を乗せて行ったのと同じ、大きな幌つきのトラックが停まっていて、トラックの近くには母さん猫がいるのが見えた。
兄弟猫達が、一体何があったのかとソワソワしていると、幌の中から誰かが降りてくる気配がして5匹は固唾を飲んでそれを見守った。
すると、トラックの中からはずっと会いたいと願っていた父さん猫が降りて来たのである。
「父さんだっ!!」
モモタは猫達の隙間を縫うように走り出し、他の兄弟達もそれに続いた。
そして――
「「「「「父さん!…おかえりなさい!!」」」」」
兄弟猫達は、父さん猫をぐるりと囲んで泣きながら抱き着き、その上から母さん猫も子供達ごと夫を抱きしめ、無事の再会を喜んだのだった。
◇
久々に家に帰って来た父さん猫は、ひとまずお風呂で疲れを癒した。
そうしてお風呂から出てくると、リビングの椅子に腰掛け、戦場を離れる事になった経緯を家族に話した。
「敵と交戦中だった仲間を庇って、右腕に矢を受けてしまったんだ。傷は塞がったんだが、まだ剣を振るうには万全ではないから戦場を離れる事にしたんだよ」
そう言って父さん猫は、ぎこちなく右腕を回して見せた。
「終わりの見えない争いに、最初はやる気に満ちていた兵たちも最近は疲れていて、すぐに復帰するのが難しい怪我をして戦場を離れる者が増えているんだ」
「あら、それでなのね。今までにも負傷した方が運ばれてくることはあったけど、今日みたいな大きいトラックはあなたが戦場に行った時以来だったから、みんな驚いていたのよ」
「あぁ、だからあんなに野次馬がいたのか」
「それにしても、怪我は辛いでしょうけど、あなたが生きて帰って来てくれてよかったわ」
母さん猫がそう言うと、子供達も大きく頷いた。しかし、父さん猫の表情はまだ険しい。
「だが、どちらの国も鉱山を諦めていないから、この先もどちらかが敗れるか降伏しなければ、戦争は続くだろう」
「…ねぇ、父さんは腕が治ったらまた戦場に行っちゃうの?」
不安そうにモモタが言うと、父さん猫はハッとした。
せっかく帰って来たのに、再会を喜んだのも束の間、早速子供達を悲しませてはいけないと気付いた。
「まぁまぁ、とりあえず今日のところは暗い話ばかりしていないで、せっかく久々に家族が揃ったんだから、父さんを労ってパーティでもしましょうよ」
重い空気を払うように、母さん猫が明るくそう言うと、父さん猫も漸く表情を緩めた。
「あぁそうだな。みんな、長く心配をかけてすまなかった。これからは家族の時間を大切にしよう。せっかく生きて再会できたんだからな」
母さん猫のおかげで、みんなは気分を入れ替えてパーティの準備に取り掛かるのだった。
◇
パーティの翌日、兄弟猫達は冒険者ギルドに来ていた。
「僕達、冒険者登録しに来ましたっ!」
「冒険者登録は12歳から行う事ができますが……失礼ですが、皆さんの年齢は?」
モモタの元気な声かけは少々幼く見えたようで、受付員は訝しみながら年齢確認をした。
「大丈夫です。こう見えて僕達12歳ですから」
モモタにかわりシャイが落ち着いて答えると、受付員はシャイの横に立っている一回り小さいベニを見てまた訝しんだ。
「…一応私も12歳だけど」
「私達は五つ子なの。この子は末っ子だからみんなより体が小さいだけよ」
ベニに続いてモモが答えるも、受付員はどうすべきか迷い、確認ができないからと断ろうかと思いかけたところで、たまたま依頼を探しに来ていて一連のやりとりを見ていた、兄妹猫達の知り合いの冒険者から助け船が出され、冒険者登録は行われた。
受付員からの説明を聞き終えると、知り合いの冒険者にお礼を言い、早速初心者向けの簡単な依頼を受けて冒険者活動を開始したのだった。
◇
昨晩のこと――
パーティがお開きになると、兄弟猫達は寝室に行きそれぞれ寝支度をしてベッドに入った。すると、シャイがポツリと独り言の様に呟いた。
「僕、明日冒険者登録しようと思うんだ」
突然の宣言にみんなは驚き、上半身を起こしてシャイを凝視した。
一瞬の沈黙の後、最初にモモが口を開いた。
「急にどうしたの?シャイが冒険者になるだなんて、まるでモモタみたいな事言って」
モモの言葉にシャイ以外のみんながうんうん頷く。
「さっき父さんが言ってたでしょう…どちらかが敗れるか降伏しないと戦争が終わらないって。それで思ったんだ…」
「まさか、父さんの代わりに志願兵になるとでも言うの?」
「ダメだよそんな危ない事!父さんと母さんだって許してくれないよ!」
モモとアズマに口々に言われ、シャイも上半身を起こしてみんなの方を向き、首を横に振りながら否定すると理由を話した。
「何日か前に、願いの花の噂を聞いただろう。僕は、冒険者になってその花を探しに行きたいんだ」
「でもあれはただの噂だって、あの冒険者が言ってたじゃない」
「それでも、噂になるって事は何か根拠があると思うんだ。だから、願いの花を見つけて争いのない平和な世界にしてほしいってお願いしたいんだ」
シャイが自分の胸の内を明かすと、モモタとアズマが目をキラキラさせながらシャイの考えに乗っかった。
「そう言う事なら僕もシャイに賛成!ついでに僕も冒険者登録する!」
「私も!」
そんな2匹に対して、やれやれと言った様子でモモはため息を吐いてベニの方を見ると、いつも通り無言だが表情には拒否している様子はないので、結局みんなで冒険者登録をして願いの花探しをする事になった。
そしてシャイは「できるだけ早く出発したいから準備期間は1週間」と宣言した。
◇
冒険者登録をしてから1週間の間、5匹はそれぞれに依頼をこなしたり、単独では難しそうな依頼も全員で協力して取り掛かった。
冒険者の仕事に慣れていくと同時に、モモタは剣術、アズマは体術を父さん猫に習い、モモは旅先で野宿する事になっても困らない様に母さん猫から料理を習った。
シャイとベニは街の外の事を、図書館に行ったり他の冒険者から聞いたりして知識を増やし、弓術が得意な冒険者から弓術を習った。
冒険者になった事や、願いの花を探しに旅に出るという事は、冒険者になったその日に両親に打ち明けたが、やはり最初は反対された。
しかし、真剣に練習や冒険者活動に取り組む5匹を見て、段々応援する方に気持ちが傾き、旅に出ることを許し、その準備も手伝ってくれた。
そうして、旅立ちの日の朝。
街の出入り口まで見送りに来てくれた両親は子供達を抱きしめ激励する。
「みんな、いざという時には戦えるように鍛錬は欠かさないように。あと、何かあったら必ずみんなで力を合わせること」
「あなた達の無事を祈ってる。旅が辛くなったら無理しないで、いつでも帰って来ていいんだからね」
両親の言葉に5匹は「大丈夫、わかってる」としっかり頷き、笑顔で「行って来ます!」と言って街の外へと歩き出した。
◇
街を出て暫く経つと、自分達以外の冒険者の姿は殆ど見えなくなった。
今、見える範囲を移動している者達は、一つの街に留まらず旅をしながら活動している冒険者だったり、荷運びの依頼を受けてどこかの街へ行く冒険者だったり、旅商や行商に護衛として同行している冒険者なのだろう。
自分達ほど若い冒険者が街から離れた場所を歩いているのが珍しいのか、みんな兄弟猫達をチラリと見ては追い越して行く。
そんな中、1匹の豹の冒険者だけが声をかけてきた。
5匹は驚き、思わずモモタが「どうしているの⁈」と問いかけると、豹の冒険者はシャイとベニをチラリと見て口角を上げ「2匹から色々聞いたからな、お前たちの事が気になって様子を見に来たんだ」と言った。
「まさかジンさんが追いかけて来てくれるとは思いませんでした。ありがとうございます」とシャイが頭を下げると、ジンと呼ばれた豹の冒険者はシャイの頭をわしゃっと撫でた。
◇
ジンは兄弟猫達の家の近所に住んでいて、父さん猫が志願兵になる前はご近所さんとしても、冒険者仲間としても仲が良かったことから、兄弟猫達が小さい頃は遊び相手になってくれたり、父さん猫が戦地に行っている間は、母さん猫や兄弟猫達を心配して時々様子を見に来てくれていた。
そんなジンが兄弟猫達を追いかけて来たのは、5匹を心配する気持ちがあったのはもちろんだが、父さん猫から「自分の代わりにあの子達の助けになってやってくれないか」と頼まれたからでもあったのだ。
だがジンは、5匹とずっと一緒に旅をするつもりは無く、どこかで分かれてその後はこっそり跡をつけて様子をうかがうつもりでいる。
◇
それから、時々薬草採取をしたり休憩を挟みながらどれくらい歩いただろうか、漸く隣の街に到着し、門番に冒険者カードを見せて街の中に入る頃には空はオレンジ色に染まっていた。
街の中に入ると、早速この街の冒険者ギルドに行き、採取した薬草を換金して今夜泊まる宿の紹介を頼むと、旅の冒険者がよく利用する、食堂がついていて食事にも困らない便利な宿を紹介された。
そして夕食後、5匹とジンは一部屋に集まった。
「明日行動する組み合わせだけど、モモタとモモの2匹と、僕とアズマとベニの3匹っていう組み合わせでどうかな?」
「ちょっと!何で私がこの中で1番落ち着きのないモモタとペアなのよ!」
「だって、その落ち着きないのを抑えるのはモモが1番上手だし、モモタを気にしながらアズマかベニにまで気を回すのは大変でしょう」
「…それは確かにそうだけど、シャイがモモタとペアだっていいじゃないの」
自分を押し付け合う2匹を見て、モモタはいじけながら「僕って押し付け合うほど迷惑⁈」と戸惑った。
そして、ペア決めは結局モモが折れて決着がついた。
「明日から、お前達は情報収集に忙しくなるだろうけど、俺はそれには協力してやれない。お前たちはお前たちの目的のために力を合わせて頑張れよ。まぁ、暫くは俺もこの街に留まるつもりだから、冒険者ギルドで会うこともあるだろう。何か困った事があったら声をかけてくれ」
話が終わると、ジンは就寝の挨拶をして部屋から出て行き、それに続いてモモタとシャイも自分達の部屋へ戻って休んだ。
翌朝から5匹は、数日かけて街の至る所で聞き込みを行なった。
その結果、この街では「願いの花は王都より北の寒い地域にある」という話を聞く事ができたが、それ以上は有力な情報は得られなかったため、この街に来て3日ほど経った日の朝、この街を出る事を決めた。
そうして、宿を出て冒険者ギルドに行くとジンに声をかけた。
「おはようございますジンさん。ここにくれば会えると思ってました」
「おう、みんなおはよう。今日も聞き込みに行くのか?」
「いえ。もうここではこれと言った話は聞けそうにないので先に進もうと思って、ジンさんに挨拶しに来たんです」
「そうだったのか」
「ミャウから追いかけて来てくれて、ありがとうございました」
「私達、ミャウの外に出た事がなかったから本当はちょっと不安だったの。少しだけでも一緒に旅してくれて、ありがとう」
シャイとアズマがお礼を言うと、他の3匹も大きく頷いた。
「本当はもっと、ジンさんと一緒に旅したいけど、それじゃダメなんだよね…僕達の目的のために頑張らなきゃいけないのは僕達なんだもんね。僕頑張るよ!」
決意を込めた瞳で見上げてくるモモタの頭に、ジンは手を置き口を開いた。
「それがわかってるならこの先も何とかなるさ。俺も、お前達の両親も、いつだってお前達を応援してるって事を忘れるなよ」
「「「「「うん!」」」」」
こうしてジンと分かれた5匹は、街で得た情報を頼りに北を目指して歩き出した。
◇
その後も5匹は、ミャウを出た時と同じ様に、薬草採取や休憩を挟みながらいくつかの街を経由して、王都までやって来た。
「うわぁ…やっぱり王都って、像の街なだけあって全部がでっかいな!」
「でも、像だけじゃなくて、色んな種族が暮らしてるみたいだ」
「気を付けて歩かないと、私達気付かれないで踏まれちゃいそうね」
5匹は初めて見る王都の街並みに、驚くと同時にわくわくしてキョロキョロと視線を彷徨わせて歩いた。
そうして、たどり着いた冒険者ギルドでも、道すがら採取してきた薬草を換金し、紹介された宿へ移ると、今日はもう遅い時間だからこのまま休んで、聞き込みは明日から始める事にした。
翌朝――
ここへ来るまでに立ち寄った街では「登るのが困難な山の頂上に生えている」とか「白くて小さい花」だとかいう噂を多く聞いた。
王都ではどんな噂が聞けるだろうかと、期待に胸を膨らませて行動を開始する。
まず、自分たちが泊まっている宿の従業員、次に宿の近所のお店数軒を回って冒険者ギルドにやって来ると、同じくらいの年頃か、少し上に見える犬の冒険者グループに声をかけられた。
「おっ、お前らちっせーな!ここに何の用だ?」
いきなりそんことを言われ、アズマとシャイとモモは少しムッとしながら声の聞こえた方を振り返り、ベニは小さいなどと言われ慣れているため、無表情だ。
「僕達冒険者だよ!願いの花を探して旅してるんだ」
同年代の冒険者に声をかけられて嬉しいのか、モモタが無邪気に答えると、犬の冒険者グループは少し驚いた顔をした。
「へぇ、まさか冒険者だったとはな」
「しかも、願いの花を探してるって?」
「うん!」
モモタと話しながら犬の冒険者達は顔を見合わせ頷き合うと、またモモタに向き合った。
「実は、俺たちも願いの花に興味があって探しながら旅してるんだけど、よかったら一緒に旅しないか?」
急な提案に、今度は兄弟猫達が驚く番だった。
それから、犬の冒険者グループと立ち話もなんだからとテーブル席へ移り話す事にした。
「まずは自己紹介だな。俺はリオ。このグループのリーダーだ」
「俺はカイ」
「俺はルーク」
「僕はロイ」
「全員15歳だ」
兄弟猫達から向かって、左端のリオから順番に名乗るのを聞いた。
そこで、自己紹介される前から気になっていた、ロイの隣に座っている白鳥らしき鳥の子供に兄弟猫達は注目した。
「そいつは白鳥のソラだ。うちのメンバーじゃないんだけど、ワケあって一緒に行動してる」
そう言ってリオがソラの方を見ると、ソラはリオ達と行動を共にする事になった経緯を兄弟猫達に話して聞かせた。
曰く、ソラの故郷は大白鳥の街で、その日は隣の小白鳥の街に住む親戚の家に遊びに行くために単独で街の外に出たのだそうだ。
二つの街は険しい山の向こうの寒い地域にあるため、普段は余所者も好んで近付かないし、そもそも街同士がすぐ近くあるので今まで危険な目に遭ったこともなく、完全に油断していた。その日は運悪く密猟者が潜んでいて、ソラは捕まってしまったのだと言う。
「でも、森の中で野宿した時に僕の監視についていたやつがたまたま居眠りし出したから、気付かれない様にこっそり逃げ出したんだ。それで、夜通し逃げて、疲れきって岩陰に隠れて休んでいたら、リオ達と出会ったんだ」
「あの時は、採取依頼で入った森の岩陰に白い塊が見えて、気になって近付いたら白鳥だったから驚いたな」
リオがそう言うと、他の3匹も頷きそれに続く。
「白鳥なんて滅多に出会う事はないから俺達も驚いたな」
「その珍しさと羽の美しさで、密売者に高値で取引されてるって事は聞いたことがあったから、事情を聞いて俺達で保護したんだ」
そこまで聞いて、シャイは疑問を口にする。
「密猟者から逃げ出したのに、リオ達のことをどうして信じたの?」
「すぐに信じたわけじゃないよ…やっぱり、声をかけられた時は驚いたし、また捕まるのか、もうダメかもって思ったけど、みんなは僕に合わせて接してくれたから、少しずつ信じることができたんだ」
それを聞いて納得したのか、シャイは一つ頷いて兄弟達に目を向ける。
「今の話を聞いて、みんなはリオ達と一緒に旅してもいいと思う?」
「僕はいいよ!仲間は多い方が楽しそうだし」
「悪いやつじゃないのはわかったけど、ちびっ子扱いは嫌だな」
「私は嫌よ!初対面でいきなり馴れ馴れしかったもの!」
「どっちでもいい」
モモタ、アズマ、モモ、ベニの順で答えると、リオは苦笑いで兄弟猫達に謝った。
「さっきのは悪かったよ。自分達より若い冒険者に会ったことがほとんどないから物珍しくてさ…でも、初対面であんな風に話しかけられたら確かに嫌だよな」
「そうよ。でも、謝ってくれたから一緒に旅してあげてもいいわよ」
モモがツンとしたままそう言うと、アズマも同意したので、シャイは改めてリオに向き直ると、今度は自分達の紹介を始めた。
「僕はシャイ」
「私はアズマ」
「僕はモモタ!」
「私はモモ」
「私はベニ」
「僕達は五つ子で、冒険者になったばかりの12歳です。これからよろしくお願いします」
「あぁ、こちらこそよろしく」
「改めまして、僕はソラ。僕も君たちと同じ12歳なんだ。よろしく」
リオの目の前に座るシャイから順番に名乗り、最後にソラが自己紹介をして握手を交わすと、改めて願いの花について、今までの旅で聞いた花の在処に関する噂などを話し合った。
話し合いが終わると、早速二手に分かれて王都を巡った。
王都は建物が大きいこともあって、街自体が他の街より広く、兄弟猫達は毎日ヘトヘトになりながら聞き込みを行なった。
そうして1週間が経ち、そろそろ王都を出ようかと話している時だった。
「俺、城の門番やってるやつとたまたま知り合って願いの花の噂を知らないかって聞いてみたんだ…」
カイが何やらソワソワしながら話し出した内容に、みんなの顔が強張る。
「国王軍も願いの花を探してるらしい」
「えっ!」
「…本当に?」
「近々採取に行くらしいとも言ってたから間違いないんじゃないかな」
「近々採取に行くって事は、もう在処がわかってるって事か?」
「国王軍の目的は何だかわからないの?」
「目的はその門番もハッキリとは知らないみたいだったけど、たぶん戦争絡みだろうって」
「良いことに使うんだったらいいけど、そうじゃないなら俺たちも急がないとだな…」
その後、みんなが行動に移すのは早かった。それぞれ泊まっている宿を引き払い、すぐに王都を出た。
できるだけ急いでいるとはいえ、こちらは子供ばかりでしかも徒歩、移動速度はどうしたって遅いし、今頃国王軍は王都を出たのだろうかと悶々とする日々が続いた。
そんなある日、王都を出てから三つの街を経由して2週間ほど経過したところで、森の中で野宿をする事になった。
みんなで焚き火を囲み、今日は誰が見張りをやるかと話していると、ソラが思い詰めた顔で俯いて突然切り出した。
「僕、まだみんなに話してないことがあるんだ…みんなが探してる願いの花のことで……」
その場に一瞬沈黙が流れ、ソラは恐る恐るみんなの様子を伺うと、シャイが「願いの花の話ならぜひ聞かせてほしい」と言って話の続きを促した。
「…まず、誤解しないでほしいんだけと…今まで黙ってたのはみんなを疑ってたわけじゃなくて、街の外の者に話してはいけないって教えられたからなんだ……」
そこで一度言葉を切り、意を決する様に一つ深呼吸をして続ける。
「僕の故郷ではある言い伝えがあって、それは【誰かが何かを切実に願った時に白い花は咲き、咲いた花は瞬く間に枯れる】というもので、その花が咲く場所を、ずっと白鳥が守護してるんだ」
聞いてしまった話に、その場にいる誰もが動揺したが、シャイがいち早く冷静さを取り戻し質問する。
「咲いた花は瞬く間に枯れるっていうのは、言葉の通りすぐ枯れてしまうってこと?」
「僕は見たことはないけど、たぶんそうだと思う。僕のお祖父さんが子供の頃、実際に見たって言ってたんだ」
「えっ…じゃあソラのお祖父さんが子供の頃に、誰かが願いの花に何か願ったって事?」
「……みんなもたぶんどこかで聞いた事があると思うんだけど…昔は魔物が存在してたって」
ソラの話にそれぞれが「確かに祖父母が生きていた時は聞いた事があった」と、昔を思い出した。
「でも、自分の目で見た事がないから半信半疑だったな」
リオがそう言うと、ソラ以外のみんなは頷いた。
「それが、本当に昔はいたんだ。僕の家にはその頃の事が記された曽祖父の日記があって、それには――」
『国が荒れ、国民の心が荒んだ時、どこからともなく黒く禍々しい気を纏った魔物が現れ各地で暴れ回った。我々白鳥の街は結界に守られていて無事だが、他の街では被害が広がり、このままでは国が滅んでしまうかもしれないと思った私は、願いの花に、魔物を消し去りこの国を平和へ導いてほしいと願った』
「――それで、この世界から魔物が消えて平和な日常が戻ったって書いてあったんだ」
「すごい!」
「じゃあ守護してるっていうのは?」
ソラの話にモモタは感激し、シャイは守護とはどういうことなのか質問した。
「白鳥の中には、稀に神聖力を扱える者が現れるんだ。それで、そういう白鳥たちが代々白鳥の街や願いの花の咲く場所に結界を張って守ってるんだ」
静かに聞いていたメンバーも、さすがに神聖力や結界という空想のような話に驚愕している。
「白鳥がほとんど街から出ないのは、そういう理由か…」
「結界に守られてるなら、僕達は近づく事ができないんじゃない?」
「確かに…それじゃあ花を探しても意味が無いじゃないか」
ルークとロイが動揺しながらそう言うと、ソラは首を横に振った。
「そんな事ないよ。願いの花に近づくことは誰でもできるんだ。ただ、邪な願いには反応しないから、悪いことに利用しようと考えていると絶対に咲かないんだ」
「……国王軍の目的はきっと、こっちの国の勝利で戦争を終わらせることだよね?」
「あぁ。鉱山を諦めていないなら、そうなんだろうな…」
「もし、願いの花の咲く場所に国王軍と同時に到着したら、きっと花の取り合いになるよね」
「しかも、絶対譲ってくれないだろうな」
みんなの思考が暗い方へ陥っていきそうになったところで、モモがけたたましく鍋をお玉で打ち鳴らした。
「ちょっとちょっと!みんなして暗くなってどーするのよっ!国王軍が今どうしてるかもわからないのに、こんな森の中でグダグダ考えてたってしょーがないじゃないの!」
モモの喝に「それもそうだな」と、悩むのはいったん保留となった。
そうして、翌早朝に森を出て昼頃に次の街へ入ると、街の中がどことなく剣呑な雰囲気になっている事に気付き、冒険者ギルドで事情を聞いてみることになった。
冒険者ギルドに足を踏み入れると、昼時で冒険者の数は疎だが、街の雰囲気の原因だろう噂話が聞こえてきて納得した。
「まさか、昨日の今日で悩みの種に接近することになるなんてなぁ…」
そう言ったのはリオだ。
冒険者ギルドで噂話をしていた冒険者に声をかけ、何があったのかを教えてもらい、一行は宿の一室に移動し今後のことを相談することにした。
「あっちは昨日この街に着いて、白鳥の街まで道案内できるやつを探してるんだろ?」
「でも、白鳥の街には険しい山を越えないと辿り着けない。そんなに簡単に道案内できるやつが見つかるのか?」
「白鳥の街に行く用事のある行商とか?」
カイ、ルーク、ロイの順にそう言うと、ソラは思い出すように答える。
「白鳥の街に行商は全く来ないってこともないけど、来ても年に数回程度のはずだから、よほど運がよくないと案内役は見つからないんじゃないかなぁ…」
「運次第じゃ、こっちもゆっくりしていられないね…」
「暗い顔すんなよ!僕達にはソラがいるじゃん。今日ここで休んだら、明日出発しようよ!」
ソラの言葉に、思い詰めたように呟くシャイの肩を叩きながら、モモタが明るく言うと、みんなもそれに賛同した。
そうして、不足したものを買い足しに行くグループと、明日の行程を話し合うグループの二手に分かれた。
「じゃあ私達は買い出しに行ってくるわね」と言って、モモがアズマとベニと、一応護衛としてカイを連れて出かけて行くと「じゃあ俺達は地図で道を確認しよう」と、ルークが先程冒険者ギルドで手に入れた周辺地図を広げた。
「白鳥の街に行くには、この山の入り口から入るんだ」と言って、ソラは今いる街の上に描かれた三つの山のうちの右の山を指した。
その山は、三つの山の中で一番標高が高く、頂上付近は雲がかかるほど高いことから、ここを越えてまで白鳥の街に行きたいと思う者はそういない。そもそも、その山の入り口が白鳥の街に続いていると知る者も少ないのだが。
「山に入るまでは開けた道が続くから、僕は見つからないようにした方がいいよね」とソラが言うと、リオは「だけど、どうやって隠す?」と言い、続いてモモタが「袋に入れて運ぶとか?」と提案するが「ソラが入れるほどの袋なんて持ってないし、仮に持ってたとして誰が運ぶの?」とシャイが言った。
「…俺達犬の誰かだな」
「「「「…………」」」」
「なんでみんな黙っちゃうのさ!」
リオ達犬のメンバーは、小型種と中型種のグループだ。中型種のリオとカイなら猫より体も大きいし力も強いが、ここから森まで2匹だけで運べるだろうか…と考えた。
「じゃあさ、羽を染めて変装させるとか!」と、再びモモタが提案するが「そんなんで誤魔化せるか?嘴の色や形でバレるんじゃないか?」とリオは懐疑的だ。
それから暫く考えてみたものの名案は浮かばず、結局袋に入れて運ぶことになった。
そうと決まると、リオはすぐにどこかへ袋を調達しに行った。
◇
翌日、まだ夜が明けきらないうちに起床し、ソラを大きな麻袋に入れると、最初はリオがそれを担ぎ、疲れてきたらカイと交代しながら街の門を目指した。
門に着き、門番に怪しまれはしないかとハラハラしたが、偶然にも昨日とは別の門番が立っていて、怪しまれずに外に出ることができた。
そうして、外に出て暫くすると、背後からトラックの走行音と共に、誰かを呼ぶような声が聞こえて、ギクリとしながらみんなは声のした方を振り返った。
しかし、振り返った先に見えたのは全く予想もしていなかった者で、兄弟猫達は驚きと喜び半々の表情だが、犬達は何が何だか分からず、ただキョトンとして兄弟猫達とトラックを走らせて来た者とを見比べた。
運転手に気付いたモモタが、すかさず「ジンさんだ!どうしているの⁈」と、問うと「まぁいいから、とりあえずみんな乗れよ」と、荷台に乗るように指示した。
ジンと話をするためシャイは助手席に乗ると、まずは感謝を伝えてから質問に移った。
「ジンさんはどうしてここに?まさかとは思いますが、ずっと着いて来てたんですか?」
「まぁな。自分たちで協力しろとは言ったが、さすがに放っとくわけにいかないからな」
「そうでしたか…それを聞いて納得しました。道中全く危険なことがなくて、実は拍子抜けしてたんです」
「そうか…だが、安心するのはまだ早い。旅路はここからがキツそうだぞ」
そう言ってジンは、まだ少し先に見える山を見上げた。
「そういえば、このトラックはどうしたんですか?」
「さっきの街に昔の知り合いが住んでてな、礼を弾んで貸してもらったんだ」
それを聞いてシャイは、トラックを持っているだけでも珍しいのに、それを借りるなんて一体どんなお礼をしたんだろうと、冷や汗が出た。
「そんなことより、お前達をトラックで運ぶのにはもう一つ理由がある」
さっきまでの和やかな雰囲気を消して、表情を引き締めたジンはそう切り出した。
シャイは、嫌な予感を感じながら静かに続きを聞いた。
「国王軍の連中が今朝冒険者ギルドに現れて、お前達が白鳥を連れていることが知られた」
「……(やっぱりもう知られたんだ)」
「今頃街中の宿屋を探してるか、もう街の外に出たことを知って追いかけて来ている頃だろう」
「昨日のうちに知られなかっただけマシですね」
「あぁ。まだ運はこちらに味方してると思おう」
「そうですね…このまま何事もなく目的地に到着できればいいんですが」
その後、ポツポツと雑談を交わしているうちに山の麓に到着し、トラックを停めるとジンも一緒に入山した。
道すがら、犬のグループとソラと自己紹介し合い、トラックの中でシャイに話したことをみんなにも話した。
そうして、どれくらい時間が経っただろうか、太陽の位置が高くなった頃、山の頂上へ向かう道と裏側へ向かう分かれ道になった。
裏側へ向かう道の方に入ると、雑草が生い茂り獣道のような状態で、ソラの案内がなかったら見落としていたかもしれない。
それからも、ソラの案内でどんどん先へ進み、日が西に傾いて来た頃、ちょうど近くに洞窟を見つけて、今日はそこで夜を明かすことにした。
「ちょうどいいところに洞窟があってよかったな」
背負っていた荷物を下ろし、火を起こす準備をしながらジンが言った。
「山道キツイ…僕もうヘトヘトだよ」
地面に座り込みながらモモタが言うが、大人で体力もあるジンは余裕そうだ。
「あとどれくらいで白鳥の街に着くのぉ?」
モモがへばりながら、うわ言のように言うとそれにソラが答えた。
「今いるのが入山した山の裏側の麓だから、もう一つ山を越えれば白鳥の街に着くはずだよ」
それを聞いて、ジンとソラ以外のみんなは、今日歩いた山道を思い出し「明日もあんな道を歩くのか」と、ぐったりした。
◇
「みんな起きろ」
空が白み始めた頃、ジンはみんなに声をかけた。
「……もう朝?」
「まだ眠い…」
モモに続いてアズマが目を覚ますと、まだ寝ている者に声をかけて起こしていった。
みんなが目覚めて、夜明けと共に軽く朝食を摂ると、荷物をまとめて洞窟を出た。
昨日と同じように、ソラの案内で獣道のような道をひたすら進み、太陽が真上に昇る頃昼休憩を挟んだ。
「今歩いてる山は昨日の山ほど大きくないから、もう少し歩けば白鳥の街の入り口が見えるはずだよ。だから、みんな頑張ろう」
もう少しというのがどれくらいなのかソラにしかわからないが、とりあえずソラの励ましを糧に、休憩後もひたすら歩くのだった。
そうして、山の木々が途切れ開けた場所に出た時だった。
開けた場所に出たはずなのに影がかかり、不思議に思い空を見上げると、大型の鳥が頭上を通り過ぎ、前方に降り立ったのだ。
降り立ったのは、国王軍の軍服を着た大鷲だった。
「初めまして、犬と猫の坊や達。私は国王軍飛行部隊隊長のスカイという者だ。我々はそこにいる白鳥の坊やを探していたんだか、君を見つけるのとほぼ同時に白鳥の街を発見することができた。ここまでの道案内、感謝する!」
そう言って、大鷲のスカイは偉そうに胸を張ってソラを見下ろした。
「あなた達を案内したつもりはないし、白鳥の街に何の用ですか?」
「我々国王軍は、願いの花を探している。そして、その花は白鳥の街の付近にあることもわかっている。そこまでの案内を頼もうと思ってここまでやって来たんだよ」
「願いの花に何を願うつもりですか?」
「何を願うか…君達が知る必要はないことだ」
伝承を知らないからこの態度なのだろうけど、もし知ったら花の咲く場所をめちゃくちゃにされるのではないかと、ソラは少し不安になった。
「案内をしろと言うのに、目的を話さないなんて、随分と都合のいいことを言うんだな」
呆れを隠さずにジンがそう言うと、スカイはジンをひと睨みしてからまた偉そうな表情をした。
「フッ…では、教えてやろうじゃないか。陛下は願いの花に、忌々しい虫の国の兵士を消し去り戦争を終結させることを願ってこいと仰せだ。そうすれば鉱山は我が国のものだからな」
あまりにも想像通りの話に、それぞれ呆れたりがっかりしたり悲しんだり、様々な反応を見せた。
そして、ソラは勘違いを正すために伝承の話をしたが、スカイはそれを全く信じず「やってみなければわからない、とにかく花の場所まで案内しろ」とうるさいので、結局一緒に願いの花が咲く場所まで連れて行くことになった。
◇
大白鳥の街と小白鳥の街の間に広がる森を抜け、小さな山の麓にある洞窟に入り暫く歩くと、ぽっかりと吹き抜けのようになっている場所へ出た。
「わぁ〜、すごくキレイな場所ね」
モモが景色に感動して言った通り、吹き抜けのような空間には、斜面から出た湧き水が小さな池を作り、池の周りの土には瑞々しい苔が生えている。
「願いの花はどこだ」
感動の空気をぶち壊すようにスカイはソラに詰め寄った。
「さっき伝承を教えたでしょう。今花が咲いてないってことは、王様の願いは良くないことなんです」
「そんなはずはない!陛下はこの国の発展のために戦争に勝利し、鉱山を手に入れようとしているんだ!それのどこが良くないことだと言うんだ!」
「あんた、それ本気で言ってるのか?」
スカイの言い草に、ジンは苛立ち思わず地を這うような声が出た。
「本気に決まってるだろ!お前こそその態度、陛下のお考えを否定するつもりか⁈」
「あぁそうだな。いくらでも否定してやる!戦争なんてのは、命を無駄に散らすだけで心底くだらねぇと俺は思ってる!お偉いさんが勝手に始めた戦争に、何故国民が巻き込まれなきゃならない?」
「…なんだとぉ……」
「ジンさんの言う通りだよ!」
「戦争でどれだけの命が失われたのか知らないわけじゃないでしょう」
「私達の父さんだって、戦争で怪我して帰って来たんだから」
ジンとスカイのやり取りに、モモタとシャイとアズマがジンに加勢する形で口を挟むと、スカイはニヤリと顔を歪めて言い放つ。
「国の発展のために命をかけるなんて、素晴らしいことじゃないか!」
自分の発言が間違っていないと信じきっているスカイの様子に、みんなは自分の耳を疑った。
「…死ぬかもしれない場所に、行きたくて行くやつなんているわけないだろー!!」
みんなが放心する中キレたのはリオだった。
「俺とカイとルークとロイは同じ孤児院出身で、そこには二つ年上で俺達によくしてくれた兄貴分がいたんだ。そいつは孤児院を出てから冒険者になって、1年は順調に冒険者をやってた。だけど、ある日いきなり戦争に行くって言い出して…俺達は止めたけど、志願兵になった方が報酬がいいから、孤児達にもう少しいい暮らしをさせてやれるからって戦争に行っちまった。だけど、戦争に行って半年でそいつはっ……」
そこまで言うとリオは泣き崩れ、カイとルークとロイも泣きながらリオを宥めるように背中をさすった。
そんな犬達の姿を見ても、スカイは理解できないと言いたげな表情で肩をすくめるだけだった。
「他者の悲しみや苦しみが理解できない方は、どうぞお引き取りください。そもそも、僕がここに案内したのはあなたじゃなくてモモタ君たちですから」
そう言ってソラは、兄弟猫達を見てから池の方を翼で指した。
「君達なら、願いの花は咲いてくれるはずだよ。さぁ、あっちへ行ってみて」
そう言われて、兄弟猫達は顔を見合わせて頷き合い、池に向かって歩き出した。
それを遮るため、スカイが兄弟猫達の前に翼を広げて立ちはだかろうとするが、ジンやリオ達がスカイを羽交締めにして阻止した。
「くっ…離せ!」
「あんたはここでおとなしくしてろ!」
「あいつらの邪魔はさせない!」
「今のうちに!早く!」
ソラが叫ぶと、兄弟猫達は走った。
兄弟猫達が一歩近付くごとに、白い花が一輪、また一輪と花開いて、到着する頃には池の周りは満開の花畑になった。
「さぁ、花を摘んで叶えてほしいことを願って」
後をついて飛んで来たソラが兄弟猫達に勧めると、それぞれ一輪ずつ花を摘んで目を閉じる。
『戦争のない平和な世界にしてください!』
兄弟猫達が願うと、花は一瞬発光して枯れていった。
「…本当に枯れちゃった!…何か変わった?」
目を開けたモモタは驚き他の4匹に問うと、みんな首を振ったり不思議そうに首を傾げたりした。
そんな兄弟猫達を安心させるようにソラは声をかけた。
「大丈夫だよ。きっと願いは叶ってるから」
ソラと兄弟猫達がジン達のところに戻ると、スカイはさっきまでの強気な態度はどこへやら、すっかり戦意喪失して放心していた。
その後、放心しているスカイを引きずって、通って来た森の入り口まで連れて行くと、そこからは自力で仲間のところに帰れと放置し、ソラを大白鳥の街へ送り届けた。
「ソラを送り届けてくれてありがとうございます」
ソラの家族や親戚は、突然いなくなったソラを心配して毎日付近の山を探し回っていたらしく、さすがにもう、どこかへ連れ去られて戻って来ないかもしれないと、諦めかけていたところだったようだ。
ひとしきり感謝された後、もう時間も遅く街に宿屋もないからと、ソラの家と親戚の家に分かれて泊めてもらうことになった。
◇
翌朝、親戚の家の方にお世話になった兄弟猫達とジンは、ソラに挨拶するため大白鳥の街に向かうと、大白鳥の街の入り口には既にソラとリオ達がいて、別れの挨拶をしているところだった。
「おはよう!リオ達ももう出発するの?」
モモタが挨拶ついでに訊ねると、リオは「そうだ」と答えた。
「じゃあ途中まで一緒に帰るか?トラックを返すところまでは乗せてやれるぞ」
ジンの申し出も必要ないようで、リオ達は首を振った。
「どうせ身寄りもないし、来た道とは別の道があるって聞いたから、そこから色んな街を旅して回ろうと思ってるんだ」
「旅!楽しそう!」
「お前らも一緒に行くか?」
羨ましそうにするモモタを、カイが試しに誘ってみた。
「僕達は家に帰らないと…」
「そうか…じゃあ、ここでお別れだな」
しんみりしてしまったモモタとカイに、ジンが声をかける。
「そう悲しむな。モモタも、大人になったら旅に出たらいい。そしたらどこかでまた会える」
「俺達も、猫の街の近くに行ったらお前達に会いに行くよ」
「僕は手紙を書くよ」
「…うん!わかった!ロイも、手紙楽しみに待ってる!」
「みんな、僕のことも忘れないでよね!…僕は、みんなみたいに旅に出たりは難しいかもしれないけど…」
寂しそうにソラが言うと、みんなは優しい眼差しでソラを見た。
「心配するなよ。絶対忘れないし、また会いに来てやる」
「ソラにも手紙書くから」
リオとロイがそう言うと、他のみんなも頷いた。
そうして、またいつかの再会を約束してリオとカイとルークとロイは旅立った。
犬達を見送ると、ジンと兄弟猫達もソラに見送られて下山した。
トラックを返すために一つ前の街に戻ると、街の中は、何故か突然集結した戦争の話で持ちきりだった。
「本当に戦争は終わったんだね」
「まさか、戦争を終わらせたのが僕達だなんて、ここにいる誰に言っても信じてもらえないだろうけど、なんだか誇らしい気分だね」
シャイとモモタがそう言うと、アズマは「全く実感が湧かない」と肩をすくめた。
それからは、ジンの案内で観光を楽しみながら故郷への道を辿った。
立ち寄った街々で両親にお土産を買い、故郷に帰り着く頃には白鳥の街を出てから1ヶ月以上経っていた。
「やっと…帰って来た!」
モモタは感慨深げにそう言うと、家に向かって走り出した。
アズマ、シャイ、モモ、ベニも、モモタに続いて走り出し、ジンはその様子を微笑ましそうに見ながらゆっくりと後を追って歩き出した。
◇
勢いよく玄関を開けると、両親は家の中にいて驚きに目を見張った。
両親の驚きようを見て笑い出したモモタを、母さん猫は感動する間もなく叱り、父さん猫とモモはやれやれとため息を吐いた。
そんな、猫家族の微笑ましい日常のやり取りを見届けて、ジンは自宅に帰った。
◇
兄弟猫達がミャウに帰って来てから半年が経った。
戦争は、動物の国と虫の国の両方の兵士達が突然戦意喪失したことで続けられなくなり、戦争の原因になった鉱山は、採れる資源をきっちり半分に分けることで決着がついた。
兄弟猫達は、ロイとソラと約束通り文通を続けていて、特にロイからの手紙には知らない街での出来事が綴られていて、モモタはいつか旅に出ることを夢見て、冒険者ランクを上げるべく毎日頑張っている。
アズマとモモとベニは旅に出る前の生活に戻り、シャイは、たまにモモタに付き合って冒険者活動をしながら、薬草や医学の勉強を始め忙しい日々を送っている。
兄弟猫達は作者が過去に飼っていた猫の兄弟をモデルに、彼等が自由に旅に出たらどうなるかなと想像して書きました。




