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異形とマンホールとボーイミーツガール  作者: 九木十郎
第三幕 二人で一人の屍体はウェディングベルの夢を見るか
23/47

3-4 すうと気が遠くなっていった

 遠くから誰かが呼んでいたような気がして、わたしは振り返った。

 でも誰も居なかった。

 がらんとした校舎の中で、何故かポツンと一人廊下の真ん中に突っ立っている自分が居る。


 はて、わたしは何をやっているのだろう。


 何処に行こうとしていたのかな。


 学校に居て制服を着ているのだから就業中なのは間違いない。

 でも周囲に誰も居ないというのはどういうコトなのだろう。

 移動教室でソッチに向っている最中なのだろうか。


 でもだとしたらわたしは何処に向っているのだろう。

 軽く小首を捻って思い出そうとした。

 でも思い出せない。

 どういうことなのだろうと思った。


 誰かに会う約束をしたような気もするし、そうじゃなかったような気もする。


 また誰かが呼ぶ声がしたので、もう一度振り返った。

 遠くに居るせいか姿がボンヤリとしてよく見えなかった。

 でも声はさっきよりも近い所で聞えたのでちょっとだけほっとした。


「ゴメン、何だかわたし迷っていたみたい」


 謝らなくていいよ、と声は言った。

 男の子の声だった。

 見覚えのある顔なのに名前が思い出せなかった。

 でも不思議と安心感のある表情だ。

 そして唐突にピクニックに行こう、と誘われた。


「え、なに。今度の週末の話?」


 違うよ今からだ、と言われてちょっとだけ途方に暮れた。

 だって今は学校やってる真っ最中だし。

 もうすぐ次の授業が始まるし。


 関係無いよと言われてバスケットを手渡された。

 開けたら中にはバゲットのサンドイッチが詰まっている。

 なんという準備のよさ。

 ここまでされて断る手はない。


「そうね。たまには良いかな」


 そう言って笑ったら男の子も笑って、ぐいと手を引っ張られた。


 次に気が付くと、二人でよく晴れた川縁の堤防で仲良く並んで座って居た。

 綺麗な風景だ。

 でも何だか既視感があった。

 誰かと一緒に此処に座ってこの景色を眺めていたような気がする。

 そしてこうしてお弁当を食べていたような?


 遠い遠い昔の思いでだったろうか。

 それともただの記憶違いなのか。

 頭の奥がボンヤリしていてよく思い出せなかった。


 サンドイッチは美味しかったけれど、中に挟まっていた燻製肉が何だか妙に気になって、「何のお肉なの」と訊いたら男の子はただ苦笑いをしていた。


 食後に暖かいカフェオレをもらって飲むと、お腹がいっぱいになってちょっと眠くなってしまった。

 後ろにひっくり返って草むらの上に寝転がると、淡い水色の青空が見えた。

 視界の端にトンビが飛んでいる。


 目をつぶると、すうと気が遠くなっていった。

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