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異形とマンホールとボーイミーツガール  作者: 九木十郎
第二幕 破裂と解散は似ているようでチト違う
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2-5 心の中で同時に叫んだ

 昨日再び花子を問い詰めたのだ。

 最初の説明だけじゃ到底納得できなかったからだ。

 そもそもダンプが家や塀を擦り抜けられる筈がなかろう、デタラメ言うなと怒ったら、様々な屁理屈をこねてボクの反論は全て煙に巻かれた。


 曰く、物質は原子同士の引き合う力で出来上っているから隙間だらけだ。

 なので、その隙間を原子同士が擦り抜けることは可能。

 天文学的に低い確率だがゼロじゃない。


 たまたまダンプの運転手が居眠りをして、たまたまアクセルを全開にしてたまたま住宅地に突進し、たまたま偶然家や塀の原子の隙間を通り抜け、たまたまその先に一緒に登下校していた高校生男女が居て、たまたまその二人をミンチにした。


 そしてやはり、たまたま偶然二人を保護観察(デバガメの別称)していた異形のモノが死体を拾い集め、そして出来上った存在がボクだとう。


「何という幸運でしょう!いえむしろ、奇跡と呼んだ方が相応しい出来事です」


 待て、ちょっと待て。


 たまたまというには余りにもあんまりな展開ではないのか。

 何者かの意図がなければ不可能な出来事じゃないのか。

 むしろ誰かが怪しいナニかをやらかしたと云われた方が余程に納得いく。


「これも可能性の未来というヤツですよ。

 常識の隣には非常識が息を潜め、虎視眈々と出所を伺っているのですよ。

 この宇宙は多元的で、様々な世界が重なり合って存在しているのですよ。

 どのような偶然も、有り得ないなんてことは在り得ないのです。

 ゼロじゃない可能性はいつか何処かで発生しているのです。

 今回は他の宇宙では発生しなかった事態がこの宇宙で発生した、ただそれだけの話なのです」


「タゲンテキだとかゼロじゃない可能性だとかそんな解説はどーでもいいよ。偶然が過ぎるでしょ。普通に考えてオカシイって言ってるんだよ」


 そもそも何でボク、というか俺とわたしにそんな異常な偶然がいくつも折り重なって降りかかるのか。ピンポイントにも程がある。


「推論は幾つか考えられますが、切っ掛けは恐らくですが貴文さんと静子さんのラブ波動でしょう」


 また出た。

 胡散くさいぞ、その屁理屈。

 何で俺がわたしに告白したのが事の始まりになるっていうんだ。

 高校生同士の告白が世にも稀な事件の切っ掛けになると言うのなら、この世の中は始終奇っ怪な事件に満ち満ちていることになる。


「その通りです。満ち満ちているのデスよ」


 やかましいよ。


「お二人の想いは純粋で一途でしたからね。

 わたしの感覚器にもビンビン来たくらいです。

 近年稀に見る清廉なラブ波動です。

 美しいです。

 その繊細な感情の共振が偶然の磁場に引っ掛かって、あとは芋づる式に様々な『たまたま偶然』を引き込んでしまったに相違ありません。

 まぁ、半分くらいはわたしの仮説に過ぎませんが」


 あってたまるか、そんな原因。

 それに半分どころか一〇〇パー花子の妄想発言だろう。


「たまたま在り得ない偶然というのは、当たり前だと思っている普通と同じ確率で出現しているのです。日常と非日常は一心同体、一枚のコインの表と裏なのです。物の見方が違っているダケなのです」


 また更に訳の分らないことを言い出した。


「人類がこの地球星に発生したのも、様々な偶然やたまたまの積み重ねがあってこそ。

 生き物の進化は環境と状況で引き起こされる淘汰圧の結果です。

 たまたま生き延びるコトが出来たものだけが、たまたま現在まで生きているに過ぎません。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。


 そんな奇跡のようなたまたまがわたしと卯月さんを巡り合わせたのです。

 たまたまを否定するのなら、それは人類の存在すら否定せざるを得ないでしょう。

 たまたまは決して軽く考えてよい事象ではないのです」


 またジンルイのソンザイだとか無駄にデカく出たもんだな、おい。


「むしろたまたまという現象は宇宙の摂理をもっとも具体的に説明した現象なのではないでしょうか。

 いえ、そうに決まっています。

 偶然現象はいずれ決定論的法則を見いだし、宇宙の真理を語るべきその骨子となるでしょう」


 大概にしろ、本物の学者先生が居たら後ろからひっぱたかれるぞ。

 ソレ全部花子の屁理屈願望だろう。

 事実と違う誇大な表現まぎらわしい。

 日本広告機構から職員が飛んでくる。

 間違いない。


「違います。美しき真理を得る者への道しるべです。ゆめゆめ疎かにしてはいけません」


 鼻息荒く語る美麗賛辞。

 様々な屁理屈詭弁を弄してのらくらとコチラの追求をかわし、まるで掴み所が無い。

 テーブルの上に仁王立ち拳を握りしめて語るその姿は、どこかのイカレた政党政治家の街頭演説そのものだ。

 終いには諸手を天井に突き上げて「たまたまバンザイ」などと宣う始末。


 結構な時間質疑応答を重ねたのだが、終いまで相手の牙城を突き崩すことが出来ず、遂に諦めた。

 どうやらボクでは花子を論破することは出来ないらしい。

 もどかしくて腹立たしくて口惜しかった。


 この少女モドキ未確認生物め、と思った。


 そもそもこの一連の出来事は、花子の自作自演ということだって十分に在り得る。

 っていうかそう考えた方が余程に辻褄つじつま合った。

 偶然ですよと強引な屁理屈で道理をねじ伏せるよりも、自分がしたいのでそうなるように仕向けました、と言われた方が余程に筋が通る。


 でもその一方で、とても彼女がそんな自己中な企みを仕掛けるとは思えなかった。

 ここ数日彼女と過ごしただけの印象にしか過ぎないが、ボクに対してとても誠実に接してくれていた。


 甘っちょろいとか楽天的に過ぎるとか言われようとも、彼女は信じてよい人物だと思えたのだ。

 疑ってかかるには余りにも屈託が無く、策謀を張り巡らすにはあまりにも脇が甘すぎると感じたのである。


 この子はきっと見た目そのままの素直な子なのだ。

 中身はゲロゲロの異形であるのは間違いないのだけれども、相手をハメて欺すような手合いではない。

 そう思えてならなかった。


 或いはボクにそう思わせるほどに演技力バツグンなのかも知れないけれど、ソコまでの手練れだったのなら逆に「凄い、参りました」と平伏してもいいと思う。


 しかし、しかしそれでも腑に落ちる説明くらいは欲しかった。

 俺とわたしはまだ、キスどころか手すら繋いでなかったというのに。


 こんな展開、俺の未来予定に無かったんだけれどもな。


 こんな不条理、わたしは予想すらしなかったのだけれども。


 納得いかない!


 俺とわたしは心の中で同時に叫んだのである。

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