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異形とマンホールとボーイミーツガール  作者: 九木十郎
プロローグ
1/47

また溜息が洩れた

 本当は目など覚めなくても良かったのだ。


 夢の中で、音も無く光りも無く痛みも無い海の中に頭の先まで浸かり、ふわふわと現実かどうかも分らない微睡まどろみのなかで跡形もなく消えてしまえばきっと、辛い悲しいと思う感情すら湧いては来なかったろう。


 目覚めてしまった故に世界がまた仰々(ぎょうぎょう)しく動き始めた。

 動き始めてしまった。


 厄介ごとやら面白くないコトやら腹立たしいことやら、この世の際限のない「よろしくない出来事」その他諸々を、再び受けてたたなきゃ為らなくなった。

 永遠の安息とかう名の惰眠を貪る機会を、随分と先送りにしなければならなくなった。


 でもまぁ「彼女」とずっと一緒なら、この現実世界も捨てたものじゃないのかも知れない。


 全てが全て希望通りではないけれど、自分の望んだことが全部叶うと信じるほど傲慢じゃあないし、「全周全方位極楽ハッピー」とのたまうほどお気楽脳天気な性格でもなかった。

 コレでもそれなりにわきまえて居るつもりなのだ。


 だから今この現実は程ほど良い着地点。


 そう信じていたのである。


 そりゃあ自分の願いが全て叶うのならそれがベストだけど、生憎世の中そんなに甘くはないと思う。

 神様だって多忙なのだ。

 贅沢を言う者にバチを当てるくらい片手間で、きっと欠伸をかみ殺すよりも簡単だろう。

 そもそも全てのお願いに気付いているかどうかだって怪しいものだ。

 宝くじに当たる確率の方がまだ分があるかも知れない。


 たぶん皆はとうに知っていたんだと思う。

 叶うと信じるよりも、叶わないと諦めた方が後々ダメージは少なくって済む。

 これが「がっかり力」ってヤツなんだろうか。


 そんな訳で、希望の二、三割が叶ったのならそれで良しとするのが世間様で言う大人の対応らしい。


 まぁボクはまだ大人とは言い切れないけれど。


 大人に成れるかどうかも怪しかったりするのだけれども。


 何はともあれ取敢とりあえず、いささかなりとも辺りを見回せる余裕は出来た。

 そんな今だからこそ言える強がりなんだろう。


 いや、違うな。

 そんな格好イイもんじゃない。

 ただ駄々をこねて泣き疲れ、為す術も思いつかずボンヤリとしているだけだ。


 そもそも目覚めの時から既に爽やかとは言い難い始まりであったし、その後の日々も平穏と言うにはほど遠い。

 「楽しかった」と言い切れるほどまだ人間修養出来てはいないし言いたくもなかった。

 嫌なコトは嫌だと言える現代の若者なのである。


 でも退屈はしなかったとだけは付け加えておこう。

 ささやかな抵抗の意味も込めて。


 そして否応に拘わらず、これからもずっと二人分のやるせなさを背負って生きていかなきゃならない。それもまた確かな現実だった。


 また溜息が洩れた。


 果たしてこれは一人分なんだろうか。

 それとも二人分なんだろうか。

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