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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第五章 葉月(八月)

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95.八月十日 午後 水中遊歩

 妖の気配を感じ八早月が立ちあがると、同じように異変に気付いた零愛も真剣な面持ちで立ちあがった。それにつられたわけではないだろうが、わずかな変化を感じ取ることが出来た綾乃も腰を浮かす。


「綾乃さんはこの後の騒ぎに備えてください。

 混乱で美晴さんと夢路さんがけがをするといけません」


「あ、うん、わかった。

 みんなは私に任せて、藻孤(モコ)ちゃんも周りを護ってね」


 綾乃の命を受けて子狐が左手に抱きつくように現れ「コンコン」と返事をしている。正直八早月から見ても可愛らしく、少しだけ羨ましかった。


 モコと名付けられた綾乃の守護獣は、儀式の後には完全に綾乃の支配下に置かれるようになっていた。無尽蔵に警戒を広げることもなく、今はせいぜい綾乃の周囲数メートルと言ったところだ。


「八早月ちゃん、それに零愛さんも綾ちゃんもどうしたの?

 もしかしてなにかおきちゃうわけ!?」


「えっ!? なになに? どうしたの?

 ハルは平気なの? 私はどうすればいい?」


「お二人とも落ち着いて下さい。

 この場がパニックになるかもしれないので冷静にお願いしますね。

 あそこの教職員がうまく誘導できなかった場合にも備えておいて」


「わ、わかったよ、八早月ちゃんも気を付けてね。

 なにがなんだかわからないけど……」


 そう言っている側から零愛がプールへ飛び込んだ。今は水泳部の練習中なので入水禁止だがそんなことはお構いなしと言った様子である。しかしその直後、飛び込んだ女子生徒がうまく着水できずもがき始めた。先を泳いでいた男子生徒もなにかに引き込まれるように沈んでいく。


 続いて八早月が水の中へ足から入ると、泳ぐと言うより水底を歩いて溺れかけている男子生徒へと進んでいく。ここでようやく顧問と思われる教師がパーカーを脱ぎ捨ててプールへ飛び込んだ。だがその教師も足を取られてうまく進むことが出来ずにいる。


 さすがに何かおかしなことが起きていると感じ始める人が増えて来て、プールサイドは物々しい雰囲気へと変わって行く。


 水中ではまた別のことが行われていた。この中ではおそらく(かんなぎ)である三人にしか見えていない、海坊主の小型版のような妖が水泳部員の二人と顧問を襲っているのだ。


 最初に飛び込んだ零愛は、飛び込みに失敗した、いや、飛び込みを妨害された女子生徒が溺れないよう水面へと抱え上げている。そこへ神翼(かんばね)八咫烏(やたがらす)が滑空していき、鋭いくちばしで女子生徒へ巻きついた小型海坊主を切り裂いて倒した。


 次に水の中を悠々と歩いていった八早月が、男子生徒を担ぎ上げプールサイドへと持ち上げた。だがその足元にはやはり海坊主が巻きついている。だがこれは真宵の敵ではなく、一瞬で粉々に切り裂かれ大事には至らなかった。


 最後に顧問の足に絡んでいる半透明な影状の触手を、真宵が熨斗(のし)泳ぎで近づき細切れにして無事に討伐完了である。


「真宵さん、綾乃さんと協力して呪術元を探してください。

 おそらくはあの建物だと思います」


 いきなり水泳部員と顧問が溺れるなんて事態が起きたため、プールはやはり大騒ぎになっているが、事前に何かが起こると言われていた美晴と夢路は落ち着いて、しかし何をしていいかわからずキョロキョロしていた。そのため綾乃が離れていったことに気付いていない。


 綾乃は迎えに来た真宵に指示されて、水泳部の部室へ向かったのだ。真宵では現実の扉を開けたり電気を付けたりすることができない。だが一つだけ今までと変わったことがあった。


『八早月様、建物の中にあるのは呪詛の気配ですか?

 妖なのか常世の扉なのかわかりませんが何かを感じます』


『先ほどもおっしゃっていましたね。

 もしかして真宵さんは妖の気配を感じ取れるようになったのですか?

 それなら零愛さんの八咫烏の位置もわかりますか?』


『そう言われてみると…… 確かに把握可能となっております。

 これは一体どういうことなのでしょう』


『それはまた後で考えましょう。

 建物の中にある気配には覚えがあります。

 おそらくは呪術が行われているはずなので救出をお願いします』


 真宵はそのことを綾乃へも伝え、部室へと入って行った。もちろん無断である。なんと言っても表は大騒ぎになっており、水泳部顧問もプール監視員たちも救出された生徒の容態を確認していてこちらに来る気配はない。


 更衣室の中には競泳水着を着て足にサポーターを付けている女子生徒が一人倒れており、指先には血がついていた。どうやら気を失っているだけらしい。すぐそばには消し炭のようになった紙が残されていているが焦げ臭さは感じず不自然である。


『八早月様、ごく軽傷の女生徒が一人、それと術の跡がございます。

 すでに炭化しており残念ながら解読は不能です』


「真宵さん、私はこの子を保健室へ運びます。

 後のことはお願いしますね」


 綾乃は自分よりも背の高い女生徒を背負って部室を出て行った。どうやら表に出てすぐに援軍が来たようで、無事に運ばれて行ったようだ。真宵は指示通りその場で待機していると、ほどなくして八早月がやって来た。


「真宵さん、ありがとうございました。

 綾乃さんもしっかりと動けたようで何よりです。

 それにしてもこれは……」


「先日と同じようなものでしょうか。

 この燃えカスのような物へ向かって女生徒の血痕が残されております。

 やはり呪術と関係あると思われますか?」


「まああるでしょうね。

 西洋の呪術には触媒と言われる物質を用いることが一般的だとのこと。

 おそらくはそこへ術者の肉体を加えることで強固なものとするのでしょう。

 発現した内容からすると呪いの一種であると考えられます」


 八早月はそう言いながら現場写真を撮ってから残された炭をビニール袋へと回収した。本来はすまほが濡れて壊れないようにと入れてきた袋なので、この後は濡らさないように注意しなければならない。


「どうやら軽傷だったみたいで騒ぎも収まりましたね。

 気づかれないうちにここを出て皆さんと合流しましょう」


「はっ、この度もお疲れさまでございました。

 では八早月様、私はこれにて失礼いたします」


 遊びに来た先でこんなことが起きるなんて考えてもいなかった。とは言え先日の件を思い出し、日常的にこんな事件が起きているのでなければ良いのだが、などと考えつつ八早月は美晴たちの元へと戻って行った。


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