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限界集落で暮らす女子中学生のお仕事はどうやらあやかし退治らしいのです  作者: 釈 余白(しやく)
第五章 葉月(八月)

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90.八月七日 昼下がり 準備

 せっかく客人を迎えてステキな日々となるはずだったのに、いや、だからこそこうなったのだろうか。同じ神職である高岳零愛(こうだけ れあ)にとってはなかなか興味深く刺激的な体験となったことは間違いない。


「いやあ朝は凄かったね!

 あんな大物の討伐に関わったこと無かったから貴重な体験って感じだったよ。

 ちなみに地元でこんくらいのが出た時は敵わなくて逃げたからね」


「逃がした後はどうなってしまうの? 町や人への被害はなかったのかしら?

 放置してしまったら地域の安寧も守られないでしょう?」


「あーね、でも結局全部片付けるのは不可能っしょ?

 大体は悪意がスッキリしたら消えて無くなるしさ。

 ウチらの辺りじゃ大時化(おおしけ)とか台風とかさ、そんな感じ?」


「そうね、確かに全部は無理なのは当たり前の事実であることは否定できない。

 この辺りだと土砂崩れが起きたり、過去には人命にかかわることもあったわ。

 それでも世の中の事件事故全てに妖が直接関係していなくとも、悪意の溢れる町は治安が悪くなりますから放ってはおけないもの」


「そもそもウチらのカラスはさ、あんまり強い相手には向かっていかないんだ。

 なんか本能的にわかるみたいでね、尻込みしちゃうって感じなのよ」


「なるほど、元々は地域のごく狭い範囲を護っていたのでしょう。

 小さな(ほこら)の役目は近隣の妖を摘むことだと考えられるわ。

 今は零愛さんたちの行動範囲が広がったために、神翼(かんばね)たちの活動範囲も広くなって大変ね」


 地域を護る神の遣いは、大昔で言えば町内に起こる摩訶不思議な事象や病をもたらす妖を退治し、人々の日常生活が平穏無事に送られるようにと働いていたはずだ。さまざまな場所に数多く存在する祠や、自然物をご神体として祀った場所などには神が宿り、その神使(しんし)眷属(けんぞく)が地域を護っていた歴史がそれを証明している。


 これはどちらが上だとか下だとか言う話ではなく、民に近しい場所に現れる妖は地域を護る祠に宿る神が、地方を襲う大きな災いは大社(おおやしろ)が護っていた。八岐神社は小規模の社に分類されるが、地域固有のご神体や祠と比べれば大き目であり、全体的には中規模になるだろう。


 この世の近代化に伴い、大社が国難に立ち向かったような記録はめっきり聞かなくなり、現代ではもはや伝承ではなくおとぎ話に分類されている。ついこの間話に出たばかりの玉藻前(たまものまえ)や酒呑童子を初めとする大妖(たいよう)は国を挙げての討伐劇であった。


 近代ではどちらかと言うと小者の伝承が多く、鬼や河童を初めとした良く知られた妖と一般市民の争いがほとんどだろう。他にも猫又や犬神、髪斬りなどは倒してもキリがなく現れつづけ現代にも根付いているとさえ言える。


 昨晩というか早朝近くに現れた牛車鬼(ぎっしゃおに)は妖の規模としては中くらいで発生経緯が不明な妖である。今まで何度も現れているのだが、一体どうやって現世(うつしよ)へやって来ているのか未だに解明できていない。


 牛車鬼自体はそれほど脅威でもなく、道行く人に影を見せて驚かすという良くあるドッキリタイプの妖だ。しかし、現代のように自動車交通網が発展している場所では脅威度が一気に跳ね上がる。


「あんなの見たこと無かったけどこっちの山では良く出るの?

 と言っても生きてる牛自体ウチのほうでは珍しいけどね」


「良く見ると言うほどでもないわ、でも年に一、二度くらいは現れるわね。

 過去に起きた乗り物事故の影響かもしれないけれど詳細不明で対処困難なの。

 当事者や地元の方がお祓いを頼んでくれると解決できるかもしれないけれど」


「なるほど、そういうのもあるのかぁ。

 ウチのほうでも海難事故が多い年があったりするんだけど関係あるかもね。

 そもそも自分とこの祠がなにを祀ってるのかも知らないけどさ」


「それくらいは調べておいた方がいいかもしれないわ。

 地元の図書館や民俗資料館等で調べられる場合もあるわけだしね。

 あなた達の八咫烏(やたがらす)金鵄(きんし)は元々道標として遣わされたのでしょ?

 海の近くにあると言うし、それだとやはり航海に関わってそうよね」


「そっか、そうやって考えて絞っていくわけなんだね。

 八早月って賢いなぁ、ウチのが四つも上だなんて思えなくなってくるわ」


「でも学校の成績はいまいちなのよね……

 特に英語なんて――」


 そんな風に話がすぐそれていくのも若さゆえ、と言ったところか。巫集団による妖討伐を目の当たりにし刺激を受けて興奮している様子の零愛は、とにかく話をしたくて仕方ないらしい。


 しかし昼食を取ったこともあって、八早月の体は寝不足を思い出してしまったようだ。枝豆を手に摘まんだままで濡れ縁へと寝転がり、とうとう寝入ってしまった。


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