82.七月二十九日 昼 当主会合
約ひと月振りの当主会合は、前回同様昼食会を兼ねて開かれた。この時の献立は主催である八早月の好みでおこわが出されることがほぼ決まっている。
「それでは始めますが、先ずは私からの報告をしましょう。
朝の鍛錬を続けている直臣と楓についてはかなりの成長が見られています。
特に楓は心構えがとてもよくなり精神的な成長が顕著と言えますね。
直臣は相変わらず心が優しすぎますが、鍛錬の成果は確実に出ていますよ。
問題はドロシーですね、今は精神力で食らいついていますが技量はまだまだかと」
「イアー、筆頭様キビシすぎるのでゴザイマス。
ですが日々精進鍛練にハゲまつりまする」
「まあ牛歩でも成長は見られますから続けて参りましょう。
次に浪内西郡の高岳姉弟ですが、先日書簡が届きました。
こちらからも連絡を取りましたので、今後交流が深まる可能性が高いです。
姉としか話してはいませんが気のいい娘でしたから心配は無用と考えてください。
私からは最後に、寒鳴綾乃について相談です。
彼女へ施した護り刺しの影響と思われるのですが、狐の守護獣が現れました。
おそらく先祖がえりは稲荷の血が強かったのだろうと推測できますね」
「その狐が娘の無意識下に周囲へ敵意を振りまいてしまったとのことですな?
筆頭のお考え通り、問題は本人がまったく制御できていないことかと。
僕は、彼女へ八岐贄の儀を追加で施して能力を高める案には賛成です」
「左様ですな、ワシも異論はござらぬ。
最低でも自らの身を護りやすくなるであろうし、場合によっては心強い味方になるやもしれぬ」
「ええ、ですが一点気になることがありましてね。
狐の呼士を宿しているところへ八岐大蛇様の力を加えて妙な影響が出ないか。
八岐贄となれば、我々と同じく体に蛇を宿すことになります。
蛇の力で狐を制御できるのか、私には断定することができません」
「ですが、八岐神社の儀式によって力が引き出されたのは事実。
それならさらなる向上も同じ八岐大蛇様へ願い出るのが筋ではございませんか?」
「もっともですね、ですので念のため、稲荷の総本宮へ確認が取れないかと。
繋がりがまったく無いので突然問い合わせるのは難しいでしょうが――」
「かしこまりました、僕が確認を取ってみましょう。
なあに、関連省庁の役人を通じて繋ぎをつけてもらいますよ。
あやつらは全国の巫を把握しているに決まっているのですからな。
まさか協力しないなどとは言いますまい」
「現在は綾乃さんの狐を眠らせてあります。
ですので、彼女を妖から守る力は弱まっているでしょう。
そのため次月八日の八岐贄の儀に間に合わせたいのですがどうでしょう」
「はっ、出来る限り早急に調べご報告いたします。
必要に応じて京都まで行ってくるかもしれませんのでご容赦を」
「ではこの件は宿おじさまへお願いしたと言うことでおしまいです。
ああ、肩の荷が下りました、お昼をいただきましょうか。
他の方も報告があればお願いしますね」
八早月がそう言っておこわへ端を伸ばすと、他の当主たちもようやく安堵しながら昼食を始めた。あとはほぼ雑談で、どこどこに小さな妖が出ただとかその程度の騒動しかなかったらしく、七月は比較的平和な月だったと言える。
「そうでした筆頭様、その寒鳴家からのお初穂なのですが、どうもかなり包んできたようで、宮司殿が驚かれておりました。
しかもそれとは別に玉串料も包んでくれたらしく、今月はかなりの潤いかと」
「そう言えば櫻さん、僕のところにも役人から連絡がありましたよ。
先日の金井町で起きた鵺騒動の早期鎮圧と西洋魔術についてです。
どうやら宗教法人認可されていなかったため、圧力をかけるのは容易だったと。
廃業や解散までは難しいとしても、青少年への影響力は下げられそうですな」
「ちなみにそちらももちろん?」
「はい、がっぽりです。
その時聞いたのですがね? 西洋では新興魔術が増えているそうですよ。
それぞれの国内だけではなく日本やアジア圏にも進出著しいとも聞きました。
今後も似たような案件が飛び込んで来るやもしれませぬなぁ。
一応西洋呪術の解読が出来るような資料を取り寄せ中でございます」
「ありがとうございます。
あんな簡単な仕組みでそうそう大妖を呼ばれては敵いませんね。
未然に防ぐ方法が見つかるといいのですが難しいのでしょうね。
それにしてもこんな呪術があるなら海外は相当物騒なのではないですか?
ドロシーはそういうの聞いたことありませんか?」
八家の面々は海外どころか国内事情にも疎いものばかりのため、目新しい情報と言えば宮内庁の専門部署からの情報やドロシーの怪しげな子供の頃の記憶が頼りなのだ。
「はっきりとは覚えてマセンが、黒魔術は子供向け雑誌にも載ってマシタね。
魔方陣の描き方トカ呪術のモンゴン、贄のことトカです。
成功したというハナシは聞いたことありマセンでしたけどもネー」
「日本で言うところの藁人形やコックリさん程度のものかもしれませんね。
それがいつの間にか力を持つと言うのも共通しているのかと。
人の念の恐ろしさは計り知れません、我々も気を付けましょう」
こうしてこの日はなんとも平和的に会合が終わりを告げ、久しぶりに全員晴れやかな気分でおこわを頬張ることが出来たのだった。
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