3.四月十日 午後 学校生活
学園での昼休み、生徒たちにとっては楽しみの多い給食の時間だ。昨日恥をかいたとへこんでいた八早月も、今日は皆と同じように並んで自分の番を待つことができていた。席へ戻ると同じ班の男子が八早月へ声をかけてくる。
「なあ、櫛田って箱入り娘なのか?
行きも帰りも高級車で送り迎えしてもらってるだろ?
他にもそう言うやつは大勢いるけどなんか雰囲気が違うって言うかさぁ」
「ちょっと男子、これから食事だって言うのにそんな失礼なこと言うのやめなよ。
櫛田さんって家遠いんでしょ? 朝五時に起きるって言ってたもんね」
「そうね、分校のころから毎日五時に起きてるの。
朝の鍛練と散歩はほぼ毎日欠かしてないわね」
「朝の鍛練ってなんだ? あはは、変なのー
武士か? 櫛田は武士なのか? 櫛田侍でござる、なんつってー」
「何を言っているのかしら、侍と武士は本来別物よ?
どちらにせよ私は武士でも侍でもないけれど。
あえて何かと言うならば巫女が一番近いかしらね」
「ええっ!? 巫女って神社の?
すごーい、櫛田さんちって神社なの?」
「うーん、それも違っているのだけど説明が難しいわ。
家業は鍛冶師だけど神事に携わっているの。
どちらにせよわかり辛いわよね?」
「よくわからないけど巫女なんてステキでかわいいってば。
バカなこと言う男子なんてほっとけばいいんだからさ。
ねえ、八早月ちゃんって呼んでもいい?
アタシは板山美晴だから美晴とかハルって呼んでくれて構わないからね」
「ハルったらずるーい、私も私もー!
私は山本夢路だから夢でも夢路でもどっちでもいいよ」
「わかったわ、美晴さんと夢路さん、どうぞよろしく。
私にとって初めてできた同い年のお友達だからとても嬉しいわ。
明日にはすまほが届くから連絡先交換はそれからお願いね」
分校には年の違う生徒が数人いただけだったので、八早月にとっては友達どころか同い年の人間と接すること自体が初めてである。初めて同級の友達が出来たことに心が躍りひどく興奮しているが、それを悟られるのが恥ずかしく冷静を装っていた。
美晴も夢路も近隣にある公立小学校の同級生で幼馴染だという。他にもクラス二十人のうち半分くらいは顔見知りでもう半分は別の学校から来たとのことだ。四人班の残り、唯一の男子は別の学校から来た生徒であり、女子三人の班では肩身が狭そうだ。
早々に仲良くなれた二人は、街のことを全く知らない八早月にとって心強い味方で良い情報源とも言える。ただしあまりにおしゃべりだったので、人と会話するのに慣れていない八早月は放課後を前にしてすでに疲労困憊だった。
こうして勉強していたのかおしゃべりをしていたのかなんとも言えない一日が過ぎ、帰宅しようと三人で校門を出ると、少し離れたところに車を止めた板倉が八早月の元まで走ってきた。
「お嬢おかえりなさいませ、本日もお疲れさまでした。
こちらのお二方はご友人でしょうか。
私は板倉と申しまして運転手をしております。
ぜひお嬢とは今後も親交を深めて下さいますようお願い申し上げます」
「いや、あの、アタシは板山美晴です! はい、もちろん!」
「私は山本夢路と申します! 運転手様もよろしくお願いします!」
スマートな中年紳士から思いがけず丁寧なあいさつをされて面食らったのか、美晴も夢路もおかしな返答をしている。それを見た八早月はクスっと笑った。
「板倉さん、お迎えありがとうございます。
でも、友人をあまり驚かせないで下さいね」
「はい、失礼しました。
それと社長からこれを預かって参りました。
落とすと簡単に壊れるので十分に注意されたし、とのことです」
八早月の目の前に差し出された板倉の手には真新しいスマートフォンがあった。珍しく喜びの表情を表に出した八早月は礼を言って受け取り、連絡先の交換をしようと二人へと差し出した。もちろん使い方はわからないので帰宅してから説明書を読むつもりだが、先に登録だけしてもらおうと考えたのだ。
そして、無事に二人の連絡先が登録できたところで十七時のチャイムが街中に響いた。